【ネタバレ注意】ガラスの仮面第8巻その⑪【気の毒に・・・これは勝負あったわね】

   

Pocket

いよいよ「石の微笑」本番の日がやってきた。
「劇団つきかげぷらす一角獣」というユニット名である。

劇団一角獣は残念な事に
「杉山清貴&オメガトライブ」
「カルロストシキ&オメガトライブ」
のオメガトライブ部分である。

全国大会上位入賞の実力、
独自の世界観と演技で人気を博した劇団一角獣は
その単独としての歴史を終え、劇団つきかげに組み込まれていったのだった。

飲食店さながらに路上で呼び込みを行い、
出演者自ら手売りでチケットを売っていく。
総出で取り掛かるも売れたのはわずか、
さすがの一角獣メンバーも困った様子。

「チケット一枚くださる?」

一角獣・堀田団長が振り返るとそこには姫川亜弓。
予期せぬ大物の登場で会場の空気も一変。
そして「嵐ヶ丘」でヒースクリフ役を演じた真島良も入場。

姫川亜弓、真島良、カップル二組、仕事帰りのサラリーマン、酔っ払いなどを合わせ
観客12人で本番が始まった。

暗転と怪しげなスモークで雰囲気を高めると、
客席を巻き込むかのような演出と豪快な効果音で観客の度肝を抜く。
この辺りは従来の劇団つきかげでは見られなかった演出であり、
劇団一角獣カラーを前面に押し出したものだろうか。

プロローグが終わり、観客の注目を一気に集めると、舞台は陽明。
多くの登場人物が集まる舞台の端に座った大きな人形。

この大きな人形を演じているのがマヤである事に気付いたのは
姫川亜弓と真島良だけである。

「亜弓さん・・・亜弓さんが来てる・・・真島くんも・・・」

舞台上から客席を見たマヤ。
どうやら石の心は完璧な状態ではないらしい。

「馬鹿な・・・北島マヤ
 この少女が人形の役ですって?
 一体またなぜ・・・?」

当の亜弓さんも芝居そっちのけでライバル・北島マヤの
不可解なキャスティング意図を勘ぐり出す始末。
演劇人特有の「演劇見すぎて、演劇を純粋に楽しめない」症状である。

舞台では次々と登場人物紹介とストーリー展開が進められ、
そして男装の麗人・青木麗登場。
一見さんの女性客三人組の心を鷲掴みにする。

息をもつかせぬストーリーと演出、
魅力的な出演者とその演技によって、
わずか12人の観客は徐々にその世界に引き込まれていった。

「人形・・・大変な役だわこれは。
 これはこの劇中の要だわ。
 北島マヤ・・・なんて子なの!?」

姫川亜弓さんはさすがプロ。
始まってわずかでその劇の全容を掴み、
人形役の重要性と難易度を見ぬき、
人形役を任されたマヤの実力に度肝を抜かれる。

次々と出演者が現れ、ストーリーは進行。
さきほど男役で女性客を魅了した麗は、
こんどは女役で男性客を魅了。
未亡人役の沢渡美奈もその美貌を生かした演技を披露。
普段全くと言って見せ場のない春日泰子も野心的な役を好演し、
かつてマヤを一方的にライバル視していた水無月さやかも
客席とのコミュニケーションを意識したリズミカルな演技で爆笑をゲットしまくるという新境地。
これらつきかげメンバーとさらにキャラの濃い一角獣メンバーの融合で
舞台はさらに濃いものになっていく。
やはり月影千草のキャスティング能力はなかなかのものと言える。

そして人形役のマヤはセリフを言うこともなく、動くこともなく、
目の前で展開されるメンバーたちの演技や呼吸を見ているだけだった。

舞台は大成功だっった。
時間潰しや冷やかし程度だった観客を一気に巻き込み、
場内は拍手と笑いの連続。
笑顔で会場を後にした観客の感想。

  • おもしろかった!明日も見に来よう。
  • ああ、あたしもうだめ恋しちゃった
  • あたしの青木麗さま・・・
  • 人形役にはぶったまげた
  • 途中まで人間だと気付かなかった
  • あの人形だけでも見る価値ある。

概ね好評な中違う感想の人が二人。

「なんだってあのキャシーの面影ばかりを求めてるんだ・・・
 ここにいるのは人形だぞ。
 人形の仮面をかぶった北島マヤという少女なんだ・・・
 キャシーじゃない・・・キャシーじゃないのに・・・」

もはや説明は不要なまでに重篤である。
そしてもう一人。

「気の毒に・・・これは勝負あったわね。」

向かいにあるオリオン劇場を見上げながら、
地下劇場の勝利の判定と、オリオン劇場への憐憫の情を見せる姫川亜弓。

大劇場に立ち入っては地下劇場メンバーの実力を宣伝し、
ライバルのキャスティング意図を訝しみ、
瞬時にしてその重要性と難易度を悟り、
勝手に勝敗を判断する。
結局この人は何をしにきたのかよくわからない。

終演後、客席を片付けながら舞台を振り返るマヤ。
主なテーマは「呼吸」
今まで感じたこともなかったが、麗やさやかは他の人の呼吸に合わせるのがうまい。
人に合わせる・・・今まで私はそんなことやったことあるのか?
今までは自分さえうまくやれば良いと思っていた。
違う、演劇は一人でやるものではない,まわりに溶け込むことも必要。
月影先生はそのことを悟らせるために
セリフを取り、動きを取り人形をやらせたのか?
自分を殺す演技?そのことを悟らせるために・・・

まさにその通りである。
月影先生はマヤに課題を与え、マヤはその課題に気付いた。
見事なまでの師弟である。
しかしこの件に関しては月影先生はなぜあえて直接的に指導しなかったのだろうか。

「マヤ!なんですかあなたの演技は?
 演技は一人でやるものではありません。」

と鬼の形相と鉄拳制裁があってもおかしくないくらい重大なテーマだと思うのだが。
月影式スパルタ指導を必要としないくらい、マヤが成長したということか。
それとも単純に入院中だから月影先生の体力気力が充実していなかったのだろうか。

石の微笑は日に日に口コミで観客が増えていった。
特に麗の人気はうなぎのぼり。
本番中に客席から黄色い歓声が上がるアイドルっぷり。

そしてついに十日目。
地下劇場の前には入りきれないほどの長蛇の列ができていたのだった。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第8巻・舞台あらし(2)