【ネタバレ注意】ガラスの仮面第23巻その⑦【私とたたかうために・・・!】

      2020/02/22

Pocket

姫川邸にて

「ええ?二人の王女の相手役が決定したですって?」

電話口で驚く姫川亜弓

「でも今日はまだ第二次審査のはずでしょう?」

「第三次審査は必要じゃあなくなったんだよ亜弓くん」

電話の相手は日帝劇場制作主任の兼平さんだ。

「候補者たちの実力の差があまりにはっきりしているんでね。
 これ以上審査をしても無駄だと判断して第三次審査は取りやめになった。
 こんなことは前代未聞だ。
 今緊急会議が開かれてね。決定したところだ。」

「北島マヤさんでしょう?」

「ああそのとおりだ」

「そうだと思いましたわ。」

そしてオーディションの詳細を伝える兼平さん。
第一次審査の二つの課題では審査員の予想を上回り他の候補者を圧倒。
そして第二次審査では「感動を生む」を7通りもやったという。

「7通り・・・」

「あるときはレストランでかくれんぼする子供
 あるときは抽象的な”影”の演技
 あるときは死を前にした少女の最後のディナー
 あるときは支配人の後釜を狙う野心的なボーイ
 未来都市のレストランという想像設定のもとに
 支配人の動きをロボットに見立てて自分もロボットの客として振る舞う」

兼平さんの口から語られたのは5通りだけ。
「未来都市のレストラン」も気になるしほかの二つも気になる。

「とにかくあの子の無限の想像力と才能を見せつけられた思いだった。
 全くこんなことは初めてだよ。
 時間さえあれば一日中でもあの子は違う演技をやりつづけていたことだろう。」

完全に北島マヤ信者になってしまった兼平さんは伝説の目撃者である。

「他の四人の候補者のうちの一人は
 レストランの客としてなかなかいい演技をしたが北島マヤには及ばず
 もう一人は失敗、残る二人は棄権した。
 北島マヤの圧勝だったんだ。」

江川ルリさんは若干の爪痕を残したようである。
そして果敢に挑戦したが失敗扱いされ
棄権の二人よりも残念な扱いを受けている人がいる。

「圧勝・・・あの子が出てきた・・・
 北島マヤ・・・このわたしのただ一人のライバル・・・
 やっとこのわたしの前に・・・」

電話を置き、白目で思いに耽る亜弓さん。
ただ一人のライバルがやっと来てくれたことへの喜び
オーディションを圧勝で勝ち抜いたその実力への恐れ
自分で「待ってるわ」宣言しながらもその思いは複雑である。

そして日帝劇場では審査員やスタッフから
候補者が集められ結果が告げられていた。
第二次審査が終わってから関係者会議の間ずっと待たされていたのだろうか。

「第三次審査はとりやめ、北島マヤに決定したって本当ですか?」
「そうです。これ以上審査をやる必要もないと会議で全員一致の上決定したのです。」

圧倒的な実力差を見せつけられてわかっていたこととはいえ
一応食い下がりそして落胆する候補者たち。
そして肝心のマヤがいない。
江川ルリさんが控え室の奥に目をやると
試合に負けたボクサーのように白目でソファーに腰掛けているマヤ。

「決定した・・・あたしがもう一人の王女・・・」

どのタイミングで合格を聞かされたのかはわからんが放心状態である。
そしてマヤの方に手を置いたのは江川ルリさん。

「おめでとう北島さん。もう一人の王女役頑張ってね。
 わたしたちあなたに完敗だわ。
 敵が大きすぎると戦う意欲もなくなるものなのね。
 今はくやしいという気もおきないわ。
 今はむしろあなたの才能に敬服する思いよ」

「江川さん・・・」

江川ルリさんは最後まで立派である。
審査員の先生方を満足させる演技と、読者の方々を満足させる名解説。
そして最後は清々しい態度。
審査員の評価も良かったことだし、姫川亜弓の相手役ではなくとも
なんらかの役にキャスティングされたらええなあと思う。

「わたしもよ北島さん。」

たしなめる母親を遮ったのは草加みどりさん。

「しかたないじゃないママ。
 実力の差ってあるものなのよ。」

これまでは母親の意向に従って芸能活動を続けていたが、
マヤとの実力の差を知り始めて自分の意見を言うことができたのか。
彼女のこれからの成長に期待である。

「最後の課題よくあれだけ演れたわね。
 ほとほと感心したわ」

一回挑戦して審査員に「失敗」とまで言わしめた雪村みちるさんの言葉だけに深い。

「あなたの演ったこといい勉強になったわ
 あなたの演技とても楽しめたわ」

どこか他人事の感じの植草葉子さん。

「あなたの舞台楽しみにしてるわね!」

「江川さん・・・みんな・・・
 ありがとう!みなさんありがとう!」

拍手で勝者を讃える四人。

「真澄さま・・・
 あなたが影になってささえているのは
 不思議な少女ですね・・・
 さっきまでの敵を今はもう味方にしてしまっている・・・」

速水真澄の影として芸能記者に変装し潜入している聖さんだが
影のくせにいらん感想を持ち始めている。
なんども言うがあんたが一番不思議や。

「聖さ・・・週刊セブンジャーナルの松本さん!
 あたし決まりました!もう一人の王女役に!」

あやうく聖さんの本名を言いかけるも偽名を言い直し、
今回は自らマイクを奪って紫のバラの人に思いを伝えるマヤ。
だいたい内容は以下同文なので割愛。

そして演出家・風魔鬼平先生自ら台本を渡される。
正式な配役発表は一週間後で
その際にはスタッフ紹介・顔寄せ・マスコミへの発表などが行われる。

「やあ北島くんおめでとう」

「兼平さん・・・」

兼平さんの個人的興味でマヤをオーディションに押し込んだものの
見事逸材を発掘することに大成功し、上機嫌である。

「二人の王女,アルディスとオリゲルド・・・
 君はどちらかを演ることになるだろうね。」

「アルディスとオリゲルド?」

「ああ、この劇の二人の主人公の王女たちの名前だ。」

北欧の小国における王位継承権をめぐる陰謀に巻き込まれた
二人の国主の娘、異母姉妹のアルディスとオリゲルド・・・
生まれながらの王女としての気品を備え、幸福に包まれたアルディスと
謀反人の娘として牢獄で、疑惑と孤独とともに復讐心を抱いて育てられたオリゲルド。

「二人の王女・・・アルディスとオリゲルド・・・」

例によっていつもの公園で台本を熟読するマヤ

「宮殿の中で蝶よ花よと育てられ
 気品をたたえた生まれながらの王女アルディス・・・
 花のような美少女アルディス
 亜弓さんにぴったりだわ。
 亜弓さんならきっと光り輝くような美しい王女をやるだろうな」

マヤの着眼点は一般のそれと同じである。

「もう一人の王女オリゲルド
 牢獄の中で育った暗い表情の王女・・・
 疑い深く孤独と野心と復讐心を抱く少女オリゲルド
 できそう・・・!あたしオリゲルドを演れそう」

消去法から自身の役はオリゲルドに決定。

一方姫川邸では台本を読む梅乃ばあや。
たとえ身内とはいえ公開前発表前の台本を部外者が熟読。
ええんかい。

「まあまあまるで亜弓お嬢様の為にあるような役じゃございませんか。
 生まれついての王女としての気品をたたえたあでやかな花のような美少女・・・!」

役柄までしっかり把握しとる梅乃ばあや。
姫川亜弓に仕えて長いだけに芝居を見る目もすぐれているのだろうか。

「王女アルディス・・・
 演れるわ・・・私はアルディスを演れる・・・」

自身のソーシャルイメージを理解し、
アルディスを選択した。

その頃マヤのアパートに手紙が届いた。
マヤ宛に、差出人の名前は住所は不明。
しかし封筒の中には昭和劇場「椿姫」のチラシと初日のチケット。
アルマン役・桜小路優。
チラシには写真入りで印刷された桜小路くん。

「まだ忘れないでいてくれたなんて・・・桜小路くん・・・」

正々堂々と送ればいいのに、バレバレやのに
なぜこのようなストーカーのような速水真澄のような手紙を送ったのかは謎である

 

そしていよいよ大詰めを迎えた日帝劇場。
配役発表の前に音響や舞台装置の打ち合わせなど、
風魔鬼平先生を中心に大忙しである。
そんな戦場のようなスタッフルームを訪れたのは
往年の大女優、伝説の紅天女にして
今回の舞台で本格復活を遂げる月影千草大先生。

「お!これは月影さん。今日は何か特別なご用事でも?」

「ええ。今日のこの会議で是非提案したいことがありましてね。」

さすが大女優。
激忙の制作会議にアポなしで乱入し、
しかも勝手に提案をする腹づもりか。
演技も態度も大女優の復活である。

そして一週間後。
日帝劇場ロビーで行われた配役発表は宣伝も兼ねて公開される。

そんな中優雅に登場したのは姫川亜弓。
マスコミや観客の前評判もアルディス役で一致している。

続いて現れたのは大女優月影千草。
噂では皇太后役で復活とのこと。

そして遅刻したもう一人の王女役・北島マヤは
劇場前で清掃業者に激突し、ゴミまみれで登場。
大爆笑をゲットしたマヤにそっとハンカチを差し出した姫川亜弓。

「お久しぶりねマヤさん。
 きっとあなたに会えると思っていたわ。
 あなたがオーディションを受けたと聞いた時からね。」

いわく有り気に去っていく。

「マヤ・・・!私がどれほどあなたを待っていたか
 きっとあなたは知らないでしょう・・・!」

そら知らんやろ。

「やっとあなたは出てきた・・・私の前に・・・!
 私とたたかうために・・・!」

たたかうためではない。

そして始まった配役発表。
風魔先生が配役を読み上げる。

「王女オリゲルド・姫川亜弓!」

ざわつく聴衆

「えっ!オリゲルドをわたしが・・・?」

「そしてもう一人の王女アルディスに北島マヤ!」

聴衆からは驚きの声が。

「アルディス!
 あたしが王女アルディス!?そんな・・・」

そしてニヤリとする月影先生。

「ミスキャストだこれは・・・
 あの美しい亜弓さんがオリゲルドだなんて!」

「王女アルディスを北島マヤだって!?
 あの子に務まるわけがない・・・」

まさかの真逆の配役に驚く聴衆、
そして二人の王女であった。

 

と言うわけで今回。
二人の王女の配役が決まったわけであるが、
ソーシャルイメージからいえば、姫川亜弓がアルディスなのだろう。
でもわれわれ読者は姫川亜弓の人間性を結構知りすぎている。
もちろん結果も知っているからというのもあるが、
姫川亜弓はアルディスの心は持っていないと思う。

もちろんイメージや見た目、
生まれながらの王女の気品をたたえた花のような美少女、
というそこだけを切り取ればそうなる。

しかし「疑い深く孤独と野心と復讐心を抱く少女」は姫川亜弓そのものである。
マヤは孤独かもしれないが疑うことを知らず野心もなければ復讐心を抱くほど記憶力もない。
本質的に言って姫川亜弓はオリゲルドだ。

もちろんマヤの技量ならオリゲルドを立派に演じきり、
姫川亜弓も皆が想像するアルディスを演じきるであろう。

しかし純粋にオーディションを勝ち抜いて役を得た人間に対し
「わたしとたたかうためにわたしの前に出てきた」
などと言ってしまう人は、やはり復讐心が強いといえるであろう。

第24巻につづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第23巻・冬の星座(1)