【ネタバレ注意】ガラスの仮面第31巻その③【紅天女になりたい・・・!】

   

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「違う!何度言ったらわかるんだジェーン!
 怒りだ!お前の演技には野生の狼としての怒りがないんだ!」

雨月会館では相変わらず稽古がヒートアップしている。
なかなか野生の狼をつかむことができないマヤと
怒声を浴びせる黒沼先生

そして稽古場の扉が開くと
車椅子に乗った人物が稽古を眺めていた。
いかに閉鎖された映画館とはいえ、
誰でも入ってこれるような作りなのだろうか。

なかなか野生の狼の芝居が会得できないマヤ。
銭湯でのぼせるまで悩み溺れる始末。

「どうすればいい・・・?
 どうすれば野生を演じられる・・・?」

 

稽古場でも日常生活でも、道を歩いていてもマヤは芝居のことを考えている
そんなマヤを追いかける高級車。

「どうします?まだあの少女をつけますか?」

「いや、今日はもういいだろう。気づかれてははまずい。」

「しかしわかりませんな。
 稽古中といい普段といいどこといって取り柄のなさそうな少女なのに
 あの天才と言われる姫川亜弓が一目置き
 星歌劇団の元スター円城寺まどかがおそれ
 真澄様までがなぜかあの少女に執着される・・・
 それほどの少女とも見えませんが・・・」

「だがあの月影千草が紅天女候補にした少女だ。
 ただ者であるはずがない!」

去っていく高級車。
速水真澄の執着は、もはや有名である。

 

後日。

マヤが電車に乗るためにホームを歩いていると
ベンチに座っている老紳士。
マヤが前を通った刹那、持っていた杖を話して落とす。

「あの・・・これ落ちましたよ。」

「おおこれはどうもありがとう。」

立ち去ろうとするマヤを呼び止める老紳士。

「お嬢さん、すまんがあそこでジュースを買ってきてくださらんかね?
 足が悪くての。」

「ジュースならなんでもいいんですね。」

「すまんがね。頼む。」

お人好しのマヤ。快く引き受ける。

「はいどうぞ。」

「おおありがとう。お嬢さん学生さんかね?」

「え?いえ」

「OLにもみえんし・・・では家事でも手伝っているのかね?」

時代だけにフリーターなる概念はないらしい

「いえあたし、お芝居やってるんです。」

「ほう!では女優さんかね!?」

「そんなちゃんと言えるほどえらくないんです。
 カラを破りかけのヒヨコです。」

「なるほど女優の卵か・・・
 芝居ならわしも好きだがどんな芝居しているんだね?」

「今度忘れられた荒野っていうお芝居やるんです。
 よかったら見にきてください。」

さっそくチラシをわたし、宣伝に余念がない。

「狼少女をやるのかね。
 君みたいに可愛いお嬢さんが狼少女の役とはね。」

「いえそんな・・・」

拍子に手にしたジュースの缶を落としてしまう。
ジュースが老紳士の上着にかかる。
とっさにカバンからハンカチを出すと拭くマヤ。
マヤの行動に少々驚く。
するとホームにやってくる電車。

「君電車が・・・
 あれに乗るんじゃないのかね?」

「あ、ほんとだ。
 いいです1台くらい乗り過ごしたって。
 それよりシミになっちゃわないかしら?」

マヤを見つめる老紳士の意味ありげな視線。
どうやらマヤの性格や人間性を見ているようだ。

そんなことは気にもとめず、
水道でハンカチを濡らすマヤ。

「はい。これでもう一度拭いておいた方がいいですよ」

「すまないね。ありがとう。
 お芝居の稽古はどうかね?」

「なかなか野生の狼って感じが出なくて
 よく演出家の先生に叱られます。」

「演出家の先生は怖いのかね?」

「みんなそういうけど・・・
 あたしは月影先生の稽古でなれているから・・・」

さすが劇団つきかげで罵声あり暴力ありの指導をくぐり抜けてきただけに
メンタルの持ち方がブラックエリートである。

「月影先生・・・?」

「ご存知ないかもしれませんけど
 昔大女優だった方です。
 月影千草っていう・・・」

ついこの間舞台で共演したくせに過去の人扱いか。

「月影千草・・・おお懐かしいな
 もちろん知っているよ。わしが若い頃大変な女優だった。
 紅天女の舞台は大変素晴らしかった・・・」

今も違う意味で大変な女優である。

「紅天女をご覧になったんですか?」

「ああ・・・あんな素晴らしい舞台は生涯忘れられん・・・
 主役の月影千草はこの世のものとは思えないほど美しかった。
 こんな人間がほんとうに存在するのかと思うほど
 崇高で神秘的だった。
 とても人間が演じているとは思えなかった。
 紅天女・・・若い頃の・・・わしの生命そのものだった・・・」

突然の昔自分語り。
そして月影千草が今も
違う意味でこの世のものとは思えない
こんな人間が本当に存在するのかと思うほど
とんでもない人間になっていることなど知らないのだろうか。

「いやつまらん思い出だ」

「おじさん!
 おしえてください!紅天女のことをもっと!
 あたしいつか紅天女を演じたいんです!」

「ほう?」

「あたし綺麗じゃないし絶世の美女と言われる紅天女に不向きかも知れないけれど
 夢なんです。紅天女を演じるのが・・・」

マヤも負けじと自分語り。

  • お芝居をしている時、いつも別の人間になっていられる
  • この腕が体が別人になって動く
  • 役の人間の思いが私の心を占めてその人物の感情が口から言葉になって出てくる
  • 舞台に立っている時は・・・幸せです・・・!
  • いろいろな女優が憧れたという紅天女
  • この身体で紅天女を演じることができたら・・・
  • この身体が腕が手が紅天女の仕草をして
  • この口から紅天女の言葉をしゃべれたら・・・
  • 紅天女の思いを心に宿せたら・・・

「舞台の上で紅天女として生きられたら幸せ・・・
 あたし・・・紅天女になりたい・・・!」

目がいっちゃってるマヤ。

「おかしいですか?あたしがこんなこというの」

「いや」

「教えてください!月影先生の紅天女がどんなふうだったかを・・・!」

「そうだな・・・彼女はまるで・・・人間ではなかった。
 そう・・・なんと形容すればいいのか・・・
 人間の気配がなかった・・・
 真っ暗な舞台に一人立ち尽くすシーンがあるのだが
 まるっきり人間とは思えなかった・・・
 一本の梅の木そのものだった・・・
 梅の精そのものだった・・・」

「梅の精そのもの・・・」

「電車が来ましたよ。お行きなさいお嬢さん。
 ごきげんよう。雨月会館でのあなたのお芝居、
 楽しみにしていますよ」

満面の笑みで見送る老紳士。

「御前(ごぜん)・・・」

「用は済んだ。帰るぞ。」

従者に御前と呼ばれ去っていった。

 

「演りたい・・・いつか紅天女を・・・」

紅天女への思いを新たにしたマヤ。
しかし目の前にあるのは「狼少女ジェーン」
なかなかジェーンの野生がつかめずにいた。
稽古をしていても、日常生活をしていても、
野生のジェーンがわからないのだ。

稽古場に向かうマヤ。
ふと路線図を目にする。

「この電車いろんな鉄道とつながっているのね。
 随分遠くまでいくんだろうな・・・
 いってみようか電車を乗り継いで遠くまで・・・
 山へ行ってみよう・・・そこでなら何か掴めるかもしれない・・・
 なんとかなるわ・・・」

恐ろしい発想である。
そしてその頃速水邸。

「北島マヤにお会いになったそうですね。お義父さん」

「お前の話で興味が湧いてな。真澄。
 紫織さんとのデートも差し置いて執着している
 もう一人の紅天女候補がどうしても見たくてな・・・」

「それで・・・いかがでしたか?」

「おもしろい娘だ・・・!
 芝居ことになると熱病にかかったような目になる。
 だが夢見るような不思議な光を持っている。
 昔の千草に似ている・・・」

女優に執着する親子である。

「舞台の上で紅天女になりたいといっておった・・・
 演りたいとはいわずなりたい・・・とな」

「あの子はそういう少女ですよ。」

「本気で全日本演劇協会賞を目指す気だな。
 大変な賭けだ。面白い。
 わしもあの子に賭けることにするぞ!真澄!」

ご満悦で高笑いの御前。
そしてその義父を複雑な表情で見つめる速水真澄。

 

というわけで今回。
速水真澄の義父、速水英介氏が正体を現したわけである

これまではシルエット、あるいは車椅子姿が描写されていただけであった
そして今回は劇場に稽古を見にきて
マヤの日常を車で見張って
さらに駅でマヤを待ち伏せ会話し、
あたかも面接のようなコンタクトをとった。
満を持して引っ張って引っ張って、
ようやく最後に速水親子のシーンが描かれて正体がわかる
という構図なのだが
途中で身バレしてる感が否めない。

そして英介氏もマヤのことをとても気に入ったようである。
しかし「わしもあの子に賭けることにする」とはどういうことか。

賭ける、というからには、
労力なのか、金銭なのか、時間なのか、なんらかを費やした上で
その見返りを得ることだと思うのだが

現時点では稽古を見て、後を付け回して
駅で面接して、気に入って爆笑、以上である。
賭けてる感じが全くない。

そら速水真澄も複雑な表情にならざるを得ない。

つづく

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第31巻・紫の影(4)