【ネタバレ注意】ガラスの仮面第23巻その②【楽しんでもらえると思って・・・】

   

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「これより課題の②に入ります。
 その前に審査は午後からなのでお弁当を配ります。」

課題に入るのか入らへんのかどっちやねん。
飯食いながら課題対策を迫られるという罰ゲームか。

「課題の②は音楽です。」

爆音で流れたのはヴィーナスの「キッスは目にして」

「知っての通りCMソングでも流行った曲です。
 非常に軽快でリズム感あふれるメロディになっています。
 曲は2分30秒、これを使って何かしてください。
 踊ってもよし歌ってもよし、何をやるも自由です」

極めて漠然とした課題に戸惑う演技者たち。

「それでは1時半から審査を始めます。
 お弁当を食べながらでも課題に取り組んでいてください。」

去っていくスタッフたち、めちゃくちゃや。
しかし有名劇団や事務所の有力候補者たち。
即座にリズム感の審査と捉え、ダンスを基軸に振り付けを検討始める。

「音楽・・・リズム感・・・リズム・・・」

流れる音楽をひざまづいて聞いているマヤ。

「何してるの北島さん?」

「うん、リズム覚えようと思って・・・」

よせばええのに、天才の行動が気になる江川ルリさん。

「何を演るの?モダンダンス?ジャズダンス?それともディスコ?」

「ううん、あたしダンスもディスコも得意じゃないの」

「じゃ、何をやる気なの?」

「この曲に合わせて体を動かすの」

「あたりまえのこといわないでよ。踊るんでしょ?」

「ううん・・・踊らない・・・
 体を動かすの・・・」

「踊らないで体を動かすだけ???
 この曲に合わせて・・・?
 一体何を考えているの・・・この子・・・」

天才と凡人の思考と会話はここまで噛み合わない。

「審査会場は一人芝居のためのステージ・・・
 前に並ぶのは審査員という名の観客・・・!
 どうすれば楽しく観てもらえる・・・?
 どうすれば観客に興味を持ってもらえる・・・?」

リズムを覚えたのか、マヤは無言で立ち上がるとライバルたちが訝しげに見る中退室、
そして劇場内の事務所で靴墨を借りたのだった。
部屋に戻ると稽古着をたくし上げ、
スカーフを頭に巻くと
靴墨を顔から服から塗りたくったのだった。
これにはライバルたちも驚きとドン引きだ。

 

「第2課題"音楽"
 これより審査を始めます!」

そして次々と呼ばれる候補者たち。

1番 草加みどり ディスコダンス
2番 古城由紀  ジャズダンス
3番 植草葉子  ディスコダンス
4番 江川ルリ  ジャズダンス
5番 藤川令美  モダンダンス
6番 雪村みちよ ディスコダンス

はっきりいって違いはわからん。
その道のプロでもないもののダンスをひたすら見せられる審査員に同情する。
そして呼ばれたマヤ。
その出で立ちに審査員驚愕。

「こ、この曲にあわせて何を演る気だね?君はいったい・・・」

「塀にペンキを塗ります」

「へっ?塀にペンキを?」

そしていきなりパントマイム発動。
ペンキの入った缶を左手に、
そしてハケを右手に構えた。

「あの手の下げ方で缶の重みまでわかる・・・」

楽しみ半分でマヤの参加を認めてしまった
制作主任の兼平さんも、もはやマヤから目が離せない。

「始めてください!」

うっかり目を奪われたスタッフに声をかけるマヤ。
そして流れ出す音楽。

「はけでペンキ混ぜてるとこ・・・?」

活字では表現しきれない部分を早速解説してくれるライバルたち。
審査員が、ライバルたちが、そして不法侵入の聖さんも見守っている。
「ただあの子を見守っていてやってくれ・・・」といった速水真澄の命に従い

「真澄さま・・・はい・・・あなたのかわりに・・・」

と速水真澄の気持ちを忖度して一部始終を見ている。

そしてマヤ、リズム、曲、歌詞に合わせ体を動かす。

「あの子・・・この歌に合わせてペンキ塗りをやる気なんだわ!マイムで!」

今更ながら気づくライバルたち。

「そうか・・それで踊らない体を動かすだけといったんだわ・・・」

今更ながら、マヤの発想に肝を冷やす江川ルリさん。
ちなみに体を動かすだけではない。

曲に合わせ、右手のハケを派手に振り回し、観客の視線を釘付けにする。
そしてマヤの動きが止まる

「塀の横に何かあったようですな」
「なんでしょう・・・?」

演出家も脚本家も完全に観客の目線でマヤに期待する。

「わかった!乗用車!
 乗用車が停まってたんだ!
 車を抜いてペンキを塗ることにしたようですね!」

もはや観客通り越してパントマイムクイズの回答者。
いつぞや、マヤが一人芝居の稽古で、河原で子供相手にやっていたのと同じである。

そしてスカーフを外すマヤ、何かを擦り始める。

「勢い余って車にペンキをつけちゃったんですな
 妙に音楽に合っているところがおかしいですな」

審査員席大爆笑。
そして今度は手がペンキにへばりつき、
背中が壁にへばりつき、
それを剥がすと正面から壁にへばりつき、
ドアの外から見つめるライバルたちも大爆笑。
お前ら楽しんどる場合か。
しかし、江川ルリさんはさすがに冷静だ。

「なんて動きが音楽にあっているのかしら?
 こんなに楽しめる演技になるなんて・・・
 思いつきもしなかった・・・
 この曲でペンキを塗るなんて・・・
 このコミカルな動き・・・人を楽しませるつぼを心得ている・・・
 強敵だわあの子・・・」

解説は的確だが、マヤの実力に気づくの遅すぎる。

審査員席拍手喝采。

「なかなか面白かったよ!」
「なぜこれをやろうと思ったのかね?」

その演技力もさることながら発想が気になるらしい。

「あたし・・・ダンスってあまりやったことないし・・・
 これなら見る人に楽しんでもらえると思って・・・」

この答えに満面の笑みの兼平さん。

「2分30秒、楽しませてもらったよ」

最高の賛辞である。

「見る人に楽しんでもらえると思ってですって??
 私たちが審査員の前でうまくやろうとそればかり意識しているのに比べ
 なんて子・・・まるっきり意識が違う・・・」

マヤの芝居意識の高さに打ちのめされる江川ルリさん。
そして一次審査の課題が終了し、
審査が行われていた。

「で、みなさん、全員一致で文句なく一人は決まったわけですが
 他の候補者たちについてご意見をお聞かせください。」

もはやマヤとその他扱いだ。
そんな中ながらも江川ルリの演技力とジャズダンスは評価されているようだ。

「それにしてもすごい差ですな・・・
 いや、北島マヤと他の候補者たちですよ・・・」

遠い目でつぶやく制作主任の兼平さん。
この時点でマヤをオーディションに参加させたという彼の功績は約束された。

 

「お待たせいたしました!
 二人の王女、第一次審査の結果を発表します!
 名前を呼ばれた方は三日後の虹審査のため、
 もう一度ここにお集まりいただきます。」

息を飲む候補者たち。

「劇団つきかげ 北島マヤ!」

末席だったにも関わらず真っ先に呼ばれたマヤ。
あれだけの手応えにも関わらず受かった実感がないらしい。
そして
劇団自由人 草加みどり
ドリームプロ 植草葉子
太宝プロ 江川ルリ
劇団女神座 雪村みちる
が合格。

すずき事務所 古城由紀
劇団ジェッツ 藤川玲美
はご退場となったのであった。

「うかった・・・次は二次審査だわ・・・」

感きわまるマヤ。そして室内には芸能記者たちが乱入してくる。
そんな中、記者に扮した不法侵入者に気づくマヤ。

「聖さん・・・なぜここに・・・」

「北島マヤさんですね。第一次審査合格おめでとう。
 週刊セブンジャーナルの松本です。インタビューさせてください。」

聖さんが名乗る偽名に戸惑うも、
人前では詮索しない話さないというかつての約束を守るマヤ。

「演劇界復帰を目指してのこのオーディション、
 あなたのことを気にかけているファンの人がいるはずですが
 そのファンのために何か一言聞かせてください。」

さすが聖さん、ええ仕事しよる。
録音機を差し出し、マヤから紫野郎へのメッセージを収録中だ。
マヤも、紫野郎へのメッセージであることを理解した。

「第一次審査パスしました。あたし。
 第二次審査もパスできるよう頑張ります。
 そのファンの方に・・・芸能界・・出たときすごく心配かけたと思うんです。
 ごめんなさい。でももう大丈夫・・・
 あたし今演劇がやりたくてやりたくてしかたないんです・・・
 今にきっと・・・そのファンの方の期待に応えられるような女優になって見せます。
 そのためにもこのオーディションにかけているんです。
 一日も早く劇場の舞台に立てるよう頑張ります。
 あなたのた・・・その・・・ファンの人のためにもきっと・・・
 あたしもうくじけませんから・・・.
 それから最後に一言・・・
 あたしを見ていてください・・・いつまでもいつまでも・・・」

収録を終えるとそそくさとさっていく松本さん。

「松本さん!第二次審査のときにもインタビューに来てください
 きっと・・・お願いします!」

「きましょう・・・あなたもファンのために頑張ってください。」

松本さんに化けた聖さん、次回の不法侵入を予告する羽目に。

「紫のバラのひと・・・あの人が見ている・・・
 名前も知らないあたしの大切なファン・・・」

そして録音されたメッセージはその日のうちに紫野郎に届けられたのであった。
メッセージを聞く彼の表情はなぜか暗い。
マヤをオーディションに参加させるよう仕向け
思惑通り見事勝ち抜いたにも関わらず。
水城さんがいないので、その心の奥底を見通すことができない。

 

というわけで今回。
マヤ圧勝であった。
しかし江川ルリの言葉が全てを物語っている。
審査員の前で上手くやろうとするものと、
観客に楽しんでもらおうとするもの。

そのマヤの発想力と演技力もさることながら
意識と視点が明暗を分けたと言える。
この点非常に、日常を生きる我々にも通じる点がある。

そら仕事をします。
お金をもらうために、会社に評価されるために、失敗しないように
でも仕事の本質は、その仕事を頼む人、お客であったり、仲間であったり、
仕事を頼んだ人に満足してもらえるか、が原点である。
上手くやるのは自分のためのみならず、相手のためなのである。
仕事もあまねくは、ショーエンターテイメントに違いない。

というようなことを再認識させられたにも関わらず
最後のインタビューで「結局紫のバラのひとのためやったんかい!」と拍子抜けしまった。
天才ってずるい。

つづく

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第23巻・冬の星座(1)