【ネタバレ注意】ガラスの仮面第23巻その③【”感動を生む”】

      2020/01/25

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第2次審査当日。
またしても日帝劇場の地下稽古場に集められた候補者たち。
前回7名中2名が脱落、
そしてこの第2次審査の結果パスしたものだけが第3次審査に進み
その結果を受けて「二人の王女」姫川亜弓の相手役が決定されるのだ。
流石のマヤも緊張の面持ち。

「第1次審査は”セリフ””音楽”と二つの課題をやっていただきました。
 第2次審査は課題は一つ。
 やり方も前回と違った方法をとります。
 審査会場の方へどうぞ。」

候補者たちが通された部屋には円卓が5つ、イスとともに置かれ
周囲は舞台用の照明が設置されていた。

「なんなの?これ・・・」
この大したことない感想は劇団女神座の雪村みちるさん。
女神とは程遠いビジュアルで、前髪が10本くらいしかない。

「仮設舞台・・・?」
さっそく本質を捉えたのは太宝プロの江川ルリさん。
一次審査ではマヤの一部始終を解説してくれた功労者である。

「今度は何をやらされるのかしら?」
ドリームプロの植草葉子さんはあくまでも受け身の発言である。
これまでこれといった印象はないが一次審査を勝ち抜いている。

「大丈夫ですよみどり!あなたには才能があるんだから・・・」
これは劇団自由人の草加みどりのステージママ。
自由人やのに母親同伴。その才能はもはやマヤの芸の肥やしにもならない。

「これからここでやることをよくみていてください。」

スタッフが説明し、合図を送る。
暗転から照明が焚かれ、そこにはレストランの風景が浮かび上がった。

上手から登場したマスター風の男。
おもむろに進むと上手近くの鏡で身だしなみをチェック。
髪を整え、蝶ネクタイを治すと咳払い。
そして客席の花瓶の花の匂いを嗅ぎ、
イスの位置を直し、クロスを伸ばして咳払い。
そしてワイングラスの汚れに気付き拭き取る。
満遍なく客席をチェックすると右手を掲げる。
するとレストランには音楽が流れ、
マスターは襟元を正すと下手へとさっていった。
そして静寂

「以上。今のが課題の芝居です。
 レストランの支配人が上手からやって来て
 テーブルの周りをゆっくりと歩いて下手に去るという
 ただそれだけの演技です。」

スタッフの説明に聞き入る一同。

「このままでは観客に何の感情も与えません
 演技をやる上において役者には演技力ももちろんのこと
 イメージを広げることのできる想像力
 そしてそれを作り上げることのできる創作力
 豊かな感受性などが要求されます。」

こうしてみるとこのオーディション、非常によく考えられている。
表面的な演技力だけでなく、一次審査もそうであったが
演技者の自発的なアクションを要求している。
受け身の植草葉子さんやママ同伴の草加みどりさんには不向きだ。

「第2次審査課題のテーマは、”感動を生む”です。
 笑いでもいい、怒りでもいい、
 悲しみやただ何となくおかしいと思えるものでも構いません。
 あなた方の演技で今の芝居に何らかの感動を生み出してほしいのです。
 観るものに感情を与えてほしいのです。」

漠然とした課題にざわつく一同。
この課題に与えられた条件はひとつ。
支配人の演技はそのまま、支配人の動きを邪魔するような演技は減点。
この芝居には季節も場所も時間もあえて設定はなし、
レストランが閉店前かあとなのか、あるいは営業中なのかすらも決まっていない。

「この第2次審査は自由参加の形をとります。
 できると思った方から順番に手をあげてください。
 なおできないと思う人は棄権しても構いません。」

やはり演技者の自発性が求められている。

「あの・・・なんのへんてつもない芝居に変化をつけて感動をうむ・・・
 いったいどうやって・・・?」

江川ルリさんも顔面蒼白だ。

「あの・・・それだけですか?
 観る人に何かの感情を与えることができればいいんですね。」

目を輝かせて条件確認をするのはマヤだ。

「なんだ!よかった!
 第2次審査だっていうから
 どんな難しいことをやらされるのかと思っちゃった・・・・!」

相変わらず独り言がでかい天才。
ライバルたちもその発言に耳を疑う

「おもしろそう・・・
 こういうのだったらいくらでも演れるわ!」

自信満々の独り言に、演出家の風魔鬼平先生を筆頭に審査員も驚きだ。

「これが難しいくないですって・・・いくらでも演れるですって・・・?」

マヤの独り言に反応しつつも江川ルリさん、
先手を打つべく舞台を見渡し芝居を考える。

「レストラン・・・支配人・・・
 そうだわ客・・・!
 負けたくないわ・・・この子に・・・」

「では審査を始めたいと思います。
 できると思った方から手をあげてください。」

「はい!」

手をあげたのはマヤと江川ルリ。

「大変な意気込みですね。では江川ルリさんからどうぞ」

機先を制した江川ルリ。
出遅れたマヤが辺りを見渡すとそこには
週刊セブンジャーナルの松本記者に扮した聖さん。
マヤとの約束を守り、再度不法侵入。
しかも前回から進化し、審査の室内にまで入り込んでいる。
あらためて何者やねん。

 

そして始まった江川ルリの演技。
客席の椅子に足を組み乱暴に座ると開始の合図を求めた。

「はん!フランス料理のフルコース・・・
 別れ話の最後のディナーにって
 誘っておいたのはあいつじゃないか」

支配人役の男が歩き始めると、酒によった演技。
いきなり頬が紅潮するあたり、なかなかの実力者である。

「食事が終わってしまってもあいつはこない・・・
 もう閉店か・・・」

グラスを鳴らしながら独白を続ける。

「あいつ・・・もうこないわね・・・
 ほんとはね・・・あたしこのレストランで食事しながら
 あなたとの仲を元に戻すつもりだったの・・・
 最後のデートのつもりなんかじゃなかったわ・・・あたしはね・・・」

支配人が手を挙げると音楽が流れ出す。

「ありがとう・・・支配人・・・」

タイミングも絶妙だ。

「一杯のワインでずいぶんねばったわ・・・
 今夜はもうおしまいね・・・」

席を立ち出口へ向かう。

「さようなら・・・」

見事である。
閉店間際のレストランで失恋した女が彼を待つ。
その哀愁を余すところなく演じながら
支配人の演技とも絶妙にマッチ。
審査員も絶賛だ。

そして次の呼ばれたのはマヤ。

「あの子よ・・・一体何をやる気かしら?」

「感動を生む・・・素敵・・・
 自分の動きだけで笑いや怒りや哀しさを生み出せるなんて・・・」

意気揚々とステージへと向かっていったのだった。

 

というわけで今回。
太宝プロの江川ルリさん、見事な演技であった。
一次審査の時の見事な解説といい、
口だけではなく演技力、想像力、創作力、感受性、
どれも見事に持ち合わせている。
おっさんもうるっと来たわ。

しかしこの江川ルリさん、いったい幾つなのであろうか。
この芝居を創作し、演じきる辺り
精神年齢は二十代後半がふさわしい。
ビジュアル的には二十代前半から半ばくらいに見える。
マヤが高卒未成年、そして母親同伴の草加みどりもおる。
マヤと同い年の姫川亜弓の相手役オーディションということもあり、
姫川亜弓と極端に歳が離れた女優は呼ばれないであろう。
ということは二十歳から二十代前半といったところか。

そんな小娘にも関わらず、
こんな円熟の芝居を見事に演じきった江川ルリ。
プライベートでものすごい経験をして来た結果、
この芝居をチョイスしたのであろうか。
とても気になる。

つづく

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第23巻・冬の星座(1)