【ネタバレ注意】ガラスの仮面第26巻その③【この舞台は闘いよ。】

      2020/06/20

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オリゲルドが自ら、敵国エリンワルドに嫁ぐ申し出をしたとん噂は宮廷を駆け巡った。
そして皇太后ハルドラの住む北の離宮では宴が行われることとなった。
婚礼の祝いと別れの宴である。

舞台袖でスタンバイする演者たち。

「決まってるわね!亜弓さんの動きって。」
「俺たちかすんじゃうな、どうも」

姫川亜弓の演技の見事さと華やかさを褒め称える共演者たち。
主役と自身を比較しようとする端役の男性がいることに驚きを覚える。

役者とは他の誰よりも目立ちたい、輝きたいというのが本性だが、
このガラスの仮面の世界ではそれが露骨である。

しかしそんな周囲の喧騒の中、出番を待つマヤの心は集中していた。
いよいよこの舞台において姫川亜弓、そして月影千草と同じ板の上に立つ時が来たのだ。

「オリゲルド・・・アルディスの身代わりになって隣国へ・・・
 心優しいお姉さま・・・
 皇太后・・・北の離宮のおばあさま・・・
 気難し屋だけれど私には優しいおばあさま・・・」

マヤのコンセントレーションに気づき驚く共演者、
この辺りが凡人と天才の差でもある。

そして舞台にはまずオリゲルドが。
不気味な笑顔を浮かべ客席をぞくっとさせると背を向ける。
照明が灯されると舞台中央へは月影千草演じる皇太后ハルドラが登場する。

伝説の紅天女、往年の大女優の本格復帰である。

次女に手を引かれ座につくと、杖で床を叩く。
一瞬にして引き締まる空気。
もはやこれは月影先生の必殺技である。

「またせましたねそなたたち・・・皇太后ハルドラです」

大女優・月影千草の噂程度しかしらない観客も
その迫力に圧倒される。

「さすがは月影千草だな
 立っているだけで観客の注目を集める・・・
 いやたいした存在感だ・・・」

演出家の風魔鬼平先生もご満悦だ。

「お久しゅうございます皇太后様、オリゲルドでございます」

「オリゲルド・・・八年もの長い間本当に可哀想なことをしました。
 わたしの力が及ばなかったのです。ゆるしておくれ」

「いえいえめっそうもございません。」

面を上げたオリゲルド。
その視界に入って来たのは
瞳を輝かせ姉オリゲルドを見つめる、アルディスの表情であった。

「マヤ・・・!
 なんて表情をして私を見ているの!?マヤあなたは・・・
 紅潮した頬、期待に見開かれた瞳、話しかけたげな口元、
 初めてオリゲルドとあった感激が全身から感じられる・・・
 さっきからそんな表情をしていたの・・・?」

同じ舞台の上に立ち、セリフを言いながらも
思わず心の中で解説してしまうほどのマヤの演技力。

「亜弓さん・・・さっきから後ろを向いたきり動かない・・・
 いったいどんな表情をしているんだ・・・
 だけど・・・オリゲルドの肩を見ているだけでその気持ちがわかる・・
 みろよ、正面を向いているアルディスよりもオリゲルドの方がなぜか気になる・・・
 姫川亜弓・・・たいした存在感だ・・・」

この解説はおなじみの青木麗。
姫川亜弓のその存在感溢れる後ろ姿の向こうには
ただひたすらマヤを気にする姫川亜弓である。
逆にマヤの演技が、後ろ姿の亜弓を引き立てているとも言える。

オリゲルドの美しさと、自身の代わりに命を投げ出す勇気と優しさに感動するアルディス。
宴には隣国エリンワルド大使も列席。
そしてその大使の前で、オリゲルドは、
国王よりラストニア国王家の家宝「黄金の翼竜の宝剣と首飾り」を授けられる。
王だけが持てる家宝を手にしたオリゲルド、
客席を振り返ると自身に満ちた表情を見せるのであった。

オリゲルドの立場が変わるこの瞬間に客席を振り向くという絶妙のタイミング。
テクニックの宝庫、姫川亜弓ならではの見せ方である。

「オリゲルド、この度の婚儀、そなたが自分で申し入れたと聞きましたが本当ですか?」
「は、はい。皇太后様」
「なぜですか?人は誰でも自分が一番大事なもの。
 特にそなたは王家に対していい思いを抱いていまい。
 それなのにわざわざ敵国へ単身乗り込もうというのは
 一体どのような気持ちからなのです?」

劇場倉庫での特訓を思い出させるような皇太后の演技。
相変わらず床をどんどん杖で叩いてオリゲルドを問い詰める。

「オリゲルドお姉さまはこのアルディスの身代わりになってくださったのよ!」

言い繕うオリゲルドをとっさにかばうアルディス。
そして満面の笑顔でオリゲルドに抱きつくのであった。

「まるで警戒心ない顔だわ・・・
 なんて表情をするのかしら・・・
 観ている・・・観客はこの子を観ている・・・」

オリゲルドをかばうアルディス、
運命を受け入れ敵国に嫁ぐ決意を語るオリゲルド、
そして疑惑が晴れない皇太后、
皇太后に油断ならないオリゲルド。

そしてオリゲルドとアルディスの共演が続く。

「アルディス・・・これから先どんなことがあっても
 私を信じてくださる?」

「もちろんですわオリゲルドお姉さま。
 たとえラストニアとエリンワルドがどんなことになろうと信じます。」

「ありがとうアルディス。
 これで勇気を持ってエリンワルドへ行けます。」

「ただ一つ約束していただきたいの。決して死なないで・・・!」

オリゲルドの手を強く握るアルディス。

「マヤ、なんて力・・・真剣な目・・・」

マヤの手を強く握り返す亜弓。

「マヤ、この舞台は闘いよ。
 やりあいましょう、存分に・・・!」

オリゲルドの手を握ったアルディスの演技に対し、
マヤの手を強く握り返す素のままの姫川亜弓であった。

 

というわけで今回。
ついに二人の王女が激突、そしてその対決に紅天女が花を添えた。

さすがは往年の大女優、観客や共演者を圧倒してやまない。
引退以来初の本格復帰、ちなみに前回は全日本演劇コンクールで
手だけ出演した、「ジーナと5つの青い壺」以来である。

しかし杖で床を叩きまくる演技、月影先生の日常そのもの。
小道具担当スタッフの悲鳴が聞こえて来そうである。

そしてせっかく対面したマヤと亜弓は対照的であった。
自らの芝居の心に忠実に、オリゲルドに会う期待と感激を心に燃やし、
オリゲルドを見ていたアルディスに対し、
姫川亜弓は姫川亜弓であった。
アルディスではなくマヤの芝居が気になり、マヤを見る観客の目線が気になり、
そしてアルディスに対するオリゲルドではなく、
姫川亜弓として北島マヤに対して、闘志を燃やしたのであった。

せっかく不健康不衛生な地下劇場にて生活し、反社会的行為にまで身をやつして
オリゲルドの心を会得したにも関わらず、
本番の舞台で発露したのは、ただのいつもの姫川亜弓であった。
とても悲しい。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第26巻・冬の星座(4)