【ネタバレ注意】ガラスの仮面第22巻その③【下心は何もない】

   

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「真夏の夜の夢」第二日目
昼の3時ごろから人が集まり出し、
開演時には前日を大きく上回る2000名あまりの観客が野外ステージ前を埋め尽くした。

第三日目
kankyakusuu2500名あまり
集まった新聞・雑誌記者15名。

三日間で得た寄付金総額は500万円を越した。
新聞雑誌でも好評とともに紹介された。

 

「アテネ座の支配人・広瀬だが
 君たちに正式に出演依頼をしたく・・・」

ようやく広瀬という名前が判明した支配人。
電話口のその表情はとても悲しそうである。
勝負に敗れたとはいえ、絶大な集客力のある劇団を確保できるチャンス。
この人は本当に仕事の才能がない。

そして出演依頼にテンション上がる堀田団長はじめ劇団メンバー。

「あの人の言った通りだな・・・速水さんの・・
 言う通りにしなかったら新聞にも紹介されなかったろうし、
 野外ステージにあんなに人も集まらなかったろう・・・」
「この劇評してくれた日向先生だって速水さんが連れてきてくれたっていうぜ」
「アテネ座に出られることになったのもみんな速水さんのおかげだ」

口々に速水真澄の手腕を褒め称える劇団員たち。

「速水真澄・・・
 なんの下心もなく動く男じゃないわ・・・
 いったいなんのために・・・?」

さすが付き合いの長いマヤは疑ってかかる。

しかしそう簡単にはいかなかった。

「ええ!?最低300万円の資金がいるって!?」

  • 宣伝費や音響照明さんたちへの支払いだけでもそれくらいにはなる
  • 舞台セットなどアテネ座の品位を落とすようなものにしてもらいたくはない
  • 資金がないのなら出演は無理だな

冷たく現実を突きつける広瀬支配人。
チャリティー公演とはいえ500万円の寄付金を集めた実力派劇団に対してこの仕打ち。
ことごとく仕事の才能がない。

そしてもちろん大都芸能の仕事の鬼はこの機を逃さない。

「今までのデータではあの連中は劇場に出られる資金もないはずだ。
 ことは運びやすいはずだ。うまくやってくれ。」

「はっ」

一角獣とつきかげの資金データまで持っている大都芸能。
そして社長の密命を受けた
大都芸能制作企画部主任・田村一也氏。
地下劇場を訪れるとメンバーに、大都芸能の制作を打診するのだった。

  • 君たちの芝居を見ていた劇作家の日向英治氏が次の舞台にぜひ君たちを起用したいとおっしゃるんだ
  • 知っての通り日向先生は菊川賞を受けられて今注目の劇作家だ
  • 今度の脚本はその第二作目でマスコミも注目されている
  • 君たちのような実力はあるが世間にまだあまり知られていない若手劇団にはぴったりだ
  • 大都が政策を請け負うと言うのであればアテネ座も安心するだろう
  • 考えても見たまえ。資金の心配もいらないんだ

「速水真澄・・・あの男あたし達に目をつけていたんだわ・・・」

間違いではないが、自分中心に世界が回っているマヤの感想である。

「待ってください!なぜ大都のような大きなところが僕たちを使いたいって言うんですか?」

「最近は若手の演劇集団が従来の演劇界の型を破って次々と独自の個性を伸ばしてきている。
 多くは無名に近いがそのエネルギーはあなどれないものがある。
 成功している劇団はそのヤングパワーで大手の伝統ある劇団を圧倒するほどの観客動員率を示している。
 観客も大半は若者だけあってその熱狂ぶりはすさまじい・・・」

主任の田村さん、速水真澄に一任されるだけであってなかなか饒舌である。
「うまくやってくれ」という投げっぱなしの指示だけで
ここまで現状を語り、彼らのプライドをくすぐるトークはなかなかできるものではない。
速水真澄よ、これでもお前の周りは機嫌を伺う狸ばかりというのか。

「大都でもこういった演劇集団を育てたいと考えていたんだよ
 どうだ?君たちを我々にプロデュースさせてはくれないかね?
 スタッフは一流陣を揃える予定だ。
 照明は古川ひさし氏、舞台装置は重盛高史氏に頼むつもりだ。
 それに大都の宣伝力は知っているだろう?
 君たちはきっと成功する・・・!」

「すごいや!こんなチャンスめったにないぜ!」

堀田団長の後ろで浮かれる雑魚団員。
しかしさすが堀田団長そんな彼を制し、

「あまりに素晴らしいお話なのでなんだか僕たちには夢みたいで・・・
 少し考えさせてください・・・」

返答を保留するとメンバーの意見を聞くのだった。

「どうだみんな今の話信用できると思うか?」
「下心はなさそうだったぜ」

「そうね本当に私たちを買ってくれてる感じだったわ」

まんざらでもないのは沢渡美奈。恋も芝居も絶好調やな。

「たとえ何か下心があるとしてもこの話俺たちにとって決してマイナスにはならないよ」

誰だかわからん雑魚団員のくせに損得勘定はしっかりしている。
その他の意見も大方賛成。

格式あるアテネ座の劇場、
注目の劇作家・日向英治氏の脚本。
一流の照明スタッフ、一流の舞台美術家、
大都芸能の宣伝力、資金の心配はなし。
さらに成功への後押し。
はっきりいって悪い話はない。
最近参加したであろう名もなき団員はもちろんのこと、
月影千草に将来を嘱望されスカウトされ、上京したにも関わらず、
天才素人にその座を奪われフリーターまがい生活を強いられている劇団つきかげメンバーや、
全国武者修行と称し、アルバイトで資金を貯め公演を打ち、移動するという
罰ゲームのような演劇人生を送ってきた一角獣のメンバーには夢のような話である。

「大都芸能の制作・・・あの大都の・・・
 速水真澄・・・一体何を企んで・・・
 あの男のもとでだけは演技したくないって思っていたのに・・・」

 

思いつめたマヤがやってきたのは大都芸能本社正面玄関。
相変わらずセキュリティという概念がないこの会社。
いろいろ恨まれることも多い若社長は一人で出てくる。
それを待ち伏せするマヤ。
もしマヤが刺客であったなら、速水さんお疲れ様でした。

「これはチビちゃん・・・
 俺を待ってたのか?そろそろ君が何か言って来る頃だと思っていたよ」

「あの・・・今度の大都のお話、あたしききました。」

「それで?」

「速水さん!何か企んでいるんじゃないでしょうね!
 劇団のみんなを陥れるようなことしたらあたし・・・許さないから!」

突然の抹殺宣言に爆笑する速水真澄。
怒るマヤ、からかう速水真澄、なおも怒るマヤ。
そしてそれを遠くから見つめて何かを悟った敏腕秘書。
セキュリティのかけらもない芸能事務所の前で、
社長と元所属女優が痴話喧嘩にも似たトークバトルを演じ、
それを敏腕秘書が見ている。謎光景。

「わかった。俺も正直に答えよう。下心は何もない。」

正直に答えようと言いつつ、いきなり嘘である。
11も年下の少女に対する萌える下心を秘めきれずに生きている。

「望んでいるのは仕事の成功だけだ」

嘘である。仕事の成功だけではない。

「つきかげや一角獣の活動には前から注目していた。
 大都も実力ある若手演劇集団を育てたいと思っているだけだ。」

半分嘘である。マヤがいなければつきかげと一角獣の活動には興味を持たなかったであろう。

「どうした?大都が関わるのが気に入らないのか?」

「ええ・・・だってあたし大都の元では
二度と演技しないって誓ったんだもの。」

「うぬぼれるな。君は今度の企画から外されている。」

「外されている・・・あたしが・・・アテネ座に出られない・・・!
 なぜですか・・・理由は・・・?」

「大都の元では演技したくないと言ったいた君が理由などきくのか?」

「ええ!いってください!
 確かに大都ではもう演りたくないわ!
 でも仲間からは引き離されたくはありません!
 なぜあたしをみんなから引き離すんですか?」

「今度の芝居に君は不必要・・・
 そう判断したからだ。これでは説明不足かな?
 我々が伸ばしたいと思うのは君の仲間達で君ではない。
 これで納得がいったか?」

速水真澄の策略とはいえ、実に自分本位なマヤ。
自分が外れるなど思いもよらず、
大都では演りたくないが仲間と離れたくない。
その仲間のことなど踏み台としか考えていないくせに。

「約束しておこう。
 君たちの仲間はアテネ座での今度の公演できっと大きく伸びられる。
 世間の注目も浴びよう。大都が必ず成功させてみせる!
 君も仲間のためを考えるなら反対などはしないことだな。」

速水真澄の意外な申し出に黙り込むマヤ。
そしてそこに現れたのは稀代の政治家・小野寺理事。

「お!久しぶりだね北島くんだったね?
 どうだね芸術大賞はとれそうかね?」

これだけの政治力を持て余しながら
マヤと協調せず対立する路線を選んだのが彼の運の尽きであった。

「そうそう、亜弓さんは来春日帝劇場でまた主演が決まったそうですね?
 しかも月影先生と共演するとか・・・」

「共演・・・月影先生と亜弓さんが・・・
 そんなバカな共演だなんてそんな!」

「日帝劇場へ行って自分で確かめてきたまえ」

「真澄さま・・日帝劇場へあの子を・・・あなたはいったい・・・」

まだ遠くで一部始終を聞いていた敏腕秘書は重大な何かを悟る。
小野寺先生はこの一連の重大性に気づかず、出演の決まっていないマヤをいじって爆笑中。

「よくわかりました・・・速水さん・・・
 あたしが早く潰れてしまえばいいと思っているんでしょう?
 あたしをみんなから引き離すのもそのせいね。
 亜弓さんが紅天女やったほうが何かと都合がいいですものね・・・」

涙ぐむマヤ。しかしその理由はあくまでも自己本位である。

「あたしバカだったわ・・・
 ちらりとでも速水さんのこといい人かもしれないって思ったこと
 ほんとはいい人かもしれないって・・・バカだったわ・・・」

悪役を買って出たにも関わらずうろたえる速水真澄がバカだったわ。
走り去ろうとするマヤの手を握るもビンタで応戦された。
バカだわ。

「あなたなんて・・・大っきらい・・・
 あたしあなた達の思い通りなんてならないわ!
 劇団の仲間から引き離せたからってこれで諦めると思ったら大間違いなんだから・・・
 どんなことをしたって紅天女を目指してみるわ!」

「けっこう・・・その意気だ」

走り去っていくマヤ。
マヤの暴言&暴力に呆れて笑いながらさっていく小野寺理事
そして入れ替わりに現れた敏腕秘書。

「さすがは真澄さま。
 あの子の口からよくあれだけのセリフを引っ張り出せたものと感心しましてよ。」

拍手をしながら登場。完全に若社長を舐めとるやろ。

「なんのことだ?」

「私に白ばくれるのはおよしなさいまし。
 あの子を劇団の仲間から引き離したのもお考えがあってのことでしょう?
 あなたは以前よくおっしゃられたわ。
 悲しみよりは怒りの方が人を動かすエネルギーになるって・・・!
 あの子のエネルギーを燃え上がらせ、その足を日帝劇場へと向かわせる・・・
 今あの問題が持ち上がっている日帝劇場へ・・・
 あの子がそれを知ってどう出るか?これは見ものですわ・・・」

さすが敏腕秘書・水城さん。
なぜ速水真澄が悪役を買って出てまで謎の行動をとったのか。
その本意を読者に説明するために、一部始終を立ち聞きし、
誰もいなくなった後若社長を拍手でいじり倒すという謎の行動をとったのである。

「いい人か・・・マヤ・・・」

若社長も、この敏腕秘書の悪意溢れるいじりにはもう慣れたようである。

 

というわけで今回。
なんだか盛りだくさんすぎてついつい長くなってしまった。
まとめますと

  1. 野外劇場大成功
  2. 約束通りアテネ座出演
  3. でも金ない
  4. 大都芸能が全面バックアップ!
  5. 怪しむマヤ!でもマヤはメンバー外される!
  6. 怒りと悲しみのマヤ、エネルギーを燃やす!

という流れであるが、では速水真澄の目的(下心)とはなんなのか?

一つには大都芸能が才能ある若手演劇集団をプロデュースする。
これは間違いない。野外劇場を通じて話題となった彼らをバックアップすることで
商業的な成功を目指し成長させるという企業の指針である。

もう一つはマヤを彼らから引き離すことで日帝劇場へ向かわせること。
出演する舞台がなく、賞を手にするまで時間がないマヤにとって、
つきかげ一角獣とともにアテネ座へ出演するよりも
姫川亜弓と月影先生との舞台に近づいた方が紅天女への近道と判断したためであろう。

マヤの気持ちを納得させ闘志を沸き立たせるためにあえて悪役を買って出て
マヤに自ら仲間との別れを決意させ、
結果マヤにとっても、他のメンバーにとっても、そして大都芸能にとっても、
全員が成功する道を作ったと言える。
本当にいい人だ。本当にすごい人だ。

それやのに、ちょっといい人だと思われたからといって
せっかく買って出た悪役を後悔し、うろたえ、そして殴られる。
本当にわかりやすい人である。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第22巻・100万の虹(5)