【ネタバレ注意】ガラスの仮面第11巻その②【この姫川亜弓ともあろうものが】

   

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最終審査の結果、ヘレン候補は北島マヤ・姫川亜弓の2名に絞られた。
喧々諤々と紛糾する審査員たち。

  • 姫川亜弓の完璧な演技と、北島マヤの粗野な演技
  • ヘレンというよりは野良犬を思わせ、劇場こけら落としの出し物にはふさわしくない。
  • 姫川亜弓のネームバリューと、姫川歌子との共演で話題になり、劇場に取ってもメリット。
  • それを言い出したらオーディションの意味がない。
  • オーディションの意義は真にヘレンとしての演技を。
  • それは綺麗事である。

議論は姫川派が優勢のよう。
そしてその様子を黙って、しかし笑みを浮かべながら聞いている小野寺先生。

「せいぜい今のうちのモメるがいい。
 演出家のわしと、制作部長、山脇専務はわしの味方だ。
 それに母親の姫川歌子がいる。
 いくらがんばったところで勝ち目はあるまい。」

「演出家のわし」「わしの味方」なのか?
いまいちよくわからんが、状況としては小野寺に有利なようである。

一方北島マヤを押す勢力の意見は

  • 姫川亜弓は確かに素晴らしい。それに比べ北島マヤは冒険である。
  • しかしあの子の演技には不思議な魅力を感じる。
  • 今までのヘレンとはまったく違うヘレンを演じるのではないかと期待出来る。

「そうですわね、私も今となってはあの子の素朴さが妙に魅力に思えて・・・」

審査中は散々「下品だ野良犬だ」と評していたお上品なおばさま審査員はマヤを押している様子。
そして紛糾する議論を遮る小野寺先生。

「まあまあ。
 どうでしょうここは票決ということで。
 おだやかに民主的に解決しようじゃないですか。ははは。」

そう言い放つ小野寺の邪悪な笑顔は、
穏やかではあるが邪悪に満ちた独裁者のそれであった。

会議室の外では結果を待つマヤと亜弓、そして報道陣。
報道陣の評価も亜弓が優勢に傾いている。

「こわい・・・!
 助けて!かあさん、麗!みんな!
 月影先生・・・!
 こんな時が一番怖い!」

いや、一番怖いのは月影先生である。

そして一方の姫川亜弓も言い知れぬ不安に苛まれていた。

「この姫川亜弓ともあろうものがこの不安、この動揺。
 こんなことは初めてだわ・・・!」

どこかで聞いたようなセリフである。
姫川亜弓といい、速水真澄といい、
自信家のリア充は「この〇〇ともあろうものが・・・」というのは定番のようである。
そして不安の原因はマヤだ。

「この子、そうよこの子と一緒だからよ!
 この子が私を不安にさせる・・・!」

姫川亜弓といい、速水真澄といい、
自信家のリア充は、マヤのような存在に心乱されるようである。
以下、亜弓のリア充自慢。

  • 私はいつも光の中を生きてきた。
  • いつも人の先を歩いてきた。
  • 物心ついたころから私は自分が美しいことを知っていたわ。
  • できないことは何もなかった
  • そして演技にかけては私は神を信じるように自分の才能を信じている・・・
  • 今もその自信にゆるぎはないわ!

完全なる自己肯定。
そのセリフのひとつひとつが鼻につく。

「なのに!胸の底に広がるこのどうしようもない不安感!
 それも一見このなんの取り柄もなさそうなこんな子のために、こんな子のために!」

二回も「こんな子」と言ってしまう。
自信に揺らぎあり。

会議室ではいよいよ票決が行われていた。
全員の投票が終わったかと思いきや、一票足りない。
姫川歌子がまだ投票を終えていなかった。

「先に開票してくださいます?
 私まだ考え迷っていることがありますから。」

票決の状況を見てから投票ってずるくないかい。

「迷う・・・?
 いったい何を迷うというのだ?
 自分の娘を選ぶのに・・・」

そしてまさかの展開に自信満々だった小野寺先生も不安げ。

「票が出ました。
 姫川亜弓3票、北島マヤ3票。
 同票です!」

「では姫川さんの一票でヘレン役が決まるというわけですの!?
 娘の亜弓さんか、北島マヤか!?」

この状況にさすがの大女優姫川歌子も顔が青ざめ、手が震えている。
これには意地の悪い審査員が意見する。

「意地の悪い見方をさせて貰えばこれはちょっとした見ものですな。
 親子の情にかられて娘の亜弓さんに入れるか?
 そう思われたくないためにもライバルの北島マヤに入れるか・・・」

「親子の情と女優としてのプライドと、
 冷静な判断がこの二つの重なりによって狂わなければいいが・・・」

「きみ、それは姫川さんに対する侮辱ですぞ!」

しかしこの外野の意見を聞いてか、歌子さんの表情からは迷いがなくなった。

「姫川亜弓はたしかに私の娘です。
 でも芸の上では他人ですわ。
 親子の情だけで亜弓を選んだとしたら、彼女は私を一生許しはしないでしょう。
 私はアニー・サリバンとして、ヘレン役を選びたいと思います。」

そして記入し、差し出した最後の一票。
開票した司会者も驚愕。他の審査員も驚いた。

「姫川亜弓 北島マヤ」

双方の名前を記すという、ひらめきなのか、逃げなのか、選択なのか、反則なのか。
そんなことが許されるのだろうか。

「姫川亜弓はヘレンとして完璧な演技を
 北島マヤはその野生的動物的なところが魅力に思えました。
 今までとは違うヘレンを演じそうで何が出てくるかわからない可能性のおもしろさがこの子にはあります。
 私はアニー役者としてこの二人を共に捨てがたく、共に有力なヘレン役として選びました。」

今までの紛糾した議論を総括したような意見。
一番民主的というか衆愚的な人なのだろうか。
「アニー役者」ていうと、なんか別の出し物の子役みたいである。
しかし姫川歌子さんはいったい何がしたかったのだろうか。

おそらく、二人の役者としての魅力は、歌子さんにとっては甲乙つけがたかったのだろう。
しかし、「親子の情にかられるか否か?」という点で迷っていたものと思える。
議論の状況から見て、4対2の接戦で亜弓が勝つと踏んでいたのであろう。
その際に、マヤに入れるか、亜弓に入れるか、どちらが亜弓ないし世間の見方に影響するかといったことで迷っていたと思われる。
しかしまさかの3対3となり、歌子さんの一票で結果が決まるとなって初めて、
女優として、アニーサリバンとして、素直に答えを出したのではなかろうか。

でもなんかずるい。

会議室の扉が開き報道陣がなだれ込む。

「ヘレンケラー役は、姫川亜弓!
 そして今一人、北島マヤ!
 この二人のダブルキャストに決定いたしました!」

「ダブルキャスト!ヘレン役を!」

「亜弓さんと・・・!」

「この子と・・・!」

ヘレン役は一日交代でそれぞれ演じ、
「奇跡の人」は芸術祭の演劇部門にも参加予定であるとのこと。

まさかのダブルキャストに報道陣は騒然。
亜弓とマヤのツーショットを撮ろうと必死だ。

そして握手する二人。
しかし亜弓はマヤの手を握りつぶさんばかりの勢いで、握手するのだった。

「負けないわよ」

背を向け去っていく亜弓。
そしてその様子を見てほくそ笑む小野寺先生。

「小野寺演出家・・・!
 速水真澄と共に月影先生やあたし達を苦しめている愚劣な男・・・!」

「卑劣」であることは間違いないが、「愚劣」という表現はなかなかである。

「奇跡の人の演出家だなんて・・・
 アニーサリバンが亜弓さんのお母さんだなんて・・・
 やっていけるかしらこんな中で・・・
 亜弓さんをむこうにまわして・・・?」

そして会場の物かげではもう一人愚劣な男、速水真澄がマヤを見つめているのだった。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第11巻・炎のエチュード(2)