【ネタバレ注意】ガラスの仮面第18巻その⑥【観客は自分の感動に正直】

      2019/01/19

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「ええっ!?
 女海賊ビアンカを再演!?」

職員室に呼び出されたマヤに言い渡されたのはまさかの再演希望。
学園祭での一人芝居が大変な評判となり、
観た生徒たちからはもちろん、観ていない生徒からも要望が高まり、
学校の投書箱も再演希望の手紙が殺到しているという。
もちろん食い気味の二つ返事で再演を希望するマヤ。
体育主任の丹波先生もマヤの芝居の魅力にとりつかれ、
快く体育倉庫を再度貸し出してくれた

「再演・・・僕の脚本・・・
 認められたんだ僕の脚本・・・僕の才能・・・」

脚本の吉沢君も感涙にむせぶ。

「女海賊ビアンカをもう一度ってみんなが・・・
 みんながあたしのお芝居を望んでくれたんだ・・・!」

喜び感激するマヤ。
マヤも吉沢君も「僕の脚本」「あたしのお芝居」と
自分本位でめんどくさい。

そして再演を喜ぶ生徒たちとマヤの狂騒を見て驚愕する演劇部員たちであった。

 

「再演?」

「はい学校のみんなが望んでくれたんです!
 だから先生に早く報告したくてここへ・・・」

月影先生が講師を務めるアクターズ・スタジオへアポなしで突入したマヤ。
お仕事中ということもあってか月影先生の表情は険しい。
しかし一瞬の沈黙の後

「おめでとうマヤ。よかったわね。
 応接間で待っていなさい。
 稽古が終わったらすぐ行きますからね。」

応接室に通されたマヤ。

「月影先生こんなところの講師なんてすごい・・・
 でもやっぱり戻って来てほしい月影先生・・・
 前みたいにみんなで暮らせたら・・・」

アクターズ・スタジオは一流プロの俳優ばかりが生徒の演劇研究所。
マヤの大都芸能入りと時を同じくして講師になり、
マヤが大都芸能を辞めたにも関わらず講師を続ける。
月影先生のその指導力と図太さはすごい。
滅多に入れないそんな名門にアポなしで突入するマヤもすごい。
そして劇団つきかげ寮での暴力に満ちた日々を懐かしむ。
暴言を浴び、鉄拳制裁を受け、
学校にも行かせず、真冬の物置に監禁され、
しかも時々死にかける月影先生との暮らしを望む。
変態か。

「やあ、これはチビちゃん
 これはまた奇遇だな。今日はようこそ。」

タイミングよく入って来たのは速水真澄。
アクターズ・スタジオは大都芸能が経営しているのだ。
しかしこの人が現れると奇遇とも思えないほど
日常の言動が常軌を逸している。

慌ててとりあえずの挨拶をするマヤと、
それを笑いながら相手する速水真澄。至福のひと時である。

「おい!速水真澄が笑ってるぜ・・・!
 女の子相手に・・・」
「どうなってるんだ?不気味〜」

研究生の俳優にも陰口を叩かれるくらいキモい光景なのだろうか。

「今日は月影先生に会いに来たの?」

「はっ!さようでございます。」

「学園祭で一人芝居をやったそうだね」

「なぜそれを?」

「プログラムでね。
 一ツ星学園にはかなりの寄付をしているんでね。
 毎年招待されるんだがいつも仕事で忙しくて行けない。」

金持ち自慢と仕事忙しい俺イケてる自慢。
この世で最もつまらない話題である。

「どうだった?芝居は?」

「再演になりました。好評だったんですとても。」

「そうか・・・見逃して残念なことをしたな・・・
 それはおめでとう。」

「本当はもう一人、とても知らせたい人がいるんですこのことを・・・」

もちろんその人は紫のバラのひとである。
長い間励ましてくれたこと、一ツ星学園へ通わせてくれたことへの感謝を速水真澄に滔々と語る。

「あたし・・・そのひとに見捨てられるのが一番こわい・・・」

「見捨てやしないさ・・・
 きっとものすごく心配したとは思うけれどね。
 知らせなくてもその人はきっと知ってるよ。
 プログラムでも見てね。」

なんだか気持ち悪い空気になったところで月影先生登場。

「月影先生、あなたの弟子は素晴らしい。
 学校での異例の再演がきまったそうですね。
 先生はご覧になったんですか?」

「ええ。楽しい芝居だったわ。
 褒めてあげますよマヤ。」

満面の笑みの月影先生。前フリかのごとく怖い。
そして笑顔でさっていく速水真澄。

「あの速水真澄があんなに楽しそうに笑うなんて・・・うそ・・・」

速水真澄の笑顔には月影先生も異常と思えるのだろうか。
そしてここからが月影先生の攻撃である。

「マヤ、女海賊ビアンカのことだけれど
 演技的な欠点が多く目についたことも確かよ。
 一度しか言わないからよく聞いていなさい。」

やはり先ほどの笑顔は前フリであったか。
そして「お客になったつもりで」観に来たにも関わらず、
お客にはとても言えないであろうダメ出しを矢継ぎ早に繰り出す。

  1. まず呼吸に気をつけること!
  2. 7回も息を吐きながらセリフをしゃべっていた。
  3. 一人芝居で息が切れるのはわかるが苦しげでみっともない。
  4. セリフはすっかり息を吐いてからしゃべりなさい。
  5. 次に無駄な動きに気をつけること!
  6. 4場父親と語るシーン、歩き回りすぎます。
  7. 13場ロレンツォと踊った後のシーン、一呼吸置くこと。
  8. すぐに動いたのでは余韻が残らない。
  9. ビアンカであるあなたがロレンツォに恋した思いを観客にも伝えなければ。
  10. それには間が必要です。
  11. 次に24場レオノーラ伯母に説得されるシーン
  12. 30場海賊たちとの戦いのシーン
  13. 無駄な動きが多すぎて観ているものが疲れます!

「観ているものが疲れる・・・?」

これだけダメ出しされたら、入力するもの疲れる。

「そうです。常に観客を忘れてはなりません。
 一ツ星学園はあなたにとっていい修業場だわ。
 やりなさいマヤ。
 観客はあなたに多くのことを教えてくれるわ。
 観客は自分の感動に正直よ。
 これを忘れてはいけません。
 わかったわね。マヤ・・・
 帰りなさい。今後のあなたの成長を楽しみにしていますよ。」

散々ダメ出しした挙句、放置かよ。

「先生!教えてください!
 また前みたいにあたしに演技を!」

稽古場に戻ろうとするも振り返る月影先生。

「わたしがなぜここへ入ったか?
 なぜあなたやみんなから離れたか・・・
 まだわかっていないようねマヤ・・・」

いや、マヤだけでなく読者全員わからん。
いい仕事が見つかったからでは?

「役者は舞台の上ではいつも一人です。
 私の教えをあてにしてはいけません・・・
 自分の演技を伸ばすことができるのは自分自身だけです。
 自分に必要なものは自分で掴み取りなさい。
 それがこれからのあなたの課題です。
 演劇とは何か?どういう稽古をすればいいか?
 役の掴み方、そして日頃の訓練・・・
 自分に必要なものは全部自分で考えて手に入れなさい。
 もうそうしていい時期です。
 私はいつでもあなたを見ていますよ。マヤ。
 あなたと亜弓さんを・・・!」

「亜弓さんを・・・!」

アクターズ・スタジオを後にしたマヤ。
月影先生の言葉を噛み締め帰路につき、
そしてこれからの自分の課題を肝に命じたのだった。

 

というわけで今回は月影無双である。
まずダメ出し半端ない。
演技全体の注意点から、
一度しか見ていない芝居の場面を克明に記憶し、
その課題を確実に言い当てる。
その記憶力、演技の知見、指導力、
マヤが「恐ろしい子」なら月影先生は「恐ろしい人」である。
いろんな意味で。

しかもマヤの成長過程を見据え、
初期には基礎から徹底的にしごき、
都度マヤの成長に応じた課題を与え、
時期が来たと見るや、自分で考え掴むよう教え諭す。
基礎と応用を的確に交えた見事な指導と言える。
演技に限らず、スポーツでも、仕事でも通じる指導であろう。

しかしあれだけ散々、暴言と鉄拳を見舞われたにも関わらず
「私の教えをあてにしてはいけない」
とはどういうことか?もはや哲学である。
仰っていることは至極もっともで、素晴らしい指導であることは間違いないのだが、
ちょっとその辺りが腑に落ちない。

そしてなぜ月影先生がアクターズ・スタジオに入ったのかは結局わからないままである。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第18巻・100万の虹(1)