【ネタバレ注意】ガラスの仮面第12巻その⑥【この今の敗北感は拭い去れないわ・・・】

「奇跡の人」姫川母娘バージョンが千秋楽を迎えた。
奇跡の人のヘレン役として最高の出来と
劇評家に賞賛されているにもかかわらず
姫川亜弓の心は晴れない。
別宅で梅乃ばあや相手にグダを巻く。
- やるだけはやった。自分の演技に悔いはない。
- 私はヘレンとして完璧だったはず。
- なのに心が沈む。千秋楽を迎えたのに。
- こんな気分は初めて。
亜弓自身その理由はわかっている。
梅乃ばあやの目線の先には週刊誌。
母・姫川歌子が北島マヤにキスした写真が掲載されている。
「私には一度もキスなどしなかったわ」
やっぱり根に持っていた。
必死でなだめる梅乃ばあや。
しかしネガティブな方向に自身を追い込む亜弓。
- 女優としてママはあの子の方にやりがいを見出した。
- 私ではなくてね。だからキスした。
- 今回の舞台はあの子のほうが話題を呼んでいた。
- 私の演技のほうが完璧と評価されていたにもかかわらず。
「あの子は私にない何を持っているというの?
北島マヤ・・・
ママはあの子の中に一体何を見出したというの・・・」
やりきれない敗北宣言である。
演技の巧拙とは別の問題でマヤの方が話題を呼び、
しかも一番身近な女優である母・姫川歌子が
自身よりもマヤを評価したというのである。
しかし不思議なところはこの二人、お互いのヘレンを見ていないということ。
そして姫川亜弓は、共演者やマスコミの評価のみから敗北感を感じ、
北島マヤは、当初は比較されることを恐れていたものの、
亜弓のことなど忘れ、そして勝ち負けなど意識していないのである。
そして一方のマヤも千秋楽を終えた。
楽屋では軽めの打ち上げ。
するとマヤに会いたいという人が。
見るからに胡散臭げな二人組み。
こんなやつらでも堂々と入れる大都劇場恐るべし。
二人はマヤを喫茶店に連れ出して行ったのだった。
「主役!?」
「そうだよ。その他にもTVにでてもらう役もあるし、
まず手始めにこの舞台で主役を・・・」
「はい!」
二つ返事で快諾するマヤ。
しかしそこに現れたのは速水真澄。
「困るなうちの役者を勝手に連れ出されちゃ。」
楽屋でマヤが怪しげな二人に連れ出されたと聞き及び追いかけてきたのだった。
「なんだお前は!この子はどこの所属でもないはずだ!」
「だが次にうちの舞台での芝居が決まってるんでね。」
「何ですって?あたしは大都芸能とはなにも・・・」
大都芸能の速水真澄と知り、二人組みは慌てて退散していく。
「ひどいわ!主役の話が決まりかかってたのに!」
強引にマヤを車に乗せる。
暴れるマヤ。
「いいから聞くんだ!」
速水真澄の急なテンションに驚くマヤ。
- うまい話にすぐ飛びつくな
- あいつらはタチの悪い三流芸能プロのスカウトだ。
- どうせろくな芝居じゃない。
- そんなところに出て自分の格を落とすな。
- 関わってると自分まで三流に見られる。
- よく覚えておくんだな!大女優になりたくばな!
まあ確かにあの二人は胡散臭いし、
速水真澄のいうことも正論である。
しかし彼の心の奥底に燃えるねじ曲がった恋愛感情を知る読者としては、
この先速水真澄と関わることの危険性も感じてしまう。
「くれぐれも言っておく。自分の動きに気をつけろ。
チビちゃん、今きみはアカデミー芸術祭演劇部門の助演女優賞候補なんだ。」
「助演女優賞候補!?」
「そうともノミネートされている。君が最有力候補だ。
アカデミー芸術祭演劇部門での名誉ある賞だ。
取れればスターになれる。」
以下、スター街道の説明。
- MBAテレビがやっている大河ドラマに演劇部門で賞をとった役者は自動的にその出演が決まる。
- そこに出演するものは有名無名問わずスターになる。出演を断るものはいない。
- MBAテレビは芸術祭を主催している一員だからいい宣伝になる。
- 賞をとった役者が大河ドラマに出演するのは当たり前になっている。
「最有力候補・・・信じられない・・・
亜弓さん・・・亜弓さんは!?」
「おや、人のことは気にしないはずじゃなかったのか?
姫川亜弓君も候補者5名の中に入っている。
だが最有力候補は君だ。」
とまあ、業界圧力とスターへの階段を誇示することで、
速水真澄は三流プロからマヤを守り、
車で自宅まで送ることに成功したのだった。
「アカデミー芸術祭助演女優賞・・・
最有力候補・・・あたしが・・・信じられない・・・」
そしてアカデミー芸術祭助演女優賞候補の連絡が
別宅の姫川亜弓にも届いた。
電話をおく亜弓。しかしその表情は暗い。
梅乃ばあやも気が気ではない。
「当初は三日に一度はばあやをやらせる」という話だったが
毎日居るようである。
「どうなさって・・・お顔の色が真っ青・・・」
「ばあや・・・紅茶を淹れてくれる?
そう、メリークィーンがいいわ。
薄く切ったオレンジをつけて・・・
それから私を一人にして・・・・」
もはや死にゆくものの最後の一服のようである。
紅茶を飲み、音楽を聴き、数時間。
そして日が暮れた頃。
- 心配かけたわね。もう大丈夫。
- 立ち直るのに少し時間がかかっただけ。
- 北島マヤ・・・あの子が最有力候補なの。
- ママは主演女優賞最有力候補。
- 私は賞のことなど何とも思っていない
- ただ世間があたしよりあの子を最有力候補と認めたということ。
- たとえ最終審査で賞に選ばれたとしても、この今の敗北感は拭い去れないわ・・・
- 私は知りたいの・・・なぜあの子が最有力候補になったのか・・・あの子と私の違いは何なのか・・・?
何とも思っていないと言いつつ、めちゃめちゃ気にしている様子。
マヤとの違いは何か、それは追うものと追われるものの違いであろうか。
マヤは亜弓を雲の上の人だと今でも思い、
そして自分がその雲の上の人と同じ世界にいるという自覚もあまりなく、
そしてその雲の上の人と競っているという意識もあまりない。
しかし亜弓はグイグイとのし上がってくるマヤが見えている。
マヤは負けて当たり前と自分も世間も思っており、
亜弓は勝って当たり前と自分も世間も思っている。
さらに言うと、そもそもマヤは勝ち負けを意識していない。
「ナンバーワンではなく、オンリーワン」
それがマヤの強さなのである。
そしてアカデミー芸術祭授賞式の日がやってきた。
麗に付き添われ会場入りしたマヤ。
会場には姫川歌子。
大都芸能の速水真澄。
そして姫川亜弓。
「亜弓さんよりあたしが最有力候補なんて・・・
何かの間違いよきっと・・・
そうよ夢なんだ・・・いつだって一番いいところで目がさめる・・・」
やはりマヤは亜弓を意識しつつも、
勝てるとは思っていないようである。
そして授賞式が始まったのだった。
つづく。