【ネタバレ注意】ガラスの仮面第11巻その⑨【芝居なんかじゃないわ・・・】

   

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劇場内では「奇跡の人」が進行していた。

サリバン役の姫川歌子とヘレン役の姫川亜弓。
別居までし、稽古中は挨拶以外の言葉を交わさなかった二人だが
息のあった芝居で観客を魅了する。

ヘレンを躾けようとするサリバンと、
サリバンに抵抗するヘレン。

そのやりとりは観客を感心させ、
時には笑いを起こす。
そして人形の奪い合いを皮切りに、ヘレンがサリバンの顔面をしばく。

「みて・・・あれ本気よ・・・
 芝居なんかじゃないわ・・・」

「顔が真っ赤・・・痣が・・・」

観客の心配を買うほどの迫真の戦い。
それって舞台演劇としてはどうなのだろう。
役者の健康状態が気になって、芝居やストーリーに没頭できないのではないだろうか。

そして会場の一番後ろでは月影先生が腕を組んでその芝居を見ている。
結局会場のお姉さんの指示を無視してここにい続けたようである。

さらに白熱する二人のバトル。
観客だけではなく、真の母娘の対決に劇評家たちもうなる。

「いや・・・すごい母娘ですな」
「まったくこれが実の母娘とは・・・」
「演技とはいえ亜弓くんもよく自分の母親をああもひっぱたけるもんだ・・・」

劇評家たちの関心は、芝居ではなく母娘関係に向いてしまっている。

格闘劇はさらにエキサイト。
段取りなしの殴り合いやものの奪い合い。
強引にヘレンを座らせた椅子がバランスを崩し、
意図せず亜弓が倒れたのだった。

百戦錬磨の姫川歌子もこれには一瞬我に帰る。

顔面を強打した亜弓はなんと鼻血を出していた。
しかし亜弓演じるヘレンはなんと正面に向き直り、
流血が滲んだ自身の姿を観客にさらしたのだった。

この舞台根性とアクシデントを効果的な演出に変えた機転に
劇評家たちも大絶賛。

そしてこれまで微動だにしなかった月影先生。

「ニヤリ」

と不敵な笑みを浮かべる。
血を見て興奮したのだろうか。

一瞬静寂に包まれた劇場。
しかし次の瞬間には拍手と歓声に包まれ、
その大音量は扉越しに、
ロビーにいるマヤにも聞こえるのだった。

しかしどうであろう。
段取りなしに、本気で殴りあう母娘。
その本気と迫力はええとして、
まず舞台として、芝居としてどうよ。

芝居である以上、相手に怪我をさせてはいけないし、
自分も怪我をしてはならない。
連日本番を迎える商業演劇ならなおさらである。

しかも大都芸能の威信をかけた
大都新ビル(意外と低層)のオープニングに合わせた演目である。

劇場のオープンで、看板役者に怪我をさせるというリスクヘッジはないのであろうか。

そして多くの観客や劇評家は、
芝居や演技やストーリーを楽しんでいるのではなく、
姫川母娘の本気の殴り合いに興奮している節がある。

そら擬闘よりは、殴り合いの方が見応えはあるに違いないが、
芝居のあり方としてはどうなのか。

旧態依然としたプロレスのショー的要素を排除し、
本格的な格闘色を打ち出した前田日明率いるUWFが支持を受けたようなものか。

「奇跡の人」姫川母娘バージョン。
満場の拍手と大喝采で中盤を迎えたが、
その舞台の方向性や観客の喜びようにはなんだか釈然としないものがある。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第11巻・炎のエチュード(2)