【ネタバレ注意】ガラスの仮面第17巻その②【かたきはとったわよ・・・】

      2018/10/06

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というわけで始まった、「カーミラの肖像」初日。
冒頭は乙部のりえ演じる主役・マリア=スタンロッシュ伯爵夫人の壮年時代のモノローグから始まる。

そして場面は子役の芝居に変わり、乙部のりえは早替え。

「早く!急いで着替えしなきゃ間に合わないわ!
 すぐに少女時代が始まるんだから・・・!」

本番への不安をかき消すかのようにスタッフに当たり散らす乙部のりえ。
さんざん稽古やリハーサルで早着替えをやっているだろうにもかかわらず。
初主役でこのイキリようは、スタッフに嫌われること必至である。

その頃マリアの幼少期が舞台で繰り広げられていた。
マリアの寝室に突然現れた白い手に観客がギョッとなる。

手だけで観客を驚かせると続いて現れた姫川亜弓、
その異様な雰囲気で会場をざわつかせる。

「なにこれ・・・舞台に漂う緊張感!
 惹きつけられる・・・・」

慌てて舞台の様子を見た乙部のりえ、早くも圧倒される。
舞台袖でも姫川亜弓の人間離れした芝居に感嘆の声が。

「この舞台私には不利よ・・・なんだかそんな気がするわ・・・」

マネージャーが叱咤するも完全に及び腰の乙部のりえ。

「姫川亜弓なんかに負けられるものですか・・・
 主役はわたしなんだから・・・」

なんとか自分を奮い立たせる乙部のりえ。

「これからが勝負・・・・」

第一撃を食らわしてなお兜の緒を閉める姫川亜弓。
もはや勝負あったも同然である。

そして少女時代。乙部のりえが舞台をリードしていく。
しかし姫川亜弓が登場すると客席からは拍手が。
そして稽古と違う演技にペースを乱される乙部のりえ。

「いったいなんなの?
 何かが違う・・・
 姫川亜弓・・・なにを考えているの!?」

その違和感は客席にも伝わっていた。

「妙だな・・・いや観客の視線がだ・・・
 カーミラの動きに合わせている・・・
 主人公マリアに吸血鬼カーミラ、
 普通観客は主人公の気持ちと一緒になって舞台を見るものだが・・・」

そう評したのは演劇界の重鎮と思しき竹村先生なる人。
吸血鬼というイメージを離れた優しく可憐な演技に観客は魅了されていく。

「乙部のりえ・・・
 役者の風上にもおけない卑怯な主人公
 舞台の上では実力と才能だけがものをいうのだということをわからせてあげる・・・!
 北島マヤとの差がどんなものか教えてあげる・・・今こそ!」

開演前とほぼ同じ内容を繰り返す姫川亜弓。
前回も申し上げた通り、限りなく私怨に近い。
舞台の上に実力と才能以外のものをさっそく持ち込んでいる。
そして非常に執念深く根にもつ性格のようである。

そして突然稽古ではやらなかった長い間を投入。
「長い間」はガラスの仮面においては芸達者のみに許される必殺技か。

その長い間の後に繰り出された切ないカーミラの芝居に
度肝を抜かれる乙部のりえと観客。

「さっきから姫川亜弓のカーミラから目が離せませんな。
 目がどうしてもそっちへ行ってしまう・・・
 舞台が進むにつれ主役のマリアがだんだん平凡に見えてくると思いませんか???」

重鎮の竹村先生を完全に味方につけたようだ。
そしてクライマックスで涙を流す吸血鬼。

いまやプラザ劇場満場の客は誰も主人公マリアのことなど気に留めてはいなかった。
場内いっぱいに吸血鬼カーミラの胸をしめつけるような悲しさが広がっていたのである。

「カーミラを見ている・・・観客の視線はカーミラを見ている・・・
 後ろ姿のカーミラを・・・悔しい主人公はわたしなのよ!」

舞台上の敗北を恐れた乙部のりえは、
カーミラの正面に回り込むと両手でロックしたのだった。

「どう・・・?姫川亜弓
 あなたの顔も表情も観客には見えなくてよ!
 正面を向いている私のほうがはるかに有利!」

しかしこんな小細工は通用しない。
姫川亜弓は後ろ姿のままマリアに抱きつくとそのまま迫真の演技。
乙部のりえはカーミラの後ろ姿だけを見ている観客の視線を
真正面から見る格好となってしまったのだ。

「なんて存在感の大きい人なの・・・
 このひと天才だわ!天才なんだわこの人!
 引きずられる!姫川亜弓の演技に引きずられる!
 負ける・・・飲まれてしまう・・・」

姫川亜弓演じる吸血鬼カーミラはそれまでの怖いだけの吸血鬼とは大きく異なり、
かつて多くの人に愛され明るく幸せだった少女カーミラが吸血鬼となってしまった
不幸な少女として観客の目に映ったのだった。

言うなれば悪役にも関わらず、観客はカーミラの味方になっていたのだ。

そして終演。カーテンコール。
舞台の上ではつぎつぎと配役が紹介される。
主役の乙部のりえが紹介されると会場からは拍手が。

「最後に特別出演、吸血鬼カーミラを演じました姫川亜弓!」

しかし姫川亜弓は現れない。
驚く乙部のりえ。ざわつく客席。

一瞬の静寂の後、一筋のスポットライトが照らした先には
客席から現れた姫川亜弓!

「な・・・あんなところから!姫川亜弓!」

このサプライズに観客は大喝采。

「吸血鬼はいつどこであなた方の隣に座っているか知れません!
 客席の中に蘇った吸血鬼カーミラ姫川亜弓です!」

なかなかアドリブの聞いた案内役の紹介。
この人にもこのサプライズは知らされていなかったのだろうか。
最初から最後まで主役の座を食われてしまった乙部のりえ。
もはや観客の嵐のような拍手の先にあるのは姫川亜弓であった。

  • この舞台の成功は姫川亜弓の力といっても過言ではない
  • 姫川亜弓の演技力無くしては当たり前の物語になっていた
  • 改めて姫川亜弓の天才性を思い知った
  • 乙部のりえのマリアはカーミラの引き立て役に過ぎない
  • カーミラに比べると全くの無個性かつ平凡。誰がやっても同じ。脇役の一人といったところか
  • 乙部のりえの才能がこの程度だったとはがっかり。
  • 北島マヤの代役で人気をとったのも、北島マヤの人気をうけついだだけ。

演劇評論家からは姫川亜弓への最大級の賛辞と
乙部のりえへの酷評であった。

「主役乙部のりえか・・・この看板書き換えたほうがいいんじゃないの?」

観客も容赦ない。

そして乙部のりえのもとにはマネージャーが

「今日の舞台は完全な敗北だな。まさに実力の差だよ。
 新人賞どころか、君の才能のほどを宣伝してしまったことになる。
 小細工を使ってせっかく北島マヤにとってかわったというのに。
 今後頑張って実力をつけてくれなきゃ君を見限るぞ!」

絶縁状にも近い言葉を叩きつけられる。

「実力の差・・・敗北だわ・・・
 姫川亜弓に・・・姫川亜弓に敗北・・・?」

敗北を噛み締めながら何かに気づいた乙部のりえ。

「北島マヤ・・・あの二人はライバルなのよ・・・
 姫川亜弓のライバル!
 なんてことをなんてことをわたしったら・・・
 なんて身の程知らずなことを・・・!
 姫川亜弓すら一目おく子・・・天才だったんだわあの子・・・
 敗北だわ北島マヤに・・・
 北島マヤ、姫川亜弓、完全な敗北・・・」

乙部のりえ < 姫川亜弓 = 北島マヤ
という不等式を噛み締め、
数え切れないくらい敗北を認め、
放心状態となったのだった。

「マヤ・・・かたきはとったわよ・・・
 紅天女もう一人の候補・・・
 私のただ一人のライバル
 今頃どこでどうしているの・・・?」

着替えながらマヤへ勝利宣言を送る姫川亜弓。
自らが唯一認めるライバルを卑怯な手段で葬った役者を成敗するため、
頼まれもしないのに、親のコネをつかって舞台にねじ込んでもらい、
圧倒的な演技力で見事ぶちのめしてかたきはとった宣言。
男気という名の私怨。

しかしこの舞台ちなみに初日である。
その後千秋楽までの様子は描かれていないが、
かたきを取って完全にやりきった姫川亜弓と
叩きのめされ放心状態となった乙部のりえは無事に楽日をむかえることができたのであろうか。

というわけで今回。
見事姫川亜弓がマヤのかたきをとる話。
読者としては溜飲の下がる思いであり、
おそらく乙部のりえはこの世界では大きい顔はできないところまで落とされたであろう。

「舞台の上では実力と才能だけがものをいう」

これは姫川亜弓の言葉であり至言である。
しかしあくまでも舞台の上であり、
そこに至るまでには本人の実力や才能はもちろん、
事務所の後押しや、観客の人気
親のコネや、はたまた卑怯な策謀などなど大きな要素がある。

「スター」とは船のようなものであろう。
もちろん荒れ狂う海を自走するだけの船の能力が必要であるが、
「スター」にはそれをさらに後押しする浮力が必須である。

それは共演者やスタッフ関係者の協力、
事務所のバックアップ、そして観客の人気、
そうしたものが大きな力となってスターを押し上げる。

卑怯な手段を弄してスターになりかけた乙部のりえ。
実力と才能、美貌も申し分なかったはずである。
姫川亜弓を怒らせたためにその地位を失ったわけであるが、
前回の牛乳6杯のくだりや、今回のスタッフへのキレ気味を見るに、
スターとなってもその時代は長くなかっただろう。

マヤはトンチンカンながらも、船としての能力は一品。
そして仲間やライバル、事務所の変態などを魅了し、
舞台やテレビの観客の力を背景にその一時代を作り上げたのだ。

では姫川亜弓は?
才能・実力・美貌は抜群。
事務所や劇団の後押し、そして両親という最強の浮力を持っている。
(本人は嫌っているが)

しかし描写においては、共演者を馬鹿にしたり、あるいは利用したり、
仲間やスタッフとの心の交流はあまり見られない。
「舞台の上では実力と才能」といいながら
親のコネを利用して舞台に上がり、舞台上に芝居以外の心を持って臨み、
そしてとてつもない演技をぶちかます。

そういった意味では姫川亜弓こそ、特異なスターなのかもしれない。

しかしながら、本番でのぶっつけ芝居もさることながら、
カーテンコールでのサプライズ客席登場。
これは事前に誰かに言ったのだろうか?
大スター姫川亜弓。
正義の名のもと、やりたい放題である。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第17巻・華やかな迷路(5)