【ネタバレ注意】ガラスの仮面第14巻その②【恋だと・・・?】

その頃、大都芸能では若社長・速水真澄の肝入りで大型プロジェクトが始動していた。
「北島マヤの売り出し方と今後1年間のスケジュールが決まりました。」
部下からの報告を受ける速水真澄。
報告は以下の通り。
- 大河ドラマ放映2ヶ月前から各マスコミを通じて猛烈な売り込みを開始。
- 芸能誌や雑誌にグラビア、特集記事を組ませる。
- 大河ドラマのスポンサー・日向電機とタイアップ。
- 「天の輝き」と日向電機の宣伝を、沙都子の扮装をしたマヤが行う。
- ポスターを作成し、街中や駅に掲示。
- 日向電機もMBAテレビに、マヤの出番を増やすよう要請中。
- 大河ドラマ放映に合わせデパートや観光地でのキャンペーン。
- また夏休みの主演映画が決定。スリルとサスペンスに富んだ冒険もので3月より撮影予定。
- 大都芸能の大作演劇に出演予定。
- モーニングショーなどにも出演予定。
「なかなか結構だ。」
部下の説明する戦略に珍しく褒め言葉の速水若社長。
おそらく大筋は彼が描いたものであろう。
まあわかりやすいクロスメディア戦略ではある。
大河ドラマへの出演権を勝ち取ったのは大都芸能に所属する前、
劇団つきかげ所属でしかなかった北島マヤであるが、
大都芸能に所属した途端、これだけの戦略とスケジュールが決まるあたりはさすがである。
姫川亜弓さんもこれぐらいの熱量でマネジメントしてあげてほしい。
そしてさらに部下の報告は続く。
「北島マヤの身上調査をしたところ・・・」
母子家庭、そして結核を患い行方不明の母・北島ハルの話題に。
「待て。その母親の件だがまだ記事にはするな。
考えがあるんだ。記事にする時期は追って知らせる。
指示があるまでは動かないでもらいたい。」
マスコミに公表し、悲劇性をアピールしようとする部下の作戦に待ったをかけるのであった。
そしてもう一方では他の部下にすでにマヤの母親の調査をさせていたのだった。
- 母親は行き倒れになっていたところを助けられ、長野の人里離れた病院で療養中。
- 目が不自由。ほとんど失明同様。
- マヤの母親であることは知られていない。
- 病院は財政困難な様子。
この報告を聞いた速水真澄、裏の顔をついに現す。
「院長に金を握らせ、マヤの母親を当分の間世間から隠せ!
テレビや週刊誌などを一切母親の側から引き離せ。
行方不明の母親が見つかるまでマスコミは騒いでくれる。
こんないい宣伝はない。
いいな!当分の間母親は行方不明だ。
俺がいいというまで極秘にしていろ!」
裏の顔・冷血漢仕事の鬼が顔を出すとさらに別の顔が現れる。
「母親か・・・
このことを知ればあの子は殺したくなるほどオレを憎むだろうな。
なぜか胸が痛む・・・どうしたのだ大都芸能の冷血漢速水真澄ともあろうものが。
俺があの小さな少女を愛しているだと?
バカな11も年下の少女を・・・」
仕事の話かと思いきやなし崩し的にいつもの定型文に持ち込む荒技。
この人、裏の顔が多すぎて、そしてあからさますぎてもはや本体が不明。
そしてそんなセンチなロリコンモードを打破するように電話がなる。
電話の主は水城秘書。
さすが電話を入れてくるタイミングにすら悪意を感じる。
「真澄さま、北島マヤのマネージャーの件ですが、
正式に私を任命していただきたいのです。
今あの子をこのままにして他の人に任せるわけにはいきません。」
「何があったんだ?」
「今、あの子は恋をしています。」
「恋・・・」
顔面が蒼白になる速水真澄。
「そうか・・・人間的成長過程にあるというわけだな・・・
それで相手はあの桜小路とかいう少年か?」
意味のわからん言葉で動揺を抑えようとする。
「いえ、里美茂です」
今度は顔面蒼白通り越して白目になる速水真澄。
このわかりやすさ、浅はかさ、人間的成長過程にあるとは言えない。
水城さんからの衝撃の報告を受け、彼女を正式にマネージャーに任命したのだった。
「恋だと・・・?あの里美茂に・・・」
自身の恋心をごまかしたものの、
数秒後にはマヤが恋していることを知ってしまい、
自身の恋心を証明してしまうという皮肉な結果に。
その動揺の表情は、北島マヤの売り出し戦略への悪影響を危惧してのものか、
いやそうではないと思われる。
当のマヤは、里美茂を意識するあまり役者の仮面をかぶれず完全なスランプに。
かつて全日本演劇コンクールの一人舞台や、
「夢宴桜」で見せた台本なしの舞台度胸からは想像もできない姿であった。
そして一方の里美茂も、親衛隊の誘いを断り、マヤを励ますのだった。
里美の励ましを得て、お互いの好意が相乗効果をもたらし、二人の芝居は向上していく。
そしてもう一人の恋する少女。
姫川亜弓と間進はもはや帝都テレビでは関係者たちの噂のマトになっていた。
- 最近あの二人いつも一緒。
- 付き合っているって噂。
- 間のやつ、自分の出番のない日まで来て、亜弓さんの演技が終わるのを待ってやがる。
- 亜弓さんともあろう天下の美少女が、なんだって物好きにもあんなイモを!
そんな悪口も一切、間君には聞こえない。
「私が演技している間中、そこから動いちゃいやよ。」
「うん」
返事とは裏腹に彼の心は饒舌だ。
「もちろんだとも動くもんか!
じっと見ているよ君を!君だけを!
亜弓さん・・・!」
そして彼の眼差しを受けた亜弓の演技は、
かつて彼女を陰であざ笑っていた相手役の俳優を圧倒していくのだった。
恋で芝居を見失うマヤと、恋する芝居を身につける亜弓。
そして何と言っても今回は重大な伏線。
マヤの母親の行方を秘匿する大都芸能の冷血漢・速水真澄である。
部下に非情な命令を下した直後には「愛しているだと?」の定型文を発し、
その数秒後にはマヤの恋心を知って絶望する速水真澄。
しかし、一番かわいそうなのは間くんだ。
利用されているとも知らず、その純粋な恋心は姫川亜弓の芸の肥やしになってしまう。
結局、今回の被害者は男ばかりである。
つづく