【ネタバレ注意】ガラスの仮面第17巻その⑧【まってるわよ】

      2018/11/24

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大都劇場「夜叉姫物語」終演後。
水道で水を垂れ流し、マヤを嘔吐させる速水真澄。
新手の変態か。

「さ!残らず泥を吐くんだ!
 全部吐いてしまえ!
 でなきゃここを出さんぞ!」

3行目はあまり意味がよくわからない。
この人すぐ監禁したがる。

「なんて無茶な子だ
 いくら舞台の上とはいえ泥まんじゅうを食べるとは・・・
 まったく君って子は・・・!」

その様子を物陰から見つめる端役ども。

「まさか本当に食べるなんて・・・・
 私たちの仕掛けた泥まんじゅうを・・
 なんて子なの・・・」

驚き後悔する犯人たち。
芝居を止めて困らせてやる程度だったのに
まさか食べるとも思わず。

「あの盤面で必要だと思ったから食べたのでしょう。
 あの子の役者としての本能でね。」

いきなり現れた名探偵は姫川亜弓。
まさかの主役の登場に、今の企みを聞かれていないかと慌てる端役ども

「呆れたものね。大事な舞台の上でなんてことをするの
 あなた方は舞台を潰す気だったの?」

しっかり聞かれていた端役ども

「相手があの子だったことを感謝するのね。
 あの子だから舞台を守れたのよ。
 おそらくはあの子・・・
 これは泥だとか食べれば腹をこわすとか
 そんなこと考えなかったに違いないわ・・・
 トキだから食べた・・・
 そうよ、トキだから食べたのよ。
 やはり恐ろしい子・・・・」

名探偵は犯人を軽くたしなめただけで
自分の推理に満足すると笑顔を浮かべて去っていった。

残された端役たち。
かつて聞いた北島マヤ伝説の数々を思い出す。

全日本演劇大会での一人舞台と一般投票第一位。
「奇跡の人」ではWキャストの天才少女姫川亜弓をさしおいて助演女優賞。
演劇界幻の名作「紅天女」の候補の一人。

演技をすることは本能である、そんなマヤが母の死とスキャンダルからスランプに陥り、
自ら演劇を止めようと才能に目を閉じていたにも関わらず、
その本能を再び目覚めさせてしまったのが自分たちであることに気づいたのだった。

「トキだ・・・
 トキだ・・・
 おらぁトキだ・・・!」

水道には目覚めた魔物が。まだ言うか。

「まだ体が熱い。
 もうお芝居が終わったのにトキが体の中に残っている・・・」

体が熱いのはトキだけやなくてドロが体の中に残っているからであろう。

「そうよ!あの一瞬何もかもがふっとんだ・・・!
 自分がマヤであることも一瞬なにもかもが消え去った・・・
 お芝居がしたい・・・!」

しかし舞台に上がる前最後の舞台と決したのだった。

「最後の舞台・・・!
 これが最後・・・そんな・・・」

トキの衣装から私服に着替え、
鏡の前に立つマヤ。

「これがもとのあたし・・・北島マヤ・・・
 これからずうっとこのままで生きてくの・・・?
 いや!お芝居がしたい・・・もう一度やりたい・・・!
 やっとわかったわ!私やっぱりお芝居好き・・・!
 お芝居が好き!
 どうすればいいの?
 演劇がやりたい・・・!」

支度を終えたマヤがロビーに出ると姫川亜弓が取り巻きに囲まれていた。

「お疲れ様亜弓さん。」
「いやあいいお芝居でしたよ。
 お父様の姫川監督によろしく!」
「お母様の歌子さんにもね」

主役の天才少女・演劇界のサラブレッド姫川亜弓には支配人までもがお見送りに。
どさくさに紛れて両親へよろしくを頼むあざとい奴らも少なくない。

「亜弓さん・・・素敵だわやっぱり・・・
 同じ紅天女候補でも今のあたしとは大変な違いだわ・・・
 あたしはもう演劇を続けられるかどうかもわからないのに・・・」

そんなマヤの心の声を察してか、
取り巻きを振り切るとマヤの方へ歩いてくる姫川亜弓。
戸惑うマヤに手を差し出し、マヤの手を強く握った。

「まってるわよ」

「亜弓さん・・・!」

一言残して去っていく亜弓。

「まってるわよ・・・まってるわよ・・・
 紅天女までまっているわよ
 一緒に競える日をまってるわよ・・・
 亜弓さん・・・!」

待ってるわよの意味を拡大解釈するマヤ。

「信じていてくれたんだ!あたしのこと!
 誰からも見放されていたあたしを・・・
 あの人だけはわかっていてくれた!
 あたしの演劇への思いを!」

つい先日まで「北島マヤが演劇をやめた」噂を又聞きして
勝手に見損なっていた事実など知る由もない。

「まって!亜弓さん!」

大勢の取り巻きやファンを押しのけ、
亜弓の車にすがりつくマヤ。

「待っていてください・・・亜弓さん・・・
 きっとあなたを追っかけていきます・・・
 紅天女まで・・・
 それまで待っててください・・・!
 あたしきっと追いつきます・・・!
 どんなことしたって・・・!」

マヤの言葉を聞き微笑する亜弓。
そして車は去っていった。

「亜弓さん・・・やるわ!あたしもう一度演劇をやる。
 ありがとう亜弓さん・・・
 今のあたしにはあなたのその一言が一番嬉しい・・・
 その一言を支えにあなたに向かっていきます。
 待っていてください。亜弓さんきっと!」

再起を誓うマヤ。

「どうやって亜弓くんに追いつく気だ?今の君が。」

絶妙のタイミングのツッコミは速水真澄。
この男はマヤの心の声が読める。

「余計なお世話です!あなたの力は借りません!」

「誠に結構なセリフだ。大都芸能のこの速水真澄に向かって。
 さ!約束の契約書だ。」

マヤが受け取ろうとすると契約書を翻す。

「せっかくやる気になったのに
 大都芸能を離れてはもうどこの舞台にも立てないぞ。
 大都芸能なら今の君を守ってやれる。
 どうだ。もう一度考え直してみないか?」

再度庇護をちらつかせ奴隷契約を迫る。

「それ・・・受け取ったらやぶこうかと思ってたんですけど・・・
 代わりに破いてくださいますか?」

「見事な反撃だ。気に入った。」

このやりとりも地味に意味がわからない。
ただわかることは、速水真澄はこの日二回もマヤにフラれたということだ。

「OKわかったチビちゃん解放してやろう。
 そら契約書だ。
 乗りたまえ。君の帰るべきところまで送ってやろう」

「帰るべきところ?」

車で送られたのは白百合荘。
麗と暮らしていたアパートだ。
車の音を聞きつけて階段を降りてくる麗とさやか。

「マヤ!」
「マヤだ!マヤだ!帰ってきたよみんな!」
「今日昼間水城さんがいらしてね。
 マヤの荷物を届けてくれたんだよ。」
「水城さんがあたしの荷物を?」

驚いて速水真澄の方を見るマヤ。

「おせっかいだったかな?」
「あ・・・いえ・・・」

「さ!中に入って!ケーキ買ってまってたんだから!」
「この前はひどいこといってごめん!
 私たちの誤解だったんだ!」
「みんなマヤと仲直りしたくて待ってたのよ」

久々に「つきかげファイブ」勢揃い。
麗やさやかだけでなく、めっきり影の薄くなった美奈や、
序盤早々にて脱落した春日泰子も生存確認された。
そして絶縁宣言までしたくせに、謝るときは非常に軽い。

「あの・・・ここまで送ってきてくれてありがとう・・・
 それから今日の舞台・・・出してくれてありがとう・・・
 今まで忘れていたものを取り戻せたみたいなんです・・・
 やっぱりお芝居が好き!もう一度演劇をやりたい
 今日の舞台でそれを思い知ったんです・・・!
 とりあえず感謝します。どうもありがとう」

これまでにない丁寧なお礼を言い、
深々と頭を下げるマヤ。

そして頭を上げたマヤの目に映ったのは満面の笑みの速水真澄。

「なんて優しそうな笑顔なのかしら・・・
 この人がこんな表情するなんて・・・」

思わずどきっとなるマヤ。

「初めてだな。君が僕に礼を言うなんて。嬉しいよ。
 さっきの言葉を聞けば君のファンとか言う・・・
 紫のバラのひともきっと喜ぶだろう
 じゃ、今日はこれで」

「さようなら!金輪際さようなら!永久にさようなら!」

「じゃあまた」

最高の笑顔でさっていく速水真澄。

「時々あの人がわからなくなる・・・
 いい人なのかそうでないのか・・・
 世間の噂通り本当に冷たい人なのか
 実は優しい人なのか・・・」

 

というわけで無事大都芸能から解放され仲間の元に戻ってきたマヤ。
そして何より、演劇への情熱を取り戻したのであった。

姫川亜弓の「まってるわよ」もいい。
多くを語らず、若干上から目線で、
自ら強敵の復活を待つ姿勢も男気溢れる。
芸能界での立ち位置や、スター街道においては圧倒的に上だが、
地味にマヤの方が実力を評価されているのに上からなのがちょっと悲しい。

そして速水真澄。
彼の満面の笑みに驚き、
時々わからなくなるマヤだが、なんのことはない。

ただ自分が丁寧にお礼を言ってもらって素直に嬉しがり、
「紫の人=自分」がマヤが演劇への情熱を復活させたことを素直に喜ぶ。
そこにはなんのギャップも意外性もなく、
ただただ自分のことを素直に喜んだだけの男なのである。
とてもわかりやすい。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第17巻・華やかな迷路(5)