【ネタバレ注意】ガラスの仮面第23巻その⑥【これはあの子の得意技ですよ】

      2020/02/15

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オーディション会場の扉が開いた。
入って来たのは月影先生。
今回の日帝劇場・二人の王女では姫川亜弓と共演で舞台復帰が決定している。
これまで舞台から遠ざかっていたにも関わらず
なんの前触れもためらいもなく復帰かよ。
実はオファーがなかったのではないかとすら思ってしまう静けさ。
あの人めんどいからなーみたいな。

「これは月影先生」
「”感動を生む”という課題にマヤが二度目の挑戦を?」
「レストランの中を支配人が歩いて去るというただそれだけの芝居に
 変化を持たせて何かの感動を与えるという難しい課題なんです。
 それをあの子は二度もやろうっていうんですよ。」
「二度も・・・二度ねえ」

いきなり笑い出す月影先生。
ご機嫌よさそうなほど怖い。
ほんでオーディション中に私語&高笑い。
人間の心を持たない紅天女やししゃーない

そして迎えたマヤ二度目の挑戦。
審査員の先生方もマヤの芝居が楽しみで仕方ならない。
支配人役の男の後ろに同じ格好、同じタイミングでついて歩く。
彼が立ち止まればマヤも立ち止まり、
彼ば鏡を見ればマヤも鏡を見る。
咳払いも真似る。
その絶妙なタイミングと滑稽さにギャラリーから笑いが漏れる。

同じように室内を歩き回り、
同じタイミング同じ角度で首を向ける。
支配人役が花を手にとって香りを嗅げば、
マヤはさらにオーバーな演技。
模写と誇張のバランスがたまらない。

「なにこれ・・・
 あの子が支配人の動きをマネているだけなのにそれがなぜかおかしい・・・
 こんなやり方があったの・・・?」

ただただ驚かされてばかりの江川ルリさん。
そして月影先生は、あたかも当然といったような微笑。

ここからマヤの芝居がヒートアップする。
支配人が椅子の位置を直せば、その椅子をまた乱雑に置く。
テーブルクロスを整えれば、それをまた乱す。
これまでシンクロしていた動きとタイミングを乱すことで場内爆笑。

「影の演技ですな。
 ある人物の影になってその人物そっくりの動きをしてみせる。
 全くそっくりと見せかけてときたま本体に逆らった動きをする。
 あるいは動きのタイミングをほんの少しずらす・・・
 そのタイミングが笑いを生み出すんだ・・・
 それにしてもあの子、なんて呼吸の取り方がうまいんだ・・・」

この的確な解説は演出家の風魔鬼平先生。
イかれた名前に恥じないだけの芝居眼をお持ちのようだ。
単純に観客として楽しめず、ついつい分析してしまう悲しき職業病でもある。

「すごいわあの子・・・
 自分は後ろを向いていて支配人の顔も見ていないのに
 そっくりの表情を作っている・・・
 支配人の動きも表情もすっかり覚え込んでいるんだわ・・・

こちらは江川ルリさんの解説。
どちらかというと「役者の技術面」に関する解説なのが面白い。

そしてクライマックス。
これまでとは異なり、支配人と反対を向いたマヤの動きに観客がハッとなる。
二人は反対の方向にテーブルを回り、正面を向き、時計を見て、手を挙げた。

「左右対称の動き・・・!」

そして襟元を正すと、支配人が一瞬焦るほどひと間はやく舞台袖を向く。
支配人を後ろに従え退場。
去り際の咳払いで場内大爆笑。

「いつの間にか影と本物が入れ替わってしまいましたな」
「いやあ、間の取り方が抜群ですな」

場内大絶賛。

「いやあなかなかおもしろかったよ!
 笑いを生む・・・成功だね!」

風魔先生からは最大級の賛辞が。
そして凍りつく他の候補者たち。

「さあ他に誰かやる人は?
 二度でも三度でもかまいませんよ。
 演技を思いついた人は手を挙げて!」

相変わらず候補者の不安と焦りを助長する司会者。

「やっていいんですか?」

遠慮も容赦もないマヤ挙手。
武士の情けというものはなく、
かといって徹底的に勝ちに行ってるでもなく、
ただただ芝居を思いついてやりたいからである。

「や・・やれるの君・・・これを3回も・・・」
「ええ・・・」

二度でも三度でもと煽っておきながらうろたえる司会者。

「風魔先生・・・あの子この課題をやるとき・・・
 いくらでもできるといっていましたね・・・」

「うむ・・・
 他の人たちはまだ考え中かね?
 まだいないのかね?」

風魔先生、不甲斐ない他の候補者に若干キレ気味だ。
そしてこの状況で他の連中は何もできるわけがない。

「よし!やりたまえ北島くん。
 君たちはよくみておくんだな。
 あの子のやることを・・・」

他の候補者ぐうの音も出ないダメ出し。
風魔先生、きっついわ。

「月影先生・・・あの子本当に
 3回もこの課題をやれるんでしょうか・・・?」

「なんの変哲も無い舞台に感動を生む・・・
 これはあの子の得意技ですよ。
 あの子なら3回どころか10回でも20回でも
 いいえ一日中だって違う演技をやり続けるでしょう。
 何しろあの子は千仮面を持っているのだから・・・
 もうあとは見る必要はないわ」

ご満悦で去っていく月影先生。
何をしに来たのかは不明であるがご満悦。

「うれしいわ!また演れる・・・!
 またお芝居ができるんだわ・・・!」

芝居の手ごたえや、明らかとなったオーディションの結果ではなく、
純粋に芝居ができることを喜んでいるマヤ。
無欲が最強か。

「至急制作部長と舞台関係者全員を集めてくれたまえ
 第二次審査が終わり次第、至急会議を開きたい!」

スタッフに命令する風魔先生。
そしてどっかりと席に座る。

「よろしい。北島くん始めたまえ!」

もはや単純にマヤの芝居を楽しみに入っている。

「それにしてもこれほど才能の差があるとはな・・・」

それでいて複雑な表情の風魔先生。
他の候補者の不甲斐なさか、それともマヤほどの才能が埋もれかけていた演劇界への不満か。

「ママ・・・あたしもう棄権してもいいでしょう?」

ステージママに敗北宣言をする草加みどり。
頭をかかえる雪村みちる
無言で宙を見つめる植草葉子

「敗北だわ・・・完全に・・・」

完全敗北を認めたのは江川ルリ。

「お芝居が好き・・・あたし好き・・・
 舞台の上にいるときは自分が生きているんだって感じられる・・・
 あたしお芝居が好き・・・」

風魔先生の苛立ちや、他の候補者の絶望には目もくれず
ただただ自身の芝居愛を連呼するマヤであった。

 

ちゅうわけで今回。
マヤ圧勝。
演出家の風魔鬼平先生からはもはや事実上の合格を告げられたも同然。
この後の至急会議で合意を待つのみであろう。

そして月影先生。
マヤなら何度でもやり続けると
褒めてるのかなんなのかわからん捨て台詞を残して去って行った。

しかしみな忘れてはいないだろうか?
実はすごいのは支配人役の男性である。

単調な芝居とはいえ、動きや間合い、時間の掛け方、タイミング、
全てを同じに繰り返し演じることができなければこのオーディションは成立しない。
もし彼の芝居の動きやタイミングがずれていたら、
マヤが記憶している彼の動きとは異なってしまう。
つまり、動きやタイミングのシンクロが崩壊し、そこに笑いは生まれないのだ。
彼の演技力なくして、マヤの芝居は成立しないのである。
彼は一体何者なのであろうか。
もちろん相当な実力を持った役者であろう。
天下の日帝劇場、しかも姫川亜弓を主演に迎えての舞台、
その姫川亜弓の相手役を選ぶオーディションである。
ただの役者では務まるまい。
彼は日帝劇場の関係者なのであろうか?
「二人の王女」には相応の役でキャスティングされているのだろうか?

しかしそのことは語られることはなく、
彼もまた北島マヤ伝説の肥やしになった可能性が高いと言える。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第23巻・冬の星座(1)