【ネタバレ注意】ガラスの仮面第27巻その⑤【私に愛を気づかせないで!】

      2020/09/19

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短剣の切っ先をオリゲルドに向けたアルディス。
緊張感が劇場を支配する。

「アルディス・・・
 一度こうやってあなたと争う日が来ると思っていたわ。
 あなたが私を倒せば新しいラストニアの女王が誕生するわ。」

「そしてあなたが私を倒せば
 女王陛下にとっての邪魔者が一人消えるというわけですね。
 それと同時にあなたはただ一人の血を分けた妹と
 あなたを愛するただ一人の人間を失うことになるんだわ・・・!
 あなたを愛し信頼していたただ一人の人間を・・・」

オリゲルドが自分以外から愛されていないという事実を強調する。

「それが女王なら私は女王になどなりたくありません!
 今だってお義姉さまはちっとも幸せそうじゃないわ!」

「お、おだまり!」

「いいえ!お義姉さまはこの世で一番不幸な人間よ!
 淋しくて孤独な女王だわ!なんてかわいそうな女王陛下!」

図星をさらに誇張されて激怒のオリゲルド。

「おだまり!さもないと・・・」

しかしアルディスは短剣の切っ先でオリゲルドの動きを制する。

「剣には二通りの使い道があります。
 自分を守るためと相手を倒すためのものと・・・
 私にどちらを選ばせたいですか・・・?」

その二択では、両方ともオリゲルドにメリットない。

「あなたにはわからないわ。私の気持ちなど・・・
 この世は地獄よ・・・信じれば裏切られる・・・愛すれば利用される・・・
 背中に剣の先を感じながら生きてきたわ。」

オリゲルドが初めて、自身の本心をそして弱音と恐怖を吐露する。

「殺さなければ殺される・・・騙さなければ騙される・・・
 夫でさえも信じられない・・・!
 そうよ!あなたのいう通りよ!心安らかな日など一日もなかったわ!
 幸せだと感じる日は一日もなかったわ!
 あなたのように誰からも愛されて
 幸せにぬくぬくと生きてきた人間にわかるものですか!
 アルディスあなたが憎いわ・・・!
 あなたが憎い・・・」

自らの不幸、孤独、恐怖を認め涙ぐむオリゲルド。

「これをどうぞ、お返ししますわお義姉さま。
 この剣のもう一つの使い道がわかりました。」

短剣をオリゲルドに戻すアルディス。

「私の存在がそれだけでお義姉さまの苦しみになるのでしたら
 どうぞ私をお父様やお母様のところへ送ってください。
 今お義姉さまにしてさしあげられることはこれだけしかありませんわ。」

オリゲルドに背を向けると、跪き、祈りを捧げるアルディス。

「どうぞ、お義姉さま」

「アル・・・ディス・・・!」

剣を逆手に持ち、アルディスの頭上に構えたオリゲルド。
しかし、剣を落とす。

  • なぜ・・・アルディスなぜなのよ!
  • なぜ私を憎まないのよ!アルディス
  • 私のこの敗北感は何なのよ?
  • 女王である私がどうしてあなたに敗北感を感じるの?
  • 私は誰も信じない・・・誰も愛さない・・・
  • 騙さなければ騙される・・・殺さなければ殺される・・・
  • 誰も私を信じない・・・誰も私を愛さない・・・
  • 女王になった今も苦しみはさらに増し・・・
  • 心の敵は一層増えただけ・・・

オリゲルドの本心は姫川亜弓の本心。
オリゲルドの魂の叫びは姫川亜弓の魂の叫びである。
ロッケンロール。

「お願いよアルディス。
 私に不幸を気づかせないで!
 私に愛を気づかせないで!」

「お義姉さま・・・」

「一生よ・・・一生私はこうやって生きるのよ・・・
 地獄の中で・・アルディス・・・」

オリゲルドが初めて明かした自身の弱さと恐怖に
観客は心打たれる。
決して善とは言い難いオリゲルドの
その悲劇に心打たれる。

「見事だ亜弓くん。
 君は見事にこの舞台の主役だ・・・!」

ご満悦でほくそ笑むのは小野寺先生。
ちなみにこの人、今回はただの客である。

「悲劇の女王オリゲルド。さすがは姫川亜弓だ。
 悪の華であるはずのオリゲルドの悲劇をひしひしと感じる・・・
 場内はオリゲルドの心情で満たされている。
 観客は君の心情に同化してしまっている・・・
 もうすぐ舞台は終わる。主役は君だ亜弓くん・・・!」

なぜか勝ち誇る小野寺先生。ただの客のくせに。

「すごいわ亜弓さんやっぱりすごい・・・」
「このクライマックス観客の心を全て自分にむけてしまったぜ・・
 これでは完全にオリゲルド主役だ」
「光の王女アルディスと、影の王女オリゲルド・・・
 こりゃ光が影に食われている・・・」

舞台袖でも姫川亜弓の芝居に歓喜する関係者たち。
お前らは稽古の時点でわかるやろ。

「フフフ・・・どんなに影が濃くても光がなければ影はできないのですよ・・・」

おもむろに仮面を外しながら月影先生。
出番終わりですか?

そしてオリゲルドの苦しみの告白を受けたアルディス。
泣き崩れたオリゲルドの前に優しく立つ。
その微笑み、その雰囲気に聖母マリアにも似たものを感じさせるのだった。
慈悲に満ちたアルディスの表情、
その芝居にざわつく場内、

「マヤ・・・!」

背中でその異変を感じ取り、クライマックスやのに姫川亜弓に戻ってしまう姫川亜弓。
そういうところがあかんねん。

「曲者だ!逃すな!」

突如監獄に響き渡る声。
そして疾風のような影が現れる。

「ユリジェス!」

「アルディス姫よくご無事で!
 あなたの命が女王陛下の手の者に狙われているときいて」

言いかけて、オリゲルドの存在に気がついたユリジェス。
思わず剣を構える。とっさに止めるアルディス。

しかしオリゲルドは無言でローブを手に取ると、
アルディスに歩み寄る。

「さようならアルディス」

顔も向けず、目も合わさず、すれ違いざまそういうと、牢獄の部屋を出て行ったのだった。

外には曲者を探す衛兵たち。
即座に衛兵全員に、女王を警護して城へ戻るよう下知したのであった。

「オリゲルドお義姉さま・・・
 見逃してくださったのだわ・・・」

「さ、私についてきてください!アルディス姫さま。
 アシオさまが陛下を亡き者にし、あなたと結婚してこの国を乗っ取ろうと企んでいるとの噂。
 陛下が我々を見逃してくれたということはあなたに生きよとおっしゃっていられるのです。
 たとえ陛下にその気が無くとも、女王派が黙ってはいますまい。」

ユリジェスに促され、ビエナとともに、アルディスは牢獄を後にしたのであった。

アルディスが監獄を脱走したという噂は、皇太后ハルドラの元へ

「わたしは目が不自由・・・
 アルディスの姿など見たくても見えぬ・・・行方など知ろうはずもない・・・
 目が不自由なのも良いものじゃ。
 人の世の醜いものも、この世の悲しみも見ずに済む。
 この不自由な片足は、世の野心家どもに近づかないでいてくれる・・・
 アルディスが去った・・・
 野望に生きればあの子の人生は険しいものになろうが
 一人の娘として生きれば幸せな道を歩めるかもしれぬ・・・
 アルディス・・・ラストニアの王女・・・」

そして闇の中へと消えて行った皇太后。
わずかの出番ながら強烈な存在感を観客に植え付けた。
まだ出番あったやん、結構すぐに。
なんでさっきのタイミングで仮面を外したのか。

 

 

ちゅうわけで今回。
クライマックス、オリゲルドがその弱さを吐き出すシーンは圧巻である。
そしてその魂の叫びは姫川亜弓のそれである。

映画監督と大女優を両親に持ち、大勢の使用人に囲まれ、豪邸で何不自由ない暮らし。
親の七光りを嫌い、努力に努力を重ね、実力のみで評価される芝居の道を生きる。
妬まれ僻まれ、心を許す友もいない。
しかも素人同然から天才的な才能で現れた馬の骨ともわからん天然に評価を掻っ攫われるのである。

誰も信じない、愛さない、孤独、寂しさ、
全て姫川亜弓のキーワードである。

姫川亜弓から見れば、北島マヤはのほほんと生きて見えるに違いないし、
そんなやつに自身の気持ちはわからないと思うであろう。

しかしこの話、誰がどう見てもオリゲルドがメインである。
当初はアルディス=姫川亜弓、オリゲルド=北島マヤが既定路線、
さらには姫川亜弓の相手役として開催されたオーディションを勝ち抜いたのがマヤであった。
このまんまキャストが逆になったとして、もちろんその個性や演技力の違いはあるにせよ、
オリゲルドメインであることは揺るぎそうにない。

最初の企画や脚本は、もっとアルディスメインだったのだろうか。
オリゲルドはもちろんその悲哀はあるにせよ、悪役要素が強く、
アルディス中心のストーリーであったのかもしれない。

そんな誰が見てもオリゲルドメインと感じる芝居を見て
「君が主役だ」とドヤる小野寺先生はある意味幸せである。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第27巻・冬の星座(5)