【ネタバレ注意】ガラスの仮面第12巻その⑤【ありがとう・・・あたしのために・・・】
2017/11/04

「奇跡の人」ヘレン役は姫川亜弓と北島マヤのダブルキャスト、
アニーサリバン役は姫川歌子。
姫川歌子は一日置きに二人のヘレンを相手にしていた。
マヤと姫川歌子のコンビは日を追うごと回を増すごとに話題を広げていった。
初回以来のアドリブバトルはさらに白熱。
台本などないに等しく、ガチンコのぶつかり合い。
そのライブ感によって何が起こるのかわからない緊張感が生まれ、
公演ごとに台詞が変わり動きが変わり、
そして客の笑いどころや泣きどころも変わっていた。
それが支持され、日に日に観客動員は増え、
中にはその変化を求めて連日劇場に足を運ぶファンも。
そして劇場の通路に立ち見が出るまでの人気を博していたのだっった。
一方姫川亜弓と姫川歌子の母娘コンビ。
誰もが想像する奇跡の人のヘレンを姫川亜弓は演じきり、
三重苦の演技も好評。
観客動員も増えることも減ることもなく、一定数を保っていたのだった。
そしてマヤの人気も上昇していく。
マヤが顔を洗っていると群がるファン。
花束を渡すもの、サインを求めるもの、プレゼントを渡すもの、
ほんまこの劇場の楽屋は誰でも入れるのか。
「へえ、マヤもいっぱしのスターじゃない。」
そんな様子を見つめる麗とさやか。
お前らも毎日楽屋に侵入しとるんか。
当のマヤはサインの字がはみ出るわ、
「北島」を「北鳥」と書き間違えるわ、
相変わらずの天然ぶり。
週刊誌の取材にもうまく応対できない。
「舞台を降りるとつまらん子だな。」
と、記者たちに言われる始末である。
「舞台を降りたあの少女に何を聞いても記事にはなりませんよ。」
おもむろに現れた速水若社長。
記者たちの感想とほぼ同じ内容をわざわざ言いに来たのか。
それとも自分だけはマヤの魅力を知っているとイキっているのか。
そして速水真澄と目があったマヤ。
「どうも、お見回りご苦労様です!」
この頓珍漢な大声挨拶に周囲は唖然。そして速水真澄は苦笑。
「君のヘレンなかなかいい評判だよ。客の入りも上々だ。」
「ありがとうございます!速水若社長!」
「いつになったら君はその顔つきを止めてくれるんだい?
僕の顔を見た瞬間のその表情だよ。
まるでムカデかケムシかゴキブリでも見たって顔つきをする・・・」
若干寂しそうなその表情は、ロリコンそのものである。
もちろんその場には秘書の水城さんもいる。
またこのあとネチネチと辱めを受けたのだろうか。
マヤはつきかげの仲間と帰りの電車。
以前に速水真澄に、挨拶や関係者の重要性を指摘され、挙げ句の果てに突き飛ばされた話をしていた。
だから悔しくて速水真澄に対してムキになって挨拶しているマヤ。
しかし名解説者青木麗はまたしても冷静な推理を働かせる。
- 冷血漢と言われる速水氏がなぜマヤにそんなことを言ったのか?
- その言葉の裏に妙に優しさを感じる
- 彼の言っていることは正しい。関係者に嫌われては生きていけない。
- 彼はそれをマヤに教えてくれた。
- ほんとに憎くて嫌っていたらそんなことは言わない。
- 恥をかいて自滅していくのを黙って見ていればいいだけだ。
- 速水氏はマヤのためを思って言ったんだと思う。
「そんな、信じられないわ!」
意外な麗の指摘に、マヤは驚き戸惑うのだった。
さすがは麗、見事な推理である。
しかしながらその優しさと親切さの裏にある、
ねじ曲がった恋愛感情にはまだ気づいていないようである。
そしてあくる日。
終演後のカーテンコール、舞台には花束やプレゼントを持った客が殺到していた。
最中マヤの足元に飛んできたのは紫のバラが一輪。
「紫のバラ・・・!
いるんだわこの中に!
紫のバラのひと!!!」
幕が降りるとかつらを抱え衣装を着替えることもなくロビーに走るマヤ。
「誰かこの紫のバラを投げた人を見かけませんでしたか?」
必死で紫のバラのひとを探す。
しかし終演直後のロビー、ヘレン役のマヤはあっという間に観客に囲まれ、
身動きが取れなくなってしまう。
そして速水真澄はその様子をタバコを吸いながら悠然と見つめているのだった。
「ちょっと失礼!」
意を決したように動き出した速水真澄。
マヤは人波に押されよろけた。
そして飾られていた巨大な花の円柱のようなものにぶつかってしまう。
轟音を立てて倒れる円柱。
しかし咄嗟のところで、マヤが下敷きになるまえに速水真澄が身を挺して救ったのだった。
「大丈夫ですか真澄さま!」
「大丈夫だ。うっ、少し肩を打った・・・」
「怪我はないか?」
「ありがとう・・・あたしのために・・・」
意外な速水真澄の行動に驚き戸惑うマヤ。
しかし冷血漢の顔が黙ってはいなかった。
「それはよかった!うちの大事な商品に傷がついちゃたまらんからな。
千秋楽までまだある・・・」
泣きそうになりながら駆け出すマヤ。
速水真澄の冷血ぶりを憎み、そして一瞬でもいい人だと思った自分を恥じる。
そんなマヤの後ろ姿を見送る速水真澄。
とまあ今回は、速水真澄がその変質的な恋愛感情に裏打ちされた
優しさを持ちながらもそれを隠すという天の邪鬼ぶり、
それに気付きながらも、そんなことはないと思ってしまうマヤ。
この二人の心の動きが中心になっている。
しかし気になるのは速水氏の行動だ。
まずなぜこのタイミングで紫のバラを舞台に投げたのか。
もちろん投げたのは彼自身ではなく、
部下あるいはいつかのように金で買収された無関係の人物であろう。
おそらく自身を見つめる顔つきが
「ムカデかケムシかゴキブリ」でも見たような顔つきであったため
速水真澄は嫌われているが、紫のバラのひとは慕われているということを証明したいがため、
マヤの足元にあえて、紫のバラを投げさせたものと思われる。
その証拠にマヤが慌ててロビーに駆け出してきたときには
悠然とタバコを吸いながらその一連を見ているのである。
真実の自分が嫌われているから、
虚像の自分だけでも慕われていることを確かめたいがために
わざわざ仕組んだ大掛かりな作戦である。
そしてそのあと。
- マヤ、ロビーに出る
- 速水氏、その姿を見つめる
- マヤ、観客に囲まれ身動き取れなくなる
- 速水氏、タバコの火を消し、マヤに近づこうとする
- マヤ、円柱のようなものにぶつかる
- 下敷きになりそうなところを速水氏助けに入る
という順序で描写されている。
紫のバラのひとを探しているマヤを見つめていた速水氏。
結果としてマヤのピンチを救うことになるのだが、
マヤが円柱にぶつかる前に動き出している。
つまり、身動きが取れなくなったマヤに近づこうとしたそのあとに、
マヤが円柱にぶつかり、速水氏が倒れた円柱の下敷きになっている。
では、マヤが円柱にぶつからなかったら、速水氏は何をするつもりだったのか。
速水氏は何のためにマヤをロビーにおびき寄せ、
そして近づこうとしたのか。
まさかこのタイミングで「自分が紫のバラのひとである」と名乗り出るわけにもいくまい。
マヤとの接点を持ちたいがために、ロビーにおびき寄せたのか。
だとしたら何とも大掛かりで白々しい演出であろうか。
帰り道で好きな子を待ち伏せする小学生並みである。
つづく