【ネタバレ注意】ガラスの仮面第14巻その④【その影がこわい・・・】

「おはようございまーす!」
マヤが水城さんとともにスタジオ入り。
しかしスタジオは異様な雰囲気だ。
一人号泣する女性と、彼女を慰める出演者やスタッフ。
泣いているのは吉川さんという女優さんのようだ。
「あの・・・吉川さんどうかしたんですか?」
マヤが問いかけると振り返った吉川さんは般若の形相。
そしてマヤを突き飛ばしてスタジオを出て行ったのだった。
「かわいそうに・・・下積みで苦労してやっと大河ドラマに出演できたのに・・・
出番を大幅に減らされるなんて・・・」
「出番を減らされたって・・・それはどういう・・・」
「あなたのせいよ!」
吉川さんの仲間の女優もマヤに対して怒り心頭だ。
- スポンサーの日向電機がマヤの出番を増やすよう言ってきたため、彼女の出番が大幅に減らされた。
- 私だってそうよ!彼女と同じシーンで何度か出るはずだったのに!
- この子さえいなかったら私だってもっと出番が
どうやら出番を減らされた吉川さんへの同情の怒りではなく。
吉川さんが出番を減らされた煽りを食って自身の出番もカットされたことへの怒りらしい。
スポンサーの意向なら仕方ないし、
大都芸能の事務所パワーやし、大都芸能を動かしたのはマヤの実力やし。
今この時点でマヤに文句を言うことは、
スポンサーに反抗する行為であり、大都芸能に敵対する行為である。
その辺の業界の力学もわからず、自身の出番の都合だけでわめきちらす、
その気持ちはわからんでもないが、芸能界には不向きである。
マヤが慌てて吉川さんを追うと、吉川さんはトイレでなお号泣。
「あの・・・あたしのせいで・・・ごめんなさい・・・
あたし何も知らなくて・・・」
なんとなく謝るマヤ。
しかし驚くべきは吉川さん。
- 何しにきたのここへ!同情なんてまっぴらよ。
- あなたの顔なんて見たくもないわ!
- 見てらっしゃい!出番を減らされたってあなたになんか決して負けるもんですか!
- 出てって!私があなたに今一番してもらいたいことは私の前から姿を消してくれることよ!
「決して負けるもんですか!」と言っていながらすでに負けていることにすら気づいていない。
そして主役ではないが、スポンサー一押しの順主役クラスに、
出番が簡単に削られるような端役がこのような大口を叩くこと自体間違っている。
下積みで苦労した割には、吉川さんも業界の力関係というものをわかっていないらしい。
そして途方にくれるマヤの肩を掴んだのは里美茂だ。
「気にするなよ。君のせいじゃないんだ。
みんなもわかっちゃいるけど、やりきれないだけなんだ・・・」
絶妙のタイミングで、しかも訳のわからんことを言う男前。
やりきれないだけ・・・なのか?
「君は何も考えずに一生懸命沙都子を演ればいいよ。
君の沙都子僕は好きだよ!
いつだって沙都子を見てるよ。」
どさくさに紛れかっこいいことをいって去っていく男前。
「肩に里美さんの手のあったかさが残る・・・
やるわ!あたし!
ありったけの力を出して沙都子を演じるんだ!」
吉川さんのことなどなかったかのように、
演技に対して、前向きになるマヤ。
これがスターの素質である。
スタジオへ戻ろうとするマヤ。
廊下ですれ違ったのは今度は、大女優の山崎竜子だ。
「あなたでは話がわからないわ!
明日専務に来るように言っといてちょうだい!」
何やら局のスタッフに激昂している大女優。
そして慌てて挨拶する水城マネージャー。
「これは大都芸能の水城さんじゃございませんか。
大都の速水社長の息子、真澄若社長の秘書をしていらっしゃるとかってことでしたわねえ。」
さすがの水城さん、大女優にもその存在を知られている。
そしてしれっと、「息子」呼ばわりされている速水真澄。
「理由がありまして、今はこの北島マヤのマネージャーを兼ねております。」
「おや、そうあなたなの。
日向電機もまた面白い子を起用したものね。
この子ならわたくしの時よりも、きっと日向電機の製品が売れることでしょうよ!」
皮肉な大爆笑とともに去っていく大女優。
「マヤ、あの山崎竜子には気をつけたほうがいいわ。」
「どうして?」
「日向電機のCMポスターを8年もやっていたのよ。」
「8年!」
以下、業界策士の水城さんによる山崎竜子の正体。
- TV界の大女優。おふくろシリーズなどで優しい母親役をよくやっている
- 実際はわがままでプライドの高い女優。
- 今まで8年間やっていたCMポスターを降ろされ、ぽっと出のマヤにその座を奪われて内心怒りに燃えているはず。
- テレビCMも契約がもつれていたところで、日向電機と手を切るかと騒がれている。
- ともあれ、あの山崎竜子を敵に回してしまったからには注意しなくては。
- 彼女に悪どい手口で潰された若手の役者が何人もいる。
自身の及ぼす影響にマヤはただ驚くばかりであった。
そしてスタジオの前には里美茂の親衛隊。
ほんま、誰でも入れるテレビ局である。
「なんですか!あなたたちは!」
「あら、マヤちゃんのファンよ私たち。」
「そう素敵なナイフね。これはなあに?」
「マヤちゃんを無謀なファンから守ってあげる護身用よ。」
刃物を持っている親衛隊も恐ろしいし、
刃物を持った一般人が入れるテレビ局も恐ろしいし、
そして刃物を即座に見つける水城さんが一番恐ろしい。
一日の撮影を終え駐車場に向かうと、マヤたちの車がひどいことに。
ボディは傷つけられ、ガラスは破られている。
「大都芸能の車と知ってやったのかしら?」
そして車内には抗議文が。
「大都芸能と北島マヤに抗議する!」
となかなか達筆な毛筆で書かれた抗議書。
- 夏公開の娯楽映画「白いジャングル」は人気歌手・巴万里の初主演で内定していた。
- しかし大都芸能は卑怯な手を使って、どこの馬の骨ともわからない北島マヤを主役にしてしまい許せない。
- 北島マヤは分不相応な主役をおりて巴万里に返しなさい。
- このまま映画に出ると言うなら、徹底的に邪魔してやる。
抗議というか、これは完全に脅迫であり、車の損壊も合わせ刑事事件である。
「水城さん、本当なの?歌手の巴万里が映画の主役に内定していたって?」
「本当よ。」
「どうしていってくれなかったの?」
「言ってどうなるの?主役を降りる気?
栄光の陰に敵はつきものよ。」
「こわい・・・何だろうこのこわさ・・・
気がつかなかった・・・あたしの立っている場所のことに・・・
光を浴びると後ろに影ができることに・・・
いくつもの光の後ろにはいくつもの影ができることに・・・
その影がこわい・・・」
今更ながら、マヤは自身が多くの敵を作り、蹴散らしていることに気づくのだった。
今回も水城さん大活躍である。
大女優の山崎竜子にもその名前と顔を覚えられており、
大女優の裏の顔を、顔色一つ変えずに説明するその業界事情通と胆力。
車が破壊されようが抗議文をもらおうが、「敵はつきもの」と日常茶飯事。
そしてナイフを隠し持つ人間を的確に見極めるという武闘派でもある。
そらこの人以上のマネージャーはおらんだろう。
つづく。