【ネタバレ注意】ガラスの仮面第29巻その⑤【舞台の上ではライバルだね】

      2021/01/17

Pocket

「忘れられた荒野」の稽古は夜半まで続く。
稽古場を後にする出演者たち。
口々に稽古の感想を語る

  • 桜小路君に北島さんの稽古すごいわね
  • 黒沼先生のしごきだもんなあ
  • 夜になっても終わらないとは思わなかったな
  • おかげで他の稽古が何もできなかったわね。

そのころその二人はファミレスにて夜食。

「お疲れ様。もうお腹ペコペコだわ」

「あいかわらずハンバーガーが好きなんだね。
 ちっとも昔と変わっていないんだね。マヤちゃん」

桜小路君の変わらぬ優しさと言葉に懐かしくドギマギするマヤ。

  • 狼少女ジェーンをやっている時の君って全く別人だね
  • これが「二人の王女」のアルディス姫をやった人かと思うくらい
  • 「真夏の夜の夢」のパックの敏捷さとはまた違っているし
  • 君はいっぱい仮面を持っているんだね

「え?
 桜小路君・・・二人の王女も、真夏の夜の夢も観に来てくれたの?」

ついつい懐かしさのあまりマヤ目的の観劇履歴を暴露してしまう桜小路君。

「ああ、面白そうな芝居だったからね」

うそつきである。

「桜小路くん・・・私のこと気にしてくれていたの?
 付き合わなくなってからもずっと・・・」

嘘は早速バレている。

 

そして二人は駅へ。

「わっ、おいやばいよ!電車が出る。」

とっさにマヤの手を握り、階段を駆け上がる桜小路君。

「桜小路君・・・スチュワートじゃないこの手は・・・桜小路君の手・・・」

なんとか電車に乗ったマヤ、ホームで見送る桜小路君。

「よかった滑り込みセーフ!じゃあまた明日。」

「ええ桜小路君」

「マヤちゃん、まためぐりあえて嬉しいと思っているよ。
 昔ずっと君と一緒に舞台に立ちたいと思ってた。
 皮肉だね。今頃になってそんなときがくるなんて・・・」

「桜小路君」

「舞台の上ではライバルだね。
 いい舞台にしようね。僕は君に負けないよ。」

「桜小路君・・・」

扉が閉まる。
唐突なライバル宣言の後、笑顔で見送る桜小路君。

「昔もよくこうやって駅のホームまで送ってくれたっけ・・・
 いい人なのね桜小路君、昔も今も変わらずに・・・
 舞台の上ではライバル・・・あたしも負けないわ桜小路君・・・」

そこそこの会話をするくらい、電車には余裕があった模様。
そして何より気になるのは、主役二人が黒沼先生のお願いを無下にし、
役名ではなく「マヤちゃん」「桜小路くん」と呼び合っているのが
稽古終わりとはいえなんだかスッキリしない。

 

「今日はジェーンとスチュワートに"時の変化"をやってもらおう」

「"時の変化?"」

あくる日の稽古場。
ジェーンとスチュワートが、マヤちゃん桜小路君と呼び合っていたとも知らず
芝居に激アツの黒沼先生。
稽古場は先生と助手、ジェーンとスチュワート。
他の出演者は扉の外に出されているというなかなかの扱い。

「スチュワートはジェーンをなつかせるため
 毎日食事を運ぶわけだが
 日が経つにつれジェーンの態度が変化してくる。
 それにつれ、スチュワートの態度も変わってくる。
 まずは一週間後だ。それから一ヶ月後。
 その次が二ヶ月後、それから三ヶ月後
 ふたりの微妙な"時の変化"を演じてもらいたい」

ブラインドを下ろす黒沼先生。
稽古場の外に出るスチュワートと稽古場にスタンバイするジェーン

「一週間後!」

黒沼先生の合図で芝居が始まる。
部屋の隅に隠れているジェーン。

「食事を持って来たよジェーン。さあ食べにおいで。」

警戒するジェーン

「ここは君の部屋だ怖がらなくてもいい。
 でておいでジェーン。僕は君をいじめたりはしないから」

ジェーンに手を差し伸べるスチュワート。
しかしジェーンは跳躍してスチュワートを引っ掻く

「マヤちゃん・・・」

思わず桜小路君に戻った彼の手の甲からは流血。
この世界のお芝居には擬闘や殺陣というものはないらしい。

「大変なご挨拶だなジェーン。」

皿を置くとジェーンに歩み寄る。後ずさりするジェーン。

「ジェーン覚えていろ。
 僕は君をきっと人間にしてみせる。どんなことをしても。
 そうやって唸っているのも今のうちだ。
 これから君は服を着て二本の足で歩き
 椅子に座りベッドで眠るんだ。
 そしてまず覚えろ!
 ジェーン!これが君の名だ!
 スチュワート!これが僕の名だ!
 いいか!忘れるな!」

「桜小路君・・・」

怒涛のテンションに北島マヤに戻ってしまう。
この二人のフルスロットルの芝居に共演者も唖然。
まさに舞台の上ではライバルである。

 

てなわけで今回。
桜小路君の心境の変化が著しい。

かつて、マヤと一緒に芝居がしたい、同じ舞台に立ちたいと願っていた彼。
役者としては桜小路君の方が先輩で
マヤは彼にとっては他劇団の役者であり、一人の少女であった。

しかし別れを告げ、彼は彼で若手の注目俳優に成長。
そしてマヤも大河ドラマ出演から全国的人気の女優、そして紅天女候補へとなり、
かつてはるかに格上であった姫川亜弓が同等もしくはそれ以上と認めるライバルへと成長したのだ。

以前は自身の思いにも関わらず芝居のこと演技のことでいっぱいなマヤに業を煮やしていたが、
彼自身が、そしてマヤが役者として成長したことにより
マヤを一人の女性としてより、一人の役者、しかもかなりの実力者として扱っている。
つまり切ないメモリーと恋心は心の底にわだかまりつつも
「舞台上ではライバル」とこれまでになかった、役者としての競争意識が芽生え、
ある種の敵として立ち向かってくる。

この辺りの心境の変化、機微の描き方が素晴らしい。

どうやらマヤは同じ舞台に立った役者を本能的に恐れされる能力がある。
姫川亜弓を筆頭に、今回の桜小路君もそう。
つきかげのメンバーや、これまでマヤに挑み敗れていった役者たち、
そして何より、月影先生も若干意味は違うが「おそろしい子」と言い放つ。

そしてそんな心境の変化と成長があったとも知らず、
芝居の稽古に全力で情熱を傾ける黒沼先生がたまらん。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第29巻・紫の影(2)