【ネタバレ注意】ガラスの仮面第31巻その①【全日本演劇協会賞にかけませんか?】

      2021/05/04

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「大沢演劇事務所のアカデミー芸術祭参加作品は
 イサドラ!に決定か・・・?」

「はい。同じ事務所の忘れられた荒野は
 社長と演出家・黒沼龍三氏の意見が折り合わず
 条件付きの上演です。」

大都芸能本社。
秘書水城さんの報告を受ける速水真澄

「条件とは?」

「アカデミー芸術祭一般参加部門で参加が認められれば上演させるそうです。
 芸術祭は一団体一作品の参加が通例です。
 黒沼氏の芝居の参加は難しいものと思われます。」

条件付きとはいえ実質参加が厳しい。
黒沼先生があれだけ荒れたのもそういうことか。

「それで劇場は決まったのか?」

「雨月会館に決定いたしました。」

「雨月会館?」

 

ところかわってその雨月会館。
ようやく決定した劇場を見にきた、マヤたち関係者。
5年前に廃館された映画館だそうで
外壁にはヒビが入り、内装も壁が崩れ
座席は壊れており、天井はシミだらけ。
そして肝心の舞台上も板が破れめくれ上がっている。
もはやただの経年劣化とは思えないレベルのあれようだ。
かたや大都劇場で上演される「イサドラ!」とは雲泥の差である。

「ここで忘れられた荒野のお芝居を・・・」

大沢事務所から「イサドラ!」が芸術祭に出品、
「忘れられた荒野」は一般参加部門への出演が認められなければ参加できない。
芸術祭で賞を獲る可能性はなくなってしまい、紅天女への1%の可能性が消えていくのだ。

「ううん・・・!まだきまったわけじゃないもの。
 最後まで希望を捨てないでいよう・・・!」

そんなマヤの横顔を見た桜小路くん。

「さあみんな!はやく掃除と修理をしようぜ!
 でないと芝居ができないぞ!」

メンバーを鼓舞する。
桜小路くんではなく桜小路くん演じるスチュワートを必要とされているにも関わらず
彼の中にも何らかの達観もしくは諦観があったのだろうか。
どんなことがあっても芝居をやりとげ、
マヤの共演者として完璧な芝居をしてみせると意気込む。

「先生!俺たち芸術祭に参加できなかったらこの芝居やめなきゃならないんですか?」
「俺このあいだの通し稽古、芝居がすごく面白いってわかったんだ!」

口々に情熱を語る出演者たち。

「俺神父役気に入ってます!」

工事現場のおっさん、役を気にいるレベルまで芝居に打ち込んでいる様子。

「私も・・・バトリー夫人をぜひやりたいんです。
 今まで看護婦の人生しかなかったのに別の人生を味わえるなんて・・・」

看護師長、これまでの人生に不満を抱いていたのであろうか・・・

「わたしも今まで何をしても自信のなかったのがうそみたいで・・・
 もう一人の自分を発見したみたいで驚いています。」

塾講師も芝居を通して自信をつけたようだ。

「心配するな。俺はこの芝居をやめるつもりはない。
 たとえ大沢事務所を出ることになってもな・・・!
 満足なことはしてやれんがみんな俺についてきてくれるか。」

黒沼先生の熱い言葉に息上がる一同。

 

そしてその頃円城寺まどかさんの稽古も熱量を増していた。
もともと踊りには定評のあるかただが、関係者をもってして一段と磨きがかかったと言わしめる。
しかしその心中は穏やかではないようだ。

「わたしは・・・何をこんなにムキになっているのかしら・・・?」

稽古しながらも他のことを考えている。

「素人ばかりのあんな通し稽古になぜこの私が動揺しなくちゃいけないの?」

動揺しているのは確からしい。

「あの子・・・姫川亜弓のライバルですって?紅天女候補ですって?
 速水社長まであの子に一目置いていたようだったわ。あんな少女に。」

速水社長の一目は違う意味である。

「でもあの表情、動き・・・
 さすがヘレン役でアカデミー芸術祭の助演女優賞を取っただけあるわ・・・
 演劇生活数十年というベテランでさえなかなかとれないというのに・・・
 私でさえノミネートされただけだったわ。それがあんな少女に・・・
 負けるもんですか・・・!みてらっしゃい」

マヤへの対抗意識を燃やしながらダンスする姿は
姫川亜弓とかぶるものがある。

 

「忘れらた荒野」の稽古もさらにヒートアップ。
黒沼先生の指導は厳しかったが演技に不慣れな素人たちの
自分でも気づかなかったであろう個性と魅力を引き出していた。

医者役の塾講師には、生徒に国語や社会を教えるようにしゃべるよう指導。
バトリー夫人役の看護師長には、医者に患者の容体を説明する様子を思い出すように。
神父役の工事現場のおっさんには、工事現場で立ち話をするように指導。

「すごい!みんなめきめきうまくなっているわ・・・!
 黒沼先生・・・やっぱりすごい先生だわ・・・」

そして黒沼先生の厳しい指導はもちろんジェーンにも。

「仲間だった姉狼が死んだ。野生の狼はそんな悲しみ方をせんぞ。
 スチュワートが死にかける!悲しみ方が姉の時とは違うと言っただろう!」

休憩に入るとマヤを呼び出す先生。

「君のジェーンには大きな欠点があるんだ。北島くん。
 都会の狼だな。野生の匂いがしない。」

「都会の狼・・・」

「野生の狼の猛々しさ、人間社会の中での強烈な孤独
 人間への憎しみ、猜疑心、おそれ、
 とまあそんなものが足りんのだ。
 料理で言えば調味料や香辛料といったところか。
 綺麗にできていても味のない料理くらいまずいものはない。
 もっと調味料の研究をするんだな。」

「はい・・・」

「それから芝居のはじめの方で姉が死んでなくシーンがあったな。
 2幕でスチュワートが死にかけるシーンでも泣くな。
 君のジェーンはこの泣きわけができていない。」

「泣きわけ?」

「はじめは狼として泣き、次は人間の心で泣くのだ。
 この二つの泣き方にジェーンの心の成長があるんだ。
 それができなければこの芝居は半分死んだも同じだ。
 ま、ジェーンを完全につかめたらそんなことは苦もなくできるだろうがな」

ジェーンを完全につかむこと自体がとてつもな苦なんですが。
おそろしいが、的確なことをいう黒沼先生。

「ジェーンを完全に掴めたら・・・
 はじめに狼として泣き、次は人間の心で泣く・・・
 今の私は都会の狼・・・
 野生の匂い・・・どうすれば・・・」

これまで順調に思えてきたマヤのジェーンだが
改めて課題を突きつけられた。
そしてこれは公演ごとに行われる、
「役をつかむためのトンデモ稽古」の前フリでもある

 

すると突然稽古場に入ってくる人影。
速水真澄を先頭に、円城寺まどかさん、大沢社長、演出家の藤本先生、他数名。

「大沢社長・・・!これはこれはみなさんお揃いで一体何のご用ですか?」

「黒沼くんもう稽古は必要なくなったよ。
 今、芸術祭実行委員会から知らせがあってね。
 君の芝居は参加が認められなかったよ。」

「覚悟はしてましたよ社長。」

「約束だ。君の芝居はとりやめだ。
 君には大沢事務所をでてもらう。」

「わかりました。しかし俺はここで芝居をやりますぜ・・・!
 誰の指図も受けずにな。
 ここの劇場主にも了解はもらっている。
 こんなところでも本物の芝居をみせてやるぜ。」

「たいした自信だ。
 君と芸術祭で競えなくて残念だよ黒沼くん。」

皮肉たっぷりの藤本先生。

「芸術祭参加できなくても賞は競えますよ。」

意外な一言はちょっと離れた場所でくわえ煙草の速水真澄。
驚く一同。

  • 全日本演劇協会では、アカデミー芸術祭の主催者から贈られる賞とは別に、演劇部門のみに賞を与えることになっています。
  • 芸術祭の期間中上演された芝居の中で演劇協会員の認める最も優秀な舞台、最も優秀な役者にそれぞれ賞を贈呈するのです。
  • これが全日本演劇協会から出している協会賞。中でも最優秀演技賞は役者に与えられる最高の賞なのはよくご存知でしょう。
  • この演劇協会賞は芸術祭の期間中上演された芝居の中から選ばれるもので、特に参加作品だけを対象にするという規約はない

「だ、だが今までの例からいって、参加作品以外の芝居が賞の対象になったことは一度も・・・」

「通例ではないかもしれませんが、
 全日本演劇協会賞の条項には参加作品でなければならないとは書いてありません。
 ということは黒沼さんの忘れられた荒野も賞の対象になりうるのです。」

「全日本演劇協会賞・・・」

「どうです黒沼さん。
 全日本演劇協会賞を目指してこの芝居をやってみませんか?
 あなたの真の実力がどの程度のものなのか、僕たちに見せていただきたい。
 どうだチビちゃん
 芸術祭に参加はできなくても君たちの努力次第で賞の可能性はある。
 紅天女をこれにかけるか?」

「ええ・・・速水さん・・・!
 1%の可能性があるのなら。」

「おもしろいわ。
 あなた方の芝居が芸術祭の通例をやぶって
 どこまでせまれるかみてみたいわ。」

「黒沼さん、あなたの自信に変わりがないのなら
 我々を舞台に招待していただけませんか?
 その代わりイサドラ!の舞台にもあなたと主役の二人を招待しましょう。
 そうだ、初日がいい。いいでしょう円城寺さん。」

「ええ構いませんことよ。ご招待しますわ。
 でも私たちがこの劇場に招待されても
 座れる椅子はなさそうね。」

速水真澄の作戦とも知らず、皮肉でご機嫌な円城寺さん&藤本先生。

「どうです?黒沼さん。全日本演劇協会賞にかけませんか?」

「ああ約束しよう。」

「速水さん、今度は何を企んでいるんですか?」

「なにも・・・
 狼少女せいぜい頑張るんだな。紅天女のためにもな。
 僕は君が招待してくれるんだったな。
 とびきりいい席を頼むぞ。
 君の演技がよく見えるように・・・!」

「ええ速水さん。是非見にいらしてください。
 私ちゃんとあの人の分と・・・
 紫織さんの分と2枚チケット送りますから・・・!」

まさかのマヤの反撃の虚をつかれ速水真澄。
「ビク!」という効果音で描写される。
そして振り返った表情はさっきまでの饒舌なものとは違っていた。

「それは・・気を使ってくれてありがとう・・・
 きっと彼女も喜ぶだろう・・・」

去っていく一同。

「速水さん・・・あんな表情初めて・・・」

というわけで今回。
紆余曲折あって大沢事務所からの独立を果たした黒沼先生。
自身の意向と事務所の意向の不一致から社長と衝突し、
賞レース参加を嫌い、事務所の指示やキャスティングを無視し、
社長を怒らせ、大物芝居の当て馬にされ、
そして芸術祭参加を断念させられた。

しかし独立したことでついに自身のやりたい芝居をやりたいメンバーとできるようになったのだ。
態度は悪いが、人の懐に入り込むような魅力を持っている人だけに、
劇場主ともウマがあったのであろうか。無料同然で貸してもらっているのかもしれない。

ただ気になるのは賞レースを嫌っていたにも関わらず、
速水真澄の提案する「全日本演劇協会賞」を目指すことになったのがよくわからない。

大沢事務所やイサドラ!、あるいは藤本先生への対抗意識かもしれないが
「賞を取るために芝居をするのではない」と行っていただけに不思議だ。
それとも独立を果たし、賞を獲ると言う確固たる自信が芽生えたのだろうか。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第31巻・紫の影(4)