【ネタバレ注意】ガラスの仮面第9巻その⑦【こんな形でのたたかいになろうとは・・・】

   

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マヤが急遽代役として出演する事になった「夢宴桜」
本番直前に台詞を覚えている最中
「舞台あらし」の異名を持つマヤの評判に恐れをなした共演者の陰謀により、
台本を本番のものとは異なる修正前のものにすり替えられるというハプニング。
出番直前に異変に気付いたものの時すでに遅し、
共演者や関係者が驚きあわてる中、
舞台に登場し、千絵としてノープランで相手に合わせる演技を決意したマヤだった。

板の上で待ち受けるのは、マヤの台本をすり替えた安ちゃんと文ちゃんの二人組。
露骨に邪悪な顔をしており、劇中でもマヤ演じる千絵を罵倒するという役柄である。

「海堂寺家の汚点だ」
「海堂寺家で暮らす資格などない。」

親戚に罵られた千絵が悲しみや悔しさを発露させるシーンである。
しかし当然台詞を知らないマヤは答える事ができない。

「なんとか言ったらどうだ!千絵!」

すると舞台にあった花瓶の百合の花を抜き取り、
それをくわえるマヤ。

「うまいぜあの子!これで"なんとか"答えられなくなった。
 しかも百合の花を噛み締めるというポーズで
 悲しみや悔しさも表現できているわけだ・・・」

マヤの機転に舞台袖からは感嘆の声が漏れる。
そんな大喜利みたいなことやっている場合ではない。

ざわつく客席。
そしてマヤの芝居にぐうの音も出なくなった安ちゃんと文ちゃん。
台詞を重ねる事もできず、千絵を喋らせるわけにもいかず、
舞台を続ける事もできず、完全に二人が芝居を飛ばした感じになってしまっている。

「ばかな人たち・・・
 自分たちのかけた罠に
 自分たちが引っかかってしまったわ・・・」

名探偵・姫川亜弓はマヤの天才的なアドリブを評価するとともに、
この一連の犯人を言い当て、しかも馬鹿にする。
そして自らの出番でないにもかかわらず舞台上に躍り出たのだった。

「歌彦さま、鏡子さま、お母様がお呼びよ!
 さ、早くお行きになって!お急ぎのようよ!」

助かった・・・と心の中で亜弓さんに感謝しながら
逃げるように退場していく二人。
そして舞台上に残されたのはマヤと亜弓の二人だ。

「思いもよらなかった・・・
 北島マヤ、あなたとこんな形での共演になろうとは・・・!
 こんな形でのたたかいになろうとは・・・!
 見てらっしゃい!この舞台私が見事につないで見せる!」

「相手に合わせる・・・亜弓さんに・・・!」

ついに相対した二人。
しかしマヤは亜弓を完全に格上と考え、
相手に合わせるということのみを意識しているのに対し、
格上のはずの亜弓は、マヤに対して一方的に「たたかい」と位置づけ、
この舞台をつなぐことを、マヤとの力比べとみなしているのが面白い。

元々のストーリーでは歌彦と鏡子が
千絵の父・行比呂が華族でありながら芸者との間に子供を作り、
しかも自らは家出して旅芸人の仲間入りしたことを罵倒。
それに対し悔しさと悲しさが爆発した千絵が、
最終的には千絵がこんな家にはいたくないと退場、
それが海堂寺家の崩壊につながるというものである。

つまり千絵が家を出ると口にして退場しなければストーリーは成立しない。

ストーリーの展開、みずからの台詞を知らないマヤ。
舞台をつなぐため、出番でもないのに舞台に現れた姫川亜弓。

この二人がどのような芝居をするのか、共演者や関係者が見守る。
もちろん、速水真澄と秘書の水城さんも。

そして舞台上でいきなり静寂を破り高らかに笑う亜弓。
これにはマヤも客席もギョッとなる。

「口に百合などくわえてどうなさるおつもり?
 それでお父様のように何か芸でもなさるの?」

突然の亜弓のアドリブになすすべもないマヤ。

「おかけになって。あなたに話がありますの。」

さらにアドリブでたたみかける亜弓

  • これから私が話すことを黙って聞いてちょうだい。
  • でももしあなたが返事をしたくなれば構わない。
  • 海堂寺千絵として感じたまま、思ったままを口にしてちょうだい。
  • わたくしは心の中を隠していられるのは嫌いなの。
  • もちろんわたくしもあなたの言葉に対して思ったままを答えるわ。
  • だから安心して自分の気持ちを話してくださっていいのよ。

一緒にアドリブでこの場面を乗り切ろうという亜弓の意図に気づくマヤ。

「うまいさすが亜弓くんだ!
 月代として喋っていながら実は
 このシーンをアドリブで通そうとあの子に語りかけているんだ!」

これには演出家の大田先生も大絶賛。
しかしこんな露骨な説明ゼリフ、観客も気づきそうなものであるが。

そしておもむろに千絵の過去を語り始める亜弓。
千絵の父のこと、母のこと、育ち、境遇、親戚との関係、
もちろん台詞を知らないマヤに対して
アドリブを生み出す気持ちの前提となる情報を与えるため。
その意図を悟るマヤだが、亜弓の台詞が
千絵を悲しませるためのものなのか、怒らせるためのものなのかがつかめない。

旅芸人の父が描かれたチラシをマヤに差し出す亜弓。
マヤが受け取ろうとするととっさに引っ込める。

「わかった!亜弓さんは怒らせようとしているんだ!」

挑発的な動作でマヤの感情を引き出した亜弓の見事な演技である。

「ねえ、どう思って?立派なお父様ねえ。」

「ええ・・・立派な父です・・・」

ためらいながらも台詞を口にするマヤ。

「見事・・・受けて立ったわこの子。これからが勝負・・・」

亜弓さんにとってこの芝居をつなぐ事が目的なのか、
マヤに勝つ事が目的なのかよくわからない。

そしてさらに挑発的な台詞を連発する亜弓。
喧嘩をしかけようとする亜弓の芝居に対し、
その意図は不明ながらも相手に合わせる演技だけを意識するマヤ。

当初はためらいがちだった返事が、
亜弓の勢いや芝居に合わせ、強く大きくなり、
海堂寺家の名誉や華族の生活、幸せな生活などと劇中のキーワードを見事に織り交ぜ、
台詞の応酬が続く。

これには観客も圧倒。
全てアドリブの芝居の本気に対し共演者も度肝を抜かれる。

「月代として、千絵としての本物の喧嘩だ!
 斬るか斬られるか、真剣のものすごさ。
 そして二人のものすごいカンだ!」

演出家の大田先生、絶賛が止まらない。
亜弓の巧みなリードと状況説明、
それに合わせるマヤの芝居で舞台はほぼストーリー通りに進行。
マヤの感情も高ぶっていった。

「そうよ怒りなさい。マヤ。
 そして最後のクライマックスで爆発するのよ。
 みてらっしゃい!わたしの力でそこまで引っ張って行って見せる!」

だからマヤを助けたいのか、マヤを負かしたいのか。
亜弓さんのメンタルは複雑すぎる。

父親が描かれたチラシを破り捨てる亜弓。
そして一言。

「ヘボ役者」

海堂寺家の名誉を汚す父親をけなし、千絵を怒らせる台詞なのか。
それとも演技バトルの中でマヤを怒らせるための売りことばなのか。
実に深い一言である。
これにはマヤも逆上。

千絵の台詞がさらにヒートアップ。
そしてついには

「こんな家にはいたくない。出て行ってやる」

と、言いそうになる。
しかしストーリーを知らないだけに、その台詞の重大さが重くのしかかり、
発することをためらうのだった。

舞台に間が走る。
動けないマヤ。
待ち受ける亜弓。
ざわつく客席。

そして亜弓はつかつかとマヤに歩み寄ると、
観客が目を覆うくらいの勢いでマヤの頬を殴打するのだった。

「こんな家・・・誰がもう・・・
 出て行くわ!出て行ってやる!」

ついに決め台詞を発したマヤ。
重大な台詞を心のままに発してしまった自分に驚く。
姫川亜弓はニヤリ。
舞台袖では大田先生が大喜びだ。

「さっさと出て行ってよ!さあ!」

舞台下手への退場を促す亜弓。
泣きながら退場するマヤ。

舞台袖では大田先生はじめ関係者がマヤを出迎える。
そしてこの場面の真の結末を聞かされ、
それを見事にリードした亜弓の実力を思い知らされる。

「こんな家出て行ってやる・・・
 あの時あそこで亜弓さんにひっぱたかれていなかったら・・・
 この台詞は出てこなかったわ・・・」

舞台はストーリーの本筋に軌道修正され続行。
そしてそれを成し遂げた亜弓が退場してくる。
共演者、関係者が亜弓を絶賛。
そしてマヤと目があう。

「ほっぺはどう?痛かったでしょう。」

笑顔でマヤに言い残すと、次の場面の衣装替えのため楽屋へと下がっていった。

楽屋へ向かう廊下では例の、安ちゃんと文ちゃん。

「亜弓さんさっきはどうもありがとう。」
「さすがよく乗り切ってくれたわ!」

どの口でそんなことを言うのか。
もちろんこんな奴らには姫川亜弓正義の鉄拳が振りかざされる。

「それはどうも。
 これに懲りて台本すり替えなんてつまらないことはやめるのね!」

楽屋に戻る亜弓。

「北島マヤ・・・恐ろしい舞台度胸。
 内容もわからないのによくついてきた・・・
 互角だったわ・・・
 4場の内容を知っているというだけで、
 ただ有利だったにすぎない・・・・」

相変わらず知らんところで勝手に勝負を挑み、
その勝敗を判定し、
なおかつ自分への評価も厳しめという亜弓さん。
複雑な人である。

しかし当のマヤも、亜弓の実力で舞台を乗り切った結果を受け

「亜弓さん・・・
 勝てない・・・
 あの人には勝てない・・・
 どうしても勝てない・・・」

と圧倒的な敗北を悟らされるのだった。

つづく

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第9巻・舞台あらし(3)