【ネタバレ注意】ガラスの仮面第9巻その⑪【あなたは破門です!】

   

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地下劇場。劇団つきかげぷらす一角獣の稽古場である。
一同の稽古を見つめるマヤ。

「いいなあみんな演劇がやれて・・・
 あたしの謹慎はまだ解けないのかしら・・・」

そういえば前回の石の微笑にて劇中に人形の仮面を外してしまい、
人形が大粒の涙を流すという大失態を演じたマヤ。
本番中に月影先生の鉄拳制裁を受けた挙句、
謹慎を申し渡されたことなどすっかり忘れてたわ。

そしてタイミング良く訪れたのは例の黒服サングラスの男。
地下劇場での「石の微笑」公演時や、一ツ星学園演劇部の稽古場にもいた、
大都芸能の関係者だ。
差し出した名刺には「大都芸能企画部・長谷川栄一」とある。
以下、来訪の主旨。

  • この秋渋谷に大都タウンビルがオープン予定
  • その9階に大都タウン劇場をオープン
  • 第一弾公演にはヘレンケラーの「奇跡の人」を行う。
  • 昨年からヘレンケラー役の候補者を探し、厳選に厳選を重ね、5人リストアップ。
  • 北島マヤさん、あなたもその一人です。オーディション(8月の終わり)を受けませんか?
  • 大都タウン劇場のこけら落としということで大々的に宣伝。
  • うまくいけばあなたもスターになれますよ

とのことである。
最後の一言がいかにも芸能界の誘い文句といった感じでいやらしい。

もちろんマヤは複雑。

「月影先生から上演権を奪うため、汚い手を使って劇団つきかげを潰した大都芸能・・・
 今みんながこんな地下劇場で芝居をしているのもそのため・・・」

マヤの目線の先には劇団つきかげ結成時から苦楽をともにした
青木麗、沢渡美奈、水無月さやか、春日泰子
それに地下劇場で合流した劇団一角獣の堀田団長。
大都芸能の陰謀で劇団つきかげが解散に追い込まれたのは事実であるが、
「こんな地下劇場」とマヤが思っているのがなんか悲しい。
そして一角獣は大都芸能の陰謀とは無関係である。

しかしそのマヤの複雑な気持ちを振り払ったのはさすがの青木麗。

「私たちのことは気にしなくていい。
 大都芸能にいろいろ恨みはあるが、これはチャンスだ逃す手はない。
 三重苦のヘレンケラー、たしかに難しい役だが、
 この役をやることで役者としてまた大きく伸びられる。」

麗の意見で後押しされかのように見えたマヤ。
しかし他の候補者の名を聞いて再度尻込む。

一ツ星学園演劇部の金谷英美。例の鬼婆芸人である。
特定の劇団に所属したことはないものの奨学金をもらって学園にスカウトされたほどの高校演劇のスター。

そして有名人では姫川亜弓。

さらに演出は小野寺一。
マヤの脳裏には演劇コンクール全国大会の記憶が蘇る。

極め付けは、ヘレンケラーの家庭教師・アニーサリバン役には
姫川亜弓の母、姫川歌子を起用。
オーディションは公正に審査し、
姫川亜弓が姫川歌子の娘だからといって特別扱いはしないとのことだ。

「せっかくのお話ですが、あたしとても無理です。お断りします。
 結果は初めからわかっているのに・・・」

大都芸能の長谷川さんを追い返すマヤ。

「人間は気が変わりやすいものですよ。ではまた。」

さすが速水真澄直属の長谷川さん、そんな剣幕のマヤも笑顔であしらう。

「亜弓さんに決まっている・・・あたし勝てないあの人には勝てない・・・・」

先日の夢宴桜での共演で味わった「亜弓コンプレックス」は根が深い。

 

 

「麗から聞いたわ。ヘレン役を断ったそうね。」

地獄耳の月影先生。病床にあっても怖い。

「賢明だったこと。
 どうせ今のあなたでは姫川亜弓の実力には及ばないでしょうから。」

月影先生の意外な一言に驚くマヤ。
しかしこれがマヤの闘志を掻き立てるため緻密に計算された
月影マジックの序章であることには気づいていない。

「それはそうとあなた、夢宴桜に出たそうね。
 今のあなたは謹慎中ということを忘れたの?」

どうやらマヤは完全に忘れていたようで平謝り。

「亜弓さんに舞台でリードされたそうね・・・亜弓さんが怖い?」

「はい・・・」

この状況では月影先生が一番怖い。
そしておもむろにため息をつくと、
月影節が一気に炸裂する。

「石の微笑であなたに人形の役をやらせたのはなんのためだと思うの?
 劇の最中に人形の仮面を外し涙を流すなど役者として失格!
 そんなあなたの未熟さを反省させるべく謹慎を言い渡したのによその舞台に出るとは何事です!
 マヤ!あなたは破門です!」

久々の月影千草マシンガントークで、これまでの罪状を詳らかにされ、
最後には破門を言い渡されたマヤ。破門て。
そういえば入門した時もこのようにマシンガントークで追い込まれ、
「女優になります!」と半ば強引に言わされたのだった。

しかし百戦錬磨の月影千草、そのトークスキルは見事である。

「ただし一度だけチャンスをあげましょう。
 奇跡の人に出なさい。
 亜弓さんやその他の候補者たちと戦って見事ヘレンの役を勝ち得たら
 その時は破門を取り消し謹慎を解きましょう。
 もしそれができなければ紅天女をやる資格も無し!
 わたしのもとを出て行きなさい!破門です!」

こうしてヘレン役オーディションに参加する以外の人生を選択させない月影千草。
そのトークの心理的揺さぶりと勢いは見事であるが、
そのロジックは若干破綻している。

よその舞台に出たから謹慎を言い渡されたのに、
よその舞台のオーディションへの参加を義務付けられ
そのオーディションを勝ち抜いたら謹慎を解くという。
さらには謹慎よりも重い「破門」という処分を受けているにもかかわらず
破門を取り消した上で謹慎を解く。
死刑を宣告された上に懲役みたいなもんである。

一方で姫川邸。
姫川亜弓が自宅を出る準備を進めていた。
どうあっても家を出るのか?と心配する父、姫川貢に対し

  • 親の七光りでヘレン役を得たのだと思われるのは嫌
  • ママがサリバン役をやるからオーディションに受かったと思われるのは嫌
  • 私とママは関係ない。実力でヘレン役を勝ち取ってみせる
  • だからこの家を出て行く。

と家を出て行く理由を列挙。
そしてこのあと伝説の名言が飛び出す。

「中野のパパのマンションを借りるわ」

うろたえる父、姫川貢に対して母・姫川歌子は堂々としたもの。

「別居するというのね。それもいいわ。
 ママもあなたの生活には一切干渉しません。
 三日に一度はばあやをやらせましょう」

かたや親の援助を得たと思われるのが嫌なため、親のマンションに住み、
一方では一切干渉しないと言いながら使用人をやらせるという矛盾。
そして娘は運転手付きの親の車で家を出て行く。

「母親のお前がどうして止めなかったんだ歌子!
 娘が家を出て行くというのに・・・」

「とめられるわけがないじゃありませんかあなた。
 あの子はまだ少女で誇り高き女優ですのよ。」

娘をただただ心配する父と、娘の決意を尊重した母、
家を出て行くと言っても、家出ではなく一時的な別居。
しかも中野のパパのマンションばあやつきである。

「しっかりおやりなさい。亜弓。
 オーディションではあなたを娘だからといって甘やかしたりはしません。
 女優の目で公平にヘレン役を選びます。」

娘の決意に答える母の思いである。

そして大都芸能では仕事の鬼、速水真澄が企画書に目を通していた。
夜遅くに現れたのは秘書の水城冴子。
敏腕の彼女は矢継ぎ早に業務の報告を行う。
奇跡の人のオーディションの日程も8月20日に決定した旨を報告。

「そうそう、候補の一人、北島マヤとかいうあの少女、
 最近やっとオーディションを受けるといってきたそうです。
 また紫のバラでも送って励まされたらどうですか?

また例によっていらん一言で社長の本心を言い当てる秘書。

「なんだと!?」

これは水城さんが去った後の速水真澄の心の声である。
マヤがオーディションを受けることへの驚きであるとは思えない。
水城さんが、紫のバラの人という虚像の正体を知ったことへの驚きであろう。
だとするとなぜこんな驚きのシーンが描写されたのか。
そもそも水城さんは何のためにこんないらん一言を言うのか。よくわからない。

破門を突きつけられたマヤは、打開のため、自らの人生の唯一の道である演劇のため、
奇跡の人オーディションへの挑戦を決意する。

月影千草はマヤの弱気を打破するべくあえて厳しい道を突きつけ
紅天女への道筋を示した。

ライバル姫川亜弓も、自らの境遇に抗う形でオーディションへの参加を決意。

そして大都芸能の速水真澄は、北島マヤへのひそかな興味を
秘書の水城冴子に茶化されるというルーティンである。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第9巻・舞台あらし(3)