【ネタバレ注意】ガラスの仮面第20巻その⑦【実力の世界はいいわ・・・!】

      2019/07/06

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というわけで姫川亜弓のとある一日と過去を語るシリーズ。

AM8:00に運転手付き自家用車に乗り出発。
運転手さんの再確認によると
学校にて卒業諸所をもらう、
劇団オンディーヌに青年部移籍の手続きとロッカーの撤収、
父・姫川貢監督が泊まり込んでいるスタジオへ着替えを届ける
とのことである。
いかに有名人とはいえ女子高生の休日とは思えない地味さが拭えない。

そして亜弓自身、父のスタジオを訪問するのは久々であった。

「そうよ。そこでわたしは自然に演技することを覚えたのよ・・・
スタジオの中は楽しかった・・・
誘われるままパパの映画に二本出てでもその頃はまだ遊びだった。
女優になろうなんて思いもしなかった・・・
そう・・・あのときまでは・・・」

AM8:30 聖華学園到着。
起床から30分で支度をし、豪華な朝食を食べて家を出たかと思いきや
移動時間も車で30分、学校が遠いのだろうか、
姫川亜弓の時間の使い方がおかしい。

職員室では春休みの中、先生が卒業証書やアルバム、記念品を渡すために待っていた。
そして成績表。日々演劇に打ち込んでいるにも関わらず、
三年間学業成績はトップクラス、最後の期末テストは全校一位。

「生まれつき頭がいいのかしらね?
それともガリ勉の方?」

「きっとガリ勉のほうですわ。」

「冗談はおよしなさい亜弓さん。演劇の方で忙しいあなたが笑」

「卒業式に出られなくて残念でしたわ。修学旅行にも行けなかったし・・・」

「まあ、あなたでも卒業式や修学旅行を気にするの?」

「え?」

「あら・・・いえあなたは普通の少女とは違うと思っていたものだから!
ちょっと意外な気がしただけよ。なんだか・・・あなたって・・
そうね・・・特別な少女って気がするのよ。」

まあ父は大監督・母は大女優、しかも超がつくほどの金持ちで美人。
特別であることには間違いない。
しかしそれは姫川亜弓にとっては禁句であった。

「以前にもそんな風に言われたことがあったっけ・・・
小学校に入って間も無くの頃だったわ・・・」

先生には贔屓され、挙手すれば当てられる、
宿題も褒められる、音楽の時も一人でピアノを弾かされ、
絵もいつも張り出される。有名人の子だからとクラスメイトからも色眼鏡で見られていたのだ。

「何をしても自分の実力だと認められたことはなかったわ・・・」

前回5歳にして親の七光りを思い知ったかと思いきや、
小学校一年生にしてこの世が実力社会でないことを悟る。
相当に屈折しているという点においても特別な少女である。

そして極め付けは運動会。選抜リレーに出場。
亜弓のチームは最下位で、アンカーを務める亜弓がバトンを受け取った時は最後尾であった。
しかしここで亜弓の類い稀なる才能が発揮される。
負けん気を発揮すると驚異の速度で猛追。
最下位から一気に四人抜き。見たところ男子も含まれている。
そしてあと一人でトップだ。
ちなみにトップを走る走者は、日常亜弓を中傷しているやつだ。
亜弓を応援するチームメイト達、しかし獲物を前に転倒、
トップとの差は10数mと思われる。
しかし立ち上がった亜弓。

「走るのよ!自分の力!そうよこれは自分の力!」

なんと抜き去りトップでゴールインしたのだった。
最下位から5人抜き、しかも転倒して大差がついていたにも関わらず。
小学生のリレーなのに、一体アンカーは何メートル走っていたのであろうか。

そして誇らしげに1位の旗を握りしめる亜弓。
かつて彼女を中傷していた連中はもう何も言わなかった。

「そう!あの時はじめて自分の実力が認められたんだわ・・・!」

亜弓にとって初めて、親というアドヴァンテージを借りずに勝利した瞬間であった。

「実力の世界はいいわ・・・!本当の自分が認められるから!
パパやママがどんな名前で何をしていようと関係ないわ!
自分だけの実力を認めてくれる・・・!」

実力の素晴らしさを知った亜弓は、勉強もお稽古事も
なんでも全力で取り組み勝利する子になったのであった。
もちろん本当の自分を見てもらいたいがために。

学業成績は学年トップ、ピアノコンクールは金賞、
書道一級、バレエ発表会では主役。
次々と同級生達を驚かせて行く。

 

そんな折である。

「映画にはもう出たくないというのかね?亜弓」

「ううん、そうじゃないわパパ。
お芝居やるならちゃんとお稽古してやりたいと思うの。
その方が上手にお芝居できるでしょう?」

「じゃあ劇団の研究所にでも入るか?」

「研究所?」

「お芝居の稽古をするところだ。
劇団オンディーヌと言ってね、研究所では一流だ。」

 

AM9:00 過去の自分語りを終えた亜弓は劇団オンディーヌに到着。
聖華学園に到着したのが8:30、
30分で先生と話し、卒業証書をもらい、
移動しながら自分語りでオンディーヌに移動。

学校とオンディーヌが至近距離なのか、
それとも本当の自分を見てくれない先生との会話はそうそうに切り上げたのか。

劇団に到着すると無数の研究生たちに取り囲まれる。
児童部から青年部への移籍を悲しむもの、
亜弓に憧れていたもの、共演を熱望していたものなどなど。
彼ら彼女らにとっては憧れの女優であり先輩でありスターである。

そして青年部への事務手続きを終えるとそこには小野寺理事長が。

「やあ亜弓くん、いよいよ青年部だね。
明日からは原宿の稽古場だな。
早いものだな。君がお父さんに連れられてここへ来た時は・・・」

「小学三年生でした。」

「そうそう、もう10年近くもここに通ったわけだ。
さぞ思い出が多いことだろう。
初めての研究発表は・・・たしか入団して間も無くの頃だったね。」

「ええ、半年後でしたわ。」

「どんな芝居だったかな?」

「赤いマント」

「君の役は?」

「主役のエマでしたわ」

「入団して半年後に主役を?」

「ええ、覚えてらっしゃいませんか?
配役発表があったあと、随分他の人たちに中傷されましたわ。
入団して半年後に発表会に出られるだけでも特別待遇なのに主役だなんて
先生方のえこひいきだって、父と母の陰の力だろうって噂されましたわ。
ロッカーに砂を入れられたり、稽古着を水で濡らされていたこともあるんですよ。
稽古中以外は口も聞いてもらえなくて私村八分にされていたんですよ。」

さぞ多いであろう思い出の筆頭がこの悲しい思い出である。
そしてこれを小野寺先生に語る意味もわからないし、
有名人の両親を持つ小学校三年生の金の卵に
10年前から得意の政治力を発揮し、贔屓していた小野寺先生の姿が目に浮かぶようである。
しかし本人はそれを覚えていないという・・・

「だからこそ絶対にやりぬこうって決心したんだわ・・・!」

稽古場で仲間外れにされながらも台本を熟読する亜弓。

「パパとママの影の力のせいなんかじゃない!
先生が私のこと認めてくれたから主役にしてくれたんだわ!
そうよ実力を買ってくれたのよ・・・!
パパとママのせいなんかじゃないわ!」

小学三年生の言う言葉ではない。
そしてありったけのエネルギーをぶつけて稽古に打ち込む。
中傷していた連中が引くほどまでに。

「わたしはわたしよ!姫川亜弓・・・!
舞台の上ではパパもママも関係ない!
自分の力だけ・・・!」

結果舞台は大成功。観客はスタンディングオベーション。
小野寺先生大喜び。

「みんな亜弓のこと認めてくれたんだわ。
あの時のリレーの時みたいに・・・
演劇・・・実力の世界・・・
いつかママを超えられるかもしれない・・・!」

この時から亜弓は演劇が大好きになって行くのである。

ある夜のこと、姫川邸を訪問した小野寺政治家と両親の会話を耳にした。
主な話題は行方不明の月影千草と、紅天女後継者および上演権んの話題であった。
かつて月影先生に師事していた母・歌子さんも
紅天女への並々ならぬ執着を持っていたのだ。

「ママ紅天女って?」

幼い亜弓に説明する母

  • 演劇界幻の名作と言われるお芝居。
  • ママの先生でもある月影千草というかつての名女優が演っていた
  • 主人公の紅天女は梅の精で大変難しい役
  • よほどの名優でなければできないと言われている
  • この役をやるのは日本一の名女優と言われるのと同じ大変な名誉

「もしそれを私が演れるようになったら・・・!
人はもう誰もパパとママのことなんていわなくなる・・・
パパとママの名前の陰から抜け出せる・・・
女優を目指そう・・・!
いつか紅天女を演れるような女優になるんだわ・・・!」

という極めて屈折した不純な動機で女優を目指した過去。
そして父のいる撮影所に着いたのはAM11:00であった。

 

というわけで、姫川亜弓の一日とヒストリーだが今回も濃い。
家を出てから三時間しか経っていないのに盛り沢山である。

姫川亜弓、どこからどうみても特別な少女である。
しかし本人はそう思われることを嫌う。
学校で先生の忖度があったであろうことは間違いないし、
子役ながら父の映画に出演したのも特別である。
本人の努力があったとはいえ、オンディーヌに入れたこと、
そしていきなり主役をやったことなどは間違いなく親の力であり、
そのあとの活躍も両親の力無くしてはあり得ない。
そして異常なまでの俊足も特別な能力である。

彼女には取り巻きはいる。しかし友達はいない。
修学旅行や卒業式に参加したところで、たいした思い出にはならんだろう。
劇団オンディーヌの研究生たちは一見亜弓を慕っているようだが、
彼らは、女優としての亜弓の実力や美貌を慕っているのであり、
亜弓の人間性を慕っているというエピソードはない。
むしろ嫌味で攻撃的な側面が目立つ。

しかし小学校入学早々、実力の世界を志向したにも関わらず、
もっとも縁故や人脈の持つ力が強いであろうと思われる芸能界に、
そして自身が忌避する両親の力がもっとも働くであろう芸能界に、
なぜ彼女は身を投じたのであろうか。

姫川亜弓、知れば知るほど、哀しい人である。

つづく。

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