【ネタバレ注意】ガラスの仮面第21巻その⑧【みていてくださいあたしを・・・】

      2019/11/02

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「真夏の夜の夢」初日。
開演3時間前に集合したメンバーは野外ステージと客席の清掃を行い、
舞台の設営を行なった。

そして開演一時間前、もはや自動的にリーダーとなった堀田団長の檄が飛ぶ。

「開演まであと一時間だ!
 この三日間俺たちは自分達の実力をここで試されるんだ!
 今日の芝居がつまらなかったら後の二日間はないものと思え!
 今日見に来た客に明日も見たいと思うような芝居をするんだ!」

地下劇場からの飛躍を期すため野外ステージに打って出た
上昇志向の塊の堀田団長。彼を中心に意気上がるメンバーたち。
しかし果たして500人もの客が集まるか、不安がないわけではない。

そんな中、麗がふと目をやると、仲間から外れた位置でよそを向いているマヤ。

「ほら・・・風が吹くたびに木の葉のざわめきが聞こえるの。
空気をかぐとね、木や草の匂いがするの。
なんていい気持ち・・・こんな自然の中でお芝居できるなんて。
妖精パックを演れるなんて・・・」

堀田団長の檄を無視しているかとも思えるマヤの発言に静まる一同。
マヤの特技とも言える「人の話を聞かずに、自分語り」である。

「そうだな・・・俺たち成功することばかりに気を取られて
芝居する心っていうものを忘れていたよ
風の音に葉ずれの音か。俺たちは今真夏の夜の夢の森の中にいるんだ。
今は芝居のことだけを考えよう。
たとえ客の数がここのベンチの数に満たなくても
俺たちが芝居を楽しんで一生懸命やったという充実感があればそれでいいじゃないか。」

さすが堀田団長、節々でいいこという。
そして団長の檄を無視して自然に溶け込んでいたマヤへのお咎めは無し。

「マヤ・・・わたしはときたまあんたがこわくなる・・・
開演を控えた役者っていうのは大抵緊張して神経がいらだってるもんだ・・・
それを風の音を聞いていただって?
木の葉のざわめきが聞こえるのだって?
大した子だよマヤ。もうしっかり舞台の本質をつかんでるじゃないか。
なんという天性・・・」

一番付き合いが長い麗すらうならせるマヤの天性は非常識すらも吹き飛ばす。

そして開演前現れたのは聖さん。

「これを・・・彼の方から今日の舞台のお祝いにと・・・」

「紫のバラ・・・ありがとうございます!
紫のバラの人はどうして今日の舞台のことを?」

「新聞でご覧になって・・・あなたにがんばってくださいと・・・」

仕事とはいえ大ウソをつかざるを得ない聖さん。
その新聞に掲載されるよう仕向けたのは名前を言ってはいけないあのお方である。

「紫のバラの人は今日は見に来てくださるのかしら・・・
堅いベンチが椅子がわりのこんな野外ステージだけど・・・」

やはり野外ステージの劇を若干見下している様子。

「いらっしゃいますよ。
彼の方はきょういらっしゃいますよここへ。
あなたがどんなパックを演じるのだろうと
とても楽しみにされていましたからね。」

「くる・・・紫のバラのひとがくる・・・
今日ここへ!あたしを観に・・・!」

さっきまで散々緊張のないマヤを麗が絶賛していたのに
途端に緊張で足が震えるマヤ。

「ありがとうございます。
あたし一生懸命やりますからって伝えてください。
あなたひとりのためだけにでもあたし演技しますって!」

「・・・・わかりました・・・・」

その言葉を聞いた聖さんはなぜか口ごもり、青ざめているのであった。
マヤを騙し続けていることに良心の呵責を隠しきれないのであろうか。
スパイのくせに。

 

公演一時間前、なんと野外ステージのベンチには人が集まり始めていた。
さっそく椅子を巡って場所取りが始まっている。

「大変です!支配人!
例の野外ステージ、すでにもうベンチは満員です!」

「なに!?ば、ばかな・・・
まだ開演一時間も前じゃないか・・・!」

「それがすでにもう・・・
さらに人は増え続けているんです・・・!
しかも彼らが地下劇場でやっていた時のファンなども大勢いて
この調子では開演の頃にはどれくらいの人数になるか見当も・・・」

顔面蒼白となる支配人。

そして劇団つきかげぷらす一角獣
「真夏の夜の夢」初日開演。

総観客数1400名あまり
定員の三倍弱。
想像をはるかに超える客の入りに驚く一同。

ベンチは開演一時間前には満席、
通路や地面は座り込む観客で埋まり、
さらいその二倍近くの観客がステージを取り囲むように集まっていたのだった。

「紫のバラのひと・・・
この人混みの中のどこにいらっしゃるんですか?
この中のどこかにいらっしゃるというだけでもう十分です。
それだけで勇気が出ます・・・」

そして登場した速水真澄。
芸能界の大物の出現にざわめく取材陣。
同伴は劇作家の日向英治氏。
昨年演劇協会の戯曲賞である菊川賞をとった有名作家である。

「いいか!今日の舞台俺たちの実力が試されるんだ。
座っている客より立っている客の方が多い!
ということはだ。少しでもだれた芝居をしたら観客はさっさと立ち去るってことだ。
芝居が終わった時一体何人の観客が残っているか
それで俺たちの実力と評価が決まると言っていい。」

開演直前に一同に檄を飛ばす堀田団長は早速芝居を楽しむ心を忘れてしまったようだ。

「いよいよだな。まず始めにチャリティー公演の挨拶だ。
うまくやってくれ!頼んだぞマヤ!」

「紫のバラの人がいる・・・この中のどこかに・・・
みていてくださいあたしを・・・」

いきなり個人的な心情で芝居望むマヤ。ええかげんにしろ

そして鈴の音とともに、劇団一角獣のアクション軍団を従え
口には紫のバラを一輪くわえ登場したマヤ。
その呼吸には劇作家の日向先生も目をみはる。

「本日は劇団つきかげぷらす一角獣のこの野外ステージへ
ようこそのお運びありがとうございます。
今宵一夜の真夏の夜の夢
おいでの皆様に楽しい夢をお見せするつもりでございます。」

チャリティー公演の主旨と寄付金について説明し終わると
手にした紫のバラを客席に放り投げる。

「観ていてくれましたか?紫のバラの人・・・
今のはあたしからあなたへのメッセージです。
感謝を込めて。
せめてそうすることで、あなたのお心に触れたかったんです。
あたしの気持ちが少しでもあの方に通じてくれますように・・・!」

初っ端から個人プレーに走るマヤ。
そして若干震える速水真澄。彼の心には触れるどころか深く突き刺さった模様だ。

「うまいぜさすがマヤだ!客の呼吸をよく心得ている・・・
初っ端からぐっと気持ちを引きつけてしまった!」

初っ端から個人プレーに走って、速水真澄の心を引きつけたにも関わらず
舞台袖ではテンション上がる団員たち。かわいそうだ。

そして第一幕第一場。
登場したのは大公役の細川悟と婚約者役の田部はじめ。
全国大会以来のつきかげの同志であるこの二人。

「さて!美しいヒポリタ・・・」

女装した田部はじめの出落ちにも等しい演出で場内爆笑。
なかなか得難いキャラクターである。

つづいてライサンダー役の青木麗登場。
彼(彼女)を初めて観た観客はその男前ぶりに熱狂する。

「麗!頑張ってーー!」
「あたしの麗さまー!」

地下劇場以来の熱狂的なファンからの黄色い声援。
そして声援に手を振って応えるとさらに熱狂する客席。
地下劇場のアイドルここにありである。

さらに恋人ハーミア役の水無月さやかも登場、
極め付けはスケバン風の出で立ちに鞭を右手にくわえタバコ、
SM女王様のような風貌で現れたのはヘレナ役の二の宮恵子。
村人たちの登場シーンは東京音頭
意外な演出とキャラクターだが観客の心を惹きつける。

劇作家の日向先生も無名ながらも実力を備えた彼らの演技に魅入られ
次なる展開を期待し始めていた。

そして第一幕終了。
いよいよマヤの出番が始まろうとしていた。

 

というわけで今回。
大掛かりな宣伝活動が功を奏し、予想以上の集客に成功した一同。
芝居の滑り出しも上々で、つきかげプラス一角獣の実力者と人気者を投入し、
客席は徐々にあったまっていた。
彼らの実力、努力のたまものである。

それにしても許せないのはマヤである。
ここまで一同が心血注いだ舞台を
「こんな野外ステージ」と見下し、
堀田団長の熱い檄を無視して風の音を感じている。
団長も納得している場合ではない。

リーダーないし上司がプロジェクトを前に一同を鼓舞しているときに無視するなど
普通の組織では許されたものではない。

これからみんなで西新宿の高層ビル街で営業活動を頑張ろう!となっているときに
「コンクリートジャングルの音を感じていたの」とか抜かすアホがおったら間違いなくしばき倒される。

そして極め付けは冒頭。
舞台の主旨を説明し、かつ芝居の成否を握るオープニングに
完全に個人的な感情を乗せてしまうあたりチームプレーを無視した言語道断な行いである。
そしてチャリティー公演とは言い難い。

ラグビーW杯でニュージーランド代表オールブラックスが
実は「今日の試合後は寿司でも食べるか」なんて想いを乗せて
「ハカ」をやっていたとしたらとても残念だ。

それにも似た行為を行なっているのである。
天才という名の下に。

つづく

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第21巻・100万の虹(4)