【ネタバレ注意】ガラスの仮面第23巻その④【もういいかい?まあだだよ】

      2020/02/04

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「何をやるんでしょう?北島マヤは?」

「さあ・・・あの子の場合ちょっと見当が・・・」

一次審査の結果、審査員の先生方にもキワモノ扱いされているマヤ。
舞台に向かうとテーブルクロスをめくりあげ、テーブルの下に屈み込んだ。

「この椅子を引いたらはじめてください」

審査員の先生方も唖然。

「あ!そうだ・・・
 第二番!北島マヤ!よろしく!」

マヤのペースで審査員の度肝を抜くとスタンバイした。

「もういいかい?
 まあーだだよ!」

テーブルの下から椅子を引く。

「テーブルの下・・・いったいどんな演技をする気なの?」

先手を打ち好感触をつかんだ江川ルリさんも早速不安のどん底に叩き落とされる。
そして静寂の中、支配人の足音が聞こえる。

「きた・・・!」

「え?声が違う・・・」

即座にマヤの芝居を解説する江川ルリさん。
もう専属解説者だ。

「僕を探しに来たんだな。
 そう簡単に見つかるもんか。」

クロスを捲り上げ顔を出したマヤと
その表情に驚く一同。

「男の子・・・
 さっきまでとはガラリと表情が違う・・・
 格好はそのままなのに・・・」

親戚の結婚式に参加した少年。
しかし退屈のあまりホテル内でいとこ達とかくれんぼ。
誰もいない開店前のレストランに隠れているという設定。
マヤのセリフや表情が全てを物語る。

「あっ!
 あの黒い背広はさっきロビーでぶつかったおじさん達だ・・・
 うわ!三人ともいる・・・入口からこっちを見ている・・・
 僕を探しているのかしら・・・
 さっきぶつかったとき床に落っことしたやつ・・・
 本物そっくりだったな・・・
 本物そっくりのピストルだった・・・」

突然始まったサスペンス展開に釘付けの一同。

「うわ!入って来た!一つ一つテーブルの下を探している・・・
 やっぱり僕を探しているんだ!」

クロスから顔を出しては隠れ、
また別の場所から顔を出す。
その神出鬼没ぶりとタイミングに驚く一同。
隙を盗んで別のテーブルへ潜り込む。

「あれを見たとき思わず本物そっくりって言ったら、
 あの男・・・慌ててピストルをとりあげたっけ・・・
 それからものすごく怖い目で僕をにらんだ・・・
 慌てて逃げたけど・・・あれ本物だったんじゃないかな・・・
 あいつら殺し屋かギャングかもしれない・・・」

息を飲む江川ルリさん。解説も忘れて芝居に魅入る。
そして支配人役の男の芝居は進行していく。

「あのおじさんに言おうかな?
 でもそうすると僕のこと見つかるし
 やっぱりダメだ。嘘をついていると言われるかもしれない・・・
 あっ!きた!こっちへ向かってくる・・・」

マヤの向いた方向を思わず向いてしまう江川さん。
人知れず赤面する。かわいい。

「なに・・・この緊張感は・・・空気がピンと張り詰めている・・・
 他に誰もいないってわかっているのに目が離せない・・・」

そしてテーブルからテーブルへ移動するマヤ。
支配人役の男の動きとタイミングに見事に合わせ
緩急のある動きがリズムよく観客を引きつける。
そして男が手を挙げた。

「音楽だ!レストランが開く時間なんだ!
 人が入って来た・・・!ウェイトレスやボーイも入って来た!助かった!
 あいつらまごついているぞ!ボーイに呼び止められてら。出ていった!
 いまだ!警察へ話しに行こう!
 あの男達に見つからないようにホテルを出よう!
 大丈夫。僕はかくれんぼの名人だもの・・・」

舞台袖に向かうマヤ、立ち止まり振り返る

「もうーいいかい?まあーだだよ」

 

しばらくの静寂。そして拍手をしたのは演出家の風魔鬼平先生。

「いやあなかなか意表をついていて面白かったよ!」
支配人が歩き回るというなんでもない一場面を
ここまでサスペンス調に仕立て上げ、
しかも性別すら忘れさせるほどの演技力。
想像力創作力演技力、いずれをとっても先生方は絶賛。

江川ルリの芝居があるドラマの中の一断面だとすれば
北島マヤの芝居はこれ自体が一本の芝居といったところだ。

「もういいかい?まあだだよ、のセリフがなかなか効いていたが君・・・
 最後に立ち止まってそのセリフを言ったね?あれはなぜ?」

制作担当ながら芝居を見る目がある兼平さん。
マヤの芝居の根拠が気になるところだ。

「えーとよくわからないんですわたし・・・
 あそこでああ言ったほうがいいような気がしたんです
 芝居の最後が引き締まると思って・・・」

「あ・・ああそうだね。確かにその通りだ。」

マヤの根拠のないが直感的な芝居に納得する兼平さん。

「たいしたもんだ・・・
 芝居っていうものを知っているんだこの子・・・
 それも理屈じゃなくて本能でだ・・・」

マヤの本質を即座に見抜いたこの兼平さんもなかなか大したものである。

その頃大都芸能本社。
会議終了後、取り巻きに囲まれた速水真澄。

「いやあおめでとうございます速水若社長。
 あのプランが実施されれば大都芸能はまた一段と飛躍しますな。」

「そうだな。だが実施されればじゃない。
 実施するんだ確実にな。
 頑張ってくれたまえ君たちの力にかかってるんだ。」

太鼓持ちに走る部下の言葉尻を捕まえて叱咤激励。
おべっか使いくらい泳がせてやる余裕が欲しい。
そしてそんな若社長に憧れ噂をする女性社員達。
最近速水真澄が恋をしているらしい、
ぼんやりと物思いにふけっている、
前より優しくなったともっぱらの評判である。

仕事の鬼の仮面は意外にうすっぺらい。
しかしそんな仮面を部下の前ではかぶり続ける。
移動の車中でも書類に目を通す仕事の鬼。

「この企画書に目を通すまで話しかけないでくれ。」

と言いながら時間を気にする。

「今頃第二次審査の最中だな・・・マヤ・・・」

この心の声が聞こえない部下には
速水真澄が漏らした笑みの意味はわからない。
ちゅうか企画書。ちゃんとよめ。

 

というわけで今回。
マヤの実力炸裂である。
マヤの演技力は誰もが知るところであるが
今回のオーディションで発現されたのはマヤの創作能力だ。

これまでは与えられた脚本やセリフに基づき演じることが多かったが、
一次審査からマヤのブッとんだ発想が光る。

「毒」はまだ比較的脚本の持つ要素が強いが、
殺したい相手が隣室にいるという新解釈や
毒を結局使わなかったというTO BE的な要素が斬新だ。
音楽に合わせて塀にペンキを塗るという発想は異常。
そしてレストランから、かくれんぼ、少年、ピストルという連想もどうかしている。
もはやこれも演技と同じく、マヤがこれまでの生きて来た人生で培った才能であろう。

そしてそのアドリブに近い発想から生まれた芝居をアドリブで演じ、
プロが見ても唸らせるポイントを根拠も理屈もなく感覚でやってのけるのだからすごい。

つづく

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第23巻・冬の星座(1)