【ネタバレ注意】ガラスの仮面第28巻その⑥【狼の喜怒哀楽・・・!】

      2020/11/21

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「北島マヤが狼少女を演るんだって!?」

「日帝劇場のふたりの王女で美少女アルディス姫を演ったあとだぜ」

ここは大沢演劇事務所。
鬼才黒沼龍三のオファーに応えたマヤがやってきて
稽古場は大騒ぎである。

「君は俺の噂を聞いているか?」

「はい」

「どんな風に聞いている?」

「あの仕事熱心でとても厳しい方だって。」

黒沼先生いきなりエゴサーチ。
そして言葉を選んでポジティブな表現にまとめたマヤ。

「わかってきたんならいいだろう。
 動物を演ったことは?」

「いいえ。」

「おい!そこのぞうきんをとってくれ。
 ではどの程度やれるか見せてもらおうか。」

いきなり実験台にされるマヤ。
雑巾を手に取る。

「ここにあるこれは肉だ。
 君は狼だ。
 さあ、演ってもらおうか。」

いきなりの試演。情報も状況も少ない。

「もう始まったぜ黒沼将軍のしごきが。
 かわいそうに」

部屋の外から見ている役者たちだろうか?

「狼・・・
 あたしが狼を演るの!?今ここで・・・!
 あたしは狼・・・あそこにあるのは肉・・・!」

自然と手をついて四つん這いになるマヤ。
稽古場がざわつく。

唸り声を上げるマヤ。

「む・・・!」

黒沼先生もその気配を感じる。
手にした台本を丸めて持ち直す。

黒沼先生の手にある雑巾に飛びかかったマヤ。
しかし台本でしばかれ迎撃される。
前足をぺろぺろと舐めながらしきりなおすマヤ。

今度は黒沼先生の攻撃。
手にした台本を振り回しマヤをしばく。
素早く躱し、肉に飛びかかる。
しかしバックハンドで台本が炸裂、
マヤの顔面をとらえる。壁に激突するマヤ。
沈黙する稽古場。

すると黒沼先生、手にした雑巾を床に置く。
マヤ、クンクンと匂いを嗅ぐと、雑巾を口にする。

「それまで」

雑巾を口から離し、立ち上がって衣服の埃を払うマヤ。

「ありがとうございました。」

「うむ。」

張り詰めた空気が終わり、ほっとする稽古場一同。

「手加減しなくて悪かったな。
 君も本気でむかってきたからな。
 本気でむかえたまでだ。
 狼の動きとしてはまだまだだがずいぶん身が軽いね。
 その動きはどこで身につけたんだ?」

「真夏の夜の夢で妖精パックを演ったことがありますから
 その稽古の時に・・・」

「ああパックね。どうりで。」

スタッフがやってくる。

「先生映写室の用意ができました」

「ああ今行く。」

突然のしごきの洗礼を受けたマヤには
事務所の役者がフォローを入れる。

「のっけからびっくりしただろ。
 黒沼先生って厳しい人だから。」

「平気ですこのくらい。
 月影先生の稽古ではこんなのあたりまえでしたから。」

マヤ、満面の笑顔で月影先生をディスる。
あの忍耐があったから、この先の人生なんでも乗り切れる、という
ブラック企業の生き残りのような精神状態。

続いて映写室では狼の映像を見る。
なかなか画質が悪くノイズも多く、あまり参考にならない。
そんな中、狼の遠吠えがマヤの心を捉える。

「さっき聞こえたアレが遠吠えかしら・・・?
 高く澄んでなんだか物哀しい響きだった・・・」

「狼にも哀しいことがあったのかもしれんな。
 いいか北島くん、わしは狼をこの目で見たことはない。
 君もない。観客だって無論ない。
 君のさっき演じた狼はどこからきたのかね?」

「あ・・・!
 昔見た映画とか、絵とか童話とか・・・」

「あくまで世間一般のイメージから作り上げているに過ぎない。
 どう猛、野蛮、残虐非道な荒野の殺し屋
 だが本当はそれだけではないはずだ。
 その何かを君の狼には感じさせて欲しいのだ。
 狼の喜び怒り哀しみ・・・
 本格的な稽古はまだ三ヶ月ほどさきだが
 それまでの間、君には狼の演技を研究していてほしい。
 この次会った時には君に喜怒哀楽をやってもらう。
 むろん、狼のな。」

「狼の喜怒哀楽・・・!」

「イメージを膨らませて創り出すんだ!
 君の狼を・・・!」

「喜怒哀楽・・・
 演技のエチュードでよくやったけど、狼の喜怒哀楽なんて・・・
 どうすればいいんだろう・・・・」

いきなり難題を突きつけられ稽古場を後にするマヤ。

「北島マヤ・・・
 見込んだ通りだ。
 あの子なら野生の目の光を生み出せる・・・!」

一方の黒沼先生は大満足。
マヤの実力とそれを見抜いた自身の慧眼にご満悦。

 

というわけで、マヤの恒例の特訓が始まる。
役になりきって生活するシリーズ。
「若草物語」ではベスとして生活し、
「奇跡の人」ではヘレンとして目を塞ぎ耳を塞いで生活し、
「ふたりの王女」ではアルディスとして、セレブな姫川邸に居候。
今回は狼として、四つん這いで生活する。
毎度のことながら呆れる同居人の麗。

何のためらいもなく、生活に役作りを取り入れるマヤと
呆れてしまう麗、この差が二人の役者としての差でもある。

夕食のカレーをスプーンを使わず舐めて食す。
日常見慣れた部屋も目線が変わり新鮮、
タンスや窓の高さにも新発見がある。
床を歩き回るとゴミや失くしたと思っていたピンを発見。
目の前を麗が歩く。

「ふうん麗の足って意外に太かったんだ」

狼とは全く関係ない新発見。

「こう演って見ると人間て大きく見える・・・
 なんだかこわい・・・
 ジェーンの目に人間はどう映ったのかしら・・・?」

さらには部屋を飛び出してアパートを徘徊するマヤ。
四つ足で階段を降る様を大家さんに見つかり転落。

「ジェーン・・・わかりかけてきたジェーンが・・・!
 生きてみようジェーンのように・・!」

さすが天才、数時間這いずり回っただけでジェーンをわかりかけてしまう。

そして明くる日も狼として生きるマヤ。
歩く、座る、物を運ぶ、頭を掻く、物を食べる、水を飲む、遊ぶ
全て狼の所作で行う。

四つ足で行動し続け、腰や背中、肘や膝が痛い。
しかしジェーンにとっては当たり前で、
二本足で立って歩くことこそ苦痛だったのだ。

「そして人間の世界・・・
 狼である自分に服を着せ、二本足で立たせ、
 椅子に座らせ、言葉を喋らせようとする人間たち・・・
 窮屈で苦痛で残酷な世界・・・」

マヤの心にジェーンの気持ちがこみ上げる。

「帰りたいよう帰りたいよう
 故郷の野山はどこ?
 父さんは?母さんは?
 人間たちはどうしてこんなに自分をいじめるの?」

狼として生きて行く中退屈するマヤ。
階下の山本さんの部屋から炒め物の匂いを嗅ぎ取る。
それだけでない、食べ物匂い、廊下の匂い、玄関の匂い、
さらには並んだ靴の匂いを嗅いで、それぞれの違いを感じ取るほど。
嗅覚だけでなく、聴覚や反射神経、マヤの感覚は鋭敏になって行く。
狼として生活して初めて、たくさんの匂いや音に取り囲まれていることに気づくのだった。

狼の一日のメインは食事。そして夜は眠れない。
野生動物は暗闇の中襲われる危険の中安心して眠れない。
その緊張感を実感するマヤであった。

 

ちゅうわけで今回。
いきなり雑巾食わされてしばかれるマヤ。
しかし「月影先生の稽古では当たり前」と誤解を招く発言。

確かに月影先生の稽古では鉄拳制裁は多かったが、
いずれも初期の頃で、最後に先生が拳で語ったのは
「石の微笑」の本番中の舞台袖である。(それもイかれているが)

そして月影先生の名誉のために言っておくが
稽古において異物を食わされたことはない。

ちなみに芝居中に異物を食わされたのは
「天の輝き」で割れたガラスを混入されたのと
「夜叉姫物語」で団子を泥団子にすり替えられた
「おらぁトキだ〜」でおなじみのあのシーン。
いずれも共演者関係者の嫌がらせである。

しかしいきなり黒沼先生から暴力と屈辱に満ちた扱いを受けながらも
笑ってスルーできるほどのマヤの演技力なのである。

マヤが狼、雑巾が肉なのは設定として、
ボコボコに反撃してくる黒沼先生は何役なのだろうか。
その状況や設定もよくわからん。

ほんで昼日中、狼として生活するマヤ。
お前は居候か。

確かにこの時期、「ふたりの王女」の莫大なギャラが入って
悠々自適の生活なのかもしれない。
芝居をしてさえいれば満足なマヤ、生活費は同世代の女子と比較しても少ないであろう。

しかし大都芸能を辞めてから、アルバイトなどをしている形跡が全くない。
大都芸能時代はギャラもあり、寮生活であった。
「女海賊ビアンカ」や「通り雨」を演っている頃は高校生であった。

しかし高校卒業後数年、アルバイトもしなければ、ギャラの発生する舞台にも立っていない。
「ふたりの王女」以外は無収入であったりチャリティーであったはずだ。

マヤは麗に食わせてもらっているのだろうか。
大都芸能時代の貯金があるのだろうか。
それとも紫のバラの人は学費だけでなく、生活費まで面倒見ているのだろうか。

そのあたり闇が深い。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第28巻・紫の影(1)