【ネタバレ注意】ガラスの仮面第12巻その④【体中の血が熱い・・・】

      2017/10/28

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「奇跡の人」二日目。

姫川歌子&北島マヤバージョンは、

「これがあたしのヘレンです!」

という宣言とともに始まったマヤの稽古段取り無視のアドリブをきっかけに、
姫川歌子はアドリブバトルを受けて立つ。
稽古での段取りを二人とも一切無視。
次に何が起こるかわからない緊張感に観客は引き込まれ、
時には爆笑、時には涙を誘うのだった。

「あれは姫川歌子の本心から出た言葉だよ。脚本にはない。」

ただ一人この劇の本質を見抜いたのは劇団つきかげのリーダー格にして、
もはや名解説者の雰囲気すら漂う青木麗。

  • それだけ本物になってきている。
  • マヤのヘレンを相手しているうちに、姫川歌子はアニーサリバンに同化してきた。
  • あの二人の間に演技を離れた本物の呼吸が通い合っている。
  • 一種の不思議な連帯感が生まれつつある。

全くもって見事な解説である。
年下のマヤを見守り、メンバーを引っ張り、
時にはたしなめ、そして本質をつく冷静な意見を言う。
恵まれたルックス、育まれた演技力、
そして優れた観察眼。
そんな彼女が地下劇場のアイドルにとどまっているのは非常に惜しい。
しかしこれまでも、これからも、
麗はマヤと亜弓の芝居を客席で解説し続ける運命にあるのだ。

舞台では姫川歌子がテーブルクロスを引き裂いていた。
予算的には問題ないのだろうが、裏方泣かせ。

「どうしてもあなたにはスプーンで食べてもらうわ。ヘレン。」

するとマヤの右手をスプーンもろともテーブルクロスで縛り付けたのだった。
しかしマヤは激しく抵抗。
そして縛られていない左手にもスプーンを握った。
意味がわからん。
そして姫川歌子に襲いかかる。
すると姫川歌子も両手に皿を持って応戦。
意味がわからん。
マヤのスプーン二刀流の猛攻を、
姫川歌子の二枚皿の盾が防ぐ。
突然始まるチャンバラ。
意味がわからん。
これには観客大爆笑。
速水真澄も大爆笑。
お前は笑っている場合か。
自社の作品の出来に注意を払え。

そしていよいよクライマックス。
例の「いきなりWATER!」の名シーン。

井戸に連れて行かれ手に水を浴びせられる。
するとマヤは手のポットを落とし、立ち尽くすのだった。

そして十分すぎるほどの間。

観客もザワザワし始めた時、

「ウォ・・・オオウ・・・ウォ・・・」

思わずTONIGHTと付け加えたくなる。

井戸に駆け出すマヤ。
そしてポンプの水を出しまくる姫川歌子。
水量残は大丈夫か。

顔に体に水をかけまくり水の感触を確かめる。

「ヘレン、WATER!ウォーター!」

「ウォ・・・ワ・・・
 ウォワーウォワー」

「ああ、わかった!わかったのねヘレン!」

字面を見る限りは全くわかっていない。

しかしながら二人の迫真の演技が説得力を持たせ、
時にはムーブメントを起こしたようである。

観客も興奮。
最後アニーサリバンの膝元で

「T・E・A・C・H・E・R 先生」

と指文字を綴り、二人が抱き合うと割れんばかりの拍手。
当初は心配していた観客も審査員も共演者もスタッフも
大興奮だ。

そして二人の闘いが終わった。
月影千草門下生、姉妹弟子のアドリブバトル。
二人は幕が再びあき、カーテンコールになっても立ち尽くしていた。

しかし姫川歌子はマヤの手を掴むと、観客の声援に応え、
マヤの頬にキスをしたのだった。

やってはいけないことをしてしまったようである。

「なんてことだ娘の亜弓さんにすらキスなどしなかったというのに!」

驚きとともに心配するスタッフ

「姫川歌子は娘よりそのライバルのほうと気があってしまったらしいぞ!」

無粋なマスコミの評価。

そして観客たちも口々に評する。

  • おもしろかった
    ・・・まあええわ。
  • ヘレンが変わっただけでガラッとイメージが違う
    ・・・なんせ話変わっとるから。
  • 昨日の姫川亜弓よりも感動した
    ・・・それを言ってはいけない
  • 典型的な姫川亜弓のヘレンも良かったけれど
    ・・・「典型的」って・・・
  • 何しろ舞台から目が離せなかった
    ・・・姫川亜弓は目を離せたのか?
  • しかしあのサリバンはすごい
    ・・・まあ舞台を私物化してますから
  • 全く違ったタイプのヘレンを相手にして二つの違った舞台を作り上げている
    ・・・舞台は闘いですから
  • 姫川亜弓がやった典型的な「奇跡の人」と、新鮮な興奮を呼び起こすだが型破りな今日の「奇跡の人」と、どちらがどうとは・・・・
    ・・・「典型的」って、それディスってますやん。

審査員も今日の舞台を楽しんだものの、評価していいのか何なのかわからん模様である。

そして楽屋。
マヤが着替え、顔を洗っていると姫川歌子さんが現れた。

「今日はいい舞台だったわ。
 何ていうのかしら・・・こんな充実感は久しぶりだわ。
 舞台が終わった後も体中の血が熱い・・・
 やりにくい子だと思っていたわ。初めはあなたを。
 途中から心の演技を捨てることによって、
 本物のサリバンになれたような気がした・・・
 本気であなたを憎み、哀れみ救いたいと思い、
 そして負けるもんかと思ったわ!」

饒舌な姫川歌子。
結局勝ち負けのようである。

「一日おきだけど千秋楽まで頑張りましょう!
 舞台の上では容赦しないわよヘレン!
 あなたとコンビを組んで良かったと思っているわ」

ご機嫌で去っていたのだった。
姫川亜弓と別居中でよかったな。
同居していたら母のこのハイテンションと、娘の妬み落ち込みの落差に、
映画監督・姫川貢氏は新しい映画のストーリーでも思いついてしまうだろう。

そして楽屋には名解説を終えた青木麗とその他つきかげメンバー。
さらには桜小路優が花束を持って登場。
ほんま誰でも入れる楽屋である。

「舞台のそでで見ていたけど感動したよ
 もう僕なんかよりずっと上手いじゃないか。」

関係者のようで無関係な桜小路優が舞台袖に入れるとは
恐ろしいセキュリティの甘さ。
ちゅうか客席で見とけ。

観客が去り、誰もいなくなった劇場。
マヤは客席にたたずんでいた。

「紫のバラの人・・・
 見ていてくれましたか?あたしのヘレン・・・
 あなたの励ましがなかったらくじけていたかもしれません。
 これからも見ていてください!あたしを!」

安心しろ。
今まさに物陰から、速水真澄が見ている。

そしてもう一人。
週刊誌を手に震える姫川亜弓。

「娘・亜弓とのコンビもなかなか熱演で劇評家の絶賛を浴びているが、
 もう一人のヘレン北島マヤを相手にするとがらりと変化したサリバン役となり、
 姫川歌子自身、女優としてその演技に乗りに乗っている・・・」

ただならぬ様子に梅乃婆やも心配げ。

「ママ・・・」

相当ショックを受けている姫川亜弓。
そらそうやろう。実の母は実の娘よりもそのライバルの相手に楽しさを見出したのだから。

しかし何度も言うが、この「奇跡の人」は何とも釈然としない。
舞台観劇に足を運ぶ観客、いずれも日常からかけ離れた世界を求めている。
しかし、今回の奇跡の人に関して、
初日は「姫川歌子・亜弓母娘の、やらせなしのガチンコ格闘技」を喜び、
二日目は「姫川歌子・北島マヤの打ち合わせなしのインプロ」を喜んでいる節がある。

もちろん演劇は非日常を楽しむものである。
でも今回の観客は非日常ではなく、ギャップやハプニングを求めているように感じる。
それはそれで正しい楽しみ方なのかもしれないが。

そして姫川歌子。
きっかけは北島マヤの稽古になかった段取り無視のアドリブであるにせよ、
途中から舞台を私物化した。
もちろん、舞台を成功させるため、観客を喜ばせるため、いい芝居をするため、
それは否定しない。
そして舞台は大成功に終わった。

しかしそれは全てが崩壊する危険を孕んでいた。
取り返しのつかない事故や、
事故まで行かないまでも、ストーリーの方向性が変わってしまう可能性もあった。

そして本番を迎えるまで準備や稽古に携わってきた人たちの苦労を
無にしたと言われても否定できまい。

マヤの芝居にはその可能性があるということを、
役者の先輩として、マヤに伝えるべきではなかっただろうか。

しかし観客も審査員も共演者もスタッフも大喜び。
そして姫川歌子自身も饒舌に楽しかったと大喜び。

ちゃんと決められたレシピがあるのに、
思いつきとかその場のノリで調味料豪快に付け足したり、
火加減や水加減を変えたりした料理が結果美味かっただけのことである。

それでええんか?
どうなんですか月影先生!?
そういえば劇場の一番後ろで立って観ていた月影先生は
後半は全く描写されていなかった。
最後まで観ていたのだろうか?
愛弟子二人の芝居を観て月影先生はどう思ったのだろうか?
満足したのか?怒ってしまったのか?

「あなたたちの演技には!」

と鉄拳制裁ものだろうか。

その辺りがとても気になる。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第12巻・炎のエチュード(3)