【ネタバレ注意】ガラスの仮面第29巻その④【あんた思ったより悪いやつじゃないな】

      2021/01/09

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「だめだ!なんどいったらわかるんだ!」

明くる日も響き渡る黒沼先生の怒声。

「ここはジェーンがネズミ殺し用の毒だんごを誤って食べて
 あわや死にかけるシーンだ!
 なんだその苦しみ方は!猫がぜんそくおこしてるんじゃないぞ!」

猫の喘息を表現できるのはそれはそれでやばい。

「さ!もう一度横になって!
 俺の言う通りやってみろ!」

横になるマヤ。

「ふむ、ジェーン毒があたって一番痛いところはどこだ?
 口をきくな。体で示してみろ!」

思案の上、腹が痛い芝居をするジェーン。

「腹か。よしでは腹をかばえ!
 さあ毒が全身に回ってきた。呼吸をするのも困難なほどだ。
 そのまま息を止めてみろ!」

「息を・・・」

「お腹は猛烈に痛い。苦しい。耐えられないほどだ。
 頭はぼうっとしてくる。目の前が暗くなる。
 さあもう体を支えていられない。」

暗示のように倒れこむジェーン。

「そのまま息を止めてみろ!
 身体中に毒が回って心臓が止まりそうだ。」

さらにジェーンの手を掴んで床に押し付ける。

「手足が痺れてきた。」

目がかすみ、額から汗を流し、うめき声をあげて
痙攣するジェーン。
そしてその様子を冷や汗を流して見ている桜小路くん始め共演者達。

「よし!できたじゃないかジェーン。それでいいんだ。
 いいぞ今の調子を忘れるな!」

黒沼先生ご満悦。

「すごい・・・2分近くも息をとめていたわよあの子・・・」
「マヤちゃん・・・」

「というわけだスチュワート」

どういうわけだ?

「君はこのジェーンを看病するんだ。わかったな。
 看病のシーンはもっと先で稽古するが
 ジェーンのこの演技を覚えておけ!」

稽古は休憩に。
見ているだけのくせに緊張から解き放たれた名もなき共演者達は
感想を口にしながら休憩に入る。

「大丈夫?」

「ええ、もう平気。
 ちょっと苦しかったけれどでも今のあの感じ・・・
 あれが毒を飲んだジェーンの状態・・・
 つかめた・・・!つかめたわ・・・!」

満面の笑みのマヤとそれを見て白目でドン引きの桜小路くん。

「コーヒーの差し入れ持ってきたわよ。」
「ああ、ありがとう。」
「ちょっと覗き見してたけどハードそうね。
 黒沼先生完璧主義者だから。はい」
「はい、マヤちゃん。」

差し入れをマヤに手渡す桜小路くん

「なつかしいな・・・
 桜小路くんのマヤちゃんて言葉のひびき・・・」

そらそうだろう。なんせ、彼の発言の八割は「マヤちゃん・・・」だ。

そんなマヤを相変わらず白目で見つめる桜小路くん。
どのような心境であろうか。
かつてのGFへの懐かしさか、
変わらぬ芝居への没頭と追求をみて驚いているのか。

何れにしても天才という名の変態と、鬼才という名の変態が
完璧主義という名の下ぶつかり合って楽しんでいるような稽古である。
常人には理解できない領域であろう。

 

さて、某所。

「いいかね黒沼くん。
 今日のパーティーは決して誰とも揉めないでくれたまえ。」

大沢社長にパーティー会場に連れられてきた黒沼先生。

「誰にも無礼なことを言ったりやったりしちゃいかんぞ。
 できるだけお行儀よくしてくれ。
 何しろ演劇界の大立者が集まっているのだからな。」

開始早々こんな釘を刺されてしまう黒沼先生。
誰かと揉めた前科は一度や二度ではなさそうである。

「ここで万が一問題でも起こしたら秋の芸術祭にどうひびくかわからん。」

「だから社長、僕はこんな席にくるのは嫌だって言ったんですよ。」

別に機嫌は悪くないが、テンションの低い黒沼先生。
この状態から誰かと揉めるのだとするとそれはそれでヤベーやつである。

そしてそこへやってきたのは速水真澄。
敏腕秘書の水城冴子さんも一緒だ。

「おおこれは真澄くん。」

さっそく歩み寄るのは稀代の政治家でもある演出家の小野寺一先生。

「どうした真澄くん、噂の女性は一緒じゃないのかね?」

しかも演劇界の大物、速水真澄のプライベートにずかずかと踏み入るほどの営業力。
こう言ったところが彼が演劇界で絶大な権力を持っている理由でもあるのか。
黒沼先生とは真逆と言っていい存在であろう。

しかし意外なことに、会場では黒沼先生の存在が噂に。

  • おい!黒沼龍三がきているぞ!
  • 隣にいるのは大沢演劇事務所の社長だ
  • 大沢のやる芝居の演出をするそうだ
  • 鬼の黒沼、五年間の沈黙を破る・・・か
  • なんでも狼少女の話をやるとかいってたな。
  • 「忘れられた荒野」とかいう

狼少女のキーワードに敏感になる速水真澄。

大沢社長は演劇界の重鎮に挨拶と黒沼先生を紹介して回る。
しかし黒沼先生は、グビグビと酒ばかり飲んでいる。

「黒沼さんですね」

「あんたは?」

「これ!黒沼くん、大都芸能の速水若社長だ!」

「ああ、あちこちの会社を潰して回るという・・・」

「なんてことを黒沼くん!」

「ははは、面白い方だ。
 五年ぶりのお仕事だそうですね。
 少し僕に話を聞かせてもらえませんか?」

二人連れだっていく。

「おい!大都芸能の速水氏が黒沼さんを連れてったぜ、どうなっているんだ?」

「真澄さま・・・」

相変わらず意味深な水城さんの目線。
速水真澄の魂胆などお見通しということであろうか。

 

「それでどうですか?稽古の方は
 狼少女の演技をつけるのは大変でしょう?」

「いや、俺は演出家は名指揮者であれと思ってるんだ。
 役者は楽器だ。いい演奏をするにはいい楽器が必要だ。
 俺はその楽器から音をひっぱり出す役目をするだけだ。
 狼少女を演っている少女は、俺がやっとの思いで探し出した楽器だ。
 なかなかの名器だ。」

出会ってわずか、悪態をついていた黒沼先生から
まさかの演出論を聞き出している速水真澄もなかなかの指揮者である。

「まだ稽古は始まったばかりだが着実に役を自分のものにしていっている。
 俺の稽古はハードなことが有名で、音を上げる役者も多いのだが
 ケロリとしてついてくるよ。不思議な子だ。
 北島マヤという子だが、ああご存知でしたか?」

「ええ・・・よく知っています。」

なんせマヤの近況を伺うためだけに黒沼先生に接近したのだから。

「相手役が劇団オンディーヌの桜小路優という若手の・・・
 あ劇団オンディーヌは速水さんのところの・・・」

「桜小路・・・!
 桜小路優・・・彼が相手役を・・・!」

自分のところの役者の出演は知らんのかい。

「彼もなかなか筋のいい役者です。
 狼少女の北島くんとの呼吸もあっているようだし。」

「なかなかいい芝居になりそうですね。」

「ああ久しぶりにやりがいがある。」

「く、黒沼くん、速水さんに失礼なことはしてないだろうね?」

慌てて様子を見にきた大沢社長。

「ああ速水さん、口をきいたのは初めてだが
 あんた思ったより悪いやつじゃないな。」

「黒沼さんにそう言われるなんて光栄ですよ。」

慌てる社長を連れて、ご機嫌でさっていく黒沼先生。

「狼少女・・か」

そして背後から現れたのはもちろん、我らが水城さん
いきなり紫のバラを一輪持って登場。意味不明。

「このままでよろしいんですの?真澄さま」

「水城くん、なんのことだ?」

「この紫のバラのことですわ。
 今も気にかけていらっしゃいましたわね。
 どうなさいますの?
 噂を真実にしてしまうおつもりですか?」

「君には関係のないことだ。」

「そう・・・ですわね。
 秘書である私には関係のないことですわね。」

しかし笑顔で速水真澄の胸ポケットに紫のバラを挿す。

「真澄さま
 いつまでも信号は赤ではありませんわよ。」

「え?なんだと!?
 どう意味だ?水城くん・・・」

秘書であるのに、社長が呼び質問しているのに
振り向きもせず無視してさっていく水城さん。変態である。

「いつまでも信号は赤では・・・マヤ・・・」

あんたも変態である。

 
ちゅうわけで今回。
水城さん久々にやってくれる。
社長の行動や魂胆は全てお見通し、
そして真実をオブラートに包んでなぞかけ哲学のように放りっぱなし、
質問を無視してさっていく。
これぞ水城スタイルの社長操縦法である。

「秘書である」といって社長のプライベートへの言及は控えると見せかけて、
秘書のくせに社長を無視してさっていくのもポイントが高い。

しかし
「信号はいつまでも赤ではない」
とは何か。

速水真澄がひそかではなく、マヤに思いを寄せていることを察知している。
しかし速水真澄は年齢差、過去の経緯からその恋は成就しない=赤信号と判断、
見合いをする決心をし、そして見合いに臨んだ。

しかし、水城さんはマヤ側の微妙な心境の機微も察知しており、
その恋は成就しないとも限らない=いつまでも赤ではない
ということであろうか

だとしたら、たまにしか見かけないくせに
マヤの思いすら見抜いている水城さん何者やねん。

そして「赤信号」のくだりはたしか、速水真澄の独り言だったような・・・
その独り言すら引用してみせる水城さん何者やねん。

やっぱり水城さんの暴れっぷりから目が離せない。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第29巻・紫の影(2)