【ネタバレ注意】ガラスの仮面第19巻その⑤【雨が・・・見える・・・】

      2019/03/23

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というわけで「通り雨」後半

「たしかあの人見たことあるわ・・・」

雨宿りの喫茶店で父親と話していた女性。
三年ほど前、酔っ払った父を送ってきた会社の女性。
名前は確か井村早苗、場面はここから佐藤ひろみの回想に。

玄関まで来ると家の奥の方や母親やひろみをしげしげと見つめる。
また別の日、雨降りで父を駅まで迎えに行くと、
階段の上にじっとたったまま思いつめた表情でこちらを見ている井村早苗。
実に怖い。男の生活圏に頻繁に現れる不倫女。

そして今、あの時の井村早苗の心の動きが、マヤの一人芝居を通じて客に伝わるのだった。

思いつめた佐藤ひろみ、小さい妹のチイ子には相談できず。
母親にも当然もっと相談できない。兄に相談したら喧嘩になる。

「お父さんが私たちを捨てようとしている
 私たちを捨ててあの女の人と一緒になろうとしている・・・
 あの人も真剣なんだわ・・・四年間もずっと耐えてきて
 泣いてたわあの人・・・お父さんがあの人を選ぶっていった時・・・」

雨降りの描写は佐藤ひろみの悲しみと怒りをヒートアップさせる。

「ひどいわ・・・お父さん・・・ひどいわ!」

「雨が・・・見える・・・
 激しく怒り狂うような雨が・・・
 あの子の全身を叩きつけるような雨・・・」

演劇部部長の解説もヒートアップし芝居がかった口調に。

そして悲しみと怒りに震えた佐藤ひろみは
父親に文句を言ってやろうと会社に乗り込む。
しかし父を前にすると何も言い出せないのだった。

「お父さん・・・今度のお休みドライブ連れてってくれるでしょう?
 お父さん・・・」

佐藤ひろみの悲しみに、観客の目にはそこにいる父親の姿が映り、涙を誘うのだった。

「え!?ありがとう!
 約束してくれた!今度のお休みにはドライブに行くって!
 あの女の人の故郷へなんか行かないんだ!
 でも・・・別れるって言ったわけじゃないんだ・・・
 会おう!井村早苗って人に会おう!
 そして頼むんだ!お父さんと別れてくださいって!」

ジェットコースターのような展開とひろみの心境の変化。
そしてひろみは会社で聞いた住所を頼りに
井村早苗のアパートへやって来る。
個人情報保護法すらない時代。
住所を教えたのが娘ではなく妻だったら刃傷沙汰になる。

「この人の部屋・・・
 何もかもきちんとしてあって清潔そう・・・
 カーペットもカーテンもきれいな緑・・・
 緑!お父さんの好きな色だわ・・・
 何度かきたことあるのかしら?
 あるわよね四年も付き合っているんだもの
 ここでこの人とお茶を飲んだり食事したり
 笑いあっておしゃべりしたのかしら・・・」

生々しい。
そしてカバンをバシッと叩く。

「わたし・・・ここへあなたとお茶を飲むために来たんじゃありません。
 別れてくださいお父さんと・・・たった今すぐに・・・」

鬼気迫るマヤの演技の向こう側には剣幕に圧倒される井村早苗の姿が映る。
そして家族の絆と幸せ、井村早苗への怒りをぶつけるひろみ。
平凡な少女の思いがけない変身に打たれる観客たち。
これにはもはや演劇部部長も解説を挟む間すらない。

「故郷でお見合いを?
 やっと決心ついたってじゃ・・・
 お父さんとは別れる・・・別れてくれるの?本当に?
 じゃあ金沢へ帰るんですね一人で・・・
 お父さんには私が来たことは内緒にしてくれるんですか?
 元どおり・・・全て元どおりなんですね・・・」

結末に安堵し涙ぐむ観客。

「帰ります・・・どうもありがとう・・・
 元に戻ったんだ・・・これでなにもかも・・・
 あら?いつのまにか雨が・・・
 通り雨・・・そうよ今日の出来事も通り雨だったのよ。
 明日になればまた元に戻る・・・
 忘れようすぐに忘れられるわ!
 誰も恨むまい。そうよお父さんだって。
 お父さんの心の中にもきっと通り雨が降ったのよ・・・」

なんか上手いこと言うと再び佐藤ひろみの日常が再開するところで芝居は終わった。

終演、割れんばかりの拍手。

「配役を紹介します。
 主役、佐藤ひろみ 北島マヤ
 脚本、3年B組わたくしこと吉沢ひろし
 照明、美術部部長宮本くんほか5名
 舞台監督、草木広子くん」

カーテンコールではキャストとスタッフ紹介をする吉沢くん。
そして客席からは称賛の声と、
敵ながらあっぱれと認める演劇部員たちだった。

「あたしお芝居が好き・・・
 これでまた次の舞台の幕を開けられる・・・
 亜弓さんにまた一歩近づける・・・」

芝居への情熱と次回作への希望に燃えるマヤの背後から盛大な拍手が。
今回見事な解説をしてくれた演劇部部長だ。

「あなた・・・演劇部の芝居に出ない?」

「ええ!?演劇部の芝居に!?あたしが!?」

さっそく次の舞台の幕が開こうとしていた。

 

というわけでこの「通り雨」
平凡な女子高生が父親の浮気現場を目撃し、
浮気相手の家に乗り込むという、少しも平凡ではない話である。

「つまらない芝居」「退屈なシナリオ」などと
演劇部部長や吉沢くんは酷評しているが、
それは佐藤ひろみの独白が主体だからであって、
浮気相手の家に乗り込むあたり尋常ではない。

しかしながらツッコミどころは満載。
娘の通学圏で浮気相手と将来を約束する父親。
不倫相手の生活圏にしばしば忍び寄る不倫女。
従業員の家族に他の従業員の住所を教える会社。
四年も付き合っていたのに、女子高生の乱入により故郷での見合いを決心する不倫女。
などなど。

雨宿りの喫茶店では涙ながらに訴え、
父親に家族を捨て自分と一緒になる約束をしたにも関わらず、
娘の剣幕に押され「ようやく決心がついた」と見合いを選択。
家族を捨てるつもりだった父親の決心は無駄になることに。

きわめつけは「何もかも元どおりに」なっていないこと。
不倫相手は去って行ったが、
父親は家族を捨てる決心をしたという事実。
これはもはや「心の中の通り雨」では済まされないであろう。

つづく

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