【ネタバレ注意】ガラスの仮面第20巻その⑧【本当の天才は・・・】

      2019/07/13

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AM11:00 左巻映画撮影所到着。

「そうじゃない!何度言ったらわかるんだ!
 それでも演技してるつもりか!このうすらとんかちめ!」

第3スタジオでは、姫川監督の熱血演出が炸裂している。
演者だけではなく照明さんはじめスタッフにも悪態をつくなかなかの大監督。
このパワハラぶりには流石の姫川亜弓も閉口だ。

「もう昼か!よし!15分の休憩!
 大急ぎで飯を食ってはじめからやり直し・・・
 亜弓ー!」

「ごきげんようパパ。
 着替えを届けに来たのよ!」

「そうかそうかお前がわしの着替えを届けに・・・
 昼飯は食っとらんだろ?どうだ一緒に?」

「ええ」

「1時間半の休憩にする解散!」

 

そしてPM0:00
地中海レストラン「エーゲ海」にて豪華な昼食。
父親の身なりを心配する亜弓。
なんでも仕事に入ると身なりをまったく構わなくなり、
顔も洗わず風呂にも一週間入らず、
スタジオの仮眠室で起居する生活。

「そうそうお前今日の予定はどうなっとるんだ?これから」

「夕方にママの舞台稽古を観に行くつもりだけれど」

「亜弓、赤松君を覚えとるか?わしのところでカメラ回していた・・・
 彼が今度プロの写真家としてデビューしたんだ。
 銀座のQ画廊で写真展が開かれとる。
 招ばれているんだが忙しくてな」

「わかりましたわたしがいけばいいんでしょ。パパの代わりに。」

プロの映画カメラマンがプロの写真家に転身。
やはり姫川監督の熱血演出に疲れてしまったのだろうか。

「じゃあ赤松君によろしくな。」

「ママに何か伝言は?」

「愛していると言っておいてくれ」

「パパったら・・・
 じゃあ体に気をつけて頑張ってね」

「ありがとうお前も達者で暮らせよ
 次の再会を楽しみにしとるぞ。」

日常なかなか見せないフランクな笑顔の亜弓と
普段はダンディーな姫川監督のニヤケっぷりがほほえましい。

 

そしてPM2:30 銀座Q画廊に到着。
赤松剣さんの写真展が開かれている。

と言うことは撮影所到着から2時間半、
レストランから銀座までの移動に1時間かかったとしても
父と別れたのが1:30。
姫川監督は娘に会えた嬉しさに2時間近く休憩を入れてしまったのだろうか。

そしてカメラマンの赤松剣さん。
温和な印象で会話も当たり障りない人。
とても撮影所には不向きそうな人である。

「やあ亜弓さんじゃないか!」

「堀口さん!」

画廊で出くわしたのは俳優の堀口武士さんとやら

「元気そうだね。今度大学なんだって?
 早いもんだなあ。初めて君と共演した時は
 君はまだ確か11だったね。」

どうやらかつて映画「ゼロへの逃走」で共演したらしい。
堀口さんが主役の誘拐犯役、
そして姫川亜弓が誘拐される金持ちの令嬢役であった。

堀口さんは最初姫川亜弓にあった時、綺麗で礼儀正しい少女で、
人気女優と大監督の娘ということで話題を呼ぶためのキャスティングだろうと思っていた。
有名人の娘の素人を相手するのかとうんざりもしていた。

「いいかい俺は誘拐犯なんだからね。
 本番になったら手加減しないからそのつもりでいてくれたまえ」

「はい。わたしも手加減しませんから。」

そして彼はやがてその意味を知ることになる。
撮影で二人が争うシーン、
逃げようとする亜弓を取り押さえようとして
堀口さんは足を思い切り噛まれたのだった。
そのものすごい表情と目つきに堀口さんは驚いたのだった。

撮影が進むにつれ、亜弓の演技に圧倒され続け、
そして堀口さんは主演男優賞を獲得。
姫川亜弓も特別賞を受賞、そして名子役として評判になり、
出演依頼は殺到してスター街道まっしぐらとなったのだ。
しかし有名人の娘だけに話題作りのためのキャスティングも多かった。

「つまらない役だったわ
 ただ綺麗な服を着て初めから終わりまで笑っているだけでいいような役。
 話題作りのためにわたしを出演させたくて
 わざわざ台本を書き直し出番を作ったんだと聞いたわ。」

かつて華月劇場の出演を断った時だった。
姫川亜弓が出ても出なくても舞台の筋には何も関係がない役。

「わたしこの役をお断りします。
 舞台には出ません。」

「ど、どうしてかね?何が気に入らないんだね?」

「今度学校の学芸会に出ることになったんです。
 だからこの舞台には出られません。」

色めき立つマスコミ
驚きと怒りの関係者。

「君は華月劇場よりも学校の学芸会の方がいいというのかね?」

「だってこちらの芝居に出た方がおもしろそうなんですもの。
 主役だしやりがいのある役なんです。
 宣伝のためにだけ舞台に出るなんてい私は嫌。
 やりがいがあって気に入った役の方を演りたいと私思います。」

この伝説には続きがある。
マスコミによりこの話は宣伝され、
学校の学芸会は超満員、取材記者含め学校の周りには一万人近い客が集まり
皮肉にも姫川亜弓の名を高めたのだった。

そしてさらに出演依頼は増える。
しかし余程気に入った役でなければ引き受けない。
その代わり引き受けた役は完璧なまでに見事な演技をする。
これまで姫川亜弓の演ったものでどれひとつとして不評はなく、
全て完璧にこなしてきたのであった。

以上は堀口さんによる回想と証言である。
姫川亜弓伝説を語る役割のためだけに
わざわざ画廊に足を運んだ堀口武士さんありがとうございました。

「北島マヤ・・・今頃あなたはどこで何をしているの・・・
 わたしのライバル・・・このわたしのただひとりの・・・」

 

そしてPM6:00 日帝劇場から自宅の梅乃ばあやに電話。
母・姫川歌子さんの稽古を見学に来たのだ。

  • 今夜8時ごろに帰ります。
  • 夕飯は家で食べるから用意しておいてね。
  • ママは今夜も夜中まで稽古で、渋谷のパパのマンションに泊まるかもしれないって
  • 亜砂路のチーズケーキを買って帰るわ。ばあやも好きでしょう?
  • 美味しい紅茶を用意しておいてね。クイーンメリーがいいわ。

矢継ぎ早にばあやへ状況報告と夕食並びにケーキタイムの指示が。
ちゅうか、紅茶は家に帰ってからの指示でもええやろ。
そして渋谷のパパのマンション。
かつて、奇跡の人で親の七光りを嫌い家を出た時は中野のマンションに住んだ。
中野にも渋谷にもマンションがあるのに、スタジオの仮眠室で起居する姫川監督。
しかし奥さんの姫川歌子さんも突然宿泊するようで、
監督が愛人を囲っているとかではなさそうで少し安心した。

「もう幾度となくこんな日を過ごしたかしら・・・?
 パパやママとは家の中よりスタジオや稽古場で会っている時の方が多かった・・・
 それも大抵はこうやって別々に・・・
 それでもパパやママが強い信頼感で結ばれているのがわかる・・・
 だから安心して互いの仕事に打ち込めるんだわ・・・!」

そして稽古場をさる亜弓。

「あ、そうだパパから伝言があったの。
 愛しているって・・・!」

「言われなくてもわかっているって伝えておいてちょうだい。
 今朝はオルゴールの目覚ましをありがとう。」

なんてオシャレな親子やねん。
そしてどさくさに紛れて伝言を担当させられている。

「ママの憧れていた紅天女・・・今私がその後を継ごうとしている・・・」

ライバルの北島マヤが二年以内に芸術大賞か最優秀演技賞を取らなければ
紅天女の座も、上演権も姫川亜弓のものとなる。
そして二年以内にマヤが賞を取ればその時は紅天女を姫川亜弓と競うことになるのだ。

「マヤ!待っているのよわたしはあなたを!
 あなたと競える日を!私のライバル!
 立場も境遇も全く違うのに
 あなたはきっと他の誰よりも私の魂の近いところにいる・・・」

これまで演劇も勉強も稽古事も全てにおいて努力を尽くしてきた姫川亜弓。
人はその結果だけを見て褒めてくれるが、
その彼女の手の豆や血の滲んだ足の先を知らない。
そして努力すれば自分の力を発揮できると信じて生きてきたのだった。

「演技の天才少女・・・姫川亜弓・・・
 私は努力して人の言う天才になっていたに過ぎないわ・・・!
 本当の天才は・・・北島マヤあの子・・・!
 だからこそ私はあの子と競って紅天女をやりたいのよ!
 なんとしてもあの子に勝ちたい・・・!
 そうでなければ紅天女も何の意味もないわ・・・!」

マヤへの思いを胸に自家用車で帰路につく。
偶然にもその脇を、つきかげや一角獣のメンバーと共に歩いているマヤがいたのだった。

「今頃ばあやが首を長くしておかえりをまってますよ」

「そうねチーズケーキには目がないんだから!
 私の夕飯とクイーンメリーを用意してね。」

最後の最後まで紅茶へのこだわりを捨てず。
PM7:30、自宅へと向かっていった。

 

ちゅうわけで姫川亜弓の1日とヒストリーシリーズ完結。
今回浮かび上がってきたのは、姫川亜弓は家族や使用人にしか見せない一面があると言うことだ。

普段は言うなればお高くとまっている嫌味なイメージであるが、
両親からはあふれる愛情を受け、そしてあふれる愛情を返している。
梅乃ばあやに対してももはや血縁並みの愛情を注ぎ、
運転手さんにも普段見せないような優しい笑顔を見せている。

裏を返せば、世間の持つ姫川亜弓のイメージへの反発とも取れる。
本人は両親の七光り、特別な少女、天才と呼ばれることを嫌い、
あくまでも努力をして生きてきた。

しかしながらここまで円満かつ恵まれた家族はそうそうない。
そして両親が有名人でなければ、学芸会のために有名劇場の出演を断ることなどできるわけがない。
何の縁故もない子役であれば、業界から干されること必至である。

しかし姫川亜弓はどうなりたいのだろう。
これまで努力をして実力を発揮し、名声を高めて生きてきたことはわかった。
そして自分が天才ではなく、本当の天才は北島マヤであるともいっている。
さらには「マヤに勝たなければ紅天女など意味がない」といった旨の発言をしている。
月影先生が聞いたら激怒間違いなし。

結論実力主義であることは間違い無いのだが、
天才ではなく、親の七光りでもなく、
努力で今の実力を築き上げてきたということを知らしめたいだけなのだろうか。
目に見える結果だけではなく、その過程も評価してほしいのだろうか。
考えようによっては、ただの「かまってちゃん」でもある。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第20巻・100万の虹(3)