【ネタバレ注意】ガラスの仮面第17巻その③【わしの娘の役をやってもらえんかね?】

      2018/10/13

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プラザ劇場で姫川亜弓が乙部のりえを再起不能なまでに打ちのめし、
「かたきをとった」と勝利宣言を行なっているころ。

マヤは豪雨の中をトボトボと歩いていた。
劇団菜の花にて「天人菊の里」の稽古。

「さあどうした。演れよ続きを」

「なにおろおろしてんだ。」

劇団員たちの悪意に満ちた笑顔に囲まれながら、
菊乃役の稽古をするマヤ。
菊乃は貧しい家を出て年老いた両親や心優しい妹を捨てて京都へ行ってしまう役。

「両親を捨てて・・・身勝手な娘・・・
 母さん・・・」

マヤの類いまれなる想像力はこのタイミングでは絶妙なまでに
マヤをダークサイドに導く。

「できない・・・菊乃になれない・・・」

「なんてひどい演技だ!あれが大河ドラマに出ていた役者なのか!?」

菊乃の仮面をかぶれず、セリフは棒読み、体も動かず、
さらに劇団員たちの注視とヤジの中、マヤは身動き取れず、
膝から崩れ落ち、ガクガクと震えているのだった。

「演技がわからない・・・どうしていいかわからない・・・」

スターに対しての妬み僻みが激しい劇団菜の花一同。
このタイミングを逃さない。

「先生!わたしこんな大根と一緒に演技するくらいならこの舞台降ります!」
「俺もだ。舞台降りるぞ!」
「あたしもよ!」

途端にストライキが始まった。

「君のような演技もできない役者に用はない!
 帰ってくれたまえ!」

劇団員たちのストライキの勢いそのままにマヤに降板を告げる演出家。

「さあいったいった!ここじゃもうあんたいらないんだ!」

マヤの服を掴むと稽古場から雨降る外へと突き出し、
さらにはマヤのカバンを投げつける。
カバンからこぼれた荷物は泥に落ち、
マヤの服装も泥だらけ。

「二度と来るなよ疫病神!」
「今度はお客として舞台を観にいらっしゃいね!」
「あたしたちのお芝居を見せてあげる!」

劇団員たち全員大爆笑。
一人くらい止める奴はおらんのか。

今回たまたま、スキャンダル直後のマヤだったからこのような扱いを受けたのか。
それともここまで露骨でないにせよ、客演の役者への風当たりは強いのか。
僻みと妬みが強すぎる弱小劇団。
その境遇が人間を腐らせている。

こうして劇団菜の花を追い出されたのだった。

「演技できなかった・・・
 もう才能なんてないんだ・・・
 演劇なんて続けていられない・・・
 あたしこれからどうすればいいんだろ・・・
 母さん・・・あたし演劇をやめるの・・・」

雨の中とぼとぼと歩いていく。

 

「舞台は大成功だったそうだな。」

「おかげさまで。パパ。」

その頃、父・姫川貢監督の仕事場に現れた姫川亜弓は
父の七光りでねじ込んでもらった舞台の成功を報告していた。
ちなみにまだ初日が終わっただけで楽日を迎えていない。
それとも一日限りの特別公演だったのだろうか。

「乙部のりえとかいう少女、お前には歯が立たなかったろうかわいそうに。
 だが、ま、これでお前もライバルのかたきを討ってやれて気がすんだだろう。」

「なんのこと?パパ!」

図星をつかれた姫川亜弓。
しかし次々と核心に迫る姫川監督。

  • とぼけんでもよろしい。
  • お前のライバルが芸能界を追い出されたのは誰かの企みらしいと噂は聞いとる。
  • その相手というのが今回お前に舞台でこっぴどくやられた少女だとか。
  • もっともまだ何の証拠もないらしいがな。
  • お前にとって北島マヤとかいうそのライバル・・・お前が恋をしかけて付き合っておった男性たちよりもはるかに、お前の中で大きな存在を占めとるんじゃないかね?
  • 芝居が変わるたびに取っ替え引っ替え相手を変えて。
  • どうせお前のことだ。演技に役立てるための恋のレッスンだったんだろう。
  • お前がわしの七光りを借りてまで誰かのために何かしたというのははじめてだぞ。

鋭い指摘に、連載始まって以来初めて、とんでもない表情になる姫川亜弓。
そしてズバズバと核心に迫りつつも、乙部のりえには同情も見せ、
彼女の悪事も噂に過ぎず証拠もないとオブラートに包む物言い。
このおっさん、伊達に大女優をモノにしていない。

「わかったわ。白状するわパパ!」

姫川監督のやり口に乗せられ「白状」する亜弓。
母の姫川歌子さんもこの手法で口説かれ、
本心を白状させられ、そして心を奪われたのであろうか。

  • 北島マヤは確かに私にとってライバル。
  • 私がライバルと認めるただ一人の少女。
  • 正直言ってあの子がこわいわ。
  • 負けたくないわあの子にはどんなことがあっても。
  • だけどそのライバルが卑怯な手で葬り去られるのを黙って見てはいられなかった!
  • 私は待ってるの・・・あの子が這い上がって来るのを・・・
  • あの子が再び私の前に現れるのを私は待っているの・・・
  • 私と同じくらい、いえもしかしたらそれ以上かもしれない情熱を、かつてあの子の中に見た!
  • あの子はこのまま崩れ去っちゃいけない!
  • 私のライバルなんだから!
  • 私はあの子と正々堂々と紅天女を競い合いたいの!

白状するついでに、長々と自らの思いを語る。
マヤを思いやっているようで実は思っていない。
「私が認めたライバルが卑怯な手で崩れるのではなく、
 万全の状態で正々堂々と戦いそして破って、紅天女を手にしたい。」
という全て自己都合である。

しかしそんな娘のわがままに気づいてか姫川監督。

「ライバルという名の友情・・・
 それにお前は気づいているのかいないのか?
 生まれも育ちも全く違う北島マヤと亜弓・・・
 目に見えない大きな絆で繋がっているのかもしれんな。
 紅天女という大きな絆で・・・」

セリフの一つ一つが映画の予告編のようで渋い。
そらこのおっさん、モテますわ。

「ときに約束を忘れてはいないだろうな。亜弓。」

「ええパパの七光りをお借りする代わりに一つだけ何でもいうことを聞くって・・・」

「お前に演ってもらいたい役が一つあるんだが・・・」

「パパの映画ね。覚悟してるわ。約束よ。」

この上ない優しい笑顔の姫川監督。

「ひとつ、わしの娘の役をやってもらえんかね?
 お前が家を出て行ってから淋しくてかなわんのだよ。
 わしは娘を演劇に取られたような気さえしとるんだ。
 撮影期間は三ヶ月間。それ以上は拘束せん。
 スタジオは姫川邸、共演者はパパとママだ!
 それからばあやとお手伝いさんたち!
 どうだ久しぶりに一家水入らず。ママも喜ぶぞ。
 それからときたまはパパとデートしてくれること。」

「パパ!
 ええ!姫川監督!
 きっと完璧に演じて見せますわ!」

そら完璧超人だけに完璧な娘役を演じることであろう。
そしてどさくさに紛れて娘役にデートの約束も取り付ける姫川貢監督。
その誘い方も実にスマートである。

 

というわけで今回、
劇団菜の花を半ば暴力的に追い出されたマヤ。
そして父に本心を語った亜弓。

しかし何と言っても、姫川貢監督の男前っぷりが冴えまくる。
「娘の役をやってくれんか?」
などとこんなクッサいこと、並の男が言うたところでサブい。もしくはキモい。
「世界的な映画監督」というバックグランドがさらにかっこよさを引き立てる。
速水真澄が同じようなことを言ったところでこうはならんだろう。

しかし、七光りと引き換えにしか、娘は帰ってこないのか?という疑問も生じる。
家を出て行ったといっても、中野のマンション。
当初は「奇跡の人」のオーディションにおいて、
審査員を務める母の七光りと思われることを嫌ってであった。

しかし、奇跡の人が終わってかなり経つというのに、家に帰っていない。
七光りを使って、舞台出演をねじこんでやらないと
娘は家に帰ってこないのだろうか?
それほど父と娘の関係は離れてしまっていたのであろうか?
しかも「撮影期間は三ヶ月間」て。
ずっと一緒には住めないのだろうか?

奇跡の人での母・姫川歌子との微妙な関係といい。
誰もが羨む姫川家のダークサイドを垣間見たような気がする今回であった。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第17巻・華やかな迷路(5)