【ネタバレ注意】ガラスの仮面第26巻その⑤【あなたとの戦い・・!】

      2020/07/11

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オリゲルドが敵国エリンワルドへ嫁いで半年。
かといってラストニアは盤石ではない。
国内にはかつての反国王派・赤ユリ党の残党が起死回生の時を狙っていた。

そしてエリンワルドの脅威を先送りにしてすぐ、
今度は小国ハーランドと銅山の利権を巡っての緊張を迎えていたのである。

反対の声も虚しく、ハーランドとの戦争が始まる。
ラストニアは国力は未だ十分ではなく、今年の収穫も少ない。
その負担は国民への税金となるのであった。

なぜ人と人が殺し合うのか、自分は何もできないのか?
王女なのに、アルディスは初めて王女として悩むのであった。

そして一年。
ハーランドとの戦争は継続。
国王は戦場で傷つき療養の身、
国民は傷つき、国は荒れ、
王家に反感を持つものも多い。

「一年・・・ラストニアの戦はまだ終わらない・・・
 もう後一二年長引けばいい・・・
 そうすればラストニアは自ら滅びる・・・」

エリンワルドからラストニアの状況を静観するオリゲルドであった。

「どうすれば戦を終わらせることができるかしら・・・」

「どうすれば戦を長引かせることができるのか・・・」

「やらなければ・・・!わたしはラストニア国の王女だもの・・・!」

「やらなければ・・・!今こそラストニアを倒す時・・・!」

遠く離れている二人の対決に期待が高まる観客。
関係者は北島マヤと姫川亜弓の演技対決に興味津々。
小野寺先生はご機嫌。

「マヤちゃん・・・」

桜小路君は自動音声。

「オリゲルドとアルディスの戦い・・・
 そう・・・!これはわたしとマヤ・・・
 あなたとの戦い・・!」

そうではない。

「私は今オリゲルド・・
 ラストニア国の第一王女、敵国エリンワルドへ嫁いだ人質の花嫁
 野望と憎しみをエネルギーに中世の陰謀うずまく王宮の中で生きる女・・・!
 わたしの中にオリゲルドが宿る・・・!
 オリゲルドの魂を私が語り私が動く・・・
 私の中のオリゲルドが生きている!」

おそらく初めてといっていいだろう。
姫川亜弓が本当の意味で演技をしたのは。
しかし悲しいまでに、演技をしている自分を語り、
そしてマヤとの戦いを意識してしまう。

 

オリゲルドはラストニア国に密偵を放ち、
戦争の状況や国内の状況を調べていた。
戦争は長引き、国民は重税で苦しむ。
国内は戦の負傷者や失業者病人で溢れているとのこと。
そして密偵に資金を与え、赤ユリ党の首領を探していたのであった。

「エリンワルド国妃殿下オリゲルド様。」

「これはグリエル大臣。」

「悪巧みはもうすみましたかな?
 これは失礼!おいかりになられましたか?
 妃殿下に信頼されている嬉しさでつい無礼な口をきいてしまいました。」

「グリエル大臣・・・
 彼は私の野心を知っている、私の心を見透かしている・・・
 けれどこのエリンワルドでは一二を争う実力者。
 味方につけておいて損はない。
 この男をうまく利用することだわ。」

白目で微笑むオリゲルド。
凍りつく客席。

「みたか?今の亜弓さんのあの目・・・!」

ただの白眼に驚愕するのは劇団一角獣のいぶし銀・細川悟。
ちなみにこの人はいつも前髪で目が隠れているだけに、
目の演技に憧れているのであろうか。

「あああ・・・思わずぞくっときたぜ!」

なぜか青ざめているのは同じく劇団一角獣の堀田団長。
変な顔色してたら沢渡美奈に怒られてしまうだろう。

「オリゲルド・・・
 はじめに聞いた時はミスキャストかと思ったが・・
 なかなかのもんだよこれ・・・
 あってるよこの役・・・さすがだよ・・・」

覚醒した姫川亜弓の前には
青木麗の解説も小学生並みの感想になってしまう。

「亜弓さん・・・オリゲルドがそこにいる・・・
 私はアルディス・・・
 天使の心を持ち春の女神のように美しく輝いているアルディス・・・
 次はアルディスの出番・・・!
 王宮の中と貴族の人々しか知らなかったアルディスが
 ユリジェスに連れられて初めて現実の民の姿を見るシーン
 初めて街へ・・・!」

マヤほどの役者でも出番の前には状況をいちいち心に説明しないとならないのだろうか?
読者のための説明だと思いたい。

 

ラストニアの街。
浮浪者、負傷者、病人、失業者が力なく佇む。
それを目の当たりに驚くアルディス。

「ユリジェス、これがラストニアの国の民たちなの・・・?」

「ええ。そうですよこれが真実の姿です。
 城の人間や王家の人々は見ようとしなかっただけです。
 ごらんなさい、毎日のように処刑台へと人が消えていく
 休戦や減税を訴えた国民の代表が
 罪人として見せしめのように処刑されていくのです。」

呆然となるアルディスに一人の浮浪者が恵みを求め手を差し伸べる。
悲鳴とともに思わずその手を払いのけるアルディス、しかしその後言葉もない。

「この表情・・・アルディスの戸惑いが伝わってくる・・・!」

ライバル姫川亜弓はマヤの演技の機微を見逃さなかった。
そして速水真澄と一緒に感激の演劇評論家、柏原先生も思わず唸る。

「アルディス、北島マヤのさっきの演技なんですがね・・・
 乞食に触れられてとっさに払いのける・・・
 天使のような笑顔を持つアルディスが初めて嫌悪の表情を見せましたね。
 とても印象的ですよ。
 しかもそのすぐ後に罪悪感がぱっと表面に浮かんだ。
 瞬間的に自分の中に生まれた嫌悪感に驚き、
 それに対する罪悪感を感じたんですね。
 あの一瞬の間と表情、とても演技には見えない。
 おそらく全身でアルディスを理解しているのでしょう。」

さすがプロの劇評家。解説者青木麗が使い物にならない今、見事な解説である。

「それとあの子の本能で・・・」

「そういえば北島マヤは以前速水さんの大都芸能に・・・」

「ええ、見事に振られてしまいましたがね。」

「え?」

中途半端な相槌を打った結果、恥ずかしい過去を自ら暴露し、
黙り込む速水真澄。
何がしたい?

そして国民の窮状と惨状を目にしたアルディス、
ユリジェスに連れられ城へと戻っていったのであった。

 

というわけで今回。
恥ずかしい速水真澄はさておき。

姫川亜弓覚醒といったところか。
自画自賛する通り、オリゲルドの心をものにし、
心が体が動く様を楽しんでいるようでもある。

芝居の方法論として、ハートが先か、技術が先か。
前者がマヤであり、後者が亜弓である。
これまで姫川亜弓は卓越した技術を誇り、
その美貌と存在感をフル活用して観客を魅了してきた。
しかしそれは高度な技術のなせる技であり、
ハートは未熟、つまり見ようによっては
「完璧な芝居を演じている芝居」とも言える。
普通の観客は「技の芝居」でごまかせてきた。

しかし姫川亜弓にとっての脅威は北島マヤ。
基礎も基本もない、技術のなんたるかもない、
だが素人のくせに「心の芝居」をすでに習得している天才。

もちろんプロの役者としては姫川亜弓の方が格上。
商業である以上、本番でやりたい放題やったり、段取りを変えたりはご法度であろう。
共演者やスタッフの評価が高いのも亜弓であろう。
しかし、「心の芝居」という点においては
姫川亜弓はようやく芝居を始めた頃のマヤのレベルにたどり着いた程度なのである。

その証拠にせっかく「心の芝居」を楽しみだしたのに
意識にあるのは「マヤとの戦い」
当のマヤは、「心の芝居」に磨きをかけ、
さらにはパントマイムなど「技の芝居」も成長しているのだ。
とても悲しい事実である。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第26巻・冬の星座(4)