【ネタバレ注意】ガラスの仮面第19巻その⑧【挑戦したのは昨日までの自分自身です】

      2019/04/13

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後日。東京はまだ雪が降っている。
そんな悪天候の中、姫川亜弓一人芝居「ジュリエット」が初日を迎えた。

「亜弓さん・・・」

なぜか劇場の前にいるマヤ。
観劇をするでもなく、ただ劇場の前に来ている。
亜弓の芝居を見るのが怖いのか?それとも単純に金欠なのか。
おそらく後者であろう。

演劇界のサラブレッドにして天才少女・紅天女候補
これでもかというくらい二つ名のつく亜弓の一人芝居とあって
劇場にやって来た客層もすごい。

俳優や演出家はもとより、
作家や音楽家、シェイクスピア研究の大学教授、
各界の文化人で初日の席は埋まる。
著名な歌舞伎役者や英国大使夫妻までもが来る。
芸能関係者だけでなく、
畑違いの文化人や、政府要人まで見に来るとは恐ろしい舞台である。

「すごい・・・さすがは亜弓さんだわ・・・
客層からして違う・・・
こんな人とあたし紅天女を競うのかしら?」

そしてそんな大物ゲストよりも遅れてやって来た月影先生。
療養中の身にも関わらず観劇は欠かさない。
仕事もせず、住居と医療を提供され、
紅天女候補の一人芝居を見るという素晴らしい老後。

さらに大都芸能の速水真澄と水城秘書。
つづいてやって来たのは桜小路優だ。

「桜小路くん・・・!
桜小路くんと会うなんて・・・こんなところで・・・!」

思わず物影に隠れるマヤ。
姫川亜弓と同じ劇団の若手ホープだから
もっとも会う確率の高い場所ではある。

マヤがいるとも知らず桜小路くんは事務所関係者と話している。

「君は我が劇団オンディーヌの誇る演劇界期待の新星だ。
いまにこの劇場で主役を演るのもそう遠い日ではないだろう。」

知らんまに相当出世したようである。
ふと振り返るとマヤの姿をみとめた。

「マヤ・・・ちゃん・・・」

劇中、青木麗とならんでもっとも人格者とも言える桜小路くんだが、
マヤが絡んだ時だけ我を忘れて白目になる。
そんな彼に後ろから声をかける少女。

「どうしたの?桜小路くん?」

「いや・・・ちょっと昔のことを思い出しただけだよ」

意味不明な返しで劇場に入っていった。
その姿を見送るマヤ。そして鳴り響く開演のベル。

「開演・・・!
亜弓さんのジュリエットが始まる・・・
亜弓さんの・・・ひとりジュリエット・・・!
一流の先生達に指導されて
ああどんなジュリエットを演じるのですか?
待っていてください亜弓さん・・・
きっとあなたに追いついてみせる・・・!」

桜小路くんのことは一瞬で忘れた様子。
「ジュリエット」というちゃんとした題名が付いてるにも関わらず、
「ひとりカラオケ」みたいな呼ばれ方をされる亜弓さんの一人芝居である。

 

その頃、本番を迎えた姫川亜弓。

「ロミオのいないジュリエット
舞台の上でわたしはひとり
演ってみせるわジュリエットの愛の炎のひとかたまり・・・
舞台の上で燃えてみせる演じてみせる・・・
ひとりジュリエット
演ってみせる!」

当の主役本人も「ひとりジュリエット」という呼び方が定着している。
そして一流芸能人や各界の文化人、
英国大使夫妻、学者、作家、音楽家、
月影千草、速水真澄、水城秘書、桜小路優、
そして姫川貢監督と姫川歌子さん

そうそうたる観客を前に
ひとりジュリエット。

そして描写は翌朝に変わる。
早朝むくりと起きるマヤ。
新聞屋さんが新聞を配達しようとすると
引き戸を開けて新聞を奪い取るマヤ。
新聞を取る金はあるんかい。

「あった!」

紙面をめくると、何面かはわからんが
ぶち抜きで報道されている。

「姫川亜弓、ひとりジュリエット大成功!
シェイクスピアへの華麗なる挑戦、
勝利の大喝采!
なりやまぬ拍手!アンコール!」

マスコミまでひとりジュリエット。

  • モダンバレエやパントマイムを生かした高度なテクニック
  • ジュリエットの心理を鮮やかに表現!
  • 最高のジュリエット役者と英国大使絶賛!
  • 演劇界の長老・五十嵐久蔵氏、姫川亜弓をアカデミー芸術祭芸術大賞に推薦!
  • 実現すれば史上最年少の受賞者に・・・

「芸術大賞・・・演劇界最高の賞だわ・・・
また大きく引き離されていく・・・」

新聞だけでなく、電気屋さんのテレビでニュースを見るマヤ。
姫川亜弓のインタビューと彼女を讃える観客の感想だ。

「これこそまさに理想のジュリエットです。
姫川亜弓さん以外のジュリエットはもう考えられません」
シェイクスピア研究で有名な村瀬竹彦教授

「亜弓は自分のジュリエットを生み出した。完璧な演技だ。
彼女は天性の女優だ、亜弓に会えたのは幸運だ」
パントマイム指導のマルセル・モーリア氏

「娘はすでに女優として私を超えましたわ」
母親の大女優姫川歌子さん

そしてインタビューに答える亜弓

「すでに再演が決定したそうですがどうですか今のお気持ちは?」

「まず指導してくださった先生方に感謝いたしたいと思います。」

「シェイクスピアへの挑戦かと騒がれたこの劇、
ご自分ではどうお思いですか?」

インタビューアーの質問を鼻で笑う。

「私が挑戦したのは昨日までの自分自身です。
勝つことができてうれしく思っています。」

「亜弓さん・・・
どうすればいい・・・?
どうすれば亜弓さんに近づける・・・?
月影先生・・・!」

不安になり思わず鬼師匠の名を口走るマヤ。
しかし脳裏によみがえるのは姫川亜弓の言葉だ。

「私が挑戦したのは昨日までの自分自身です・・・」

身体中に電撃が走るマヤ。

「自分自身に挑戦・・・
そうよまず戦わなければならないのは自分・・・
昨日までの自分に挑戦して勝てれば明日への一歩が踏み出せる・・・
そうよ・・負けるもんですか!
まっすぐ前を見つめて歩いて行こう!
亜弓さん・・・なんて大きなライバル・・・
そしてなんて素晴らしいライバル・・・亜弓さん!」

例のごとく自己完結し前をむくマヤであった。

というわけで今回。
「挑戦したのは昨日までの自分自身」という亜弓。
まさに至言である。
「まず戦わなければならないのは自分」という
それを受けたマヤの言葉も相まって、
日常を生きるおっさん自身にも投げかけたい。

しかし何故かタイミング的に、
「北島マヤが一人芝居をやってるから私もやってみた」
みたいなマヤへの対抗意識を感じてしまう。
もちろん亜弓の自身への挑戦と、
それに打ち勝った努力と結果は否定しないが、
結局戦っているのは挑戦しているのはVSマヤなんちゃうかと思ってしまう。
言葉では自分自身を強調し、マヤのことを歯牙にもかけていないようだが、
結果行動はマヤへの挑戦とも受け取れる。

一方のマヤは、口では亜弓をライバル視し、
亜弓の存在の大きさに打ちのめされるものの、
なんかのきっかけでメンタルを切り替え、
自分自身との戦いに自身を引き込んでいく自己完結能力をもっている。
その辺り対照的である。

しかし久々の登場にも関わらず、マヤにも瞬時に忘れられた桜小路くん。
演劇界の誇る期待の新星へと出世し、
新しい彼女を読者にお披露目しただけに終わってしまった。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第19巻・100万の虹(1)