【ネタバレ注意】ガラスの仮面第17巻その⑦【おらぁトキだ!】

      2018/11/17

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というわけで、有名なあのセリフが登場した話である。

夜叉姫物語。
ちゅうか、マヤの名台詞ほどには作品名すら知られていない。

大都劇場の舞台、乞食役の役者が盲腸炎になったため、
代役となったマヤ。
もう何度目かわからんけど、代役からチャンスを掴み続けた役者人生。
そしてマヤが最後と心に決めた舞台である。

「最後の舞台・・・
 これが最後・・・私の舞台・・・」

乞食役の衣装に身を包んだマヤ。
楽屋では演出家がマヤに動きを説明している。

  • 何あの子!北島マヤじゃない!
  • なんだってこの舞台に。演劇やめたって聞いていたのに・・・
  • 乞食役の代役ですってよ!
  • あんな事件起こした人がよく出られたものね。ずうずうしい!

大都芸能のお膝元と言うべき大都劇場。
大都芸能の関係者が多いにも関わらずここでも完全にアウェー。
スターダムでありながらスキャンダルで失脚したマヤは、
端役の役者どもの標的である。

そんなことも知らずにマヤは動きの説明を受けていた。

  • 下手から村の子供達に石で追われて舞台中央に出てくる。
  • その時玉姫の駕籠が通りかかり、助けられそこでまんじゅうをご馳走になる。
  • 夜叉姫とあだなされる冷酷無慈悲なはずの玉姫が、実は大変に清らかで優しい人であったということを知る大事な場だ。

「ああうめえ、ああうめえ
 おらこんなうめえものくったことねえ
 夜叉姫様だなんてあんな噂おら信じねえ
 こんなお優しい方が夜叉であるわけがねえ。
 うめえ、おとううめえよ」

セリフはこれだけ。
本来のマヤの実力なら余裕である。
しかしここでもマヤは罠をしかけられるのだった。

「ねえいいこと思いついたわ、あの子困らせてやらない?」
「どうするの?」
「あのね」
「それは面白いわ。あのこ困るわよきっと」

端役どもの悪だくみが聞こえる。
ちなみにこれらはいずれも女性。こわい。

そしてそんなことが行われているとも知らず、
マヤの最後の舞台「夜叉姫物語」は開演したのである。

「マヤ・・・」

舞台袖でタバコをくわえながらマヤを見守る速水真澄。

「速水真澄よ!大都芸能の!」
「素敵な方ね!」

女優たちの噂になっている速水真澄。
しかし彼はそんな噂など気にもかけない。

「ついに俺は何もしてやれなかったか」

いやいや、風邪で寝込んでる間にキスしてるんですが。
これ以上何をしてやるつもりだというのか。

「これが最後だな。チビちゃん・・・」

マヤの肩に手を回す。

「しっかりやってこい。ここでみている。」

「さよなら」

噛み合わない会話で腕をすり抜けるマヤ。
見事に振られている。
すると速水真澄はどこからか紫のバラを取り出す。
マジシャンか。

「最後の虹の中を歩いてくるがいいマヤ・・・
 俺がここで見届けていてやる・・・」

なんで上からやねん。

そしてマヤの出番が来た。

「最後の舞台・・・
 最後の舞台なんだわこれが・・・
 たった一人の母さんをおいて家出までして
 なんの取り柄もなくつまらない女の子だった私が
 拍手までもらようになった舞台・・・
 もう最後・・・!
 二度と立つことはない・・・!」

決意を秘め舞台に出たマヤ。
かつて大河ドラマの沙都子役までやったマヤが
乞食役で出て来たことに驚く観客。

舞台では子供役の役者がマヤに石を投げつける。
ものすごい音をしてマヤの眉間に当たると流血

「本物・・・」

「監督・・・血が・・・!
 誰か本物の石を使っています!」

舞台上で邪悪な笑みを浮かべる役者たち。

「この人たち・・・
 これが最後の舞台・・・!」

傷害事件である。

舞台袖ではさらに異変が。

「大変です!
 あの子が食べる予定になっている重箱の中のまんじゅうが・・・!
 すりかわっています!本物がここに!」

「遅い!重箱を持った夜叉姫の駕籠が舞台に出ている・・・」

夜叉姫によって助けられた乞食親子。

「北島マヤ・・・
 なぜこの舞台に・・・!
 そんな役で・・・?」

ようやくマヤに気がついた姫川亜弓。
いやあんたも乞食役やってたやん。
そして舞台に上がるまで楽屋で一度も顔を合わせていないのか?

夜叉姫の慈悲を受け、まんじゅうを頂戴する乞食親子。
開けられた重箱の中にはご存知「泥まんじゅう」である。

「泥まんじゅう・・・
 どうしよう・・・一体だれがこんな・・・」

驚愕するマヤ。
夜叉姫役の姫川亜弓はもちろん、
女中役、従者役、乞食の父親役も泥まんじゅうを見て冷や汗をかいている。
この人たちは共犯ではないようだ。

「このまんじゅうを食べなければあとがつづかない・・・
 どうすればいい・・・!」

さすがのマヤも芝居が止まる。

「だめだ・・・舞台の上は役者の世界・・・
 俺たちにはどうすることもできない・・・」

手が打てないスタッフ。ついでに焦る速水真澄も

「でもここは舞台の上・・・
 夜叉姫物語の世界・・・
 食ったことねえ
 食ったことねえ
 こんなうめえもの食ったことねえ」

呪文のようにセリフが乗り移ったマヤ。
白目化し泥まんじゅうをつかんだ。

「おらこんなでっけえまんじゅうみたこともねえ・・・
 びっくりして口もきけなんだ
 おら嬉しかぁ」

さらっとアドリブで芝居をつなぐと泥まんじゅうを口にしたのだった。
じゃりじゃりと音を立てる泥まんじゅう。
舞台袖で驚くスタッフと速水真澄。
自らが仕掛けた罠にも関わらずどん引きの犯人たち。

「ああうめえうめえ
 おらこんなうめえもの食ったなぁはじめてだ
 うめえおとううめえよ」

満面の笑みで泥まんじゅうを食べ続ける。

「マヤ・・・お前は・・・お前は・・・」

カタコトの日本語を話す速水真澄。

 

「トキだ!トキだ・・・!おらトキだ!
 おらぁトキだ!」

 

心の中で名前を連呼しながら泥まんじゅうを完食したのだった。

 

というわけで有名なこのシーン。
マヤの恐るべき役者根性と演技力を語るエピソードである。

でもイマイチ腑に落ちない。
もちろんマヤの演技力や役者根性はえげつない。

しかし、「おらぁトキだ!」と心の中で叫ぶか?
例えば西郷隆盛役の役者が、
名を名乗るシーンはあるかもしれないが、
食事しながら

「おいは西郷隆盛でごわす」

とか言うだろうか?思うだろうか?
その演技力は疑いないが、演技のアプローチとしてはおかしい。

しかも前回速水真澄からは「乞食親子の子供役」とだけ説明しており、
役名がトキであることは何一つ説明されていない。
マヤが泥まんじゅうを食べて初めて「トキという役名」が明かされるのである。

よって素直にこの話を読んでいくと、
「おらぁトキだ!」
と言われましてもなんのことかさっぱりわからないのだ。

しかし今回も大都芸能恐るべし。
お膝元の大都劇場、しかも若社長が見ている前で
若社長お気に入りの役者に対して、傷害・殺人未遂。

普通の会社に置き換えると、
創業一家の2代目ワンマン社長のお気に入りの女性社員に対して、
社長が見ている前で、石をぶつけ、泥を食わせるわけである。
考えただけでも恐ろしい。

演劇界の風紀の乱れもさることながら、
そんな見え見えの悪行を働く犯人のメンタリティが信じられない。
この後奴らはなんらかの罰を受けたのだろうか。

それともこのような暴挙も許されるほど、
意外と速水真澄の社内の権力構造は盤石ではないのであろうか。

これにて「第8章・華やかな迷路」は終了。
次回からは「第9章・100万の虹」である。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第17巻・華やかな迷路(5)