【ネタバレ注意】ガラスの仮面第16巻その⑤【俺は謝りかたを知らん。】

      2018/08/04

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朝。おぼろげな意識の中マヤが目覚めた。

「どこだろう・・・ここは・・・」

室内の雰囲気で即座に悟る。

「病院!
 シャングリラの舞台!初日!」

母親を殺した男の舞台をめちゃめちゃにしてやると酒を飲んだ割には
舞台の初日に出る気でいたのか。

慌てて院内をさまようとそこには都合よく新聞が。

「北島マヤ失踪!シャングリラの初日すっぽかし」

スポーツ新聞とかではなく毎朝新聞、大手一般紙である。

  • 前夜都内でも札付きの暴走族と海岸まで来て遊びに来た
  • 眠り込んでしまい舞台をすっぽかすことになった。
  • 「天の輝き」で正義派の沙都子を演じているだけに関係者のショックは大きい
  • なお、代役に乙部のりえを起用
  • 代役とは思えない素晴らしい演技で観客をうならせた。

「のりさん・・・これが・・・信じられない・・・」

乙部のりえの素顔の美しさに驚くマヤ。
やはり心の奥底で見下していたのであろうか。
そして今もっとも気にするべきところはそこではない。

「今お目覚めか?どうやら自分の立場を察したようだな。」

「速水真澄・・・母さんを殺した・・・」

いきなりの仇の登場にありとあらゆる罵詈雑言を浴びせるマヤ。
鬼、冷血漢に加えて人非人、極悪非道の人でなしまで追加される。
それをあえて受ける速水真澄。

「真澄さま・・・」

それを見守る水城さん。

「何!?北島マヤが目覚めたって!?
 よし!インタビューだ!」

マスコミが院内へ殺到する。

「こんなときに・・・」

速水真澄は心の中でそう呟くと

「少し我慢しろ。」

「え?」

そしてマヤが驚く間も無く、平手打ちを見舞ったのだった。
数メートル吹っ飛ぶマヤ。数メートル吹っ飛ぶ平手打ちって。
これにはマスコミも驚いて追及の手を緩める。
ここから速水真澄の見せ場である。

  • 舞台に穴を空けたことをなんだと思っているんだ!
  • お前はそれでも役者か!
  • 舞台を観に来た大勢のお客様に申し訳ないと思わないのか!
  • 初日の緊張と母親を亡くした悲しみで初めて出会った連中にのバイクに乗っかるとは軽はずみすぎる
  • だから前から繋がりがあったように書かれるんだ!
  • しかも前日までの厳しい稽古がたたり眠り込んでしまうとは気分がたるんでる証拠だ。

速水真澄の意外なお説教に戸惑うマヤ。
しかしこれは速水真澄の機転である。

「いいからここは俺のいう通りにしろ。
 あとで思う存分憎まれてやる。」

マヤに小声で合図する。
すでに思う存分憎まれているが。

  • さあ、記者のみなさんを通じて多くのファンの人たちに謝るんだ。
  • 誠意を込めて舞台に出られなかったことを謝罪しなさい
  • 自分の軽はずみな行為で多くの人を騒がせてしまったこと
  • 稽古が厳しくて思わず寝込んでしまいたくさんの人に迷惑をかけたことを詫びるんだ

速水真澄の嘘についていけず状況が飲み込めないマヤ。

「ここでヤケをおこすな。
 紫のバラの人も来ていたんだろう?
 君が出なくてきっとがっかりしたはずだ。」

とっておきのキラーワード。
このやりとり記者に聞こえていないらしい。

「紫のバラのひと・・・・」

「さあ謝るんだ。誠意を込めて。」

「初日の前夜で緊張して・・・
 軽はずみなことをしてしまい・・・
 申し訳ありませんでした・・・
 稽古が厳しくて疲れて寝込んでしまい・・・・
 舞台にでられなくなって・・・
 舞台にでられなくなって・・・」

泣き崩れるマヤ。
あれほど愛していた舞台に立って演技をできなかったという
事の重大さに気づいたのだった。

「舞台に出れなかった・・・
 初日だったのに・・・
 大勢のお客様が待っていたのに・・・
 紫のバラの人・・・ごめんなさいごめんなさい・・・
 死んでしまいたい・・・」

心の中で詫びつつも言葉にはならず、
ただ泣きじゃくるのみであった。

「みなさん今日はこの辺で・・・
 この子も今神経が参っているようですし・・・」

この機を逃さずマスコミを外へ誘導する水城さんナイス。
あれほどいきり立っていたマスコミも、
速水真澄の剣幕と北島マヤの号泣記者会見に気勢をそがれ去っていった。
そして病室には二人きり。

「睡眠薬を飲んだな。それも多量に。
 君の胃を洗浄した時その成分が出た。」

「睡眠薬なんてそんな!」

「では何を飲んだ?」

「コークハイとかいって無理に勧められて・・・」

「その中に入れられてたんだろう。
 くさいなどうも・・・
 計画的なにおいがする・・・」

名探偵か。

「マスコミにはコークハイのことも睡眠薬のことも一切口にするな。
 君はまだ高校生だしイメージダウンにつながる。」

的確な指示。そしてここからが北島マヤのターン。

  • あたし、なんだかわけがわからなくなっていたんだわ!あの時!
  • あなたが母さんを殺したんだわ。
  • あたしと母さんを長いこと引き裂いておいて
  • あなたさえそんなことをしなければ、脱走することも死ぬこともなかった。
  • もっと早く会えていたのに!
  • 冷血漢!大っ嫌い!
  • 一生憎んでやる!一生許さない!

デジャブか?水城さんにも同じような内容を言われていたような。
しかしそれを一身に受け止める。

「俺は憎まれることには慣れている・・・
 君を有名にしたかった・・・
 スターにするために世間の興味をかき立てることが必要だった・・・
 それが俺の仕事だった・・・・」

自身の内面に秘められた(水城さんには見透かされた)歪んだ恋愛感情は伏せ、
あくまでも仕事だった言い切る。
先ほどの謝罪記者会見への持って行きかたといい、
口は達者である。

「この!!」

マヤが思わず拳を振り上げた。
しかしそれをあえて受けようとする速水真澄。

「なぐるなと蹴るなと好きにしろ。
 君の済むようにしたまえ。
 俺は謝りかたを知らん。
 さあ!」

驚くマヤ。

「この人・・・抵抗する気ないんだ・・・
 大都芸能の鬼と恐れられている人が・・・
 もしかしてこれがこの人の最大の謝りかたなのかしら・・・」

違うと思う。

「どうした・・・」

「う・・・」

マヤが戸惑っているとドアをノックする音が。

「真澄さま水城です。
 会社へ至急お戻りになるようにと」

「時間切れか・・・
 すまないがおあずけだチビちゃん。」

大都芸能へ戻っていく速水真澄。
もちろんこの後は「北島マヤ問題」の対応を迫られる緊急会議なのだ。

というわけで今回、速水真澄の手腕が際立った。
「舞台をすっぽかした」という動かしようのない事実は認めつつ、
「緊張のあまり、バイクに乗った。」
「稽古疲れで寝ていた」
という見え見えの嘘を事実のように仕立て上げ、
「コークハイ」「睡眠薬」といった命取りな事実は伏せ、
しかもマスコミの目の前で罵倒暴行することで気勢を削ぎ、
印象操作に成功したのであった。

しかもマヤに対しては「紫のバラのひと」をちらつかせ、
自らの口から謝罪させることに成功した。
はっきりいってこれが一番でかい。

例えばこの場でマヤは速水真澄の制止を振り切り、
飲酒を認めた上で、速水真澄の悪行をマスコミにいいたてることも可能だったのだ。
某大学の体育会部活ではないが、
「大都芸能・速水真澄の真実」みたいに事実が明らかにされ、
大都芸能そのものへ大ダメージを与えていた可能性があったのだ。

それを未然に防いだ速水真澄、やはり只者ではない。

しかしマヤに対して「誠意を込めて謝罪しなさい」といっていたやつが
「俺は謝りかたを知らん」てのは腰が砕けそうになる程笑った。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第16巻・華やかな迷路(4)