【ネタバレ注意】ガラスの仮面第10巻その⑥【遊んでいるんですわ。ヘレンとして。】

   

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8月20日。ついにヘレンケラー役のオーディションの日がやってきた。
審査員席には、演出の小野寺一先生をはじめ審査員の面々。

「5人の候補者の方。どうぞ!」

そしてサングラスをかけた司会者のアナウンスにより候補者が入場する。プロレスか。

まずは劇団「風」の白鳥令奈と劇団「天馬」の早川あきこ。
変わらず保護者や指導者を引き連れての入場。
連日の稽古でだいぶしごかれたらしく、目元にはクマのようなものが。
ちゃんとしてこい。

つづいて一ツ星学園演劇部の金谷英美。
こちらは高校演劇NO.1の貫禄で疲れすらも見せていない。

さらに劇団オンディーヌの姫川亜弓。
しょっちゅう顔合わせているはずの小野寺先生ですらため息が出るほどの可憐さとともに入場。
「希望の家」での生活とは打って変わってのセレブモード。
このセレブがどのようなヘレンを演じるのかと早くも会場は沸き立つ。

最後に劇団つきかげの北島マヤ。
こちらは肩や腕、手首、膝と包帯と絆創膏だらけ。
長野の別荘での生活の傷が癒えていない様子。
その風貌に関係者ドン引き。

  • 審査員は目の前の6名の先生方
  • アニーサリバン役の姫川歌子さんはロケ先からの飛行機が遅れたため、現在会場に向かい中。
  • 稽古着に着替えて別室でお待ち下さい。
  • 終われば控え室に入って次の審査を待ってください。

オーディションが始まるかと思いきや入場して即退場。
なんやこの段取りの悪さ。
着替えて集合にすればええものを。

そしてアニーサリバン役の姫川歌子さん登場。
「七光り」と言われることを嫌い
「母親の力でヘレン役をゲットした」と言われることを嫌い、
単身家を出て、
麻布の父親のマンションに暮らしていた
姫川亜弓と一ヶ月ぶりの再会である。

色めき立つマスコミ。
しかし廊下ですれ違ったことは会話はおろか、目すら合わさずにすれ違ったのだった。

「芸の上では他人だというのか・・・なんて親子だ・・・」

その迫力と覚悟に驚く関係者一同。
いくら他人とはいえ仕事場、特に芸能界だから

「おはようございます」
「お疲れ様です」

くらいありそうなものだが。

一同控え室に案内されると、順次審査室へ通される。
一番手は劇団「風」の白鳥令奈。
扉を開けると驚愕の光景が。

床には人形や積み木など数々のおもちゃが散乱している。
そして固唾を呑んで見守る審査員たち。

「ヘレンとしてここで遊んでみてください。」

一方控え室。

「不安だわ。一体何をさせらるのかしら?」

2番手の早川あきこが保護者とともに不安そうである。

そして早川が呼ばれ、戻ってきた白鳥。
二人ともその場にあった人形やおもちゃで遊んだ模様。
こうしてかませ犬二人が実力不足を露呈。

3番手に呼ばれた金谷。
控え室には姫川亜弓と北島マヤ。

「オーディションに成功してヘレン役を得なければ破門される。
 やるだけだわ。心配してもしかたない・・・
 今はこれにかけるだけ。後のことは後で考えよう。
 私はヘレン。」

と、「人事を尽くして天命を待つ」を地で行く覚悟。
この腹のくくり方は見習いたいものである。

審査室では金谷が審査員を唸らせていた。
ボールを転がしていると、不意に倒れ、
今度は積み木に興味を持つとかじりつく。

「いや凄い。
 ものの存在を確かめるためにそれをかじるとは・・・
 それもまるで不自然じゃない。さすが実力派・・・
 目の見えない幼い子供そのものだ・・・」

ちなみにこの感想は小野寺先生。
マヤの芝居を見て度肝を抜かれても、決して誉めなかった彼にここまで言わすとは。

積み木の次は輪投げ、人形、バットと目の見えない芝居で審査員を魅了する金谷。

「しかしなんという芝居根性だ・・・
 これほど審査員を退屈させない演技も珍しい・・・
 ヘレンとして舞台映えするダイナミックな演技をやりそうですな・・・」

またしてもべた褒めの小野寺先生。
普段の彼なら姫川亜弓のライバルは蹴落とすのだが、
一体どうしてしまったのか。

4番手は姫川亜弓。
同じくヘレンとしてここで遊ぶよう指示される。
するとその場に座り込み、爪を弾いて遊び始めた。
かれこれ30分。中には退屈し失望する審査員も。

  • これが姫川亜弓の演技とは
  • いつまでやるんでしょうな
  • あんなにおもちゃがいっぱいあるのに・・・
  • しかし見ようによってはヘレンそのもの。
  • おもちゃがあるのがわからないんですよ

ここで助け舟を出したのはやはり小野寺先生。
サングラスの司会のおっさんに耳打ち。

「え!?でもそんな?」

「かまわない!やりたまえ!」

すると司会のおっさんは、バレーボールを手に取ると姫川亜弓にぶつけた。
ボールが背中にあたり、驚く亜弓。
周辺を手探りで探すも、何もわからず再び爪を弾く。

こうして姫川亜弓の演技に、変化のきっかけを与えるあたり、
小野寺先生、策謀だけではなく、芝居を見る目はあるのかもしれない。

再度小野寺先生の指示を受けた司会のおっさん。
今度は肩にあたり、やはりヘレンになりきった亜弓はうろたえるだけ。
自分に何が当たったのかもわからない、
ただ闇の中で痛い思いをしただけなのだ。

「もう一度!」
「で・・・でも・・・」
「いいからやりたまえ!」

司会のおっさん、仕事のため、演技のためとはいえ、
女子高生にバレーボールをひたすらぶつけるという
そんな変態的な嗜好は持ち合わせていないらしくうろたえる。
しかし冷徹に指示を出す小野寺。
仕事のため、演技のため、姫川亜弓のためなのか。
それとも、この人の普段の行いや悪行の数々を見ていると。
女子高生にバレーボールがぶつかるのを見て楽しむ変態という線もなくはない。

しかし司会者のおっさんは正常なようで。
うろたえたせいか、投げたボールは亜弓の顔面へ!

「しまった!」

うろたえる審査員席。

しかし亜弓は瞬き一つせず顔面でボールを受け止める。
そしてヘレンとして、わめいたのだった。

「見ましたか?あの子の目?
 ボールが顔に当たった時よけもしなかった・・・
 しかも閉じなかったんですよあの目を・・・」

条件反射さえ乗り越えた姫川亜弓の演技に審査員一同は驚愕。
そして演技を終えた姫川亜弓は普段の姫川亜弓に戻り、
不敵な笑みを浮かべ去って行ったのだった。

小野寺先生にしてみれば、自らの変態的嗜好と合わせ、
姫川亜弓の演技をサジェストするという目的は達せられたのだった。

そして最後に劇団つきかげの北島マヤ。
同様に指示を受ける。

「ヘレンとして遊ぶ・・・ここで・・・ヘレンとして・・・」

すると亜弓と同様に座り込み、だらだらと時を過ごすのだった。

「姫川亜弓といいどうなっているんだこの二人は。
 一向にヘレンとして遊ばんじゃないか。」

金谷のようなダイナミックな演技を期待していた先生方はご不満の様子。
そしてさらに、マヤは横になり寝てしまうのだった。
これには審査員の一部が激怒。

「けしからん神聖なオーディションをなんと心得ているのだ」

「寝てしまうとは無礼な!」

業を煮やした一人の審査員先生がマヤに近寄る。
手にした台本でマヤの肩を叩き、注意を促した。

「君!わかっとるのかね?
 ヘレンとして遊んでくれと言ったはずだ!
 一体このオーディションをなんと・・・・」

審査員先生の言葉を遮るように、
その手から台本を手にすると、
ページを破り始めたのだった。

驚愕、そして激怒する審査員も。
しかし

「遊んでいるんですわ。ヘレンとして。
 紙を破くことを楽しんでいるんですわ。」

百戦錬磨の大女優、姫川歌子の冷静な解説に一同納得。

  • 普通の人間ならこれだけおもちゃがあれば、まずおもちゃを使う。
  • しかし本物のヘレンならどうか?
  • 目も見えず耳も聞こえずどうやっておもちゃを知るでしょう?
  • それがどうして遊ぶものとわかるでしょう?
  • 姫川亜弓といいこの少女といい、確かに非凡だ・・・

他の審査員も次々とこの演技を絶賛。
オーディションで一旦はドン引きさせながらも最終的に勝ち残るのがマヤの常套手段。

かませ犬二人は在り来たりの当たり障りのない演技を見せ、
金谷英美は実力派の評判にふさわしい、ダイナミックな芝居をみせ、
そして姫川亜弓とマヤの今回は演技アプローチは、
役の本質から迫るという奇しくも同じものなのであった。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第10巻・炎のエチュード(1)