【ネタバレ注意】ガラスの仮面第7巻その④【極めて平凡な少女だよ。 一見ね。】

      2016/08/20

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マヤの母親が吐血した頃。
マヤの知らないところでマヤが話題となっていた。

東洋劇場企画部。
劇場の規模や業界における力は不明。
新春の演目の会議が行なわれている。

作品はエミリ・ブロンテ原作「嵐が丘」
主演は夏江梨子で異存なしとのこと。

異存がないということは知名度・力量ともに優れた大女優なのだろう。
そして議題は主役キャサリンの少女時代。
そこに現れたのは、栄進座の初日にマヤに興味を持った和服のおっさんだ。
どうやらこの東洋劇場の会長らしい。
さっそくキャサリン少女時代の候補にノミネート。

「ただ気になるのは栄進座の原田菊子女史が
 あの舞台以来その少女を使わない様にしているらしいということだ。
 どういうわけだろう。」

初出時の怪しい方言は消え、ただの鈍感なおっさんのようである。

一方こちらは大都芸能本社。
こちらはなんと渋谷に新ビルを建てるとのこと。
来年3月着工、8月中旬には落成。
10月にはオープンという怒涛のスケジュールだ。

各階のテナントには銀座・新宿・赤坂・六本木などの有名ブティックが入り、
7階8階にはレストラン街が入るとのこと。

この手の商業ビルはだいたい上階部にレストランが入るが、
時代とはいえ7・8階がレストランって
いささかビルの階数低めの大都新ビル。

そして10階は大都劇場。

「オープンの演し物は決まったのか?」

このセリフはもちろん速水若社長。
「こけら落とし」とかではなく「オープンのだしもの」という素人くさい表現。
おそらく演劇の門外漢であるビル企画関係者にもわかりやすい表現を用いた模様。
さすがは仕事の鬼である。

第一弾はヘレンケラー「奇跡の人」を企画。
さっそく来年の夏までにヘレン役の候補をリストアップし、
オーディションで決定する様迅速な指示を下す。
この辺りも仕事の鬼である。

全体会議を終え、喫煙所で話す若社長とキャスティング担当者。
なんでも現時点でのヘレン最有力候補は姫川亜弓とのこと。

「この前の王子とこじきいらその実力を伸ばし、
 何よりもあの迫力と天性の才能。
 姫川亜弓以上の適役者はいないと思いますが・・・・」

「だが世間は広い。
 その姫川亜弓が恐れている少女が一人いることを知っているか?」

「姫川亜弓が恐れているというのは
 一体どんなすごい相手なんですか?」

「なんの取り柄もなさそうな
 極めて平凡な少女だよ。
 一見ね。」

しれっと己の個人的趣味を推していく仕事の鬼。
企画担当者はぽっかーんである。

しかしこの速水真澄の仕事のスタイル、嫌いではない。
組織の長としてはその方向性や可能性を部下に示し、
業務の舵取りを行わなければならない。
ところが細かすぎる指示や、
言われたことだけをやらせる、あるいはやらせないというのは、
部下の思考を停止し、指示待ち人間を増やすだけである。

姫川亜弓を候補にリストアップするという当然の策は進めながらも、
その先入観に縛られ、キャスティングの幅を狭めない様、

「姫川亜弓が恐れている少女がいる」

という漠然とした情報だけを与え、なおかつ

「一見してなんの取り柄もない極めて平凡」

という条件を付帯することによって、
キャスティング担当者は単なる知名度や見た目だけではなく、
実力も踏まえた候補者選びをするという前提ができあがる。
担当者としては何としてでも
その姫川亜弓が恐れる相手を探してこなければ無能扱いされてしまう。

しかもこの指示は会議を終えた後の喫煙所で行われており、
全員への通達ではなく、担当者個人とのある種オフレコの指示である。
キャスティング担当者としては極めて難しい業務ではあるが、
若社長直々に密命を下されたとあって意気に感じるであろう。

この様に今回の速水若社長の指示は完璧だ。
個人的な恋愛感情であることを除けば。

こんな感じでマヤの知らないところでキャスティングの動きが行なわれている。
そんな中、マヤは幼稚園でバイト中。
例の桜小路くんに紹介してもらった大学演劇サークルのお手伝いだ。

しかし肝心のサークルメンバーが現れない。
高速道路での事故渋滞に巻き込まれ来園が遅れるとのこと。

幼稚園はまさに動物園と化す。
騒ぎ出すガキ、喧嘩するガキ、泣き出すガキ、
先生たちが慌てて「白雪姫」の絵本を読みだすも
聞く耳など持ちはしない。

この場を収集したのはマヤの一人芝居だった。

「こぉれ鏡よ、この世で一番美しいのはだあれ?」

マヤの迫真の演技にガキども一斉に鎮まる。
ガキども鎮圧のために取った苦肉の策であったが、これが裏目に。

サークルのメンバーが登場するまでの前座として、
舞台で一人白雪姫をやる羽目になってしまったのだった。

つづく

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第7巻・舞台あらし(1)