【ネタバレ注意】ガラスの仮面第19巻その②【まるっきり違う人よ!】

      2019/03/02

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その頃劇団オンディーヌでは
姫川亜弓の一人芝居「ジュリエット」の稽古が行われていた。

関係者以外立ち入り禁止で朝から7時間もこもりっきり。
モダンバレエの倉橋先生、
パントマイムの名手・モーリア先生とその通訳、
そして名演出家の小野寺先生
錚々たる顔ぶれで猛稽古を行なっていた。

野次馬が集まる中ドアが開くと出てきたのは倉橋先生。
猛稽古を思わせる大汗をかいている。

「今日のモダンバレエはこれまで。
 見事だったわ亜弓さん。
 素晴らしいジュリエットになるでしょう。」

スタッフが持ち出したタオルは汗まみれだった。

「姫川亜弓さん・・・
 親の七光りを浴びただけのお嬢さん女優かと思ったら・・・
 驚いた人!あれだけの稽古で呼吸一つ乱さない・・・!
 見事な少女だわ。」

姫川亜弓が最も嫌うであろう偏見で見ていたが
ものの見事に実力と結果でそのレッテルを跳ね返された。
姫川亜弓の思うツボでもある。
そして稽古場には汗だくのモーリア先生と小野寺先生。

バレエの倉橋先生と、パントマイムのモーリア先生が汗だくなのは理解できるが、
演出家の小野寺先生が大汗をかいているのは解せない。
単純に室温とか空調の問題だろうかと思ってまうわ。

「わたしは演るわ演ってみせる
 たった一人のジュリエット・・・」

汗をかきながらも壮烈な決意を胸にするのだった。

 

その頃壮烈とは程遠いテンションのマヤ。
佐藤ひろみの演技をマスターすべく
日常のパントマイムに余念がない。

超人的な努力と訓練を自らに課して演技を習得する亜弓と、
日常の遊びの延長から演技を習得するマヤの違いがおもしろい。

「佐藤ひろみの経験するすべての行動・動き、
 自分の中にある体の記憶をもう一度たしかめよう!」

カバンから教科書を取り出す
教科書を持つ時の手の形、
筆入れ、お弁当、タオル、
それぞれを手にする時のその手の形をきざみつける。

グランドをのぞく時の金網を持つ手、
扉を開ける閉める、
弁当を食べる、箸を持つ、
挙げ句の果てには教室でパントマイムで弁当を食べだす始末。
まさかこれが芝居の稽古だとは思わないクラスメイトたちはドン引きである。
そのあたりも全く意に介さないあたりが天才である。

マヤの稽古を見て思うのは、セリフを覚えたり、動きを叩き込んだりする描写が少ない。
台本は二度読めば完全に頭に入り、
動きは考えなくても覚えなくても身につく。
そんな天才は佐藤ひろみの日常のパントマイムを会得するだけで芝居が完成するのだ。

「パントマイム・・・心が動きをつくる・・・
 同じ動作でも心によって動きが違う。
 嬉しい時悲しい時寂しい時はしゃいでいる時、
 歩き方さえ違う!」

こんな当たり前のことにもやっと気づく。
しかもその気づいたことはすでに無意識にマスターしているのだから天才だ。

 

かたや努力の天才・姫川亜弓。
パントマイムの基礎稽古を徹底的に行っていた。
体を固定して首だけを動かす稽古、
腰だけを動かす稽古、
手首だけ、腕だけ、ひたすらこの訓練を二時間。
パントマイムは肉体の芸術。
身体中の筋肉を思うように動かすためだ。

そして与えられた課題を即座に演じ、
見事にクリアするあたり並大抵の才能ではない。
その出来栄えに誰もが驚嘆し、
「ジュリエット」の出来に大いなる期待を抱く。

 

そして真の天才・北島マヤ。
なんと体育倉庫に佐藤ひろみの家を再現していた。
もちろんセットなどはない。
テーブルといすがひとつ、
体育倉庫の床にチョークで間取りを描いただけだ。

朝起きて階段を降りて廊下を通って洗面所、
顔を洗ったら台所で朝食。

さすがの草木さんも吉沢君もドン引き。

「これ以上見張っても無駄よ。
 芝居の稽古かと思ったらおままごとなんて」

そして部長命令でマヤを見張っている演劇部員の目にも
もはやままごとにしか見えない。

「ねえマヤちゃんたら!
 ままごとやってる場合じゃ・・・」

「あ!だめよ草木さん!
 壁を突き抜けてきちゃ!
 そこ壁があるのよ」

即座にパントマイムで空間を描き出すマヤ。

「それからこっちに襖があるの。
 気をつけてね。」

台所と居間は重いガラスの障子。
建て付けの悪い感じまで演じきり、二人を驚嘆させる。
居間のテレビのスイッチを入れる、
チャンネルを回す、こたつに座る、
冷蔵庫を漁る、その一つ一つが二人を錯覚させる。
気がついたら草木さんはお母さん、
吉沢君もお父さんを演じる羽目に。

「マヤちゃんあんな髪いじる癖なんてあった?」

しきりに髪の毛を指でなぞるマヤ。
二人を芝居に巻き込んだくせに、
二人のリアクションを気にすることもなく電話をかける芝居を続ける。

「マヤちゃん・・・
 違う・・・別人だわ・・・
 まるっきり違う人よ!
 別人だわ!あんな子知らない!」

パントマイムを極めたマヤは、
「佐藤ひろみ」の精巧な仮面を作り上げ、
もはや友人の目にも別人に見える演技を身につけたのだった。

 

というわけで今回。
立て続けにマヤと亜弓の稽古場が描写されているが
その対比が面白い。

かたやパントマイムの基礎訓練に時間をかけ、
基本から動きをマスターする姫川亜弓。
そしてパントマイムのリアリティを追求し、
遊びの延長から佐藤ひろみの芝居をマスターするマヤ。
二人とも目指すゴールは同じであるが、
そのプロセスが決定的に異なる。

もちろんどちらが正解とは言えないし、
どちらにもメリットデメリットはある。
この二人それぞれに合ったやり方といえよう。

亜弓さんがマヤのやり方でパントマイムをマスターできるとは思えないし、
マヤも亜弓さんのやるような基礎稽古では落ちこぼれること必至である。

しかしパントマイムも「心が動きを作る」と位置付けたマヤが一歩リードと言わざるを得ない。
亜弓さんの場合はどうしても、形にとらわれ、形だけを追求している節があり、
結果として美しい形だけの演技になりがちだ。
美しくはなくとも心が見て取れるマヤの演技には及ばない。
そしてこの二人のスタンスの違いが、二人の今後を左右する。

でも亜弓さんのやり方は間違いではない。
難しい数学の問題を解くためには、
簡単な足し算引き算や、九九をますたーしなければならないのだ。
しかしそれらをせずに、お店ごっこの中から難しい数学の問題を解く化け物がいる。

仕事でも勉強でもスポーツでも、
かならず一人はそんなやつがいる。
マヤはその一人なのである。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第19巻・100万の虹(2)