【ネタバレ注意】ガラスの仮面第27巻その④【あなたなんか大っ嫌いなのよ】

      2020/09/17

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三年の月日が過ぎた。

「私の心の中は昔と変わらず冬の風が吹いている・・・
 氷のつぶてが舞っている・・・
 アルディスはあの監獄の中でどう暮らしているのか・・・?
 かつて私が暮らしていたあの監獄で・・・」

そこに現れたのは、アホのくせに野心に満ちているアシオ王子。

「これは我が妻にして女王陛下。
 ごきげんうるわしゅう。
 白の監獄の中のアルディスを殺すことに反対しているそうだな。なぜだ?
 俺とエリンワルドに対する切り札だと思っているのか?」

側近が止めるにも関わらず、思ったことを口にするアホ。

「だったらあいにくだな。
 俺はラストニアの王位を継承できるのならばお前でなくてもいいのだ。
 お前がこの世からいなくなればアルディスがこのラストニアを継ぐ。
 前にちらりと見たときはボロをまとっていたが、大層美しい王女だった。
 ええ?どうだオリゲルド。」

アシオ王子に炸裂したのは血相変えたオリゲルドの平手打ち。
三年の月日は夫婦の関係も変えたようだ。
悪態をついて去っていくアシオ王子。

「そうだ・・・あの男の言う通りだ・・・
 やるかもしれないあの無鉄砲な男なら・・・
 私を殺してアルディスと結婚・・・
 アルディスが私の後を継いで女王になる・・・
 そうはさせない・・・させるものですか!」

意を決したアルディス、アルディスの白の監獄へと向かう。

「アルディス・・・この牢獄での三年間、
 さぞ苦しみと絶望と悲嘆の涙で明け暮れたことでしょう。
 かつての私のように、あなたもその中で
 憎しみを育てていることでしょう。」

しかし聞こえて来たのはこれまた楽しそうな笑い声。
獄中ではアルディスとビエナ、看守二人が
楽しそうに談笑しているのだった。めっちゃ笑顔で。

「どうしたことなの?
 これは一体?あの笑顔は一体なに?
 初めてあった時と同じ春の女神のような・・・
 三年の間、あの子はこの中で変わらなかったというの・・・?」

アルディスまさかの三年後に、うろたえるオリゲルド。

「いよいよクライマックスですな・・・
 姫川亜弓と北島マヤが一体どんな演技を見せるのか楽しみですな・・・」

名もなきおっさん劇評家たちの期待も高まる。

怒りと驚きに満ちたオリゲルド。
懐より取り出した短剣を鞘から抜く。
息を飲む観客たち。

「さあこれからが問題のクライマックスシーンだ。」

劇団一角獣の堀田団長はストーリーを知っているのだろうか

「いよいよ二人の対決だ。
 二人の王女、オリゲルドとアルディスの・・・
 北島マヤと姫川亜弓の・・・」

こちらは青木麗。大したこと言ってない。
パンフレット見ただけでわかる内容。

「それまで憎悪と野心の塊だったオリゲルドが
 初めてその弱みをさらけだし・・・
 天使のようなアルディスが初めて憎しみと殺意を見せるこのシーン
 二人がどう演じるか・・・
 このクライマックスに全てがかかっている・・・」

これは誰か知らんが舞台袖にいるスタッフのおっさん。
あんまりクライマックスを連発するともいかがなものか。

そして速水真澄は黙って見る。
というかプロの割には結構芝居に見入っている「いいお客さん」である。

 

扉をあけて入って来たオリゲルド。慌てて逃げるように出ていく看守たち。

「あの者たちに罰を与えないでやってください。陛下。
 私が呼んだのですから・・・
 私が淋しがったり退屈したりしていると
 やって来て楽しませてくれるのです。
 冗談をいったり世間の面白い話をきかせてくれたり
 私をなぐさめてくれます。」

「・・・・・・・
 あなたには番人も優しいのですね。
 私がここにいた時には番人たちは私に悪態をついてばかりいたわ。
 わたしとあなたとどこがどう違うというの・・・?
 同じ王女でありながら・・・」

「陛下・・・」

「その呼び方はよして!
 陛下!陛下!陛下!
 誰も彼もがその名で私を呼ぶわ・・・
 そしていうのよ、ああしてください、こうしてください
 自分たちの勝手な都合ばかり・・・
 誰も私のことなど・・・」

いやそういう仕事やし、自らが望んだ地位やし。
それこそオリゲルドの勝手な都合である。

牢獄に訪れた義姉をもてなすべく、
アルディスが火のそばへあたることを勧めるも
断るオリゲルド。
いつどんな危険な事故が起こるとも限らないから・・・

義姉へぶどう酒を勧める。牢獄は酒OKらしい。
しかし断るオリゲルド。
外では飲み物も食べ物も口をつけないことにしていると。

かわりに杯を飲み干すアルディス。

「私のために毒味をしてくれたというわけね。
 でも気など許すものですか・・・」

三年間の女王としての暮らしは、オリゲルドの心を更に閉ざしていたのか。

「変わってないわ。私が昔住んでいた時とこの監獄は少しも・・・
 ここにいた8年の間、私は笑ったことなど一度もなかったわ・・・
 それなのにあなたはなぜそんな笑顔を浮かべていられるの?
 幸せそうな天使の微笑み・・・」

そら悲嘆に打ちひしがれ憎み恨み、天使のような笑顔がさぞかし歪んでいるだろうと
期待してやって来たにも関わらず、変わらない笑顔で看守にも大人気。
オリゲルド姐もお怒りである。

  • 初めてここへ入ったときはあまりの酷さに驚いた。
  • 固いベッド、ろくに光のささぬ窓、食事とは思えない食べ物、修道女のような質素な衣服
  • 当たり前のように思っていた宮殿の生活が贅沢なものであったのかと初めて思い知った。
  • 番人たちに言わせると大多数の国民よりはましな生活。
  • もっと貧しくて粗末な生活をしているときき、王女として咎められる思いであった
  • 王女として生まれてきたというだけで何も知らずに傲慢になっていた自分が恥ずかしい
  • この牢獄は私にそれを教えてくれた
  • 陽の光の明るさのありがたみ、神父、家庭教師、ビエナ、番兵たち、取り巻く人々の笑顔の嬉しさを改めて知った。

恨みつらみではなく、現状を受け入れまさに「足るを知る」のアルディス。
これまでの自分を反省し、今あるもののありがたさを知ってしまう。
その苦しみも悲しみも洗い流されたような清々しい表情に感動する観客。

「マヤ・・・!」

しかしオリゲルドの中の姫川亜弓が、アルディス=北島マヤに怒りを覚えた。

「それにお義姉様が8年もいたということがアルディスの励みになっています。
 いろいろ不満を言ってはバチが当たります。」

自身の地獄の8年間が、なんか「いい話風」にされてしまった。

「本当にそう思っているのアルディス・・・
 あなたはどうしてそうなの・・・?どうして・・・
 なぜ自分の不幸に気づかないの?_なぜ自分の不幸を呪わないの?
 自分を不幸にした人間を恨まないの・・・?
 こんなところにいてなぜ自分を反省したり、
 周りに感謝したりできるの?
 あなたをここへ閉じ込めたままにしている私をなぜ恨まないの?」

「そんなこと・・・
 母や祖父や叔父がお義姉様にしたことを思えば・・・
 こうやってお義姉様が訪れてくださるだけでもありがたいと思っていますわ。」

相変わらずにこにこのアルディス。

「変わっていないのねあなたは・・・
 それとも私の前で本心を悟られぬよう演技しているだけ?
 本当のことをおっしゃい!アルディス!」

激昂しローブを脱ぎ捨てたオリゲルド。
拍子に懐中に忍ばせた短剣が床に落ちる。
驚くアルディスとビエナ。

「この剣を拾っていいのよアルディス。
 私を殺せば今この場であなたは女王になれるわ。
 あなたが私を殺らなければ、私があなたを殺すわよ。
 私は本気よアルディス。そのためにここへきたのよ。」

とっさにアルディスをかばい抗弁するビエナ。

「あなたの存在そのものが私を脅かすのよアルディス。
 あなたは第一王位継承者。私の後を継ぐのはあなた。
 私に不満を持つものや権力を握りたがっている連中が
 あなたをそそのかし、利用して刃を私に向けるかもしれない・・・」

「お義姉様の後ろにはエリンワルド国が控えておいでのはず・・・
 誰も手は出せませんわ!」

「そのエリンワルド国がいつ刃の向きを
 私にかえるかもしれないと言ったら・・・?
 私さえいなければこの国の女王になれるのよ。
 牢から出て宮廷に戻れるわ。
 どう?もう自分をごまかすことはないのよ。
 私が死ねばいいと思うなら、この手から剣をもぎ取るがいいわ。」

ここから殺陣。
アルディスを庇おうとするビエナ。
剣を振り上げ、ビエナに切りつけるオリゲルド。
とっさにビエナを突き飛ばすアルディス、
結果、二人の間にオリゲルドが割って入る形に。

果敢にも素手でオリゲルドに立ち向かうビエナ。
しかしオリゲルド、ビエナのタックルをかわすと、
左エルボーを見舞って反撃、さらに突き飛ばす。
突き飛ばさればビエナ、壁に激突、そして気絶・・・

「ふん、たわいもない、気絶してしまったわ。」

斬られたり殴られたりするのではなく、
壁に激突して戦線離脱。
斬新な殺陣である。

しかしその隙にオリゲルドの腕に組みつき、短剣を奪うアルディス。

「いよいよ本音を吐いたってわけね。アルディス・・・
 さあ。それで私を刺せるものなら刺して御覧なさい。
 そうすれば私に取って替われるのよ。」

「どうしてそんな悲しいことを言うのです?
 私に優しくしてくれたお義姉様を忘れているわけではありません。」

「あなたに優しくした・・・?」

「私のために身代わりになって敵国であったエリンワルドへ嫁いでくださったではありませんか!
 そしてなんども手紙で私を励ましてくださったではありませんか?
 私を愛してくださっていたのでしょう?」

「私があなたを愛している・・・?
 バカなアルディス・・・私はちっともあなたなんか愛しちゃいないわ!
 私はあなたなんか大っ嫌いなのよ・・・!」

これまで独白のみ・・・つまり観客以外にその本心を明かしてこなかったオリゲルドが本心を語る。

アルディスを憎み続けていたこと。
牢獄の不幸な暮らしをもたらしたものを憎み、世を呪い、
いつか復讐してやりたいと思ったこと。
父である国王、陰謀の主ゴッドフリード伯、
自分から母と父の愛を奪った、ラグネイド王妃、
そしてオリゲルドとヨハン王子に、
そして権力を手に入れない限り
自身の幸せがないと思ったこと。
人を疑い、騙し、駆け引きをすることを牢獄で得たこと。

「もっといいことを教えましょうか、アルディス」

自身の本心だけでなく、これまでの悪行三昧を全て暴露するオリゲルド。

ハーランドの矢を使って、森の中でヨハン王子を射させたこと
病で苦しんで死んでいった国王に、毒を盛らせていたこと
オリゲルドが王位につくことを嫌った連中が暗殺計画を立てることを予測し、
一網打尽にアルディスの祖父、母、叔父を罠にかけ処刑したこと

「どう?アルディス!あなたをここへ追い込んだのは私!
 あなたの幸せを奪ったのは私!
 さあ!これでも私を愛してると言えて!?」

義姉の吐露に呆然となるアルディス。
そして手にした短剣の切っ先がオリゲルドの方を向いた。
静寂。息を飲む観客たち。

 

てなわけで今回。
いろんな人が「クライマックス」と言っているように
オリゲルドとアルディスの直接対決。
そしてマヤと亜弓の直接対決でもある。

二人の対決を振り返ってみる。

  1. 劇団オンディーヌの稽古を見学したマヤとのパントマイム対決。
    経験で勝る亜弓の圧勝も、マヤの潜在能力に恐れをなす亜弓
  2. 劇団つきかげの稽古場に乱入した姫川亜弓がマヤのレッスン相手に。
    限られたセリフでのマヤの見事な切り返しに、恐れをなす亜弓。
  3. 全日本演劇コンクール東京予選、「たけくらべ」で激突。
    双方一位で全国大会進出も、亜弓は言いようのない屈辱感
  4. 全日本演劇コンクール本大会。
    小野寺先生の妨害にも関わらず、一人舞台を完遂、観客投票で一位になったマヤに敗北感を味わう亜弓。
  5. 夢宴桜で急遽代役として登場したマヤ、亜弓と同じ芝居で激突。
    共演者の嫌がらせにより、台本をすり替えられたにも関わらず無事に切り抜けたマヤと
    それを芝居の力でサポートした亜弓。しかし「セリフを知っていた分有利」とハンデ発言。
  6. 奇跡の人、ヘレン役でWキャスト対決。
    実母にしてサリバン役の姫川歌子さんはマヤを評価したと思い込み、敗北を喫する。

これまで様々な形で対決した二人であるが
稽古場や代役、あるいは別劇団での競演はあったが
同じ舞台の上での本格的は戦いは初めてである。

そして亜弓は自身がいうように、
これまで一度も勝ったと思ったことはなく、三度も敗北しているとのこと。
そして今回はどうであろうか。
その結末は次回に譲るとするが、
今回本番中に「マヤ・・・」と心の憎しみの声を発してしまったのはいただけない。

オリゲルドとアルディスの関係、
前回も述べたように、亜弓とマヤの関係に等しい。

天使のような笑顔でオリゲルドを慕い、信じ、愛するアルディスは、
亜弓を羨望しながらも、本人が気づかないうちにぶちのめしているマヤである。
無邪気に亜弓を雲の上の人と羨み、憧れてはいるが、
実は一方的にライバル視し、敵視しているのは亜弓。

「あなたなんか大っ嫌いなのよ」

というセリフに重みと真実味を与えている。

しかし今回個人的にツボにはまったのは
圧巻の殺陣。
壁に激突して気絶するビエナ。
吉本新喜劇を思い出してしまった。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第27巻・冬の星座(5)