【ネタバレ注意】ガラスの仮面第30巻その⑤【スチュワートが必要なの・・・】

      2021/03/20

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その頃街を歩いていた桜小路君。
そして追尾するように停まった高級車の扉が開く。

「お乗りなさいな。桜小路君」

後部座席には某歌劇団出身の大女優・円城寺まどかさんが

稽古に遅刻したこともない桜小路君、
稽古場で待つジェーンを一人置いて拉致されてしまう。

  • こちらが有名な舞台美術家の古原猛先生。「イサドラ!」の舞台を担当してくださるの。
  • こちらはブロードウェーからわざわざいらしてくださった照明家のラッセル氏
  • 国際的舞踊家の立花ミレイ先生。「イサドラ!」では踊りの振り付けを担当していただくの
  • それから演出の藤本夜彦先生。大きな舞台を扱うことにかけては名人でいらっしゃるわ

「みなさんご紹介しますわ
 実力人気共に若手No1、桜小路優君です。
 情熱的でハンサムでナイーブで
 イサドラの恋人役イェニーセンにぴったりだとおもいませんこと?」

錚々たるメンバーにいきなり顔合わせをさせられてしまった。

 

「ええっ?桜小路君がイサドラの恋人役に?」

もちろん驚いたのはマヤである。
血相を変えたスタッフが報告する。
この先のレストランで囲まれているらしい。
偶然姿を見つけたんでそれとなく話を聞いたとのこと。
なかでも円城寺さんが特に熱心らしい。

あわてて雨降る中外に飛び出すマヤ。

「いやだいやだ桜小路君!
 イサドラの舞台になんかでちゃ嫌だ!
 どんなことがあても二人だけでもやろうっていったじゃない!
 桜小路くんがいなくなったら一人ぼっちになってしまうじゃない!
 スチュワートを失ってどうやってジェーンを演ればいいの?
 ジェーンをひとりにしないで・・・スチュワート!」

すべてマヤおよびジェーンの都合であるが
心の叫びと共に雨の街を行く。

すると向こうからは桜小路君が。
雨に打たれながら、呆然と天を仰ぐマヤがいてびっくり。

「どうしたんだこんなところで!?
 ずぶぬれじゃないか!」

「桜小路君、おねがい
 イサドラの恋人役なんかやらないで・・・」

「マヤちゃん・・・!」

「イサドラの芝居になんかでちゃ嫌だ
 嫌だ、桜小路君」

「マヤちゃん・・・!」

「あたしと一緒にお芝居をやって・・・
 スチュワートをやって!桜小路君
 あなたのスチュワートがいなくなったらあたし・・・
 あたしジェーンを演れなくなってしまう・・・」

「マヤちゃん・・・」

「お願い桜小路君
 ジェーンをひとりにしないで・・・
 あたし桜小路君が・・・スチュワートが必要なの・・・
 必要なの・・・」

「マヤちゃん」

マヤちゃんというフレーズのいろいろな言い方で
これまで自身の感情を表現してきた名優の彼だが、
ここで完全に白目になる桜小路君。
桜小路君が必要なのではなく、スチュワートが必要なのである。
かいつまんでいうと、自分の芝居ジェーンの芝居のために
桜小路君のスチュワートが必要ということである。

しかし男・桜小路
白目になりたいほどの感情を抑える。

「大丈夫だよ僕はどこへも行きやしないよ。
 イサドラの役は断ったよ
 君と二人で忘れられた荒野をやるよ
 どんなことがあっても・・・!」

雨の中マヤの肩を抱く。

「どこも行きやしないよ」と言いつつ
マヤの心の叫びを聞いた時の白目のあんたは
どこか遠くに行ってしまっていたのだが。

 

その夜、円城寺さん陣営はかなりご立腹

「まったく円城寺まどかの相手役を断るなんてバカな男だ。
 劇団オンディーヌの若手の中で実力人気共にNo.1だというから
 イサドラの舞台に起用してやろうと思ったのに」

「もういいわよマネージャー」

さすが大女優の事務所ともなると
マネージャーまで上から目線である。
そして円城寺さんも「もういい」と言いながらお怒りの様子。

「桜小路優・・・この私の相手役を断るなんて・・・」

昼間の回想がさらに円城寺さんを怒らせる。

「桜小路君、この円城寺まどかさんが
 直接君にとおっしゃっているんだぞ!」

「僕は今やっている忘れられた荒野の芝居と役が気に入っているんです。」

「そう、でも相手役はどうなの?
 私と組むよりあなたにとって魅力的な相手なの?」

「はい・・・!」

ここは白目ではなく即答。
桜小路君の白目は、嘘や躊躇い、虚無の表現である。

「まったくばかにしているわ。
 あんなチビで平凡そうな子がいいなんて・・・
 この私と組むより魅力的な相手だなんて失礼にもほどがあるわ・・・!」

 

そんな円城寺さんが泣きついたのは、大都芸能の速水真澄社長。

「桜小路優・・・・?
 彼がそんなことを・・・!?」

大勢で高級クラブ風の店で飲酒中。

「そういえば彼はたしか速水さんのところの・・・」

「ええ劇団オンディーヌの役者です。」

「この私より北島マヤとかいう相手役の方を選ぶだなんて
 こんな侮辱は初めてですわ。」

しかし速水真澄、笑みを浮かべる。

「侮辱ではないかもしれませんよ。円城寺さん。」

「え?」

「桜小路の相手役をしている北島マヤという少女ですよ。
 紅天女の話を聞いたことは?」

「ええもちろん知っていますわ。
 昔月影千草という名女優が演じて話題になった
 演劇界幻の名作と言われる舞台のことでしょう。」

「彼女はその月影千草の弟子で
 紅天女の候補と言われる少女ですよ。」

「なんですって・・・!?」

「さらに付け加えるならば
 天才と名高い姫川亜弓の認める唯一のライバルです。」

青ざめる円城寺さん。
そこから怒涛のごとく北島マヤ伝説を紹介する速水真澄。
北島マヤを語らせたら右に出る者はいない。

  • かつて「奇跡の人」のヘレン・ケラー役で姫川亜弓とWキャスト
  • 姫川亜弓を抑えてアカデミー芸術祭では助演女優賞を獲得。
  • 全日本演劇コンクールでは他の役者が事故で出場できなくなったにも関わらずたった一人で出演
  • 見事にやり遂げただけでなく、一般投票で第一位という観客の支持を得た
  • このまえやった「ふたりの王女」のオーディションでは高度な演技力を発揮
  • 特に第二次審査の課題では実に7通りもの違った演技をし
  • 放っておけば一日中でも別の演技をし続けたであろうときいている。
  • 他の候補者との才能の差があまりにも大きすぎ、そのため三次審査は必要なしと判断
  • 一度観た舞台はそのセリフから役者の細かな演技まで丸暗記。
  • シナリオは一度か二度で完璧におぼえこむそうです。
  • 吉祥寺の野外ステージでやった「真夏の夜の夢」で妖精パック役
  • 三日間で集まった客の数が約6000。

怒涛の伝説に驚く円城寺さん陣営

「桜小路優が選んだというのはそういう相手です。」

顔面蒼白の円城寺さんと
なぜかドヤ顔の速水真澄。
お前の武勇伝ちゃうわ

「黒沼さんが二人だけ残して後の役者を一般募集しているとききましたが
 あの鬼才のことだ。どんな役者を起用するのか楽しみですね。」

「そんな・・・」

これはもはや遠回しに、
円城寺さんを格下とみなしているも同然である。

 

そのころ稽古が終わったマヤと桜小路くん。
家までマヤを送った彼は雨の中帰っていく。

「イサドラの恋人役なんかやらないで・・・
ジェーンをひとりにしないで・・・
あたし桜小路君が・・・スチュワートが必要なの・・・」

昼のマヤの言葉がリフレインする。
そして雨に打たれながら天を仰ぐのだった。

 

ちゅうわけで今回。
円城寺まどか陣営の強烈な引き抜き工作。
即座に断り男気残留の桜小路優。
自分都合で桜小路くんに残留を懇願するマヤ。
マヤと比較されて侮辱されたという円城寺さん。
そしてマヤ伝説を語ってご機嫌の速水真澄。

これもう、桜小路くんは男気残留ではないやろ。
役者としてでなく、男としての未来への希望を抱き、
その可能性をつなぎとめるための残留である。

「芝居が気に入っている」
「スチュワート役が気に入っている」

というのも嘘ではないが、理由の第一位ではない。
皮肉にも、彼の本心は
マヤが桜小路くんではなく、
「桜小路くんのスチュワート」を必要としていることを知った時にあらわになる。

自己中心的な天然小悪魔と
それに振り回されつつも、想いを断ち切れない男の構図である。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第30巻・紫の影(3)