【ネタバレ注意】ガラスの仮面第28巻その①【いつもそうですって?】

      2020/10/10

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「ふたりの王女」は大成功のうちに千秋楽の幕を降ろした。

日帝劇場の稽古場なのか、楽屋なのか、
打ち上げが行われている。
コマに描写されているだけでも30人近い人数。
出演者・スタッフ合わせると100人以上の大芝居であろう。

そんな喧騒を離れ、マヤは舞台の上に一人いた。
静まった客席を見つめる。

「終わったんだわ・・・
 もうアルディスとして生きることはないのね。
 この舞台の上で・・・
 美しく優しい王女アルディス・・・
 今もあたしの中にアルディスが残ると言うのに・・・
 亜弓さんのオリゲルドにはかなわなかったけれど
 でも今度のお芝居であたしを褒めてくれた人がいっぱい・・・」

しっかり亜弓との差を確認しているようである。
しかし見事演劇界へ復帰したマヤの元へは
テレビや舞台の出演依頼が殺到。
速水真澄からはでかい花束をせしめ、
そして紫のバラのひとからももちろんバラをゲット。

「わたしは王女アルディス
 春の女神よわたしはあなたの娘」

「ラストニア・・・わたしの国・・・」

「亜弓さん・・・!」

マヤが芝居の余韻を楽しんでいるとそこに現れたのは姫川亜弓。

「わたしは王女オリゲルド・・・
 わたしの心に永遠に春がくることはない・・・」

「亜弓さん・・・」

「千秋楽無事終了ね。
 お疲れ様アルディス・・・」

「お疲れ様。
 オリゲルドお義姉さま」

亜弓は打ち上げの馬鹿騒ぎから離れて一人静かにいたかったとのこと。
「馬鹿騒ぎ」とか言ってしまうから嫌われる

「信じられないわね。この静けさ・・・
 さっきまでこの空間に別世界の出来事が起こっていたのよ。
 お芝居って不思議ね。ひとときの夢の人生を生きるのね。
 観る者も、演じる者も・・・」

芝居をバリバリビジネスでやっているわりには
意外と初心者っぽいことを言う亜弓。

「あなたのアルディスは素敵だったわ。
 とても綺麗で可憐だったわ。
 本当よ舞台が光り輝くようだったわ。」

「でもまだ亜弓さんにはかなわない。
 今度の舞台、実力の差をしっかりと思い知らされちゃった。」

今度はお互いを褒めあう。
以前よりはふたりの距離は縮まったものの、
友人のように接することはしない。

「はやくあなたに追いつきたい・・・
 今はあたし本気でそう思っています。
 長いこと部屋をかしてもらってありがとう。
 ばあやさん達にもすごくお世話になっちゃって。」

「あら、わたしこそ地下劇場を稽古場に借りられてとても助かったわ。
 つきかげや一角獣のみなさん方によろしく伝えてね。」

稽古場ではなく宿泊していたはずだが。

そしてふたりの話題はマヤの今後へ。
舞台が三本、TVが二本、映画が一本、芝居を選べる立場なのだ。

「月影先生の仰った期限まであと一年もないわ。
 芸術大賞は今年の秋までの演目で決まるわ。
 あなたにはふさわしいいい芝居を選んでね。」

真夏の夜の夢をやったのが夏、
そして「今年の秋まで」言うてるから、
「ふたりの王女」をやっている間に年を越したのだろうか。

距離が縮まったふたり。
ご機嫌な姫川亜弓の自分語りは続く。

「もうこの舞台が終わりなんて淋しい気がするわ。
 そう・・・まるで分身を失うみたい・・・
 この舞台の間中、わたしはオリゲルドだったわ」

自分が自分ではなく、別の人格が覆いかぶさって自身を支配していた。
演技をしている気はしなく、姫川亜弓ではなくオリゲルドとして舞台の上で呼吸をしていた。

「別の人格を持った人間に身も心もなりきれるなんて・・・
 こんなことは初めてだったわ。」

しかしそんな自分語りについてこれないマヤ。

「あの、あたしよくわからない・・・
 どうして亜弓さんがどうしてそんなことをいうのか
 だってあたしいつもそうだもの。
 舞台の上ではいつも別の人間になっちゃうものだと思ってたけど・・・」

落雷にも似た衝撃を受ける姫川亜弓。

「なんですって・・・この子・・・」

劇場スタッフが舞台から出るよう促す。
出て行こうとするマヤ。

「まって!」

先程までの穏やかな雰囲気とは別
いつもの刺々しい表情と言葉が戻ってきた姫川亜弓。

「よくて!紅天女のこと決して忘れないでちょうだい!
 私は待ってるわよ。あなたを待ってる!
 どんなことをしても、私と同じ場所にたどり着いてちょうだい!
 きっとよ!あなたは私のライバルなんだから!」

「亜弓さん・・・ありがとう」

単なる激励と受け取りさっていくマヤ。

「いつもそうですって?
 私がやっと得た役との一体感をあの子はこともなげに・・・
 甘かったわ、北島マヤ、こわい子・・・!
 あなたの前で私はいつも敗北感を覚える・・・
 勝利に酔っているような時でさえ・・・!」

どうやら姫川亜弓、
舞台の結果と自身の役との一体感で勝利を確信し、
ちょっと上からマヤに語っていたようである。

「あなたを待っているわマヤ!
 あなたはきっと私と紅天女を競うのよ・・・!」

そしてそんなふたりの様子を見ていた月影先生。
この人も打ち上げの会場にはふさわしくない。

 

アパートに帰りつきかげや一角獣メンバーと飲み会のマヤ。
酒を飲んでる。知らん間に成人したのだろうか。
マヤ、麗、美奈、さやか、泰子、つきかげは全員集合。
一角獣からは堀田団長と細川悟、田部はじめ。
とりあえず春日泰子の生存が確認できてよかった。

そしてアパートの下からその様子を伺っているのは速水真澄。
義父からは見合いをせっつかれ傷心気味。

「なんてザマだ真澄
 これが俺か・・・!
 自分が信じられん・・・!
 大都芸能の冷血漢、仕事の鬼と言われたこの俺が・・・
 こんなところに佇んでじっと動くこともできずにいるとは・・・
 あんな年下の少女のために・・・マヤ・・・」

なんか悲劇の被害者風だが
要はただのストーカーである。

そして一方アクターズスタジオにて。
医務室では月影先生が医師の診断を受けていた。

「舞台などに立たれて非常にお疲れになったのですね。
 しばらく講師の仕事もお休みにして養生なさった方がよろしいですよ。
 なるべく無理はなさらないように。」

往年の大女優の復活は病をおしてのものであった。

「あの体で舞台に立つなんで無茶をなさったものだ。
 よく途中で倒れなかったものだ。
 半年は絶対安静にして養生させなければ保証はできん!」

「まあ!半年も!
 いくら速水の若社長のお頼みだからといって事務長の私としては
 半年も寝たきりの病人をここへ置いておくなんてできませんわ。
 講師の仕事もできないなんて迷惑なだけじゃありませんか。」

医務室を出ていった医師とスタジオ事務長の会話は丸聞こえである。

「半年・・・!」

月影先生、リアクションするところがおかしい。
これまで散々余命宣言されていたのに
半年の安静くらい別に驚きでもなかろう。

しかし驚くのはアクターズスタジオ事務長。
雇われの身であろう。しかも若社長直々の依頼にも関わらず
月影先生を迷惑扱い。
事務長がおかしいのか、
それとも半ば居候のくせに、常日頃大女優風を吹かせてきた月影先生の人望のなさであろうか。

 

そしてマヤは紫のバラのひとへ手紙を書いた。
来場への感謝、アルディスを演じきったことへの安堵、
舞台の余韻、殺到する出演依頼、そして紫のバラのひとへの感謝。
出演料もいただいたので、ひざ掛けを購入し、
聖さん経由でプレゼントしたのだった。

「マヤ・・・なんてことだ俺のために・・・」

青ざめる速水真澄

「マヤ様は真澄様のことを・・・
 紫のバラのひとのことをもっとお年を召した方だと思っていらっしゃるようですね。」

聖さん、その的確なツッコミは、今この状況では不要や。

「ごくろうだった聖、とても気に入ったと返事をしておいてくれ。」

「はい。」

「マヤ・・・
 俺の本当の正体を知ったら君は・・・君は・・・」

 

 

てなわけで今回、主要四人の動向であるが、
結論演劇界復帰を成し遂げたマヤ以外穏やかではない。

不穏患者扱いされ、アクターズスタジオでの人望も芳しくない月影先生。
そしてマヤに初老扱いされている紫男は、ただのストーカーに。

きわめつけは姫川亜弓。
「ふたりの王女」では大成功。
観客や関係者の姫川亜弓の評価は高く、自身の手応えもあり。
何よりこれまでにはなかった、初めて味わう役との一体感。
心の高揚を持って、マヤとも心を打ち解けたかと思いきや、

「なにいってるかわからない。そんなのあたりまえ。いつもそうでしょ。」

という感想をマヤから投げかけられる。
舞台の手応えもあって、ちょっとご機嫌で手の内を明かしたところ
自身が掴んだ呼吸は、マヤにとってはただの初歩の初歩でしかなかったわけである。
マヤにして見たら自身が簡単にできることを
天才の亜弓ができないわけがない、という感想であろうが
おそるべし天然。
こうしてオリゲルドはもういないが
姫川亜弓は再び修羅道へと引き戻された。
彼女の心に春が来ることはないのだろうか。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第28巻・紫の影(1)