【ネタバレ注意】ガラスの仮面第11巻その⑦【水・・・】

   

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稽古は佳境を迎えていた。
来週はいよいよ「奇跡のシーン」。
三重苦のヘレンが初めて物には名前があることを知るシーン。
「水をかぶってウォーター」のあのシーンである。

舞台最大の山場、アニーサリバンがヘレンに起こした奇跡。
その奇跡をどのように表現するのか、マヤは悩んでいた。

その悩みの持っていき方の方向性がおかしい天才女優。

「水・・・水・・・」

食器を洗いながら蛇口に指を突っ込み水浸しに。
麗にたしなめられても

「水・・・」

ちなみにセリフは「Water」である。

もう一人の天才女優・姫川亜弓ももちろんおかしい。

「水・・・」

パパの中野のマンションの浴室で服を着たままシャワーを浴びる。
シャワーのみならず、浴槽にも溢れんばかりの水。

「水・・・」

だからセリフは「Water」である。

三日にいっぺんは自宅からやってくる梅乃ばあや。
インターフォンを押しても出ない。
鍵は開いたまま。
そしてフロア中に響き渡る水音。

「これはいったい何の・・・」

いぶかしんだ梅乃ばあやが浴室の扉を開けると、
服を着たままずぶ濡れでシャワーの水を手に当てている亜弓。

「水・・・水・・・」

亜弓が生まれてからずっと一緒だった梅乃ばあや
これまでも亜弓の気まぐれやワガママ、そして奇行にも散々振り回されてきたであろう。
その百戦錬磨のばあやが荷物を取り落とし、

「あわわ・・・」

とドン引きする始末。

「大丈夫よばあや!
 私は狂ってなんかいないわ!」

と狂ったように浴槽に手を突っ込み

「水・・・」

これには梅乃ばあやも、わなわなと震えるしかなかった。

場面は変わり車内。
大都芸能の仕事の鬼・速水真澄は秘書の水城冴子さんと移動中だ。

「いよいよ奇跡の人の公演が近づいてきましたわね。
 あの二人のヘレン
 ラストにはどんな奇跡を見せてくれるか楽しみですわ」

読者としては水城さんが若社長の速水真澄に対して、
どんな奇跡的なツッコミといじりを見せてくれるかが楽しみである。

「そうだな。奇跡の人最大のクライマックス。
 二人のヘレンの起こす奇跡、観客の注目の的だ。」

速水真澄がまたどんな恥ずかしいことをしてくれるのかも注目の的だ。

「ときに真澄様
 全日本アカデミー芸術祭の大賞候補に
 この奇跡の人が今から上っているって噂ご存知ですか?」

「そいつはありがたい。取れればいい宣伝になる。
 大都新ビルオープンのこの上もないプレゼントだ。」

「あなたはまた・・・
 でも他の強力な劇団も目白おしですわ。
 これで賞を取れれば一躍有名になりますものね。」

「そうとも箔がつく。
 ともあれこの舞台のすべてが
 その奇跡にかかっているといってもいい・・・」

遠くを見つめる速水真澄。
その目線の先にあるのは
「奇跡の人」の成功、ひいては大都芸能のさらなる発展か。
二人のヘレンのうちの一人を思い浮かべているのか。

それとも今日は水城さんに痛いとこを突かれず、
辱めを受けずに済んだという安堵なのか。

相変わらず二人のヘレンは周囲を困惑させていた。

マヤはいつものラーメン屋でコップの水に手を突っ込み、
さらには水を撒いている。

「おやめよマヤ!人が見てるじゃないか。」

もはや麗の言葉など聞こえない。
ヘレンは物には名前があるということを
なぜ突然わかったのだろう?
そのアプローチで頭がいっぱいだ。

学校ではブツブツ言いながら噴水に手を突っ込んでいる。

「あたしあんたと友達になってるのが
 つくづく薄気味悪くなってきたわ」

入学初日に登場した友達再登場にもかかわらず絶縁間近か。

亜弓は梅乃ばあやを巻き込んでの猛特訓。

「ばあや、もっと水の勢いを強く!」

ばあやに指示したところでシャワーの水圧には限界があろう。
水を浴び、床を叩き、ヘレンの奇跡を理解しようとする。

「こうじゃない、こうじゃないのよ!
 奇跡を得たときのヘレンの表情・・・動き・・・
 こんなものじゃないのよ・・・」

割烹着を着て本格モードの梅乃ばあやも困惑中だ。

しかし二人のアプローチは決定的に違っていた。
奇跡を得たときのヘレンの動きや表情を求め続ける亜弓。
それに対し、そのときのヘレンが「どうだったのか?」を追求するマヤ。
そのアプローチの違いは、二人の芝居の方向性の違いでもある。

「水・・・」

洗濯機の渦に手を入れる亜弓。
ふと電源が抜けかけているのに気付き直そうとする。

もちろん感電。
指だけでなく頭から足の先まで全身。

反射的にコードを抜き取り、
床にへたり込み放心状態。
よう生きとるな。

「これよ、これだわ。
 あの時ヘレンは電気ショックを受けたと同じこと。」

いや、違うやろ。

「奇跡の瞬間、水に感電したんだわ!
 できる・・・わたしのヘレン・・・
 奇跡の瞬間・・・」

なんかうまいこと言いながらも、
サラブレッドの天才女優は意外にもリアクション芸人であった。

水かけ不動尊で狂ったように水をかけるマヤ。
この迷惑行為には周囲も唖然だ。

雨が降ってきても、傘をさすこともなく、雨宿りすることもなく、
天を仰ぎ雨に打たれ続けるマヤ。

偶然にもそばにいた子供の水ヨーヨーのゴムが切れ、
マヤの顔面を直撃し破裂したのだった。

「水・・・
 あの時のヘレンははじける前のヨーヨーだったんだ・・・!」

何でそこに思い至るねん。

「水という言葉がヘレンの中でいっぱいにたまりにたまって、
 今にも弾けそうになっていたんだわ!
 そう、きっかけさえあれば・・・
 ヨーヨーのぶつかったあの瞬間・・・
 あの瞬間こそがまさにヘレンの奇跡の瞬間!!」

飛躍しすぎ。
そしてもう一人の天才女優もリアクション芸人であった。

こうしてそれぞれの奇跡の時をつかんだ二人。
亜弓はヘレンの表情と動きをつかみ、
マヤはヘレンの状態をつかんだ。

全く違う二人のアプローチが、
同じように偶然の出来事のリアクション芸から生まれたというのがおもしろい。

そして、いよいよ「奇跡の人」は本番を迎えるのである、。

つづく

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第11巻・炎のエチュード(2)