【ネタバレ注意】ガラスの仮面第9巻その⑥【恥ずかしいとは思いませんの!】
2017/03/04

「夢宴桜」開演。
時は明治・鹿鳴館時代。
海堂寺男爵一族の盛衰を描いた物語。
舞台上では大都芸能の看板役者が躍動する。
海堂寺男爵と思しきおっさんは貫禄たっぷり。
軽妙な演技で会場の爆笑をゲットしまくる。
舞台は異常に登場人物が多い。
その中でも存在感を放つのは、月代役を演じる姫川亜弓だ。
西洋風のお辞儀を披露するシーンでは、
その華麗な身のこなしで観客を魅了。
舞台袖でもその存在感に感嘆の声が漏れる。
そしてマヤは開演後も台本を熟読していた。
さすが天才。セリフは覚えた。
「やってみよう。私なりに私の千絵を。
紫のバラの人・・・
そうだもしかしたらこの舞台を観ているかもしれない。
ああ、もしそうなら気づいてください。
あたし千絵をやります!」
心の中でたった一人のファンへの誓いを新たにするマヤ。
そしてその様子を見守る速水真澄。
どうやら心の声が聞こえているらしい。変態か。
「驚いたわ。あの子台詞をもう全く暗記してしまったようよ。」
「にせの台本のな・・・・」
マヤに罠を仕掛けた安ちゃんと文ちゃんの二人。
「夢宴桜」の脚本家・磯村先生は、出来上がった台本を書き直し、
3場はそのままだが、4場の途中から大幅に話が変わっている。
つまりマヤがすり替えられたのは、修正前の台本なのだ。
そして3場、マヤがスタンバイする。
「うまく演ろうなどと思わん事だ。
君はピンチヒッター。
うまく千絵の出番を乗り切ってくれればいい。」
うまく演じるのではなく、うまく乗り切るという
演出家大田先生の支離滅裂な指示。
しかし天才にして紅天女候補の北島マヤ。
数々の伝説は伊達ではない。
稽古を一回もしていないのにその落ち着き払った舞台度胸。
端役の書生役の彼を早くも圧倒し、
思わず東京弁のアクセントを発してしまい、
客席からは失笑が。
さらには台詞を忘れたのか?と共演者をハラハラさせるほどの間を取る。
「台詞を忘れたんじゃないわ。間をとったのよ。
間をとる事で孤独な千絵の心情をよく表している・・・
ちょうどいい間だったわ。長すぎもせず、短すぎもせず。」
マヤをよく知る名解説はもちろん姫川亜弓である。
「それは考えすぎじゃないの亜弓さん?
稽古もなしにやっと覚えた台詞で初めて舞台に上がり、
普通の人間がそこまでの演技の計算ができるかしら?」
「普通の人間?
ばかねあの子が普通の少女だと思ってるの?」
と北島マヤ解説を再開。
- 舞台に上がればまるきりの別人。
- 怖いのはあの子の演技は計算ではなく本能でやっている。
- はじめは地味で目立たないけど、だんだん光を増してくる。
- その証拠にあの書生役の彼。だんだん自分のペースを乱してきている。
- 北島マヤ・・・あの子が舞台あらしとあだなされる所以よ!
さすが唯一ライバルと認めるだけあってマヤの演技には詳しい。
しかし亜弓さん、マヤの事を語る時は
周りを馬鹿扱いする。
そんなんやから友達おらんねん。
自分が唯一認めたライバルをコケにされるという事は
自分自身がコケにされるのと同等という事だろうか。
しかしながら初対面の時からマヤをかばったり、マヤを笑う者に対しては冷たい言葉を放ったりしている。
心底実力主義であり、現実主義であり、
そして芝居に真摯に向き合うものは必ず認めるというプロの中のプロなのだろう。たぶん。
3場を無事に?乗り切ったマヤ。
共演者やスタッフに囲まれ労われている。
そしていよいよ問題の4場がやってきた。
舞台上では亜弓演じる月代が躍動。
マヤはその台詞と台本を照らし合わせながら、自分の出番を確かめる。
「もうすぐだわ。あたしの出番。
このあとお父様の行比呂が帰ってきてそして・・・」
しかしお父様は帰ってこない。
「違う・・・台本の台詞と違う・・・こんな馬鹿な・・・」
さすがの天才もこれには驚く。
「どうしたチビちゃん、君らしくもない震えて・・・」
いきなり現れる変態。よくその動揺を見て取ったな。
しかし大都芸能の実質TOPが舞台袖にずっといるものなのだろうか。
それとも大好きな女優(ほぼ子役)が急遽代役で出る事になったから
つきっきりなのだろうか。
「違うの・・・この台本と、この場面。
この台本では父親の行比呂が帰ってくることになっているわ!」
- なんだって!それは書き直す前の設定だ!
- 誰だこれをこの子に渡したのは?
- 一体どこですり替わったんだ!
- どうします?すぐ千絵の出番ですよ。
- 台詞を覚え直す時間もない!
「千絵!千絵!」
舞台上から吉本新喜劇ばりに千絵が呼び出されいよいよ出番がきてしまった!
舞台袖はパニックである。
そして一番取り乱しているのはこの人。
「無茶だこんな!
千絵の出番をすぐとりやめるんだ!
誰か代わりに出てこの場を!!」
大都芸能の仕事の鬼、錯乱する。
「この場面は千絵が出ないと話になりませんよ!
後が続かないんです!」
演出の大田先生もなすすべがないようだ。
「千絵!」
舞台上から呼ばれるマヤ。そして何者かに導かれるように舞台へふらふらと歩いていく。
「まてチビちゃん!なにを・・・!」
仕事の鬼引き続き錯乱。
止めに入ったのは秘書の水城さん。
「真澄さま、恥ずかしいとは思いませんの!
あなたらしくもない取り乱して!
あの子は千絵として呼ばれたから出ていっただけ。
一旦舞台に出てしまえばもうどうにもなりません。
それはあなたが一番よくご存知のはずでしょ!?」
そこまで言わんでもええやん水城さん・・・
ひどい言われようであるが、まあ確かに恥ずかしい。
この方の仕事は秘書なのか、
速水真澄に言いたい事をズケズケと言い、
本心を言い当てる事なのだろうか。
結構な暴言レベルの発言が多く、よくクビにならないものである。
そして舞台上では驚きの安ちゃんと文ちゃん。
「出てきたわこの子!
この場面の内容も台詞もわからないくせに!
何て子!」
この二人こそ、どういう結末を期待していたのだろうか?
千絵役のマヤが出てこないとしたら、
それは台本がすり替えられたせいであり、
マヤの責任にはならないはず。
むしろ犯人探しが行われ、この二人の処遇が危ういのではなかろうか。
「どうしよう・・・
この場面これからどう展開されるんだろう?
千絵としての台詞もわからない・・・
ただわかっているのは自分は千絵ということだけ・・・」
しかしこの絶望的な状況の中マヤの脳裏に浮かんだのは、
鬼師匠・月影千草の「相手に合わせる」という助言だった。
「そうだ・・・相手に合わせるんだ・・・やってみよう!」
ノープランで相手に合わせる芝居を決意したマヤであった。
しかし今回は、台本をすり替えられ出番を迎えてしまった当事者のマヤ以上に、
驚き慌て取り乱す大都芸能の仕事の鬼と
それを容赦なくたしなめる秘書の活躍が目立つ回であった。
つづく。