【ネタバレ注意】ガラスの仮面第27巻その⑥【身も心も別な人間になりきる・・】

      2020/09/26

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アルディスが牢獄を脱出してその後、依然として行方は知れない。

「アルディスは我が国の第一王位継承者。
 謀反の罪の疑いが晴れぬとはいえ
 私にまさかの時に国をついでもらわねばならぬ身。
 行方不明とは困ったこと。そうではありませんか、アシオ様」

この結末にはなすすべもなく不満げなアシオ王子は去っていく。
そしてオリゲルドは夫への監視を緩めない。

「アルディス、私の切り札生かしておくには危険な切り札。
 彼女に生を許すか、死を与えるか・・・
 これは大きな賭けだわ。
 アルディス・・・私の義妹・・・ラストニアの王女・・・」

アルディスが生きていれば、
アシオ王子のようにアルディスを利用し、オリゲルドを王座から追うものがあり、
アルディスが死んでも、
エリンワルドがラストニアに乗り込んでくる。
オリゲルドにとって、アルディスはまさに危険な切り札。
行方不明が一番の妙手といったところか。

そのころアルディス。
ユリジェスとともに国境を越えた。

「アルディスと呼んでください。ユリジェス。
 あなたとまたこうして会うことができるなんて夢のようです。
 牢にいる間あなたのことばかり思い出していました。
 牢を出られて嬉しいことはあなたの顔を見つめていられることです。」

「私の方こそ・・・」

二人が抱き合うという唐突な展開。

「私についてきてくれますね、アルディス
 ラストニアの王女としてではなく私の妻として」

唐突かつ、一番ラッキーなのはユリジェス。
皇太后の密かな計らいで、
ラストニアもエリンワルドも手の届かない暖かい国の
大貴族がアルディスたちを迎えてくれるそうな。

「ラストニア・・・
 遠く離れていてもわたしはこの国の王女・・・
 オリゲルドお義姉様・・・
 私は生き続けます。どんなことをしても!
 そして遠くからこの国をみつめていましょう。
 この国が冷たく凍えすぎないように
 この国の吹雪が激しすぎないように
 そして春の日の長く続くように・・・」

ユリジェスと抱き合うアルディス
春の暖かさを劇場に残して暗転。

すると闇から登場したのは死人のような表情のオリゲルド。

「ラストニア・・・冬将軍の治める国・・・
 私はこの国の冠をかぶっている。
 私の名は女王オリゲルド。
 あらゆる手段を使って手に入れたこの名・・・」

再び冬の寒さが劇場を支配する。

「寒い・・・寒いわアルディス
 私の心は冬のまま・・・吹雪の中から抜け出せない
 アルディース!」

背後に気配を感じ我に返るオリゲルド。

「女王陛下!議会が始まります!
 女王陛下!お出ましを!」

「あ・・・お・・・」

一瞬たじろぐオリゲルド。
しかし一間あると高笑い。

「私は誰も信じない!
 誰も愛さない!
 氷の矢を払うには氷の盾をもってするほかないわ!
 誰に信じられなくてもいい・・・
 誰に愛されなくてもいい・・・
 地獄の中で生きてみせる・・・
 血にまみれても、生き抜いてみせる・・・」

ローブを翻して後ろを向くと、
家臣一同が並んでいる。

「女王陛下のおなりー!」

 

暗転。

速水真澄、小野寺先生、水城さん
つきかげと一角獣の面々、桜小路くん。
そして劇場の観客たち、居並ぶ劇評家、取材陣
沈黙である。
そして嵐のような拍手と歓声。

舞台裏では慌ててカーテンコールの準備をする出演者。
幕が上がる。
ラストニア国王、王妃方ジーナ、王妃ラグネイド、
王子ヨハン、幼少期のオリゲルドもいる。
ゴッドフリード伯、その息子ハンス、赤ユリ党のディーン、キルゲ将軍、
エリンワルド国王、アシオ王子、グリエル大臣、
ユリジェス、ビエナ、ゾフィ、
次から次へと主要出演者が現れる。

そして歓声の中、杖をつき、足を引きずりながら現れた皇太后ハルドラ。
一瞬劇場が静まるも一礼すると再び大歓声。
出てくるだけで舞台の空気が変わる圧倒的な存在感を
カーテンコールでも見せつける。

舞台袖ではスタッフに呼ばれるマヤ。

「アルディス・・・私の中にアルディスが残る・・・
 アルディスの心が残る・・・!」

一方同じく出番待ちの姫川亜弓。

「カーテンコール、マヤの次は私の番・・・
 アルディスかオリゲルドか
 観客はどちらをより認めたのか
 ああでももうそんなことどうでもいい。
 不思議だわこの気持ち・・・
 舞台の上で別の人格が私を支配しているようだった。
 身も心も別な人間になりきる・・・
 こんなことってあるのかしら・・・?
 今も自分が姫川亜弓だって信じられないくらいよ。
 体の隅々にまで充実した思いが広がっていく・・・
 私は舞台の上でオリゲルドとして生きていた・・・
 オリゲルドとして・・・!」

劇場はオリゲルドとアルディス、双方を支持する客が。
悲哀の王女オリゲルドと、春の女神のようなアルディス。
その空気を察する小野寺先生、速水真澄、水城さん、桜小路くん
そして聖さん。おったんかい。

舞台にアルディスが登場、春の空気を振りまき大歓声。
つづいてオリゲルド、白目で登場。冬の空気で観客を黙らせる。
静かな舞台の上をおもむろに進む。その間には小野寺先生すら息を飲む。
そして白目から黒目に変わると、
本日初めてみせるオリゲルドではない姫川亜弓の笑顔。

場内大歓声と盛大な拍手。
カーテンコールでもテクニックを惜しみなく披露し、
オリゲルドの仮面を捨てて姫川亜弓になるというギャップで
場内の拍手を独り占めしたのだった。

まさにこの舞台の主役。
その主役に対し、マヤはアルディスの笑顔のまま、拍手を送っていたのだった。

 

終幕。

楽屋では姫川亜弓に取材が殺到。
そして北島マヤを取材する頃には
メイクを落とし、かつらを外し、服装を着替え、
いつものマヤに戻っていた。
本人確認すら始める取材陣。

「演劇界復帰第1作、どう?感想は?」

「あの・・・幸せでした・・・舞台の上ですごく幸せでした。」

相変わらず噛み合わない。

「アルディスが幸せな少女だったからだろう?」

そこに乱入してきたのは速水真澄。
大物の登場に引き下がる取材陣。

  • 全くうまく化けたもんだ
  • あのアルディスがこのチビちゃんと同一人物とは
  • さすがの俺も騙されるところだった
  • あのまま永遠に舞台が終わらなければもっとよかったのに

毎度恒例の嫌味な感想。
騙されるところではなく、すでに騙されている。

「遅れたが今日の舞台招待ありがとう。
 君のアルディスはよかったよ。予想以上だ。」

まさかの大絶賛に赤面するマヤ。

「豆狸がよく化けたご褒美に約束通りたっぷりと花を贈ろう。
 ほしいだけ水城くんに行っておきたまえ。
 劇場のロビーに飾らせよう。
 このまま千秋楽まで是非みんなを化かし続けてくれたまえ。
 いやあ美しくてあのアルディスはなかなかよかった。
 舞台の上でしかお目にかかれないのが残念だ。」

嫌味と絶賛を織り込みつつさっていく速水真澄。
殺意すら覚えるマヤ。

しかし速水真澄が花を贈ることの意味を知る関係者はざわつく。
大都芸能の速水真澄が花束を贈る相手は「一流」と見なされることなのだ。

「速水さんからの花がそんな意味を持っていたなんて・・・
 じゃあそうと知ってあの人はあたしに花を・・・
 みんなが私に注目するように?私の宣伝のために?なぜあの人が?
 ううん、これはただの賭けよ!私は賭けに勝ったんだわ!」

「どんな花がいいの?マヤ」

「紫のバラ以外ならなんでもいいわ」

紫のバラの正体を知る水城さんもびっくりやろう。

「あたしが一番ほしいのは紫のバラ・・・
 いつもあたしを励まして勇気付けてくれるあの人の贈ってくれる紫のバラ・・・
 あれだけはいや、他の誰からも贈られたくない・・・
 今日の舞台見てくれましたか?紫のバラのひと・・・」

そして劇場から出てきたのは桜小路くん。

「出てきた・・・君は出てきた
 君の生きる場所へ・・・虹のライトのあたる場所へ
 中央の舞台へ・・・やっと出てきた君は・・・!
 マヤちゃん・・・!」

劇場から出てきたやつが「出てきた」とかいうからややこしい。

 

 

後日。速水邸。

「それでふたりの王女は目下のところ
 連日大入りの大成功をおさめているというのか、真澄。」

「ええ、お義父さん。」

義父に亜弓とマヤの評価を報告する。
大きくイメージを変えた亜弓と
華麗な姿で好評のマヤ。

「お前の公平な目で見てどうだった?
 二人の紅天女候補の芝居は」

公平に見れない速水真澄の目にも、圧倒的に姫川亜弓の評価が高い。

「今までの豊富な舞台経験、知識、積み重ねてきた稽古、天才的な演技力、
 演技術という点からいけば、北島マヤはまだ姫川亜弓の敵ではありません。」

「では紅天女はやはり姫川亜弓が有力か・・・」

しかしマヤの評価も捨てがたい。
中でも自身とは正反対の役柄を演じながら
その役の人物として自然な呼吸をできるその並大抵ではない技量だ。

そして不思議なことに、マヤは今回の舞台で
姫川亜弓をあまり意識せず、
自分より勝る彼女の人気や演技力を素直に受け止めて
舞台で演技できることの方が楽しくて仕方がない、
その本質まで見抜いている速水真澄。
只者ではない。

今回の舞台成功で開けた次の道、
しかし約一年のうちに芸術大賞か最優秀演技賞を取らなければ
紅天女は姫川亜弓のものになる。

「紅天女のことはお前に任せる。
 演劇界幻の名作、それを上演するのは長い間のわしの夢だった・・・
 なんとしてもお前の手で上演してくれ。」

「ええ、わかっています。お義父さん。」

「ときに真澄、
 お前・・・好きな人でもいるのか?」

唐突な質問。
手にしていたタバコに再度火をつけるという謎行動。

「いませんよお義父さん
 別に・・・」

実にわかりやすい。

「そろそろお前も身を固めんとな・・・
 大都芸能の後継が独身でいるわけにはいくまい。
 この写真を見ておけ。」

「見合いですか?
 前にも言ったように僕はまだ結婚する気など・・・」

「そういって今までずっと縁談には乗らなかった。
 見合いの話も写真も見ないで断っておったからな。
 だがともかくその写真を見ろ!」

義父の圧に負け見合い写真を手にする。

「うっ・・・この女性は・・・!」

「見合いをしろ!真澄
 これはわしの命令だ!」

 

 

てなわけで今回。
速水真澄の見合いの話は次回に譲るとして

二人の王女初日無事終演。
結果だけを言えば
姫川亜弓の圧倒的な存在感で完璧な演技、この上ない評価。
ついで北島マヤも好演。紅天女への道が開く。
と、対外的にはそういったところである。

しかしこの舞台の本質はカーテンコールを控えた二人のセリフが全てを物語っている。
一方的にマヤを意識し、勝敗にこだわっていたが、
舞台上で役になりきるという初めての感覚に包まれ
そんな思いがどうでもよくなってきた亜弓と、
ずっとアルディスの心だったマヤ。
皮肉なものである。

しかし亜弓さんは本当にこれまで
役になりきる楽しさを味わって来なかったのだろうか。
演劇や芝居にハマる人は、
役になりきるその感覚が病みつきになるとよく聞くが、
これまで技術と経験だけで乗り切ってきたが初めて辿り着いた境地。
しかしそれは、マヤが素人中学生の頃から持ち続けていた感覚なのである。

なんとも皮肉である。

第27巻につづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第27巻・冬の星座(5)