【ネタバレ注意】ガラスの仮面第8巻その⑩【月影先生ならこうしたよマヤ。】

      2017/01/14

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劇団つきかげと劇団一角獣の地下劇場準備は佳境を迎えていた。
既設の非常階段やトイレ入り口を上下の出入り口や楽屋にあてがい、
照明設備はよその劇場の中古、音響設備も借り物。
そして客席はゴザとベンチに座布団を用意しただけのもの。

そのビハインドを演技で埋めるべく稽古が始まった。
マヤの竹製人形用ギプスはつけられたままであった。
人形としての体の使い方や動きも徐々にマスターしつつある。

しかし芝居中のマヤは雑念ばかり。
家出をして以来連絡もせず、
劇団つきかげが潰れ、引越しをしたことも、
数々の舞台で武勇伝を作ったことも知らないであろう母のことを考えていた。

そんなマヤの表情と心を悟ったのは青木麗。
台本を丸めるとマヤの顔面を殴打。

「月影先生ならこうしたよマヤ。
 人形がぼうっとなんかするかい!!」

月影先生の名を借りた鉄拳制裁。
やはり師匠のやり方を自然と身に付けてしまうものなのか。
でも優等生の麗が殴られている描写はなかったはずだが。

マヤの心が表情に出てしまっているのだ。
人形に心はない。
これまでマヤは数々の役を演じ、その心になりきって演じてきたが、
今回の人形の仮面がかぶれずにいるのだった。

そして人形の役は観客に「生きている」ということを感じさせず、
いうなれば自ら動くこともセリフを発することもできない主役なのであった。

マヤが自分を殺す演技に四苦八苦している頃。
横浜の万福軒で、マヤの母親・北島春は病床にあった。

ブラック中華料理店のオーナーのおかみさんの主張

  • 春さん必死で隠してるけど間違いなく肺をやられている
  • あれは間違いなく結核。
  • 人に知れたら客がこなくなる。
  • 寝込んで働けず今じゃ病人の居候
  • この際だからどこかに行ってもらおう
  • 保健所に知られたら商売停止。
  • 客の信用問題もある。

と、オーナーを強引に説得する。
健康診断とかないのか。
店の経営や体面を取り繕うために従業員を使い捨てにするという絵に描いたようなブラック体質である。

そして病床の春に決定を通知するのだった。

  • 肺結核の人を店にはおいておけない。
  • この際空気のいい山のサナトリウムにでも入ったら。
  • 入院費のことは退職金代わりにできるだけのことはさせてもらう。
  • 長い事この店にいてくれたのだから。
  • 元気になったらまた戻って働けるじゃないか。

店としての都合を述べ、
あたかも従業員の事を思っているということを伝え、
最後は長年の付き合いである事と復帰の見込を話して従業員を自己都合退職に追い込むという、
ブラック企業の人の切り方を淡々と実行。

劇団つきかげに単身乗り込み、月影千草に熱湯をぶちまけたさすがの北島春さんも、
これは受諾せざるをえなかった。

「もしマヤが戻ってきましたら私の事・・・・」
「ちゃんとあんたの居所を教えてやるよ。悪いようにはしないから・・・」

実に信用ならない。
悪いようにしない人は「悪いようにはしない」とは言わない。

そして体良く自己都合退職に追い込まれたマヤの母親は
山奥のサナトリウムに向かう特急電車の中へ。
車両から判断するに甲信越方面であろうか。

車中でも母の思いは一人娘の事。
家を飛び出し2年。
お前みたいな娘もういらないと思いつつも、一日だって忘れた事はない。
どうせお前は私の事は忘れてしまったのだろう。
できの悪い親不孝な娘だよ。

娘の可能性を認め信じる事ができないながらも
娘のことを愛しているというとても辛い独白である。

そんな時都合よく、隣の席のおっさんがアイマスク代わりに顔面に載せていた雑誌が落ちる。
母が拾おうと手に取ると、芸能雑誌。

「子供時代のキャサリン役北島マヤも
 無名ながら少女にしては迫力のある演技で・・・」

「北島・・・マヤ・・・!」

勝手に手にとって熟読すると、先日の東洋劇場・嵐ヶ丘の劇評。
夏江梨子とともにマヤの熱演を絶賛する記事。そしてマヤの写真。

これには北島春さん大感激。
隣の寝ていたおっさんをたたき起こし、これは私の娘なんです。
小さい頃からバカみたいにテレビや映画やお芝居が好きで、
女優になるだとか夢みたいな事言っていたんですけど、
有名な女優と一緒に芝居をして写真までのって・・・
と散々独白した挙句、
そのページを破っていただくという念の入りよう。

これから一人、山中のサナトリウムに向かう母親にとっては、
行方不明同然の一人娘が、確実に夢に向かって進み続けているという確証を得た事は
大きな感激と勇気になったことであろう。
しかしながら、ブラック企業万福軒によって体良く退職に追い込まれ、
肝心の一人娘も音信不通という事実には変わらない。

一方東京では青木麗が月影千草の病室を訪れていた。
人形の仮面が被れないマヤを案じての相談であった。

「今度の役はマヤにとっていい試練になるでしょう。」

と目論見通りと言わんばかりの笑みの月影先生。
そして麗に連絡先を手渡す。

「麗、マヤをここへ連れて行きなさい。
 あるいはあの人物ならマヤに人形の心を教えてくれるかもしれない。
 いいこと。そこへいったらこの子をよろしくと、
 月影千草がいっていたと伝えるのよ。」

麗とマヤが向かったのは埼玉県の山中の「山相寺」という寺院。
人気のない境内、縁側には住職がいた。

「月影千草先生の紹介でこちらへ・・・」
「ほう月影さん・・・懐かしいのう・・・」
「先生をご存じなんですか?」
「昔この寺にしばらくいたことがある・・・」

そしてなし崩し的に座禅をさせられる二人。
振り返った住職は男塾塾長のような風貌、片手には竹刀。
容赦なく喝を叩き込まれる二人。
月影先生もかつてはボコボコにされたのであろうか。
さすが月影先生の知り合いだけあって、
スパルタぶりには通ずるものがある。

しかし住職の言葉にマヤは人形の心をつかむきっかてを得る。

「目の前の石を見い。無の心じゃ。
 石には悩みもない。苦しみもない。
 己も石と思い、石と同化するがよい。」

「石・・・石・・・石の心・・・・」

麗が変わらず竹刀でしばかれているにもかかわらず、
早速石の心を会得するマヤ。

今回の見所は見事なまでのご都合主義的伏線である。
動きがないセリフがない人形役の中で、マヤの心は母親を思い出す。
これまでもちろん忘れた事はないであろうが、
描写される事があまりなかった母親への思いが表情に出てしまう。
そのころ横浜でも同じく、マヤの母親はマヤへの思いを募らせている。
ブラック企業に使い捨てされ、療養に向かう途中、
都合よく隣のおっさんの雑誌が落ち、
都合よく嵐ヶ丘の劇評ページが開かれた事で、
母はマヤの活躍を知る事ができた。
そして一人娘が夢に向かって快進撃中という事を希望に山中に向かう。
そのころマヤは石の心を会得し、母親の事も含め心を殺す稽古をしている。
このあたりのすれ違いが切ない。

つづく

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第8巻・舞台あらし(2)