【ネタバレ注意】ガラスの仮面第16巻その⑩【パパの七光りをお借りしたいの】

      2018/09/08

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その頃姫川亜弓は、MBAテレビ局を訪れていた。

「やあ、これは亜弓さんじゃないか!」

「山脇のおじさま!
 あらいけない!番宣の山脇部長!」

テレビ局にアポなしで突入し、門前払いを食わないだけでなく、
お偉いさんの側から声をかけられ、
おじさま呼ばわりしても許される。

主役級の女優である姫川亜弓とはいえ、
ここまでのVIP待遇は両親の威光あってのことである。

「お母さんに会いに来たの?」

「ええ。天の輝きのスタジオはどちらですか?」

「おーいきみ!亜弓さんをスタジオに案内して差し上げろ!」

アポなしで突入したにも関わらず、そこらへんの若手スタッフの案内までついてしまう。
しかも山脇番宣部長は、案内をつけたにも関わらずついてくるという対応。
さりげなく、姫川亜弓の父・姫川貢監督の近況を聞き出し、
カンヌ映画祭の外国映画優秀賞にノミネートされた監督に会う段取りをつけようとする。

この山脇のおじさまもなかなかしたたかな業界人である。

そしてスタジオに案内された亜弓さん。

「調整室に案内してくださる?
 そこからスタジオを見たいの。」

「お母さんの歌子さんにお会いになるんじゃないですか?」

「ええ、でも演技してるところを邪魔しちゃ悪いでしょ。」

スタッフの仕事場に入り込むという暴挙も許されてしまう。
突然のスターの来訪に出迎えやお茶の用意で慌てるスタッフたち。

演技の邪魔をしちゃわるいので、スタッフの仕事の邪魔をするという矛盾。

「あの人が北島マヤの代役の人ね。」

姫川亜弓の目的はもちろんこの乙部のりえだった。
母親にスタジオに行っていい?と頼み、
番宣部長にスタジオに案内させ、
スタジオには入らず、母にも会わない。
亜弓さんの中では筋が通った行動なのだが、
はたから見ると横暴である。

食い入るようにモニターの乙部のりえの芝居を見ると
例の見下したかのような鼻笑を浮かべたのだった。

「どうです?この乙部のりえって子?」

「そうね。上手いものだわ。
 北島マヤの演技そっくり。」

ここから一気に聞かれてもいないのに
スタッフ相手に演技論を語る姫川亜弓。

  • 気の毒に・・・損してるわねこの子・・・
  • 演技の形がそっくりなだけで沙都子という少女の個性がこの人にピッタリ重なっていない
  • 浮いてしまっている
  • 役を演じるには真似だけでダメ
  • どこに「自分」が入っていないと
  • 自分という個性がもう一人別の人間の個性を演じる
  • そこにその役者の魅力が出る
  • ただ演技が上手いだけではダメ

後半は自分のことを言っているのだろうか。

  • 役者の魅力・・・それはその役者の生命といってもいいくらい大事なもの
  • 沙都子という少女、北島マヤは自分でその魅力を創り上げた
  • 北島マヤの創り上げた魅力、それは北島マヤのものでしかない
  • 乙部のりえが北島マヤの魅力を演じている限り決して自分自身は光はしない
  • 今は注目を浴びているかもしれないけど、この子回を追うごとに視聴者に飽きられてくるわよ

乙部のりえの上辺だけの技巧を指摘するあたりその眼力は鋭いが、
残念ながら姫川亜弓自身がその技巧派の頂点にいると言わざるをえない。

そしてちょいちょい毒を吐く。
だから友達も仲間もおらんし、
この場にいたスタッフも、姫川監督の、姫川歌子さんの娘でなかったら、
こんな小娘の毒混じりの演技論など聞きもしないだろう。

しかしやめないPOISON亜弓。

「役者の魅力という点からいえば北島マヤは抜群だったわ。
 あの子は天性の女優よ。
 MBAも惜しいことをしたわね。
 あんな子を下ろすなんて。
 番組が終わる頃には大河ドラマの名物になっていたかもしれないのに」

MBA局への批判も交えて去っていく。
そしてマヤはすでに名物になっていたことについては誰も触れない。

そして亜弓が廊下を歩いていると
スタジオの中から声が聞こえた。

「困るんだこんなところに来てもらっちゃ。
 北島マヤの件ではたっぷり金は渡したはずだろ?」

「俺たちだってやばくなってるんだ。
 あんたたちの頼みで北島マヤに睡眠薬飲ませて
 大都劇場の開演にわざと遅らせたってこと
 嗅ぎ回っている奴がいるんだぜ」

話していたのは例の暴走族集団と乙部のりえのマネージャー。
計画の一部始終を事細かに亜弓に説明してくれるかのようだ。

  • ここらで俺たち身を隠さないとあんたや乙部のりえも危ない
  • せっかくスターになれたのにあんたたちも苦労するな
  • この前例のマヤの舞台に出たのを乙部のりえが潰しにかかったんだって?
  • 酷い野次を飛ばしてあの子の演技をダメにした
  • 撮影の時も乙部のりえやあんたたちの仲間が色々小細工して失敗させようとしたんだってな
  • 北島マヤを潰すことによって乙部のりえを浮上させようってわけだ
  • 大都芸能はライバル社、あんたらにとっても乙部のりえにとっても都合がいい
  • このネタ週刊誌に売りゃいい金になるぜ

種明かしをした上に恐喝。
しかしこんな連中が出入りできるテレビ局のセキュリティどうかしている。

「ふん!君達がどう騒ごうともう証拠はないんだ。
 いざとなれば君達が北島マヤを誘拐したとでっち上げることもできる。
 それを忘れてもらっちゃ困るな」

乙部のりえのマネージャーも悪巧みでは負けていない。
恐喝を恐喝で撃退するという荒技だ。

「なんてこと・・・そういうわけだったの?
 そういう卑怯な手段であの子が芸能界から引き摺り下ろされたっていうの?
 もう一人の紅天女候補、この私のライバル、あれほどの少女を・・・!
 乙部のりえとその芸能プロがグルになって引き摺り下ろしたというの・・・?
 小細工で演技を邪魔して・・・舞台に出れないように企んで・・・
 卑怯な・・・同じ演技者の風上にも置けない・・・許せない・・・!」

白目化し怒りに震える亜弓さん。
そんな亜弓さんに耳寄りな情報が。

乙部のりえはプラザ劇場の舞台「カーミラの肖像」に出演するそうな。
マヤの代役から抜けて初めての自分の役、しかも主役として。

「カーミラの肖像・・・」

そう呟いた亜弓さんが向かったのは
父の姫川監督のスタジオだった。

娘の来訪にノリノリの監督。
例の「奇跡の人」で家を出て以来別居中の親娘。

「お前は家にも滅多に帰ってこんし一体どうしとるんだね?」

「ごめんなさいパパ
 でも女優としてやっていくのにパパやママの七光りで伸びていくのは嫌なの」

直近で母の七光りを十分に利用している。

「人からそう思われるのも嫌。
 自分の実力で女優として伸びていきたいの。」

気持ちは十分わかるが、すでにそう思われている。

「今日はお願いがあって来たの。
 悔しいけれどパパの七光りをお借りしたいの。」

結局七光り。
そして意外な娘の申し出に驚く父。

  • パパはこの世界に顔が広いでしょ。
  • その代わりパパの映画に出るの断り続けていたけれど
  • 一度だけなんでもパパのいうことを聞くわ。
  • パパがやれっていうなら私、コジキの役でも何でもします。
  • だからパパに力を貸して欲しい

ちなみにパパにやれと言われなくても、
フジ劇場の「王子と乞食」で乞食役を盛大にやったというキャリアの持ち主である。

そしてそんな娘の切実な頼みを聞く姫川監督であった。

そしてプラザ劇場。
「カーミラの肖像」の顔合わせならびに記者発表が行われようとしていた。

「今度は代役じゃなくて初めて乙部のりえとして実力を試される。
 これで演劇部門の新人賞を取れれば箔がつく。
 一躍一流女優の仲間入りだ!」

「わかってるわ。私だって真剣よ!」

乙部のりえとそのマネージャーの思惑通りであった。
そして配役の紹介。

「怪奇ロマン・カーミラの肖像。
 主役・マリア=カルンスタイン、乙部のりえ!」

拍手で迎えられる乙部のりえ。
しかし司会者が異常なテンション。

「そして!
 吸血鬼カーミラ!
 姫川亜弓!」

バーン!という効果音と共に登場。
バーン!て。

「姫川亜弓が出るなんて!
 しかも吸血鬼だって!話題を呼ぶぞ!」

まさかの配役に驚き喜びざわめく会場。
しかし乙部のりえは心穏やかではない。

「姫川亜弓・・・
 大女優姫川歌子を母親に・・・
 世界的な映画監督を父親にもつ演劇界のサラブレッド・・・
 天才す幼女とその名声をほしいままにしてきたスター女優・・・
 この人がいったいまたなぜこの舞台に・・・
 主役でもないのに・・・」

ちゅうか主役なのに、共演者を知らされていなかったのだろうか。

「あなた・・・乙部のりえさんとおっしゃる方ね。」

「は、はい・・・・
 (威圧される・・・なに?この雰囲気は・・・?)」

「初めまして。
 吸血鬼カーミラ役・姫川亜弓です。」

挨拶して配役と名前を名乗る姫川亜弓。
圧倒されたじろぐ乙部のりえ。
暴れん坊将軍か。

そしてプラザ劇場では稽古が始まった。
まさかのキャスティングで注目を集め人だかりができる稽古場。
しかし姫川亜弓は実力を出し切っていないようだ。

「演技を抑えている・・・何だかそんな風に見えるんだ・・・妙だな。」

関係者の評判である。
しかしそんな評判もものともしない姫川亜弓。

共演者やスタッフ皆から挨拶され声をかけられ
飲み物まで用意してもらい、サインまで求められ、
要はちやほやされている。

「なによこれ!主役はわたしよ!
 話題を姫川亜弓にさらわれるなんて!
 演出家や監督までがちやほやして!」

さすが策謀を弄して、ブスの仮面をかぶってまで今の地位にようやくたどり着いた乙部のりえ。
生まれながらのスター・姫川亜弓に対して猛烈なコンプレックスを持っている。

亜弓に殺到するマスコミ。

「亜弓さん恐怖ものは初めてですね?
 どんな吸血鬼を演じる予定ですか?」

「そうね・・・吸血鬼に対してどんなイメージをもってらっしゃるの?」

質問に質問で答える。スターだから許されるんやで。

逆インタビューされた記者はいわゆるベタな吸血鬼像を答える。

「おっしゃる通りの吸血鬼よ。
 この台本の中ではね。」

記者に対して演技論を語り出す姫川亜弓。
スターだから許されるんやで。

  • シェイクスピアの「ベニスの商人」にユダヤ人の金貸しシャイロックという悪党が出てくる
  • 借金のカタに人肉を切り取ろうとしたほどの極悪非道な悪人
  • かつて役者はどれほど悪人に見せるかで苦心したと聞いた
  • ところがある名演出家が悲劇の人に作り変えてしまったことがある
  • 脚本は全く同じでも演出と演技が変わったことで、それまでとは全く違うシャイロック役が誕生した
  • その舞台をみて観客は悪人シャイロックに同情の涙を流した
  • 脚本は同じでも演じ方次第で悪人も悲劇の人になりうる
  • 私も自分なりの吸血鬼を創り上げたいと思うわ。

インタビューしたのに肝心の質問には答えず
自分の言いたいことを言うだけ言うスタイルに戸惑う記者であった。

「姫川亜弓・・・
 女王様でいられるのも舞台が始まるまでのことよ
 舞台の上では私が主役、
 姫川亜弓、私の脇役。
 そう、恐れることなど何もないわ!
 それにうまく取り入っておけば損はないわ・・・」

劣等感と嫉妬を抑えつつも気持ちを切り替えて
かつてマヤに対してしたように媚びる作戦に出たのだった。

「あの・・あなたのような方と共演できて光栄ですわ亜弓さん」

しかしPOISON亜弓は起きていた!

「それはどうも
 あなたも北島マヤさんの代役からぬけて初めてのご自分の役
 しっかりお演りになってね。
 わたくし、あなたの本当の実力と才能がどんなものか
 楽しみにしていましてよ。失礼。」

去っていく姫川亜弓・・・震える乙部のりえ

「本当の実力と才能ですって・・・
 今までのはそうじゃないっていうの・・・
 はじめっから私を見下したようなあの態度・・・悔しい!
 それにしてもなぜかしら?
 敵意を感じる・・・!
 なぜこの私が姫川亜弓に敵意を持たれなきゃならないの・・・?」

悔しさと疑問に震える乙部のりえであった。

というわけで長かったけど16巻終了。
今回は姫川亜弓大活躍だ。

前回母親と飯を食い、
今回はテレビ局のしかもスタッフルームに乱入、
父親の仕事場にも乱入、
そして乙部のりえの主演舞台に親の七光りを使って乱入。

母と、父と、それぞれ家庭内の隙間を埋め、
至る所で毒を吐きまくっていた。

親の七光りは嫌いと言いながら、
母親の七光りで出演するでもないTV局に乱入し、
本人も認めているが父親の七光りで舞台にねじ込んでもらう。

乙部のりえの沙都子役を、上辺だけの技巧であることを見抜きながら、
姫川亜弓もどちらかというと、技巧派女優である。

本人の中ではいたって筋の通った行動なのだろうが、
ちょいちょい矛盾があるのが面白い。

17巻に続く

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第16巻・華やかな迷路(4)