【ネタバレ注意】ガラスの仮面第11巻その④【引きずられる・・・この子の演技に・・・】

   

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「奇跡の人」稽古開始。
アニーサリバン役の姫川歌子が台本を片手に、動きながら稽古。

しかしマヤは、せっかく大女優の稽古風景が観れるにもかかわらず、
その視線の先には姫川亜弓。
一日交代でダブルキャストとなるマヤは、亜弓と比較されることは必定である。
亜弓の生い立ちや環境、そしてこれまでの輝かしい経歴を思い、
どうあがいても勝てないと思い不安になるのだった。

しかしそのマヤの脳裏に浮かんだのは月影先生。

「マヤ!あなたにはあなたのヘレンがある!
 あなたのヘレンが!」

脳裏に浮かんでさえいても、黒いバックに黒い髪黒い服。
どこからが髪でどこまでが服かわからない。
記憶と想像上でもその表情は厳しく口調は怒っている。
亜弓の存在よりも不安になるわ。

しかし脳裏の月影先生の叱咤を受けて立ち直るマヤ。

「そうだわ!あたしにはあたしのヘレンがある。
 あたしにしかできないヘレンが。
 あたしは亜弓さんとは違うんだ!」

勝手に不安になるも月影先生のスパルタ指導を想像し立ち直るという自己修正能力。
やはりマヤは厳しくされてこそ伸びるタイプなのだろうか。

稽古は20分の休憩に入る。
ここまでの振り返りとばかりに、出演者に演技の指導、指示をだす小野寺先生。
彼が演出家として演出している姿を見るのは初めてである。
父親役の神野さんにセリフまわしを指導し、
母親役の松山さんに感情表現の方向性を指示する。
こうしてみると普通の優秀な演出家である。
その裏に隠しても隠しきれない政治的手腕と黒い策謀がなければ。

そしてマヤと目があった小野寺先生。
ニヤリと笑うと

「ああ君にはわしのアドバイスなど不要だろう。
 何しろご立派な先生がついているんだからな。
 下手にアドバイスなどしては君の自由な演技力を殺すかもしれんて。」

最後だけなぜか関西弁。
そして最後はある種の真実でもある。

マヤに演出をしないという小野寺の方針に驚く共演者。
その中小野寺は亜弓に近づく。

「ああ亜弓君、ヘレンの動きについて話しておきたいことが」

「演技上のアドバイスですか。それはどうも。
 私にも、もう一人のヘレンにも同じアドバイスをお願いします。小野寺先生。」

これにはマヤも小野寺もびっくり。
さすがの小野寺先生も返す言葉がない。

これは決して自分ばかり優遇せずに、マヤにもアドバイスしてほしいという平等と博愛の精神ではない。
自分だけアドバイスを受けて、マヤはアドバイスをもらえず、
それでマヤに勝ったとしてもそれはアドバンテージを受けただけに過ぎず、
同じ条件で戦って、実力を認められたいという彼女の私情である。
そしてマヤを強烈なライバルとして認めている証拠でもある。

稽古は今回の見所というべき、ヘレンとサリバンのシーン。
姫川歌子と姫川亜弓が共演するシーンである。

「D・O・L・L。ドール。人形よヘレン。」

聾唖者用の指文字を教育するサリバン。
教育に飽きたヘレンがサリバンから人形を奪う。
人形を奪い返し、教育を続けようとするサリバン。
二人の感情と動きがヒートアップし、
お互いの手をはねのけ、ついにはヘレンの手がサリバンの顔をはたく。

台本に書かれている芝居とはいえ、二人のテンションは凄まじく。
その平手打ちの衝撃に稽古場は騒然。
ものすごい音でしばかれた、姫川歌子の頬は赤く腫れあがっていた。

「文字を綴ったら返すわ!」

激しい応酬でヘレンを椅子に座らせるサリバン。
お互いに息が切れ、顔面は紅潮し、
手が出る、足が出る、その剣幕に二人以外の共演者もドン引きである。

10分間の休憩。

歌子に強く掴まれた亜弓の手首には指の形にアザが残り、
亜弓にしばかれた歌子の頬は赤く腫れあがったままである。

「なんていう母子だ・・・
 稽古場に入ってから挨拶以外互いに口もきかない。
 さっきの稽古の時は本気で憎み合っていた!」

二人のプロ意識に驚愕の共演者。

「成長したわね・・・亜弓・・・」

「さすがはママだわ。演技の呼吸を少しも外さない。見事だわ・・・」

母娘は言葉こそ交わさないものの、お互いにその実力を認めあっているのだった。

つづいてマヤの番になった。

「D・O・L・L。ドール。人形よヘレン。」

先ほどと同様に、文字の綴りを教える。
人形を奪うヘレン、奪いかえすサリバン。
このくだりは以下同文。

マヤが人形の髪の毛を引っ張ると、人形の首が抜けてしまった。

「わははこりゃ傑作だ!」
「小野寺先生、この子にはこの演出入れませんか?」
「そりゃいいアイディアだ!」

稽古場大爆笑。しかし当の歌子さんは驚愕の表情。

「思わず人形を引っ張ってしまった・・・思わず・・・」

そしてサリバン先生が怒って奪いかえすと、
ヘレンがサリバンの顔面をひっぱたくシーン。

マヤ演じるヘレンの左手の掌底が、歌子演じるサリバンの鼻をに炸裂した。

「一応台本通りには違いない!」

再び稽古場大爆笑。

「困るよ君、奇跡の人はコメディじゃないんだからね。」

「あ、はい、すみません、真面目にやってるんですけど、
 あの痛かったですか?ごめんなさい・・・」

「いえいいのよ」

「次はあの子どんな演技するかな!?」
「あの子動きなんだか目が離せないな!」
「次にどう動くか楽しみだぜ!」

稽古場はマヤの奇想天外の演技に興味津々。
しかし姫川母娘は驚愕していた。

「信じられない・・・」

衆目を集めるマヤの演技に驚く亜弓。

「こんなばかな・・・
 引きずられる・・・この子の演技に・・・
 この私が・・・」

予期しないマヤの演技に戸惑う歌子。

意図せず稽古場の人気者になってしまったマヤ。
そして注目されるマヤを見る亜弓。
そう亜弓は知っているのである。
このなんの変哲もない、地味な子が、
芝居をすると恐ろしく人を惹きつけるということを。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第11巻・炎のエチュード(2)