【ネタバレ注意】ガラスの仮面第22巻その②【パパンがパン!】

      2019/11/23

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劇団つきかげプラス一角獣「真夏の夜の夢」
彼らの芝居は多彩多様である。

演出は一角獣テイストのドタバタや笑いをベースに
斬新な登場やエッセンスを盛り込んで観客を引きつける。
しかしかといって笑いばかりに流れるだけでなく
ベースにあるのは演技力。
伝えるべきところは伝え、シリアスな場面ではしっかり演じきる。
野外公演を始めてみる観客はもちろん、
これまで地下劇場から彼らを追い続けてきたファンをも飽きさせない。

恋人同士を演じる青木麗と水無月さやかの芝居には
地下劇場アイドルのおっかけファンが嬌声をあげる。

さらには意外な登場。
野外ステージの屋根から足先だけで逆さ吊りのマヤ。
腹筋で屋根の上に上がると3M近い屋根から飛び降りた。

「飛びやがった、こんなの始めの予定になかったぜ」
「柱を伝って降りることになってたのに・・・・」

舞台袖で呆れる一角獣メンバー。
子供達からはパックのアクションに大喝采。
運動音痴は本番でアドレナリンが出まくってアクションしまくる。
子供達の心をがっちり掴んだパック。

「大変な人気ですなあのパックは」
笑顔で見守る日向先生。

「ははは・・・」
ただ笑うだけの紫野郎も心をがっちり掴まれている。

「マヤちゃん・・・!」
桜小路優のセリフの7割は「マヤちゃん・・・」なのではなかろうか。

 

舞台上では劇団一角獣のヒロイン、二の宮恵子さんのシリアスな芝居が笑いを呼ぶ。
これも劇団一角獣テイストであろうか。

ラインダンスあり、漫才あり、バレエあり、歌あり、
正統派のシェイクスピア作品をここまで盛り上げる彼らの実力に
観客は大いに笑い、取材に来た報道陣は舌を巻き、
そしてアテネ座の支配人はただただ肩を落とすだけであった。

舞台は大団円を迎える。
マヤ演じるパックの合図に合わせて照明が落ちる。
魔法のような演出にわく観客。
神出鬼没なマヤの動きに魅了され、大歓声が上がりフィナーレを迎えたのであった。

「ごひいきのおしるしに、お手を拝借
 はい、パパンがパン!パパンがパン!」

終わりを告げた真夏の夜の夢。
最後はマヤの謎音頭による手拍子で舞台と客席が一体となった。

「なんと観客の呼吸の掴み方のうまい少女だ。
 完全にペースに乗せられてしまう・・・
 天性ですかな・・・見事なものだ・・・」

さすが菊川賞作家、マヤの芝居の本質が天性のみであることを見抜いている。

「ついにただの一度も歩かなかった・・・
 飛んだり跳ねたりパックの足取り・・・
 マヤ、全くなんて少女だ君は・・・」

「紫のバラのひと・・・
 見ていてくださいましたか?あたしを・・・」

そしてこれだけ観客の呼吸をつかんでいるにも関わらず
日常生活では他人の気持ちを一切顧みず、
芝居の本筋とは全く違うことを考えている天才であった。

終演後、舞台周りではチャリティの寄付金集めが行われていた。

「ああ、紫のバラの人・・・
 この中のどこかに紫のバラの人がいるんだわ・・・
 あの人かしら・・・それともこの人かしら・・・」

終演後も私情しかない。

「名乗らなくてもいい、一言声をかけてください。
 よくやったな・・・ってせめて一言・・・
 そうすれば私わかると思うんです。
 あなただってことが・・・お願いです・・・紫のバラのひと・・・」

意外なことにマヤの周りには人が集まっていない。
あれだけ舞台中は大人気だったのに。

「よくやったな」

「あ・・・速水さん・・・
 それはどうも・・・見に来てくださってるなんて知りませんでした。」

「生き生きとしたとてもいいパックだった。
 君のパックに感激して寄付することにしよう。」

見たところ10万円近くを寄付する。

「間違えるな君にあげるんじゃない寄付金だ。
 上達したな。チビちゃん・・・」

去っていく紫野郎。

「大都芸能の速水真澄がこんな野外ステージの劇を見にくるなんてきっと何かあるぜ。」
「あの男が下心なしに動くなんてありえないものな。」

速水真澄の姿を見た記者たちの感想。
言葉尻から、速水真澄が記者たちにも評判が悪いこと、
日常下心が見え見えであることがうかがえる。
そしてその感想は1つも間違っていない。

「そうよ気を許してなるもんですか。
 あいつのことだわ。きっと何か企んでるに違いない・・・
 でも、紫のバラのひとならこんなふうにいってくれたかしら・・・」

観客の心はつかめても、人の心はつかめない天才。
そしてそんな天才を見つめる桜小路優

「マヤちゃん・・」

また同じこと言うてる。

そして初日の完全敗北に肩を落とすアテネ座支配人。

「このぶんでは明日と明後日アテネ座はがらあきになるな支配人」

「部長!」

「聞けば大と芸能の速水真澄がバックについているとか・・・
 何者なんだあいつら・・・!
 まあいい、三日間じっくり見させてもらおうじゃないか。
 彼らの実力をな。」

支配人の上に部長がいるらしいが、この部長も大したことなさそうである。
三日間じっくり見なくとも伝わる彼らの実力をわかっていなそうだ。

「紫のバラのひと・・いつか正体を明かしてくださいねきっと・・・
 いつかあなたとあえますように・・・」

こうしてチャリティ公演「真夏の夜の夢」は無事初日を終えたのであった。

 

というわけで今回、
ふと思ったことは、速水真澄はあまり芝居を見る目がないのではなかろうかということだ。
今回の真夏の夜の夢ではパックの芝居を見てただ笑っていた。
感想は一度も立ち止まらなかったこと、
かけた言葉は「上達したな」

いや、いいんですよ、別にそれで。
ただの観客なら。

しかし彼は多くの劇場を経営し、
多くの演劇をプロデュースする興行師である。
普通の観客と同じ目線の見方は如何なものか。

企画やプロデュースにかけては人後に落ちない。
大都芸能がマヤを売り出した時のクロスメディア戦略では陣頭指揮を取り、
今回のチャリティー公演の提案も見事であった。
プロデューサーではあるが演出家ではない。
芝居は純粋に楽しみたい人なのだろうか。
とはいえ、仕事でやっていれば仕事柄なりの見方や感想があるはずである。

ラーメン屋さんは、一般人と同じ感覚でラーメンを食べることはできないだろうし、
映画監督は純粋に映画を楽しむよりも前に、演出やら芝居やらが気になるだろう。

そういえばマヤの芝居を観るときはいつも
他の観客と同じように惹きつけられたり、大笑いしたり、
マヤの動きにドキッとしたりしている。
仕事柄舞台や芝居は散々見ているだろうに、意外とピュアなのか。

そしてマヤの最後の手拍子の音頭。

「パパンがパン!」

なんじゃそりゃ?

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第22巻・100万の虹(5)