【ネタバレ注意】ガラスの仮面第25巻その②【中途半端な演技は見苦しいわ】

      2020/05/02

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日帝劇場稽古場。

姫川亜弓演じるオリゲルド
誰をも愛さず誰をも信じず
憎しみだけをエネルギーに野望を遂げようとするオリゲルド。

北島マヤ演じるアルディス。
人を信じ神を信じ
自分の中の愛を見つめて生きる王女アルディス。

徐々に役を掴みつつある二人に共演者たちもリードされていく。
しかし一人不満そうな方が・・・

手にした杖で床を叩くその仕草と爆音は
伝説の大女優・紅天女である。

演出家でもないのに稽古を止めてしまうあたり、
劇団つきかげの癖が抜けないのであろうか。

「あなたたち自分たちの演る役がよくわかっていないようね。
 中途半端な演技は見苦しいわ。」

演出家ではなく一役者である自分の立場もよくわかっていない大女優の発言に凍りつく稽古場。

「月影先生、次は皇太后のシーンですが・・・」

「悪いけれど今日はもう失礼するわ。
 相手がこんな役者たちじゃ稽古する気も起きないわ。」

さすが往年の大女優、演出家の風魔先生が止めるにも関わらず
稽古をボイコット。ただのわがままか。

あとを追う風魔先生、マヤ、亜弓。
そして残された共演者たちは何が何だかわからない。
二人の芝居は決してまずいものではないのに。

「どこがいけなかったんです?
 あたしたちの演技のどこが・・」

「一言おっしゃってください先生。
 どこがお気に障りました?」

食いついてきた二人を見ると笑みを漏らす大女優。めんどくせえ。

「風魔先生、この二人を少し貸していただけますか?
 特別に稽古をしてみたいのですが」

「え?ええ」

こうして今回の演出家も、月影千草のイエスマンと化して行くのであった。

二人が連れてこられたのは劇場の倉庫。

「特別に稽古・・・?
 一体何をするつもりなんだ月影さんは・・・」

風魔先生も稽古をうっちゃって見に来る始末。

「さてと・・・」

月影先生はおもむろに小道具のマスクを見にまとう。
そのいでたちはまさに女王様。

「はじめましょうか二人とも。
 私はあなた方の祖母。
 ラストニア国、国王陛下の母、皇太后ハルドラ。
 目が不自由で足も少し不自由です。
 これからおしゃべりをしましょう。
 アルディスとして、オリゲルドとして会話をしてもらいます。」

「アルディスとして皇太后と会話を・・・?」

「これが特別な稽古・・・?」

「では始めます!」

小道具の杖で床を叩くと特訓開始の合図。
本番を待たずしてこの小道具はボロボロになるであろう。

「二人ともよくきてくれましたね。
 元気にしていましたか?」

突然会話を始める皇太后。
月影先生に合わせアルディスとして、オリゲルドとして会話を始める二人。

「はい・・・おばあさま」

「お気遣いありがとうございますおばあさま。
 アルディスはいつも元気ですわ。」

いきなり乗っかるマヤのノリの良さに驚く姫川亜弓。
この辺りが才能である。

「オリゲルド、そなた歳はいくつになりました?」

「15ですおばあさま」

「アルディスは?」

「13になりますおばあさま」

「二人ともこの皇太后のことをどう思っています?
 正直に答えておくれ」

さすが月影先生、ただのおしゃべりかと思いきやいきなり核心を迫る。
アルディスとしてオリゲルドとして二人が何を考えどう答えるかを試す。

「好きです。おばあさま
 でもちょっぴり怖いなって思う時もあります。」

マヤのストレートで自然な演技に驚く姫川亜弓。
そら自然に決まっとる。怖いのは皇太后ではなく月影先生だからだ。

「わたくしは・・・尊敬致しております・・・」

しかしそんな中途半端な答えをしてしまったオリゲルドを追い詰める皇太后。

「では私のどこを尊敬しているのです?
 さあ!オリゲルド何年も合わなかったこの祖母のどこを尊敬しているというのです!」

皇太后激怒り。矢継ぎ早に質問に質問を重ねオリゲルドを追い詰める。
ようやく納得のいく回答が行くと次の標的はアルディス。さらにオリゲルド。

「そうか・・これは二人の過去や性格を
 どれだけ掴んでいるかのテストなんだわ・・・!」

「変だわオリゲルドとして答えるうちに
 どんどんオリゲルドがわかってくる・・・」

二人ともこの特別稽古の真意を知り、そして役に近づいて行くのであった。
しかしそんな簡単に終わるほど月影式は軟弱ではない。

お互いのことをどう思っているのか
ラストニア国をどう思っているのか
国王陛下としての父をどう思っているのか
オリゲルドは斬首された母をどう思っているのか
アルディスは反国王派の動きをどう思っているのか
どんどん追い詰められる二人

そしてなぜだかこの特訓を見守り汗ばむ風魔先生。
あんたは稽古場に戻れ。

そして特訓の終わりを待たずして、
足が不自由な皇太后を演じる病気の月影千草が立ち、
若く健康な少女二人が膝をつき、肩で息をするという構図に。

「わかったでしょう?
 わたしがあなた達の演技が中途半端だと言った意味が」

二人はまだ自分たちの役をしっかりとは掴んではいない、
オリゲルドやアルディスとしてのものの感じ方、考え方、趣味そして性格、行動の動機、
それらがつかめていないから全ての演技が中途半端なのである。

「知らなかった・・・
 オリゲルドがあんなに様々な過去と思いと考えをもっていたなんて・・・
 しゃべりながら自分が別人になっていくようだったわ・・・」

地下劇場の不健康な生活では得られないものを得た姫川亜弓

「アルディス・・・自分の中から別の女の子が生まれ出てくるみたいだった・・・」

前回北白川さんから教わった「感覚の再現」は何も役に立たなかったようである。

「どうです・・・風魔先生」

風魔先生にドヤ顔の大女優

「いやこれは・・・!
 確かに先ほどまでのよりずっと生き生きしている・・・

「いかがでしょう風魔先生。
 この二人をしばらく私に預からせていただけませんか?
 私にこの二人の演技指導をさせていただきたいのです。
 この二人の中に眠るアルディスとオリゲルドをひっぱりだしてやりたいのです。
 長い期間はとりません。しばらくのあいだ・・・」

「わかりましたお任せしましょう月影先生。
 その間他の役者達の稽古をつけておくことにしましょう。」

前向きに職場を放棄した風魔先生。
まあこの状況では嫌とは言えまい。

「さて・・・と
 風魔先生の了解も得たことだしあなた方は私に従ってもらいますよ」

風魔先生の了解も得ず稽古をボイコットし二人を勝手に特訓してたくせに。

「これからあなた方を連れて行きたいところがあります。
 今すぐ着替えていらっしゃい。
 私は裏の通用口でまっています。」

「月影先生の演技指導・・・
 これからいったいどこへいくのかしら?」

久々の熱い月影道場に
恐れと懐かしさを抱くマヤであった。

 

というわけで今回。
月影スペシャルである。

大女優風を吹かして稽古場を荒らしたかと思えば
演出家を差し置いて熱い演技指導。
そして見事二人を完全とは言えないまでも役をつかむきっかけを与え
さらに次なる特訓へとさそいだす。

血を吐いて倒れる以外、全ての月影要素が詰まった回である。

しかしさすがの手腕である。
役になりきっての会話からその役柄を考えさせ感じさせ近づける。
テクニックだけの宝庫・姫川亜弓すら感じたことのない
自身の中から役が湧き上がる感覚をつかませたのである。
そして本来そう言ったアプローチが得意なマヤに対しても
これまでにない役柄を深く考えさせることでアルディスに近づけていった。
風魔先生ならずともこんな熱くて的確な稽古を見せられたら
あとはお任せするしかあるまい。

しかしここで重大な疑問が浮上する。
皇太后はどのような役柄なのだろうか?
皇太后の役を月影先生は掴んでいるのだろうか?
国を思い、威厳があり、尊敬される皇太后。
しかし目が不自由で足も不自由、
そんな人が声を荒げて叱責したり、
杖で床をガンガン叩くだろうか?
それって皇太后ハルドラやなくて、ただの月影千草である。

月影先生は皇太后の役を掴んでいるのですか?
中途半端で見苦しい演技はしないのですか?
そんなこと聞ける人は、もはやこの世界には存在しないのであろう。

つづく

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第25巻・冬の星座(3)