【ネタバレ注意】ガラスの仮面第23巻その⑤【あたしは演れる・・・】

      2020/02/08

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「第二次審査課題 ”感動を生む”次の方!」

絶賛を受けたマヤの後にまくし立てるような司会者。
焦る他の候補者。特に江川ルリ以外はまだ演技を披露していないだけに
その焦りは尋常ではない。
無言で震える雪村みちると植草葉子。
そして母親に叱咤される草加みどり。

「次の方!他に誰かいませんか?
 やれると思う方は手を挙げて!」

「はい!」

返事のあった方を皆が振り返ると
当然のように笑顔のマヤ。

「きみ・・・まだ演れるの・・?」
「ええ?さっきと違うものを?」
「はい!」

まさかのリトライにざわつく一同。

「あの課題を二回もやれるなんて・・・」
「そんな・・・」

驚くのは一回もやれてない雪村みちると植草葉子。

「何を考えてるの・・・この子いったい・・・
 このわたしでさえ苦心して考えてやった演技を・・・
 この課題を二度もやれるなんて・・・」

この若干上からの解説は、一回やった江川ルリさん。
「このわたしでさえ」のあたりに自信と優越感が感じられる。

「他に誰かいませんか!?いなければ北島さんにやってもらいますがいいですか!?」

「演れる・・・あたしは演れるわ・・・
 いくらだって演れる・・・あたしは演れる・・・」

完全にライバルのことは忘れ、自身の演技に心を向けるマヤ。

「この課題を二度もやれるなんて嘘みたい・・・
 なんて人なの・・・負けたくないわ・・・」

今更ながら負けず嫌いになった雪村みちる。

「そうよ、何か手があるはず・・・
 このレストランで・・レストラン・・・そうだわ!」

何かを思いついた彼女は焦った挙句
無謀にもノープランに近い状態で挙手。

「はい!あたしやります!」

「雪村くん、それじゃあやってもらおう。
 北島くん、君はまたあとで。」

第二次審査課題 ”感動を生む”
三番目・雪村みちる

「悲しけりゃここでお泣きよ♪
 涙ふくハンカチもあるし♪」

突然歌い出した雪村と唖然とする審査員。
悪い意味で度肝を抜いてしまったようだ。

清水健太郎のヒット曲「失恋レストラン」
レストランというキーワードから連想して歌を歌うという暴挙。
若干江川ルリの演技の内容にも引っ張られてる感がある。

淡々と進行する支配人の芝居。
虚しく流れる雪村の歌声。

「のってない・・・!みんなしらけているわ・・・」

完全なるビハインド、しかし今更後戻りはできない。
そして非常にも芝居は進行する。
支配人が手を挙げると、レストランには音楽が流れるのだ。

「音楽・・・しまった・・・」

今更やっと音楽に音楽をかぶせるという失態に気づく雪村。

「可哀想に・・・
 バックの音楽と歌が混乱してめちゃめちゃだわ・・・
 支配人の動きともちぐはぐだし・・・
 歌えば歌うほどしらけて聞こえてくる・・・」

江川ルリさんの解説ももはや同情に等しい。
そして終幕、同情混じりのまばらな拍手。

「ガックリ・・・」

と効果音がコマに描かれるほどに肩を落として席に戻る雪村みちる。

「どうもパッとしませんな!
 感動を生むことには失敗したようですね。」

審査員のコメントもなんだか敵意すら感じる。
負の感動を生むことには成功したようである。

「他にやれる人!北島くん以外にやれる人は?
 草加みどりさん君はどうです?」

この司会者なかなか鬼である。
もはや怯えていると言っても過言ではない草加みどりを攻め立てる。
江川ルリの好演、北島マヤの超好演の後に雪村みちるの超スベり。
この後にとても演れたものではない。

「みどり!どうしたの!?
 あなたが何もできないってことはないでしょ?

まだ娘の才能を信じ叱咤する母親。
状況みてへんのか。

「植草さん、きみは?」

「あの・・すこし演技を考える時間をください。
 どうすればいいか考えたいです・・・」

もはや棄権という選択肢も感じられる答えだ。

「わかりました。ではそのあいだに北島くん、二度目をやってください。」

「はい・・・」

マヤの演技の間に自分の演技プランを考えることなどできようはずもない。

「変だ・・・あたし変だ・・・
 足元から自信が湧いてくる・・・
 どうしたんだろう・・・この気持ち・・・
 胸が熱い・・・体中に力がみなぎているのがわかる・・・
 はじめてだわ・・・こんな思い・・・そうよ!
 あたしは演れる・・・あたしは演れる・・・」

何回いうねん。そしてマヤが自信満々で力一杯演技をするのはいつものことやし
このトランス通り越してトリップのような状態は決して初めてではない。

 

というわけで今回。
雪村みちるさん、大恥をかく。

何もしてない植草葉子や草加みどりよりはえらい。
でも可哀想な扱いである。
マヤの圧倒的かませ犬として生贄になった今回の犠牲者である。

名門劇団の生え抜きとして姫川亜弓の相手役オーディションに呼ばれ、
一次審査を勝ち抜いた実力者がこのザマである。
江川ルリ、北島マヤと好演熱演に続いて三段オチのような扱い。

では順番が悪かったのか?というと必ずしもそうではない。
仮に順番が一番目に挙手したとして、
歌い出した瞬間は今回のような惨状にはならないかもしれないが、
終盤レストランに流れる音楽と丸かぶりという状況は変わらない。
つまりは歌唱力不足と作戦不足。
焦った挙句、安易にキーワードから思いついた曲を歌って失敗、
マヤの演技力に圧倒された結果の自滅である。

ガラスの仮面には数多くの人物が登場するが
一番可哀想な人は北島ハルさんだと思う。
夫に死なれ、一人娘は家出し、迎えに行くも大女優に撃退され、
送った手紙は燃やされ、挙げ句の果てに結核にかかり職を失い、
体良くサナトリウム送りとなり、挙句大都芸能の息のかかった病院に監禁され、
失明し、徒歩で山を降り、雨に打たれ、車にはねられ、映画館で死んだ人である。

そして二番目に可哀想な人は端役の間進くん。
姫川亜弓の「恋する瞳の演技」習得のために利用され、
恋人扱いされ有頂天になり捨てられた彼である。

雪村さんは三番目に可哀想だ。

そしてさらにここまで打ちのめされた人も珍しい。
過去振り返ってみると、コテンパンに打ちのめされたのは
マヤを陥れその座に取って代わるも、
姫川亜弓に実力の違いを見せつけられた乙部のりえ、

あるいは小野寺理事の調略に乗り、
劇団つきかげを潰すも騙され日雇いアルバイトに勤しむ裏切り団員たち

と言ったところだが、彼らはいわば自業自得な部分もある。

しかし雪村みちるさんは、その演技プランこそ自業自得とはいえ、
思い切って勇気を出して挙手して打ちのめされるという珍しいパターン。
歌を歌ったという行為がまずかっただけで
特に悪いことをしたわけでもない。
可哀想な上に打ちのめされたという
とても珍しい人なのである。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第23巻・冬の星座(1)